【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子

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二章 引きこもり皇子、外に出る

038 一騎討ち


 ここは城塞都市ルレオの外壁の上。フィリップがボローズ軍に飛び込んでしまったので混乱が生じていたが、なんとか兵を落ち着かせたベルンハルド・ダンマークが妹のエステルの元へやって来た。

「殿下はどうなった?」
「囲まれていますわ。あそこですけど……」

 望遠鏡でフィリップを見ていたエステルが指差すと、ベルンハルドも望遠鏡を覗き込んで捜す。

「まだ命はあったか。しかし、これからどうしたものか……」
「なんとかすると信じるしか……あっ……」
「どうした?」
「いま、人を投げましたでしょ?」
「人を投げた?? あっ……蹴ったら人が飛んだな……」

 望遠鏡の中では、フィリップに近付いた兵士がフレームアウトするので、2人は分担作業。エステルがフィリップを望遠鏡で見て、ベルンハルドが全体を見る。

「いま、5人が消えたのですけど……」
「ああ。散り散りに飛んだ……」
「あっ。また1人……」
「すげっ……いまので10人ぐらいまとめて倒れたぞ。まただ」
「もう! 望遠鏡はいいですわ!!」

 全体を見たほうが楽しい映像。フィリップが兵士を吹っ飛ばし、ぶつかったボローズ兵を将棋倒しにしているからだ。

「凄いですわね……兵士がゴミのように飛んでバタバタ倒れていますわ……」
「ああ。見た感じ、レイピアは使ってないみたいだけど、いつ使うんだ?」
「さあ? 殿下の考えは、誰にもわかりませんことよ」
「そうか……それはそうと、氷魔法って本当に使えるんだよな??」
「ええ。この目で見ましたから……」
「ここで使わなくて、いつ使う??」
「本当ですわ!!」

 ベルンハルドの質問に、エステルも逆ギレ。エステルはフィリップが氷魔法で圧倒すると思っていたのだから致し方ない。

 こうして2人は、そろそろ氷魔法が来るのではないかと期待してフィリップを眺め続けるのであった……


 ところ変わって、ボローズ軍中心地。斬りかかる兵士の鎧の部分を狙ってフィリップは掌底やキックで弾き飛ばし、多数の兵士を巻き込んで倒す。その合間に、自己紹介とイェルド将軍への一騎討ちの申し込み。
 そんなことをしていたら、およそ千人のボローズ兵は戦闘不能となり、化け物でも現れたのではないかと怯える者も出て来た。

 この事態には、イェルド将軍にも焦りが見える。

「ええ~い! たった1人に何をやっているんだ! こうなったら私が出るぞ!!」
「お待ちください!」

 イェルドがいきり立って前に出ようとしたが、参謀に止められた。

「止めるな!」
「いえ、止めます! 将軍が討ち取られたら、本当に終わってしまいます!!」
「私が負けるとでも……」
「この惨状を見てわからないのですか! 落ち着いてください!!」

 参謀に怒鳴られることによって、イェルドも冷静になる。いくら腕に自信があっても、千人もの兵を相手取ることはできないのだろう。

「確かに、酷い惨状だな……」
「ええ。ここは一度引いて、態勢を立て直すべきです」
「うむ。少しだけ引こう」
「少しと言わず、近隣の町まで引くことを進言します!」

 参謀は事実上の撤退を身命を賭けて進言したが、イェルドには策があるらしい。

「この作戦は、王の命令だ。撤退は難しい。だから、前線を下げるだけでいい」
「しかし!」
「まぁ聞け。最前列に、魔法部隊を配置する。いまは味方が多いから使えないだろ?」
「なるほど……その中心に誘い込めば……」
「さらに、弓隊の一斉射撃も加えれば?」
「逃げ場はなしですね」
「そういうことだ」

 冷静さを取り戻せば、イェルドはボローズ王国随一の知将。参謀も舌を巻く戦略なので、すぐさま実行に移る。
 伝令兵を走らせ、最前列には中央を迂回するように指示。ボローズ兵がフィリップに襲いかかり、本隊がゆっくりと後退するなかフィリップとイェルドの間には、足止め用のぶ厚い肉の壁が作られた。

「いまです!」
「ああ!」

 そこを見計らって参謀はイェルドを逃がしたが……

「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」

 後ろにはフィリップが回り込んでいた。ボローズ兵が不穏な動きをしていたから、完全に読まれていたのだ。

「いつの間に……」
「将軍、行ってください!!」
「我らも続け~~~!!」
「「「「「うおおおお~~~!!」」」」」

 そんなこともあろうかと、参謀は屈強な兵士を配置していたので、一緒に突撃。さらにボローズ軍上層部もイェルドを逃がすためにフィリップに突っ込んだ。

「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」

 残念無念。全員フィリップに吹っ飛ばされて、辺りにいる兵士も巻き添えになり、この場に立つ者はフィリップとイェルドだけとなるのであった……


「クックックックッ……」

 フィリップと相対したイェルドは、もう笑うしかない様子。腰に差した大振りの剣を抜きながら語りかける。

「私を引っ張り出すとは見事。だがしかし、私は負けん。レベル30の……」
「僕は帝国第二皇子フィリップ! イェルド将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」

 イェルドの名文句は、フィリップの大声で台無し。ちなみに続きのセリフは、「レベル30の猛者だ。かかってこい」だ。

「わかった。わかったから、それをやめろ。望み通り一騎討ちを受けてやる」

 呆れ返ったイェルドがそう告げると、フィリップは前に出していたレイピアを肩に担いだ。

「やっとか~。早くしてよね~」
「初めて違うセリフが聞けたな。アレしか喋れないかと思っていたぞ」
「んなわけないでしょ。そんじゃあ、いざ尋常にといきますか」
「おう! かかってこい!!」
「いや、待たせたお前が来なよ」
「行けばいいんだろ!!」

 嫌味で梯子を外されたイェルドは、キレながらの上段斬り。

「なっ……」

 その剣は、フィリップのレイピアに横から優しく軌道をずらされて地面に突き刺さったので、その一合でイェルドは圧倒的な実力差を感じ取った。

「化け物め……」
「どうする? たった一振りで負けを認めて裸踊りでもする??」
「誰がするか!!」

 フィリップのあからさまな挑発に応え、イェルドは剣を振り続ける。ボローズ軍を統べる将軍のプライドがあるから、降伏よりも名誉ある死を選んだのだろう。
 しかし、その鬼気迫る剣は、フィリップに嘲笑われるかのようにあしらわれる。縦でも横でも斜めでも、どんな太刀筋であろうとも、フィリップは剣の横からレイピアを叩き付けて地面にめり込ませるのだ。

 その剣劇が5分ほど続くと、何かがおかしいと感じた兵士が戻って来て、イェルドに加勢しようとした。

「来るな! これは男と男の一騎討ちだ!!」

 だが、プライドの高いイェルドは一喝。兵士は何もできずに2人の一騎討ちを見守るように円を作る。

 こうしてイェルドは、勝てない勝負と知りながら剣を振り続けるのであった。
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