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五章 引きこもり皇子、進軍する
111 抗議の声
しおりを挟む「な、なんだこの数は……」
フィリップが集めた皇帝抗議隊を、外壁の上から見渡したフレドリク皇帝は青ざめている。
「200万どころじゃない……500万……いや、もっと……」
そう。フィリップが手紙に書いた人数や、伝令兵に調査させた人数よりも遙かに多い人間が押し寄せているのだから、フレドリクも現実を受け止められないのだ。
これも、全てフィリップの策略。フィリップたちが出発する前に、派閥の者が北と南に散って同じことをしていたから、一千万人以上も集まったのだ。
その圧倒的な数にフレドリクが思考停止に陥っていると、こんな声が聞こえて来た。
「「「「「国民の暮らしを返せ!」」」」」
「「「「「国民の金を返せ!」」」」」
「「「「「国民の命を返せ!」」」」」
「「「「「皇帝、許すまじ!!」」」」」
統率された抗議の声は、帝都中に響き渡るのであった……
* * * * * * * * *
「アハハハ。すんげ~大音量。アハハハ」
皇帝抗議隊の最前列に、陣を張って上層部と一緒にいるフィリップは大笑い。自分でやっておいて、この人数と大声には驚いているらしい。
「殿下……何か言いました~?」
ただし、周りの声が大きすぎて、上層部は会話も成り立たない状況。フィリップの口が動いていたからエステルは大声で質問していた。けど、笑っていただけと聞いて、フィリップは怒られていた。
そんな大声が響き渡っているのだから、帝都の中は不安が広がっていた。だが、よくよく聞くと自分たちが普段から思っていたことなので、「味方が来ただけなのでは?」と話す人も多い。
なんなら、外の声に合わせて同じことを言い出す始末。その声はジワジワと広がり、帝都の住人のおよそ半分が抗議の声をあげ出したのであった。
* * * * * * * * *
「な、何がどうなっているんだ……」
外壁の上では、前方の抗議の声と後方の抗議の声に挟まれたフレドリクがキョロキョロしている。
「フレドリク! しっかりしろ!!」
そこにカイが胸ぐらを掴んで怒声を浴びせかけて、フレドリクをこちらの世界に引き戻した。
「あ、ああ。すまない。助かった」
「それより、これはもう謀反ってことでいいんだよな? こんな大人数で攻められたらひとたまりもないぞ」
帝都の人口を10倍以上も上回っていては、防衛を任されたカイも早く決断したいようだ。
「いや……武装もしていない者に攻撃はできない」
「しかしだな。このままでは帝都を乗っ取られるぞ」
「攻撃はダメだ。中にも私を非難する者が大勢いる。もしもいま、弓の1本でも引けば、騎士団は外だけでなく中も相手にしなくてはならなくなるぞ」
「あ……」
外だけなら籠城戦も選べただろうが、中で暴動が起きては対処することもできない。フレドリクに諭されたカイも黙り込むしかなかった。
「もうこれは、フィリップに止めさせるしか手がないか……」
ここまで追い詰められてしまっては打つ手なし。フレドリクは天を仰ぐのであった……
* * * * * * * * *
「そろそろかな?」
抗議集会開始からおよそ30分。フィリップは頃合いかとエステルを見たけど……
「なんですの~~~?」
周りの声がデカすぎて聞こえていない。
「止めて! みんなを止めて~~~!!」
なので、大声と身振り手振りでホーコンたちに、抗議の声をやめるようにと走らせるフィリップであったとさ。
いちおう大声対策で、大きな黒旗を振ったら声を止めるようにと伝えていたので、各所の先頭で男が黒旗を振り続けていたら、民衆の声は徐々に小さくなり、ザワザワとした音だけが残った。
それを確認したホーコンが本陣に戻り、フィリップを呼ぶと、エステルと腕を組みながら出て来た。そして馬車の屋根を改造した舞台に2人で登ると、割れんばかりの拍手が起こる。
「アハハハ。どうもどうも。フィリップだよ~? アハハハ」
その拍手に応えるようにフィリップが手を振り、エステルがもっとちゃんとしろと肘打ちを喰らわし、ホーコンたちが静かにするように叫ぶ。
「みんな~? 後ろのほうは聞こえないだろうけど、喋るね~」
ある程度静かになったら、フィリップもできるだけ大きな声で語り出す。
「まず、これだけ多くの人が集まってくれて、ありがと~~~う!」
フィリップが感謝の言葉を述べながら両手を振ると、民衆も手を振って応えてくれた。
「アハハハ。ありがとね。それと、みんながいるから、皇帝だって僕の言葉に耳を貸してくれるはずだ! みんなが訴えたいこと、必ず伝えるからね!!」
「「「「「わあああああ!!」」」」」
書類の山を一握り掴んでフィリップが高く掲げると、民衆の声が弾ける。そこにまたホーコンたちが静かにするように言っていた。
「さあ! 皇帝をみんなで呼び出そう! 皇帝出て来い! 皇帝出て来い!」
「「「「「皇帝出て来い! 皇帝出て来い!!」」」」」
フィリップに煽られた民衆が叫んでいると、どこからか違う叫び声が聞こえて、徐々に伝染して行った。
「「「「「皇帝辞めろ! 皇帝辞めろ!!」」」」」
その声を聞いたフィリップとエステルは、ニヤリと笑って帝都正門を見据えるのであった……
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