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第四章 ハンター編其の二 怖い思いをするにゃ~

096 厄日にゃ~

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 リータの村から戻った翌日、ハンターギルドに呼び出されていたので、朝からギルドへ向かう。

「どうして猫の姿で寝るんですか!」
「まだ心の準備が出来てないにゃ~」

 ギルドへの道中、リータに怒られてしまった。

「もう少し待ってって、言ったにゃ~」
「待ちますけど……寝る時は猫の姿、禁止です!」
「そんにゃ~」

 まだ何も進展していないのに、わしはリータの尻に敷かれてしまっている。

「ケンカ? 珍しいわね」

 わしとリータが痴話喧嘩をしていると、ギルドの前で見知った人物に声を掛けられた。

「出たにゃ! スティナ!」
「何よ。その言い方……」
「……にゃんでもないにゃ」

 毎度スティナには酷い目にあわされているから、ちょっと敏感になっておったな。

「それより女王陛下、ご立腹よ。いったい何しでかしたの?」
「にゃにもしてないにゃ~」
「帰ったらすぐに城に来るようにって言われているから、必ず行ってね」
「ギルドの呼び出しって、その事かにゃ?」
「そうよ。騎士がシラタマちゃんの家に行ったけど、居なかったみたいだから、こっちに話が来たの」
「そうにゃんだ。わかったにゃ。その前に依頼報告だけしてくるにゃ」

 スティナを先頭に、わし達はギルドの中に入る。スティナは早々に自室に向かい、わし達はティーサのいる受け付けに向かい、依頼完了書を提出する。

「なんで馬車で片道五日も掛かる場所を、二日で帰って来ているんですか!」
「声が大きいにゃ~」
「しかもなに、この数!? イナゴが百十七匹? ブラックが三匹? どうやったら二人で解決できるんですか!!」
「怒鳴らないでも聞こえるにゃ~。行く所があるから、早く受け付けしてくれにゃ~」

 わしはティーサを急かし、次元倉庫から討伐部位を渡す。

「討伐部位だけですか……今日は、お肉は無いのですか?」
「安いって聞いていたから、村に寄付したにゃ」
「食糧難なのですから、少しぐらい持ち帰って来てもらわないと、ギルドが困ります!」
「怒らないでくれにゃ~。次から気を付けるにゃ~」

 今日は厄日じゃ。朝から怒られてばっかりじゃ。城に行ったら、女王にも怒られるのか……行きたくないのう。

「あ、そうにゃ。ブラックをリータが一人で狩ったにゃ。わしと別行動で戦ったから、ポイントに色を付けて欲しいにゃ」
「たしかに完了書にはそう書いてありますね。不正は……」
「ないにゃ~。猫神様に誓ってないにゃ~」
「プッ。そんな神様いるのですか?」
「シラタマさん……」

 うっ……ちょっとした冗談なのに、リータに冷めた目で見られてしもうた。

「大丈夫です。完了書に書かれているなら信用できます。これでリータちゃんは、Dランクですね。おめでとうございます」
「これもシラタマさんのおかげです」
「さっきからリータちゃん、猫ちゃんのことをシラタマさんって呼んでるけど……何かあったのですか?」
「にゃ、にゃにもないにゃ~。にゃ?」
「は、はい……」
「意味深……」
「行く所があるって言ってるにゃ。早くしてくれにゃ~」
「わかりました。でも、ブラックの買い取りはしていってくださいね。あ、それとギルマスが猫ちゃんが来たら、すぐに来るように言ってましたけど、何かやらかしたんですか?」
「言い方が悪いにゃ~。伝言があっただけにゃ。もう聞いたから大丈夫にゃ~」
「そうですか。リータちゃんの右手……」
「にゃ~! そろそろ行くにゃ~」

 わしはリータの右手を握り、ティーサから逃げ出す。黒イナゴも、驚くおっちゃんを急かして売り飛ばし、ギルドから飛び出す。

「これから女王に会いに行くけど、リータはどうするにゃ? 帰ってるかにゃ?」
「……ついて行きます」

 なんじゃ、いまの間は……嫌な予感しかせん。

「城は緊張するにゃ。別について来なくてもいいんにゃよ?」
「いえ。もう慣れました。行きましょう」


 リータはわしの手を引き、連行する。そうして城に着くと、わしは門兵に挨拶をする。

「おはようにゃ~。今日は女王に呼ばれて来たにゃ」
「はっ! 聞いております。すぐに担当の者を呼んで参ります」

 門兵は城の中に走り、しばらくして、担当のメイドさんがやって来た。すぐに女王の元へ案内されると思いきや、来客中とのこと。
 なのでさっちゃんの所で待とうと思ったが、野生の勘が止めに入ったので、庭で待たせてもらうことにした。

 なんとなく、リータとさっちゃんを会わせてはいけない気がする。この時間なら勉強中じゃろう。


「シラタマちゃ~ん!」

 しかし、庭に着くとさっちゃんが手を振り、ルシウスとエリザベスと一緒に、駆け寄って来た。

 わしの野生の勘の役立たず!!

「おはようにゃ~。でも、こんにゃ所で何をしてるにゃ?」
「勉強に疲れて逃げて来ちゃった」

 この王女は……相変わらず奔放ほんぽうじゃのう。

「また双子王女に怒られても知らないにゃ~」
「うっ……それよりも、せっかく会いに来てくれたんだから、シラタマちゃん成分をちょうだい!」

 シラタマ成分ってなんじゃ? 白玉粉の成分は、もち米のデンプンじゃろうけど、わしは猫又じゃ。


 わしがどうでもいい事を考えていると、さっちゃんがわしに抱きつこうと迫る。
 しかしその時、さっちゃんに連れられて庭にいた兄弟達が「シャーーー!」と、声をあげた。

 殺気!? リータ? じゃない……

「【エアブレード】」

 魔法じゃ!?

「さっちゃん、ごめんにゃ!」
「え??」
「【突風】……からの【突風】にゃ!」

 わしは後ろに跳ぶと同時に、さっちゃを優しく風魔法で吹き飛ばし、怪我をしないように受け止める。するとわしの居た場所には、【エアブレード】なる魔法が地面を切り裂いた。

 さっちゃんを狙った残党か!? いや……狙いはわしか? 誰じゃ!?

 わしは後方に跳びながら、魔法の発射位置に目を向ける。発射位置、二階の窓から飛び出す白い影。そこに居たのは……

 あいつはおっかさんのかたき!!

 わしの心は一気に怒りの炎を灯す。その瞬間、着地間際に上から黒い塊が降って来る。

 くそ! 着地を狙われたか。

 わしは焦って【白猫刀】を抜き、頭上に構え、黒い塊を受け止めて力付くで弾き返す。

 しまった~~~! 刃のほうで受けてしまった~~~!!


 わしの怒りの炎は、早くも鎮火した。

 うぅ……大事に使っておったのに。硬い物は避けて、切れそうな物以外、使って来なかったのに~! また怒りが沸々と……。あ、ちょっと冷静になれたかも? あのまま怒りに任せていたほうが危なかったか。
 じゃが……

「にゃにするにゃ!!」

 わしは黒い大剣を構えた、大きい男に怒鳴る。

「ほう。俺の剣を受けるだけで無く弾き返すか。モンスターの分際で剣を使うとは面白い」
「質問に答えるにゃ!」
「お前がモンスターである以上、この城から排除する!」

 わしの問に答えた者は、二階から飛び降りて来た白い髪の女騎士。
 白い髪の女騎士、イサベレ。黒い大剣の騎士、オンニ。ついにわしは、おっかさんを殺した二人の騎士と、相見あいまみえた。

「わしに手を出したんにゃ。それなりの覚悟をするにゃ!!」

 わしが二人を睨みながら刀を向けると、さっちゃんが止めに入る。

「シラタマちゃん、待って!」
「さっちゃんは黙っているにゃ!」
「ヒッ……」

 さっちゃんがひるんだ瞬間、イサベレがさっちゃんを守るように位置を取る。

「王女様、危険です。下がってください!」
「イサベレ、待って。違うの!」
「さっちゃん!」
「シラタマちゃん……。怖い……」
「さあ、かかってこいにゃ!!」

 わしはさっちゃんが下がって行くと、臨戦態勢に入る。

「ハッ! 面白い、俺から行く」
「オンニ! 得体が知れない。二人でやるわよ」
「このちんちくりんにか? いや、イサベレがそれだけ警戒するなら余程の事か……わかった」
「ふにゃ~。喋ってないで、さっさとこいにゃ~」
「オンニ、行くわよ!」
「ふざけた猫だ!」

 わしのあくびが合図となり、二人が前と後ろから挟み込む形で、じりじりと距離を詰める。その二人を見ながら、わしはどうやってこらしめるかを考える。



「やめなさい!!」

 睨み合いが続く中、突如、庭に息を切らせた女王の声が響いた。

「はぁはぁ。間に合ったようね」
「陛下。危険です。下がってください!」
「大丈夫。この猫は私のペッ……親友のシラタマよ。剣を下ろしなさい」

 いま、ペットって言いかけたじゃろう! まだ諦めておらんのか……

「しかし……」
「これは女王命令よ」
「「……はっ!」」
「待つにゃ! おっかさんの仇がわしに剣を向けにゃ。このままじゃ、わしの気が済まないにゃ!」

 わしの怒りが伝わったのか、兄弟達がわしの両隣にやって来る。

「エリザベス……ルシウス……」
「シラタマ、私に免じて引いてはくれないか?」
「無理にゃ! でも、首を差し出せなんて言わないにゃ」
「なら、どうしろと?」
「そいつらと闘わせるにゃ。おっかさんの息子の力、思い知らせてやるにゃ~!」
「それでシラタマの気が済むなら……わかった。訓練場に移動しましょう」


 女王は近くにいたメイドを呼び、ヒソヒソと何かを告げて走らせる。そして、この場にいた全員で訓練所に向かう。

「さっちゃん。さっきはゴメンにゃ……」
「ううん。お母さんの仇だもんね。でも、怖かったんだからね!」
「にゃんでもする……いや、にゃにかお詫びをするにゃ」

 何かリータの殺気を感じたような気がする。なんでもはダメなのか?

「やった! 考えておくね。それよりシラタマちゃん。リータに気を遣ってない?」
「そ、そんにゃ事ないにゃ!」
「怪しい……」

 さっちゃんに詫びを入れながら歩いていると室内訓練場に到着する。わし達に遅れて、何故かソフィ、ドロテ、アイノが訓練場に入って来た。
 それから女王の指示で、わしとイサベレ、オンニは訓練場の中央に立つ。

「これより模擬戦を行う。勝敗は戦闘不能になるか、負けを認めること。武器は模擬……」
「いつも使っている得物にゃ!」

 わしは女王の言葉に割り込む。

「それは許せないわ」
「大丈夫にゃ。殺しはしないにゃ」

 女王を説得していると、オンニが意見する。

「陛下、おそれながら申し上げます」
「よい。申してみよ」
「私の腕ならば、怪我もさせずに敗北を認めさせる事が出来ます」
「ほれ。オンニにゃったか? オンニもこう言ってるにゃ」
「貴様! 陛下になんて口を聞いている!」
「さっきの話を聞いていにゃかったにゃ? 女王とわしは親友にゃ」
「わかった。わかったから、もう口を閉じよ」

 女王のくせに偉そうに~……あ、わしが間違っているのか。こりゃ失敬。お口チャックじゃ。

 バタン

 わしがルールの決定で揉めていると、訓練場の扉が開き、一人の白いマントを羽織った男が入って来た。

「猫!? これは何が起こっているんだ?」
「あなた」
「お父様!」

 女王の旦那? さっちゃんの親父さんか……でも、この匂いは……

「あなた、さっきも話をしたでしょう。この猫がシラタマよ。あなたには、このシラタマに頭を下げてもらわなければいけないわ」
「この猫に……」

 頭を下げる? あ、一年前に見た、綺麗な服のオッサン……こいつがおっかさん殺猫事件の首謀者か。さっちゃんの為とは言えど、許し難い。
 でも、さっちゃんの親父さんじゃし、この国の王族は民に慕われているし……むむむ。
 しかし、この懐かしい匂いは……あの白い毛皮……

「にゃ~~~!!」
「なっ……シラタマ、どうした?」
「オッサン! その毛皮を返せにゃ!!」
「シラタマちゃん?」

 白い毛皮の正体がわかったわしは、女王やさっちゃんが不思議そうな顔になっても気にせず、オッサンに突っ掛かる。

「それはわしのおっかさんにゃ! 返せにゃ!!」
「誰がオッサンだ! 俺はこの国の王だぞ!!」
「オッサンはオッサンにゃ! 返さねば殺すにゃ!!」
「フッ……お前みたいなふざけた姿の奴に殺されるか。バーカ!」
「なんにゃと~! バカって言う奴がバカなんにゃ。バーカ、バーカ!」
「なんだと~!」
「シャーーー!」
「ぐぬぬぬぬ」
「二人とも、落ち着きなさ~い!」


 女王が止めに入るが、わしとオッサンとの口喧嘩はしばらく続くのであったとさ。
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