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五章 引きこもり皇子、進軍する
109 決戦前夜
しおりを挟むヘルゲソン伯爵軍を追い返してからも勧誘して進めば、皇帝抗議隊はついに帝都まであと1日の距離まで迫っていた。
「国民の命を奪ったのは誰だ!」
「「「「「皇帝です!」」」」」
「そんなヤツを許していていいのか!?」
「「「「「皇帝、許すまじ!!」」」」」
「皇帝に文句を言いたいヤツは全員ついて来なよ! ごはんもつくよ~!!」
ここまで来たら、元奴隷も農夫も商人も、男も女も関係ない。来る者拒まず。いや、足に不安がある者は断りながら、さらに皇帝抗議隊が膨らむ。
そして先行している者も合流し、皇帝抗議隊に加わった者を使って村々にも「皇帝に文句を言いに行く」だとか「タダ飯食える」だとか宣伝して回れば、当初、フレドリク皇帝に手紙で知らせた人数、10万人を遙かに超える人数となっていた。
そんな感じで進んでいたら、帝都まで残り半日を切った宿場町に到着。まだ日は高いが、疲れを少しでも取って万全な体調にするために、今日はここで宿泊。皇帝抗議隊は入り切らないので野営だ。
人々は慣れたモノで、食料や生活必需品が乗った馬車が止まると、炊き出しの準備をする者、テントを張る者、テントがまったく足りないので毛布を配る者に分かれて作業を開始する。
そうして料理のいいにおいが漂い出すと、自然と浮かれる人々。食べ終えた者から焚き火を囲い、歌ったり踊ったりと、さながらお祭りのようになっていた。
「みんな~! 盛り上がってる~?」
「「「「「わあああああ」」」」」
「本番は明日なんだから、盛り上がりすぎないでよ~?」
「「「「「わあああああ」」」」」
「超盛り上がってんじゃん。アハハハハ」
「「「「「あははははは」」」」」
その現場に、フィリップも参加とまではいかないが、雰囲気は楽しんでいる。これは時々フィリップが一緒に笑い合っていたから、民衆は怒られないと知っているのだ。
そこにはエステルたちもたまに参加していたが、下品だと思っても口には出さず。なんだったら、フィリップに誘われてめちゃくちゃなダンスを踊らされていた。
さすがに高貴な者がやるのはどうかと思ったらしいが、回を重ねるほどにエステルたちも楽しくなったらしい。
日が暮れると、ここからは「本当に体を休めるように」とフィリップが言ったら、先程までの騒がしい声が無くなり静まり返る。民衆も明日の対決に少しは緊張しているのだろう。
そうしてフィリップたちは取っていた高級宿屋で軽く晩酌してお風呂に入れば、各々のベッドで明日のことを考えながら夜を明かすのであった……
フィリップとエステルも今日は気分ではないのか、ベッドに横になって静かに天井を見ていた。
「殿下……」
その静寂のなか、フィリップに腕枕をされているエステルが口を開いた。
「ん~?」
「ルイーゼのことを聞かせてくれませんか?」
「聖女ちゃん? えっちゃんからそんなこと言うのは珍しいね。口にも出したくないと思っていたよ」
「その認識で間違いなくてよ。でも、明日には会うのですから、少し気になりまして」
「……何が知りたいの??」
フィリップが問うと、エステルは抱き付くように横を向いた。
「殿下は以前、この世界を物語の中だとおっしゃり、自分は外の人のようなことをおっしゃってましたわよね? ひょっとして、ルイーゼもそうなのかと思いまして……」
「……どうしてそう思ったの?」
「一番難しい逆ハーレムルートを選んでいたと言ってましてよ」
「ああ。そんなこと言ってたんだ。忘れてたな~」
フィリップはカミングアウトした日のことを思い出す。
「まず、この世界は乙女ゲームという世界で、僕はプレイヤーって存在ってのを受け入れて。プレイヤーとは、小説で言うところの読み手ね」
「はい……」
「その観点から話させてもらうけど、聖女ちゃんはプレイヤーではない。僕が攻略対象から外れたあとに、何度か接触して元の世界の単語を出してみたけど反応はなかったから、これは確実だね」
「では、どうして一番難しいルートを選べたのですの?」
「おそらくだけど、この世界はそのルートに沿っている世界なんだよ。だから選択肢はなく、逆ハーレムルートしかゴールがなかったってのが僕の見解」
エステルが考えて黙っているので、フィリップはそのまま続ける。
「子供の頃からおかしいと思っていたんだよね。あんなに元気だったお母さんが急に病気で亡くなったり、僕が病気だと演技しているのにムリヤリ外国の学院に放り込まれたりね。聖女ちゃんも攻略対象から外れてからは、僕から口説いてもまったく乗って来ないんだよ? 一回ぐらいやらせて欲しかったのにな~……イタッ!?」
けど、話し過ぎてエステルに首を噛まれた。他の女は許せても、ルイーゼだけは許せないらしい。
「と、言うことは、ルイーゼも物語の強制力で動かされているのですか……」
「だろうね~。聖女ちゃんだけじゃないよ。逆ハーレムエンドに選ばれた兄貴たち4人もそう。物語が終わっているのに、いまだにその設定を続けているんだから、もうこれは呪いだよね」
「呪いですか……殿下にひとつだけお願いしてもよろしくて?」
「いいよ~。いっぱい気持ち良くしてあげる!」
フィリップが茶化すので、エステルは影で作ったヒモでフィリップの首をキュッとしてから説明するのであった。
「前祝いに、本当の子作りしよっか?」
「は、はい……」
でも、それが終わったら、いつもより激しく愛し合う2人であった……
翌朝……フィリップは馬車の屋根に立ち、民衆を見渡した。
「さあ! 決戦の日だ! 僕に続け~~~!!」
「「「「「おおおおおおおお!!」」」」」
「皇帝、許すまじ!!」
「「「「「皇帝、許すまじ!!」」」」」
「国民の暮らしを返せ!」
「「「「「国民の暮らしを返せ!!」」」」」
こうして皇帝抗議隊は、とても10万人とは思えない人数で帝都に押し寄せたのであった……
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