【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子

ma-no

文字の大きさ
46 / 142
二章 引きこもり皇子、外に出る

046 旅立ち

しおりを挟む

「殿下、少々よろしいですか?」

 ボローズ軍を追い返した翌朝、ベルンハルドは食事中のフィリップを食堂の端に呼び出した。

「内緒話?」
「はい……妹は、どうしてあんなに怖い顔で笑っているのかと思いまして……」

 どうやらエステルの顔が兄であっても怖いから、知っていそうなフィリップに聞きたかったらしい。

「アレは怖い顔じゃなくて、嬉しくて頬が緩んでいる顔じゃないかな~? もしくは、引き締めようとしているけど、ついつい緩んでいるとか??」
「どちらにも見えないのですが……え? 嬉しいってことは……妹を傷物にしたのですかな??」

 急に偉そうなお兄ちゃんの態度に変わったベルンハルド。妹の幸せは喜んであげたいけど、妹がかわいいから許せないっぽい。

「いや、キスしただけだよ? 2回目のキスで、飛んで逃げられたし……」
「たった2回のキスで、あの顔ですか……それはそれで殿下に申し訳ない気もしないではない……」
「まぁ、気長にやるよ。それと、大事にするから心配しないで」
「はい……幸せにしてやってください……うぅ……」
「泣くの早すぎ。結婚式はまだまだ先だよ~」

 いきなり泣き出したベルンハルドや、笑顔が怖いエステルを1人で相手にしないといけないフィリップであった。


 それから3人が馬車に揺られてやって来た場所は、城塞都市ルレオの北門。そこでは多くの兵士が整列している。
 ベルンハルドとエステルが先に馬車から下りて背筋を正し、フィリップが顔を見せると大歓声が起こった。

「静まれ~~~!」

 フィリップはその声に応えて手を振り、これでいいかと合図を出したら、ベルンハルドの大声で兵士の声がピタリと止まる。

「殿下……この度は、ご尽力ありがとうございました」
「皇族として当然のことをしたまでさ!」

 フィリップは調子に乗って、指をパチンと鳴らしてウィンク。ベルンハルドとエステルは微妙な顔をしている。

「もうしばらく滞在してくれてもよろしいのに、もう旅立たれますのね……」
「いや~。長くいすぎると、お兄様に見付かっちゃいそうなんだよね~。僕、家出中だから」
「これからどちらに向かわれますの?」
「とりあえず北。そこからは、適当に歩いて世界中を見て回ろうと思っている。さすらいの旅人って感じで、カッコよくな~い??」
「え、ええ……」

 エステルは肯定しているが、一言多いとフィリップの足を踏んでいる。

「んじゃ、世話になったね。皆もしっかり帝国を守ってよ? 帰って来て故郷がなかったら、僕、泣いちゃうよ~??」
「殿下の旅路に~……バンザ~イ! バンザ~イ!」
「「「「「バンザ~イ! バンザ~イ!」」」」」

 フィリップがよけいな一言と演技をしているので、ベルンハルドもうっとうしくなったのか、大声をあげて阻止。エステルも背中を押すので、フィリップも歩き出すしかない。

「まったね~~~!!」

 いつまでも万歳を続ける兵士の間をフィリップは手を振って歩き、だんだん速くなり、あっと言う間に見えなくなったので、兵士は手を上げたまま固まるのであった……




「お待たせしましたわ」

 エステルが2頭の馬を引いて現れた場所は、城塞都市ルレオから東にある林の中。そこでフィリップと待ち合わせしていたのだが、着替えとカツラを装着済みのフィリップはハンモックに揺られて返事がない。

「また寝てますの……」

 何度声をかけてもフィリップが目を開けないので、エステルに悪戯心が出た。馬を近くの木に繋ぎ、フィリップのそばへ。そして髪を耳に掛けて、フィリップの唇に自身の唇を重ねた……

「フ、フフフ……」
「え……起きてましたの!?」

 するとフィリップの笑い声が漏れたので、エステルは尻餅をついた。

「昨日はこれをしたかったんだね~」
「もう……騙すなんて、人が悪いですわよ……」
「いいじゃん。誰も見てないんだし。もう一回してくれない?」
「わたくしのキスは、そんなに安くないのですわよ。でも……もう一回だけなら……」

 エステルは嫌味を言いながら、目を閉じたフィリップにキスをする。それからエステルが火照った顔に手で風を送って冷やしていたら、フィリップは片付けをして馬を撫でた。

「よしよし。僕に会えなくて寂しかったか~?」
「ブルンッ!」
「そうかそうか。シルバーも寂しかったか。僕も寂しかったよ~」
「ヒヒ~ン!」

 というやり取りをしていたら、エステルの手うちわは止まった。

「やっぱり馬と喋ってますわよね!?」
「え~? たまたまそう見えただけじゃない??」
「また隠し事ですの!?」

 エステルが凄い剣幕で詰め寄るので、フィリップは条件を出す。

「チューしてくれたら教えてあげよっかな~?」
「キスなら先ほど前払いでしましてよ」
「1回だけじゃ~ん」
「いいえ。2回しましたわ。払いすぎたぐらいですわ」
「高すぎるよ~~~」

 フィリップはブーブー言いながら「答えは歩きながら」と告げて、2人とも馬に跨がり辺境伯邸のある町に移動する。

「このネックレスはね。動物と話せるアイテムなんだよ」
「そんな物、どこで手に入れましたの?」
「亡くなったお母さんのプレゼント。お母さんはお婆ちゃんから貰ったって言ってたかな? 元々僕の設定は、友達のいない根暗な皇子で、動物しか友達がいなかったんだよね~。このネックレスで寂しさを紛らわせていたんだ」
「また設定ですの? ……でも、殿下を見ていたら、その話が本当に聞こえて来ましたわ。ウフフフ」
「やっとか~。それじゃあ、他の人の設定も教えてあげる。えっちゃんの友達はね~……」

 こうしてフィリップとの仲が進展したエステルは、噓みたいな話を信じることにして、乙女ゲームの話を聞くのであった。

「どうしてそこまで詳しいのですの!?」

 ただし、エステルしか知らない内容まで知りすぎているので、ちょっと気持ち悪くなるのであったとさ。
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...