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一章 引きこもり皇子、他所の家に寄生する

019 フィリップの力量

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「お父様……大丈夫でして?」

 庭の地べたに女の子座りで放心状態になっているホーコンに、エステルは声をかけた。

「もう、立ち上がれないかもしれない……」
「確かに、完膚なきまでに叩きのめされましたわね」
「もう少し優しく言ってくれよ~」

 この事態は、フィリップと試合をしたがため。ホーコンが剣を振る前には必ずフィリップの剣が目の前にあったから試合にもならず。なので恥を承知で攻撃だけさせてくれと願い出たら全て受けきられ、剣を落としたのも自分だったのだ。
 ここで勝負ありと察したフィリップはつまらなさそうな目を向けて去って行ったので、ホーコンのプライドはズタボロになってしまった。その一部始終をエステルが隠れて見ていると知っているのだからなおさらだ。

「それでお父様の感想は?」
「そうだな……素早いだけならわかるが、あの体のどこにあれほどの力が……まるで親父に剣の手解きを受けてるみたいだった」
「見た目は逆でしたのにね。フフフ」
「わかっているわ!」

 ショタ皇子と名高いフィリップとデカくてゴツいホーコンでは、エステルも笑いが堪えられない模様。ホーコンは悲しさを通り越して逆ギレしてしまうのであったとさ。


「しかし殿下は、あれほどの力をどうやって手に入れたのだろうな」

 ホーコンもようやく落ち着いたら、エステルに質問した。

「確か……カールスタード学院に通っていた時に、ダンジョンにこもっていたと言ってましたわ。あの話は冗談だと思って聞き流していましたが、ずっと戦い続けていたとか……」
「あそこのダンジョンは皇都学院の倍は深いんだろ? だったらレベルが跳ね上がっているのかもしれん……」

 この世界には何故かレベルが存在する。乙女ゲームのイベントで、第一皇子たちとヒロインが協力してダンジョンをクリアする物があるからだとフィリップは予想している。
 その会話の中で「レベルが上がった」だとか「さすがは皇子、大人でも30レベルに届いてる人なんて滅多にいませんよ」等があるから存在しているのだろう。

「お父様は、トップクラスの30でしたわね」
「うむ。それを考えたら、殿下は倍は堅いな。いやいや、そんな人間いるわけがない……」

 ホーコンは自分で言ったことを急に否定した。

「それですわ」
「それ?」
「殿下はこう言ってましてよ。この世界の人間は限界を勝手に決めて、創意工夫もまったくしようとしないと」
「俺は……やってるぞ。鍛錬も欠かさずだ」
「殿下からしたら、それは鍛錬の内に入っていないのですわね」
「だから! なっ……」

 ホーコンは自分のこれまでを否定されていきり立ったが、その瞬間、首元に剣があったので後退った。

「誰だ!?」

 さすがは武闘派のホーコン。裏拳を放ちながら振り返って体勢を立て直す。

「わたくしですわ。クスクス」

 悪戯に成功した子供のように笑うエステル。ホーコンの肩から剣がくっついた木の枝のような影が出たままなので、先程の行動が無駄になっているから面白いのだろう。

「これをエステルが……こんなに遠くに影を伸ばせないと言っていたじゃないか」
「そこは殿下の創意工夫ですわ。影を木々に伝わせて距離を伸ばしたのですわ。こんなこともできましてよ」

 エステルは今度は影を伸ばしてホーコンの後ろから手のような物を出したら、ヒザかっくん。ホーコンは無様に後ろに倒れて空を仰ぐ。

「降参だ。いいかげん剣も離してくれ。父を殺したいのか?」
「そんなことしませんことよ。オホホホホ~」
「いや、笑ってないでな……」

 エステルの高笑い炸裂。いまだに首元に剣があるので、ホーコンはいつか自分の娘に殺されるのではないかと心配するようになったとさ。


「エリクが娘に入れ知恵したらしいですな」

 夕食の席で、ホーコンは言い放つ。

「なんのこと?」
「魔法のことです。そのせいで、娘に殺されかけたんですよ」
「辺境伯……お前もか……」
「お前もって……殿下もですか!? 申し訳ありませ~ん!!」

 ちょっとした愚痴を言ったつもりだったのに、フィリップも首を絞められる暗殺を受けていたと知って、ホーコンは土下座。エステルはめっちゃ笑っている。
 なので2人で睨んでから、フィリップが許す的なことを言ってホーコンも安心していた。

「それはそうと、私にも何か魔法を使えませんか?」
「あいつ、全部言いやがったのか……」
「まあまあ。我々は家族になるのですから許してください」
「チッ……辺境伯の適性はなに?」
「肉体強化です」

 エステルを睨んでいたフィリップも諦めて魔法講座を開いてみたが、ホーコンは他の魔法を使えない。
 モブどころか物語に名前しか出演していないのだから、エステルのようなメインキャラ補正がないのではないかとフィリップは予想していたけど、口には出さず。
 諦めきれないホーコンは、風魔法の使える執事にコツなんかを聞いていると、フィリップが割り込む。

「てか、金策は上手くいってるの?」

 フィリップがここに来たのは、フレドリク皇帝とルイーゼ皇后のやり方が気に食わないから。急に真面目な質問をしたので、ホーコンも笑みが消えた。

「金策は順調ですが、根回しは難航中です。これでは、他領の説得が上手くいくかどうか……」
「もう少し補助金を上げたらどう?」
「そう言われましても、当家にも限界というものがありまして」
「商人に借りてでも金を作れ。どうせすぐに取り戻せるし、来年には大きなリターンがあるんだから、いまは気にするな。領主が頷かないなら僕を使え。直接乗り込んでやる。いや、近々集まるんだったっけ……僕も同席してやるよ」
「はっ! 殿下の仰せのままに」

 ホーコンが背筋を正すと、フィリップは数通の勅令書を広げる。

「どいつが厄介そう?」
「そうですね……一癖も二癖もある者ばかりでして……」

 この日は急に始まった作戦会議で1日が終わるのであった。
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