18 / 142
一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する
018 報告
しおりを挟む「後悔してますの?」
盗賊を皆殺しにしたフィリップがしばらく立ち尽くしていたら、馬に乗ったエステルから声をかけられた。
「ちょっとはね。兵士を辞めさせられていなかったら、こいつらも死ぬことはなかったのかもな~って……」
「元兵士が徒党を組んでいたわけですか。皇帝陛下とルイーゼは、なんて罪作りな……」
「だね……って、どこから見てたの!?」
いまさらエステルと喋っていたと気付いたフィリップが取り乱すと……
「盗賊がおよそ半分ぐらい倒れたところからですわ。エリクは、剣の腕も凄まじいのですわね」
エステルは悪気なくこういう始末。
「待っててって言ったのに~」
ほとんど見られていたと知ったフィリップは、情けない声を出すしかできないのであった。
血を水魔法で洗い流して暖かい風魔法で全身を乾かしたフィリップは、エステルから質問攻めにあっていたが、答えたくないから事後処理の話を急がせた。
この場所はギリギリ、アルマル領なので放置しても問題ないと言いたいところだが、死体を放っておくと獣が集まってしまうから街道を使う人の危険が増す。
なので地面に、辺境伯の名前、盗賊を倒した辺境伯に仕える騎士の名前、半日後には処理を開始すると書いてから馬を飛ばした。
それから辺境伯領に入り、一番近くの宿場町に寄った2人はエステルの指示の元、各種手配を急ぐ。アルマル領への書状、早馬で先行させる兵士、盗賊の処理をする多くの兵士の手配。
フィリップは暇なもの。町に入ろうとするお姉さんに声を掛けて雑談。お姉さんも並んでいては逃げ出せないので話を合わせていたけど、年齢を聞いて驚いていた。子供だと思っていたみたい。
そんなことをしていたら、諸々の手配が終わったエステルが戻って来て、フィリップの首根っこを掴んでさらって行った。自分は働いていたのにフィリップが遊んでいることが許せなかったみたいだ。
馬に跨がりまたぶっ飛ばせば、太陽が落ちた頃に辺境伯邸に到着。従者に馬を預け、軽く砂埃を落としたら、さっそく当主のホーコンに報告。
まずは急ぎの盗賊の報告をして、アルマル領の領主に一筆書かせる。これは、勅令書の内容が重すぎるから、忘れないうちにエステルがやらせていた。
そしてお待ちかねの……
「やってられるか~~~~~~!!」
勅令書は、クシャクシャに丸めて投げ捨てるホーコン。内容が内容だけに、誰もそのことは咎めない。フィリップは大笑い。人の不幸は蜜の味らしい。
2人とは違い、エステルは冷静に丸められた勅令書を拾い、シワを伸ばしてからホーコンの前にそっと置いた。
「やるやらないではなく、やらなくてはならないのですわ」
「わかっておる! わかっておるが、この怒りは抑えられんぞ!!」
「それは領地を持つ全ての者がそうですわ。特に、本当に勅令書を受け取った者は大変でしょうね」
「怒っている場合ではないかもしれんな……」
勅令書を受け取った順に大混乱が発生しているのは目に見えるので、ホーコンも哀れんだ顔になった。その時、フィリップが立ち上がる。
「お先、お風呂とごはんもらうね」
「「はぁ~~~……」」
「じゃ、またあとで~」
何かいいことを言うと期待したホーコンとエステルは同時に長いため息。それは肯定ではなく失望のため息なのに、フィリップは肯定と変換して部屋から出て行くのであった。
「エリクはずっとあの調子なのか?」
フィリップが退室すると、ホーコンは呆れながらエステルを見た。
「ええ。ずっとふざけていましたわ」
「それでよく、勅令書を手に入れた上に盗賊退治なんてできたものだな」
「あの方は、見た目はアレですけど、中身はかなり有能ですのよ。剣、魔法、知能……どれを取っても超一流でしたわ」
「ほう……お前がそこまで言うのは皇帝陛下ぐらいだったな」
「もしかすると、皇帝陛下を凌駕しているかも……」
「何があったか全て聞かせてくれ」
食事も忘れて、数日共にしたフィリップの行動を、エステルは全て報告するのであった。
「あとは毎晩ゴソゴソと聞こえていましたが、何をしているか聞いても教えてくれませんでしたわ」
「あ、うん。それは言えないな」
「お父様はわかるのですか?」
「聞いて後悔するなよ……」
娘に男の性を教えるガサツなホーコン。そのおかげで、エステルに少し嫌われるホーコンであったとさ。
お風呂に入って食堂に顔を出したフィリップは、エステルたちが現れないことを特に気にせず食事を始めたら、ウッラとたわいない会話をして就寝する。
そして翌日は、朝食の席でエステルたちと共にしたから何を話し合っていたか聞いていたけど答えてくれず。ホーコンから1時間後に庭に来るように言われて、フィリップはノコノコと現れた。
「訓練中?」
ホーコンが剣を振っていたのでフィリップはしばらく眺めてから声をかけたら、ホーコンは振り返って汗を拭う。
「いや~。ここ最近、書類仕事ばかりで体が鈍っていましてな。運動していたのです」
「へ~。辺境伯となると、当主でもそこまで剣を振れるんだ」
「ええ。時間があれば鍛錬するようにしてますからな。まだまだ息子に負けてられません」
「大変だね~……ん?」
ホーコンがいきなり鞘付きの剣を投げ渡して来たので、フィリップも首を傾げている。
「お相手願えませんか?」
「僕と??」
「20人以上と大立ち回りしたと聞いてますよ。その剣、是非とも拝見したくなりましてな」
「僕となんか楽しめないよ」
「まあまあ。そう言わず、やりあいましょう!」
ホーコンは喋りながら一気に距離を詰め、フィリップに向けて剣を振り下ろす。その剣を、フィリップは鞘から少し抜いた剣で受け止めた。
「わはははは。私の剣を一歩も引かず受けますか!」
「笑ってるよ……ひょっとして辺境伯って戦闘狂??」
「まあまあ。楽しみましょうや!!」
ホーコンはその大きな体を使ってフィリップを押したら簡単に吹っ飛んだが、これはフィリップが距離を取るために跳んだだけ。その時間を使って、フィリップは剣を完全に抜いた。
「ちょっとだけ遊んでやるよ」
「それはありがたい!!」
こうしてフィリップVSホーコンの試合が始まるのであった……
11
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる