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第一章 森編 猫の生活にゃ~
008 悪魔が来たにゃ~
しおりを挟む我輩は猫又である。名前はもちろん無い。いい加減、自分で付けようか悩んでいる。
それは置いておいて、毎日の日課、朝が来ると家の壁に正の字を刻むこと幾日々……
計算したところ、あの悪魔(神)に騙されて猫に転生してから、一年と十五日が経っておった。もちろん猫に誕生日を祝う習慣もないので、遅ればせながら近所で木苺を集めてこっそりと祝ってみた。
あの悪魔(神)の事を思い返しながら木苺を噛み締めると、酸っぱさで涙が零れる。
「なんで泣いてるの? ポンポン痛いの??」
感傷に浸っていたら、女猫に見られてしもうた。しかし、ちゃんと撒いているはずなのに、女猫はいつもどこから現れるんじゃ?
わしの警戒を掻い潜るなんておっかさんでも出来ないのに……ステルス機能でも搭載されてるんじゃなかろうか?
「なんでもないよ。これが思ったより酸っぱかっただけだよ」
「あ~。それ酸っぱいよね~」
この一年で、兄弟達も大人へと成長している。
「モフモフ~」
性格以外は……。女猫は相変わらずのモフモフ好きで、暇さえあればわしに抱きついて来る。性格は諦めておるが、女猫は大きくなって見た目もスレンダーで、美人な猫になったのではないだろうか。
生憎、人間の思考を持っているわしには、猫の美的感覚はわかりかねる。
男猫も大きくなり、流線型。筋肉質な体で、狩りをする際には大活躍じゃ。顔もなかなか凛々しく男前と言えよう。しかし残念な事に、わしへのライバル心とマザコンは治っておらんみたいじゃ。
二匹とも猫らしく、元の世界の猫と大差ない成長をしていると思われる。
……え? わし?? わしも成長しておるよ。成長しておるとも。兄弟達と比べると少し? ちょっと? もしくは? 一回りぐらい横にデカイだけじゃ。
食生活が合わず小食なんじゃが、兄弟達より丸く成長している。デブじゃないぞ? きっと毛がモフモフしてるせいじゃ。
おっかさんは変わらず3メートルぐらいあってデカイ。気のせいかもしれないが去年よりデカくなっている。さすがに気のせいじゃろう。
おっかさんを見れば、わしもまだまだ成長の伸びしろがあると思われる。いまはこのモフモフの体のまま大きくならない事を祈るしかない。
一年過ごしてみて気付いた事は、この世界にも四季があるみたいじゃ。夏が来て、秋、冬と気温が変わって行ったので、いまは三月ぐらいじゃと思う。
元の世界でわしが死んだのが二月後半だったから、連動してるみたいに感じるが、考えてもわからないから保留じゃ。
リフォームした洞穴も大活躍じゃった。夏は冷房、冬は暖房と、快適に過ごせておっかさんに涙ながらに感謝された。
しかし、おっかさんの「食べ物を長く置いておけないかしら?」の発言から、おねだり攻撃が始まり、洞穴の地下を増築して氷室を作らされた。おっかさんが自分のベッドに使う毛皮の為に大量の獲物を狩っていたから丁度よかったかけど……
こそっと練習していた氷魔法で冷やしたが「下に掘れば冷たくなる」の嘘で言い逃れた。きっと大丈夫じゃろう。
そして今日もいつものように、我が家で一家団欒、食事をして、女猫にモフモフされながら眠りに就くわしであった。
その夜……
「鉄之丈さん」
わしの夢の中で、懐かしい名前が呼ばれる。
「鉄之丈さ~ん」
わしはゆさゆさと揺らされる。
――これは……誰かがわしを揺らしているのか? なるほど。わしが猫又転生したのが夢で、目を覚ますといつもの天井、いつもの女房の顔が飛び込んで来るのじゃな――
「もう! 鉄之丈さんってば!!」
――長い夢じゃった……――
わしは大きく欠伸をしながら起き上がる。
「ふにゃ~~~~……にゃ!?」
――猫又のままじゃ! まだ夢の中みたいじゃ……ここで眠れば目が覚めるな? おやすみ~――
「夢じゃないから起きてくださいよ~」
――うるさいのう。起きればいいんじゃろう。起きれば。んん~――
わしは軽く伸びをして辺りを見渡す。
――ここは……見覚えがある。あ~。あの悪魔(神)と出会った場所じゃ――
「悪魔だなんて酷い!」
「にゃにゃにゃ! にゃにゃにゃ!!(出たな! 悪魔!!)」
――あれ? 喋れない……――
「そりゃそうですよ。猫なんですから。それと悪魔って言わないでくださ~い!」
――我輩は猫であるか……夢じゃないのか……――
「喋れないので、鉄之丈さんは嫌でしょうけど、心を読ませていただきますね」
――勝手にせい。――
「では、今日ここに鉄之丈さんをお呼びした理由を説明させていただきます」
――はぁ……なんじゃ? ……ん?――
アマテラスは跳び上がり、膝を折って着地し、両手を地に着け叫ぶ。
「この度はこちらの不手際で、誠に申し訳ありませんでした!」
――まさかの謝罪? てか、神様がジャンピング土下座って、どこで習ったんじゃ。神様に土下座させるわしって……被害者なのに、急にわしが悪い事してるみたいな気になって来た。――
ニヤッ
――いま、ニヤッとしたじゃろう!? そのしたたかさ。やっぱり悪魔じゃったか!――
「違います違います。ニヤッとなんかしていません! 神様ウソツカナイ!!」
――その言い方が胡散臭いんじゃ! まったく……それで、なんに対しての謝罪なんじゃ?――
「実はこちらの不手際で、鉄之丈さんの魂が入る予定だった地球の体と、異世界の体が入れ違ってしまいまして……」
アマテラスはわしが猫又になってしまった理由を語る。
どうやらわしの魂を送る同時刻に他の魂を送った同僚が居て、その魂どうしがぶつかり、互い違いの体に送り届けられてしまった事が、事の顛末らしい。アマテラス曰く、数千年に一度、有るか無いかの事故だとのこと。
「誠に申し訳ありませんでした!」
再度アマテラスは土下座する。
――まぁ事故なら仕方ないですね。こちらも悪魔だなんだと恨んでしまって、申し訳ありません。それで、本来入る予定だった体に戻してもらえるのですよね?――
「ギクッ!」
――ギクッ?――
「ギクギクッ!」
――つまり戻せないと?――
「も、申し訳ありません。生を受けて一年も経った魂と体を引き離すと、魂自体が傷付き、最悪、消滅してしまうのです。本来ならば、魂が体の中に入った一週間以内に確認をして、間違いがあれば入れ替えると行った作業を……あっ!」
――つまり忘れたって事か……何さらしてくれとんじゃ。ボケ~!――
「だって、ウズメちゃんがやってくれてると思ってたんだもん!」
――人のせいにするな! 神様じゃろう!!――
「そんなに怒らなくても……私、悲しくなって……消します」
――こわッ!? 神の殺意、怖すぎ!! 心なしか魂が小さくなったような――
「そんなわけないですよ。刻み込まれただけですよ」
――もう逆らいません。ごめんなさい。……そう言えば、一年も経ってどうして気付いたんじゃ?――
「あ、そうそう。鉄之丈さんの奥様が来てくれたんですよ。奥様も鉄之丈さんと同じく、稀に見る徳の高さで輪廻転生を希望されました。それで、鉄之丈さんの魂はどこに行ったかの話になりまして、捜してみたら、猫の体じゃないですか? 奥様、大爆笑でしたよ」
――そうか、女房も逝ったか……って、大爆笑!? わしが苦労しておると言うのに……そうじゃった。あいつはわしの不幸が大好物じゃったな。
わしがタンスの角で足の小指をぶつけて痛がってる時も、会社が倒産し掛かった時も、腹を抱えて笑っておった。死ぬほど辛い事があっても、それで助けられた時もあった。あの馬鹿笑いを見ると素直に感謝は出来んが……そうか。最後も笑って逝ったか――
「奥様から伝言を受け取っているので、その時の映像を流しますね」
――映像? こ、心の準備が……――
アマテラスは何かを呟き、しばらくすると、目の前に女房の若かりし日の姿が映し出される。
『アーハハハハハハハ! 死ぬ死ぬ! ハァハァ、ね、猫って……アハハハハー』
――懐かしい顔と声は嬉しいんじゃが……笑い過ぎじゃろ! それに、もう死んどるわ!!――
わしが女房の態度に腹を立てていたら「まぁまぁ」とアマテラスに宥められた。
『はぁ……笑った~。死んでまで笑わせてくれる人なんてあなたしかいないんだから、さっさとこっちの輪廻に戻って来て、また私を笑わせてね。子供や孫達は私が見守るから、心配しなくていいわよ。出来れば、プッ……猫で戻って来てね。アハハハハハハ』
「いい奥様ですね」
――どこがじゃ! 三分の映像の内、二分は笑っておったじゃろ! それに猫で戻れって、ペットにする気か!! ……まぁ久しぶりに女房の馬鹿笑いを見たら、少しは気が晴れたわい。――
「ツンデレってヤツですか~?」
――フンッ!――
「それでは要件も終わりましたので失礼します。良い旅を……」
――まてまて、まて~い! 謝罪は受け取るが、他には何かないのか? 謝罪するなら、何か渡す物があるじゃろう?――
「他と言いますと……あっ! すみません。大事な事を忘れていました。この度は誠に申し訳ありませんでした」
アマテラスは謝罪の言葉を述べながら、四角い箱に入った大福を差し出した。わしは瞬間的に齧り付く。
――わしの好物、大福じゃ! 久し振りの甘味。んまいの~。これは……近所の老舗、たっつぁんの大福じゃないか!――
「奥様からお好きだと聞き、用意させてもらいました。なんでも機嫌を損ねた時には、これを食べさせれば一発だとか」
――うまい。うまいぞ! アマテラスが聞き捨てならぬ事を言っておるが幸せじゃ~……じゃない! 神様の謝罪の品は菓子折りでは断じて無い! これではお店の謝罪と変わらんじゃろうが。
何とぼけた顔をしとるんじゃ。ほれ? 孫から借りたラノベって本には、神様は転生者にチート能力を贈ると書いてあったぞ。こんな不始末を起こしたんじゃ。それぐらいくれたっていいじゃろう?――
「ハッ……鉄之丈さん。現実とラノベは違いますよ。頭、大丈夫ですか?」
――鼻で笑われ小バカにされた……――
わしは膝を突いて肩を落とす。人間で言えば orz 。しかし、猫又のわしでは、ただのお座り。
「まぁ記憶を持ったまま入る体を選べるって事が、ある意味チートと言えなくは無いですね。地球で言えば賢い遺伝子、優れた容姿、権力。チートじゃないですか?」
落ち込むわしを、アマテラスは慰める。
「それに鉄之丈さんの体は、なかなかの優良物件ですよ。元々入る予定だった魂の猫さんは、強くなれる体を希望されていましたからね。ウズメちゃんが、きっちりそちらの神に伝達済みです。嫌な奴だけど仕事はちゃんとしたみたいですね。糞みたいな奴だけど……」
――神の殺意は魂に響くので、引っ込めてください。――
「あら。失礼しました。そちらの体は本来ならば、普通の猫から年月が経つと体が大きくなり、百年生きれば猫又に進化する種族です。事故や病気に気を付ければ、千年以上生きる長寿の生物ですね。鉄之丈さんは、魂年齢が百歳を超えていますので、生まれながらの猫又ってことになります」
どうやらわしは、猫界のサラブレットみたいだ。ちなみにおっかさんの年齢は、八十八歳と判明した。猫の寿命を遥かにオーバーしているのには驚いたが、千年生きると言う事は、まだ子供なのかもしれない。
もう十二年ほど生きると尻尾が増えておっかさんは猫又に進化するらしく、兄弟も将来は尻尾が増えると聞いたので、猫又仲間が増えて嬉しい。だが、わしは千年も生きたくない。
――たしかにチートと言えばチートなんじゃけど……ムゥ――
「どうかしましたか?」
――やっぱり納得できん! ううぅぅ。わしは人間を希望しておったんじゃ! それなのに、それなのに……――
「にゃ~~~~」
わしはわんわんと泣き出す。いや、猫だからにゃんにゃんと泣き出す。
「な、泣かないで下くださいよ。わかりました。何か考えますから、泣き止んでください」
――グズッ。猫の泥水を啜るような生活を思い出してしまったら、年甲斐もなく号泣してしまった。実際飲んでおったし……――
わしが泣き止んで嫌味ったらしく愚痴っていたら、アマテラスはポンっと手を打った。
「こういうのはどうでしょう? そちらの個体は魔法が得意な個体ですから、全世界で使われた魔法が書かれている書物をプレゼントするというのは?」
――チートっぽい物が、来よった~~~!!――
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追記:2025/09/20
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