28 / 142
二章 引きこもり皇子、外に出る
028 招かれざる客3
しおりを挟む「思ったより簡単でしたわね」
カイが部屋から出て行くと、エステルはホーコンと小声で喋っていた。
「殿下の言う通り、取り調べには向かない人選だったからな。しかし、本当にエステルを犯人と決め付けて調査するとは……聞いていなかったら殴っていたぞ」
「確かに危惧していましたけど、ここまで根に持ってるとは……これなら、あの話は本当なのかもしれませんわね」
「有り得ないと言いたいところだが……それこそ帝国の歴史が終わってしまうぞ」
「本当に……この時点で殿下が立ち上がってくれたのは、僥倖でしたわね」
「ああ。我々で支えてやろう」
内緒話が終わるとホーコンから立ち上がり、騎士たちが帳簿を確かめている大部屋に向かうのであった。
大部屋では、先に帳簿を読んでいた騎士から進捗状況を聞くカイが驚きの表情をしていたが、気にせず壁際の席に座っている辺境伯夫人の隣にホーコンとエステルも腰掛ける。
何かわからない点があった場合に備えて辺境伯夫人を残していたようだが、いまのところ何も質問されていないとのこと。これからは1時間交代で待機しようかと3人で話し合っていたら、カイが近付いて来た。
「辺境伯。少しいいか?」
「はい。なんなりと」
「この、他領から受け入れている元奴隷なのだが、どうしてそのようなことをしているのだ?」
「どうしてとおっしゃられても、皆が困っているからですよ。幸い我々には少し時間がありましたから、一時的に預かる形を取っています。もしもやむを得ないことが起きた場合は、責任を持って我が領で受け入れますので、ご心配なさらず」
「ほう……どの領地も再雇用せずに放り出す者が続出しているのに、殊勝な心掛けだな」
カイはそれだけ告げると帳簿の確認に戻ったので、エステルとホーコンは目だけで語る。その内容は「誰のせいでそうなってんねん」だとか「情報を流してくれてサンキュー」的なものだ。
それからもカイは何やら信じられないからか、ホーコンたちに何度も質問し、この日は夜遅くまで辺境伯邸で帳簿に目を通すのであった……
「あいつら、まだ帰らないのかよ~。お風呂入りた~い」
「エリク様、私が体を拭きますので、今日はそれで我慢してください」
「それって……交代アリ??」
「もう……エリク様のエッチ~」
屋根裏部屋から出れないフィリップは、ウッラとけっこう楽しくやっているのであったとさ。
昨日は遅くまで仕事をしていた視察団なので、辺境伯邸で一泊。朝になると帳簿の裏を取りに、2人1組で領地内に散って行った。
ここ辺境伯邸がある町では、カイともう1人の騎士が担当しているらしく、農業や生産業を中心に働く人々から聞き取り調査を行っていた。
カイたちはかなり食い込んだ質問をしていたが、元奴隷からの答えは全員似たようなモノ。
給料が数倍になって人並みの生活ができるとか、鞭打つ主人から離れられたとか、主人から追い出されたのに平民と同じ生活をさせてもらっているとか、ホーコンへの感謝の言葉しかない。
ただ、奴隷制度を廃止したのはルイーゼ王妃の案でフレドリク皇帝がやったのだから、カイとしてはこちらに感謝しろと言っていた。なので、元奴隷も感謝の言葉を口にしていたが、ホーコンを語っていた時とは違って笑顔は消えていた。
夕暮れ時になり、それなりの調査が終わったカイたちは辺境伯邸に顔を出そうと馬で進んでいたら、人々からの視線を感じる。
その目に耐えかねたカイたちは急ぎ足で、辺境伯邸に戻るのであった。
「アレはいったいどういうことだ!!」
カイはホーコンたちがいる場所を執事から聞くと、勢いよくドアを開けて執務室に怒鳴り込んだ。
そんな入り方をするものだから、ホーコンも同席していたエステルもポカンとしている。
「アレとはいったい……帳簿に何か不備がありましたかな?」
「元奴隷だ! 奴隷から解放したのは王妃様なのに、まったく感謝の言葉が出て来なかったぞ! それどころか睨まれたのだ!!」
ホーコンの質問にヒートアップして答えるカイ。その熱に、ホーコンはやれやれって顔でエステルを見た。
「それは仕方がないことですわ」
「仕方がないだと……」
「元奴隷は教育されていないのですわ。だからお金をくれる者に感謝するに決まっていますわ。もしかして、そんなこともわからずに感謝しろと言って回ったのではなくて? そんな恩着せがましくされたら、誰だって嫌な気持ちになりますわよ」
「貴様たちが変な言い掛かりを吹聴したに決まってる!!」
「言い掛かりを付けられているのはわたくしたちですわ。きっちり勅令は読み上げましたわよね?」
「ああ。我が名に誓って間違いなく、一字一句漏らさず読み上げた。それを噓だと言うのなら、どうしてこの地に奴隷が1人もいないのですかな?」
「うっ……」
ホーコンに睨まれたカイが怯むと、エステルが妖しく笑う。
「あと、奴隷解放をなさったのは、皇帝陛下ではなくて? 先ほど王妃様としか言わなかったのですが、どうしてですの??」
「そ、それは……」
「失礼を承知で聞きますが、近衛騎士長は、王妃様に何かよからぬ感情をお持ちではありませんわよね?」
「あるわけないだろ! もういい! 調査は終わりだ! 明日には立つ!!」
今日もカイは逆ギレで終了。仲間の騎士を連れて辺境伯邸から出て行ってしまった。
「もういいの?」
ウッラから報告を聞いたフィリップが執務室にお邪魔すると、エステルとホーコンが同時に頷いたので、フィリップは定位置のソファーに飛び込んで寝転がる。
「それで、調査の結果はどうだった? 最高得点だったでしょ?」
「「……え??」」
「いや、『え?』じゃなくて、私財を投げ打って奴隷を救っているんだから、褒められたんだよね??」
「「えっと……」」
2人から詳しい話を聞いたフィリップは、驚きを隠せない。
「はあ!? 煽るだけ煽ったあげく、怒らせて帰したって!?」
「面目ありませんわ」
「面目ない」
「目を付けられたらどうすんだよ~~~」
カイ・リンドホルム近衛騎士長の来襲イベントは、乗りきれたか乗りきれなかったかわからない結果で終わるので、フレドリク皇帝のご機嫌取りに新型馬車を送ることで話がまとまるのであった……
11
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる