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三章 引きこもり皇子、働く
070 ハルム王国の侵攻1
しおりを挟む「アハハ。人がゴミのようだ~。アハハハハハハ」
皇族っぽい格好をしたフィリップが高笑いしている場所は、ダンマーク辺境伯領の南西、国境近くにある城塞都市『ルンド』の高い外壁の上。そう、フィリップたちの演技に騙されて、ハルム王国兵が大挙して押し寄せたのだ。
「人がゴミとか言って笑っているけど、本当に大丈夫なのか??」
この心配そうにエステルに質問している立派な鎧姿の男は、ホーコンの次男、クリストフェル・ダンマーク。長男よりやや小振りで、性格は心配症だ。
「ちょっとテンションが上がって変なことを言っているだけですわ。お兄様は何もしなくとも終わりますから、殿下に任せてください」
エステルもフィリップと共に前乗りしている。新年にクリストフェルとの顔繋ぎは済んでいたのだが、フィリップが何をしでかすかわからないから、ホーコンがお目付役として送り込んだのだ。
ちなみに今回はスパイから早くに情報を得ていたので急ぎではないから、フィリップ専用馬車で2日前に到着して、前日の夜には兵士にもフィリップの顔出しは終わっている。
「そんじゃあやりますか。次男、命令よろしく~」
「はっ! 皆の者、聞け~~~!!」
一通り遊んだら、フィリップはクリストフェルに注目を集めさせて、話し合いに行くと告げた。
「「「「「殿下~~~!!」」」」」
けど、外壁から飛び下りたので、早くも死んだと思う兵士であった。
「あわわわわ……」
「大丈夫ですわ。元気に走っていますわよ」
エステルから大丈夫と聞いてもクリストフェルは腰を抜かしたままで、なかなか下を見れないのであったとさ。
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ヴァルタル将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
今回も、本陣近くまで飛び込んでフィリップは大声で一騎討ちの申し込み。褐色の肌のハルム兵がポカンとするのも大爆笑も、前回と同じだ。
しかし、違う点も少しはある。笑っている者の中には、コソコソと何かを喋っている兵士がいるのだ。その代表というわけではないが、大きな男が前に出て来てフィリップに絡む。
「帝国の第二皇子といえば、化け物並みに強いって噂のヤツだよな~? それとも、アレはボローズの戯言か?」
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ヴァルタル将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
「聞けよ!」
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ヴァルタル将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
「無視すんな! もういい! 俺がその一騎討ち受けてやるよ!! ぶほっ!?」
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ヴァルタル将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
大男なんて、フィリップは相手にしないし相手にもならない。斬り掛かった瞬間にぶん殴り、大男はぶっ飛んで行った。
「ぶははは! だっせ! 子供にのされてやがるぞ。次は俺だ!!」
「本物の第二皇子なら大手柄だな! 俺が相手だ!!」
そこからは、面白がってフィリップに斬り掛かる者がいたり、手柄を欲しがる者が飛び掛かったり。周りの兵士は笑ったり自分も行くかと剣を抜いたり。
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ヴァルタル将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
「「「「「ば、化け物……」」」」」
しかし、フィリップに近付く者は相手にもされずに吹っ飛ばされたり巻き込まれて倒されるので、ハルム兵は戦も始まっていないのに、早くも士気が下がるのであった……
ところ変わって、ハルム王国軍本陣。外から笑い声が聞こえて来て不快に思い、しばらくしたら悲鳴のような声に変わったのでさすがにおかしいと、褐色の肌で目付きの鋭い中年男性、ヴァルタル将軍や上層部が見に行こうと立ち上がった。
しかしその時、1人の兵士がテントに飛び込んで来た。
「伝令! 自分は帝国第二皇子と言う子供が暴れています!!」
「第二皇子? 子供? この騒ぎはそいつのせいか??」
「はい! このままでは、壊滅的被害を受けてしまいます!!」
「「「「「はあ!?」」」」」
伝令兵は簡潔に説明しているが、まったく頭に入って来ない上層部。その中で、参謀が何かを思い出した。
「帝国第二皇子と言えば、話し合いでボローズ王国との戦争を終わらせた人物では?」
「ああ。あったなそんな噂……それでうちが攻めるのを遅らせたんだ。だが、それは噂だろ? 話し合いでボローズが引き下がるか??」
「噂は様々なので……1人でボローズ兵を倒しただとか追い返しただとか……ボローズの将軍と共に兵士を薙ぎ倒して遊んでいたとも……」
「俺も聞いて笑った口だ。それで……いま現在、どれが真実だと思う?」
「1人で戦って追い返したでしょうね……」
「「「「「ゴクッ……」」」」」
参謀の答えに、ヴァルタルたちは生唾を飲み込む。外では騒ぎ声がいっそう激しくなっているのだから、本当に1人で来ているのならばその噂は真実だったと実感したのだろう。
「も、もしもだ。もしも本当にそんな化け物がいたとしたら、どうなる?」
「ボローズ王国は2万で挑んで負けたのですから、同じ道を歩むことに……」
「だ、だよな? これ、逃げたほうがいいか??」
「国王陛下がお許しくださるなら……」
「兵士の命を取って俺が処刑されるか、兵士と共に玉砕するかの二択か……」
「どちらにしても、命も名誉もなくしますね。玉砕しても、無謀な決断をしたと……」
ヴァルタルの悩みに参謀がもうひとつ付け足したので、早くも決断する。
「撤退だ! 俺の命も名誉もいらん! それよりも、1人でも多くの兵士を、陛下の元に帰すのだ~~~!!」
「「「「「将軍……ぐずっ……はっ!」」」」」
ヴァルタルの命を懸けた撤退命令に、上層部は涙ながらに応えるのであっ……
「僕は帝国第二皇子フィリップ! ヴァルタル将軍に一騎討ちを申し込む! いざ、尋常に勝負だ~~~!!」
残念ながら、ちょっと遅かった。フィリップが本陣のテントをレイピアで斬り裂き、ヴァルタル将軍たちの前に姿を現したのであった……
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