90 / 142
四章 引きこもり皇子、暗躍する
090 皇帝の訪問3
しおりを挟む「ここは皇帝陛下の国……ただ命令してくれさえすれば、わたくしどもはいくらでも用意しますわ」
「そうか! 感謝する!!」
「ありがとうございます! これで多くの民が救えます!!」
笑いを収めて応接室に戻ったエステルは、フィリップの描いた作戦のレールに戻したら、フレドリク皇帝もルイーゼ皇后も笑顔。抱き合って喜んでいる。エステルとホーコンは笑いそうになるから、早く話を進める。
かといって、ダンマーク辺境伯領の財政は無限ではない。他領にまで金を要求することはフレドリクの名を汚し兼ねないので、ここはホーコンがギリギリまで出して、足りなくなったら他領から借りることにしていた。
ここまでされては、ホーコンの評価は爆上げ。エステルはちょい上げ……嫌いなものは嫌いみたい。
フレドリクは勅令書をこの場で書き、数字だけはまだ決定していないのであとからホーコンが書き足せるようにして、その用紙に笑顔でサインしたのであった。
それからは、フレドリクたちは機嫌よく世間話。ホーコンをめちゃくちゃ褒めて、エステルは少しだけ。自分の苦労話もしていたら夕食の時間になったので、そのままディナーに突入。
酒も入り、上機嫌で本日の宿屋に帰って行ったのであった。
「なんだか拍子抜けだな……」
「ええ。こんな用紙にサインするなんて、どうかしてますわ。あの頃の陛下は、本当にどこに行ったのでしょう……」
フィリップの作戦が上手く嵌まりすぎて、フレドリクが少し心配になるホーコンとエステルであった。
その夜……
「フフフフフ。あの2人に頭を下げさせてやりましたわ! ざまぁみろですわ! オ~ッホッホッホッホッホ~」
エステルの笑い声が辺境伯邸に響き渡り、何人かは悪魔でも出たのかと跳び起きたのであったとさ。
それから2日間、麦が届くまでフレドリクたちはダンマーク辺境伯領を視察。その見張りとして辺境伯夫婦が張り付き、エステルが各種事務仕事。どちらもあまり顔を見たくないからの配慮だ。
フレドリクたちは帝都より遥かに活気のあるダンマーク辺境伯領を見て驚きの連続だったので質問が多かったが、ホーコンが無難に答えていた。
領民と話す場合は、ホーコンが失礼がないようにフレドリクたちを紹介していたけど、元奴隷はフレドリクたちと話す時には、明らかに顔が曇っていた。
いちおうその場ではホーコンが怒っていたけど、そのあとに連れて来ていた従者がフォロー。アレはパフォーマンスで、実は褒めているとか言いくるめていた。
その間に、エステルは派閥から届いた麦の集計や、新型馬車の手入れの指示。フレドリクの連れて来ていた馬車には、次々と麦とお金が積み込まれていた。
あっと言う間に2日が過ぎると、ホーコンたちは朝からフレドリクの泊まっていた宿屋に出向き、別れの挨拶をしていた。
「世話になったな。ここへ来れて、今までの疲れが吹き飛んだ気分だ」
「ははっ! 陛下、並びに皇后様が楽しんでくれただけで、感無量でございます」
「そうか。それと、麦と金……感謝する。必ず帝国がより良い方向に向かうように使わせてもらう。この借りは、必ず返すからな」
「ははっ! もったいないお言葉。家臣として当然のことをしたまででございます」
「何か困ったことがあったら、いつでも言ってくれ」
フレドリクの社交辞令の挨拶に、ホーコンは初めて頼み事をする。
「恐れながら!」
「どうした? 言ってみよ」
「娘の無期限の蟄居の件……いつまで領地に留めておけばよろしいのでしょうか? 先日、気のある男に海に誘われたらしいのですが、断らざるを得なかったので、かわいそうでかわいそうで……」
「蟄居……」
フレドリクは少し考えて笑顔を見せる。
「そうだったな。もう8年にもなるか……自由にしていいぞ。これは、借りを返すとかではない。罪は償い終わっただけだ。辺境伯……これからも、帝国のため励んでくれ」
「ははっ!」
こうしてフレドリクたちは、笑顔で馬車に乗り込んで帰って行くのであった。
「あの顔、完全に蟄居の件は忘れていましたわね……」
「ああ……いきなり婚約破棄したことも謝罪がないとは、どこまでも我が家を馬鹿にしたヤツだ……麦の量と渡した金額、二桁ほど足してやれ」
それとは違い、エステルとホーコンたちは、怒りの表情でフレドリクたちを見送ったのであった。
ダンマーク辺境伯領を旅立ったフレドリクとルイーゼは、ベッド付き新型馬車で寝転びながら進んでいた。
「上手くいったね!」
「ああ! 最高の結果だ!!」
大量の麦と大金を無償で手に入れたのだから、喜ばないわけがない。
「それにしてもこの馬車、乗って来た馬車より断然気持ちいいね」
「ああ。これなら子供も一緒に来れたかもな」
「本当に……そういえば私、まだ海を見たことなかったな~。今度、みんなで行こうよ」
「それはいいな。この危機が終わったら行くか。でも、その前に……」
旅の約束をしたら、フレドリクはルイーゼを引き寄せる。
「ルイーゼ……愛してる」
「ん……フックン、私も愛してるよ」
頼み事が上手くいったせいかこの馬車が悪いのか、周りも気にせず愛し始める2人であった……
1
あなたにおすすめの小説
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる