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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~
362 長寿の里にゃ~
しおりを挟む里に鳴り響く鐘の音を聞いたリンリーは、南東に向けて走り出したので、待ってろと言われたわし達であったが、こっそり追い掛ける。すると、リータとメイバイが質問して来た。
「どこに向かっているのですか?」
「にゃんか鳥が落ちて来る鐘が鳴ったから、取りに向かったみたいにゃ」
「ついて行っていいニャー? 待ってろみたいなジェスチャーをしてたニャー」
「別に奪うわけでもないんにゃから、いいにゃろ? それより、リータ達に会話を通訳するのは面倒だにゃ。あとで念話を教えてあげるにゃ~」
こうしてわし達は、ぺちゃくちゃ喋りながらリンリーのあとをつける。視認できない距離を探知魔法で確認しているから、バレずについて行けるから楽チンだ。
しばらく走っていると探知魔法ではリンリーが止まったので、わし達は静かに近付いて様子を眺める。
「遅かった……」
辺りを確認したリンリーは、残念そうな声を出した。
「にゃにが遅かったにゃ?」
「え!?」
リンリーの立つ場所には、危険なモノも獲物も何も無いので、わし達はガサガサと木の陰から出た。
「なんで追い掛けて来てるのよ! 待ってろって言って、わかったって言ったでしょ!」
「暇だからにゃ~。てか、見た限り、見られてもマズイ事も無さそうにゃ。待ってる必要はあったにゃ?」
「あ、あるわよ……」
「それは、鳥を運んでいる大きにゃ生き物に関係あるにゃ?」
「なんで知ってるの!?」
あれ? マズイ情報じゃったのか。失敗した~。わしの探知魔法に、5メートル以上の空洞があったから気になって聞いてしまった。スサノオの時みたいな空洞じゃけど、これはいったい何じゃろう?
リンリーの反応で、生き物で合ってる事はわかったけど、ひとまず無難な返事をしておこう。
「さっき鳥が落ちて来るって言ったにゃろ? その鳥が落ちた場所に、血痕と大きにゃ足跡があるから、予想を言ってみたにゃ」
これでどうじゃ?
「そう……この少ない痕跡でそこまでわかるとは、狩人としても一流なのね」
お! 意外といけた?
「そこまでわかるなら教えてあげるわ。南に巣を持つ獣が、鳥を運んで行ったのよ。取られる前に回収したかったんだけど、遅かったわ」
「ふ~ん……その獣は駆除しにゃいの?」
「そ、それは……そこまで危険じゃないから、いいのよ」
う~ん……嘘っぽいな。でも、ツッコんで欲しくなさそうじゃし、深く関わるのはやめておくか。
「じゃあ、続きの見学に連れて行ってくれにゃ~」
「そうね。戻りましょう」
それから里に戻っている途中で走って来る住人がいたので、リンリーは事情を説明してから、再び走り出す。
里に着くと畑の見学をしながら、リンリーに四神の事を質問してみた。
どうやら四神とは、白い姿では無く、白銀の姿をしているらしい。その強さも桁違いで、翼が十枚ある巨大な白い鳥すら、遠距離から一発で落としたとのこと。
残念ながら長い歴史上で一匹しか姿を見た事がないらしく、その一匹が西から来た虎だった為、先祖から言い伝えられている四神を想像して、他の生き物も当て嵌めているようだ。
白銀か……ハンターギルドの料金表で、最高値になっていたヤツじゃな。ハンターに聞いてもお伽噺だと言っておったけど、本当に居たんじゃな。
リータ達には興味が無いと言ってしまったが、そんなヤツなら見てみたいかも? それに四神と言われたら、興味津々じゃ。
ただ、強さがな~……話が通じないヤツなら、わしでも一瞬で殺されてしまうかもしれん。見てみたいが、どうしたものか……
四神の話を聞きながら里の中へ入ると、今日も宴を開くらしく、準備をしている姿が目に入る。またやるのかとリンリーに聞いたら、空の恵みはそれほど多く降って来ないらしく、楽しみたいのだとか。
正直、自分達の用意した食事のほうが美味しいから断りたかったのだが、無下にも出来ず、今日も参加する事となった。
ひとまず昨日と同じ席に案内されたわし達は、料理が出来るまでお喋りをする。
「白銀って、あの料金表の一番上に書いていた獣ですか……」
「見たいニャー! シラタマ殿~。なんとかしてニャー」
リンリーから聞いた四神の話をすると、リータとメイバイは興奮した声を出す。
「にゃんとかと言われても……わしでも、あっと言う間に殺されるかもしれないにゃ。それに、もしも機嫌を損ねて里に来たらどうするにゃ?」
「あ……全滅ですね……」
「触らぬ神に祟りなしにゃ~」
「言ってる意味がわからないニャー」
「神様に触らない限り、幸せに暮らせるってことにゃ」
「でもニャー……」
「まぁわしも見てみたいし、にゃにか方法を考えてみるにゃ」
「「やった~」」
そうしてお喋りをしていたら、車イスに乗ったヂーアイが入場して来て、宴が始まった。
今日は昨日とは違い、手の込んだ料理が多く並び、匂いにつられたコリスが、わしの制止を聞かずに食べてしまった。
「か、からい~! モフモフ~。からいよ~!」
「にゃ!? コリス、暴れるにゃ。ほれ、ミルクを飲むにゃ~」
「ゴクゴク……まだからい~!!」
「今度は氷入りのジュースにゃ。ゆっくり氷で口の中を冷やすんにゃ」
「ぷは~!」
「一気に飲むにゃ~!!」
コリスの食べた物は、麻婆春雨。それも激辛だった為、のたうち回って大騒ぎとなった。なんとか辛さは収まったようだが、他の料理の毒味で、わしの口に放り込まないで欲しい。
リータとメイバイもコリスの惨状を見て、わしに無理矢理食べさせないで欲しい。辛い食べ物は嫌いじゃないけど、程度ってものがある。
「にゃ~~~! 水! 水にゃ~~~!!」
激辛料理を堪能させられたわしは、唇を腫らしてギブアップ。素直にヂーアイに助言を求めながら、コリス達に食べさせる料理を選別するのであった。
わし達の食事が落ち着くと、ヂーアイが頃合いかと見て話し掛けて来る。
「この車イス。猫が作ったんだってね。いい物を貰ったよ。ありがとよ」
「適当に作った物だから、タダみたいにゃもんにゃ」
「どう作ったかはわからないけど、これぐらいなら木でも作れたね。なんでわたすもこの発想が出なかったのか、今までがバカみたいだよ」
「そう言えば、婆さんは誰にも押されずに移動して来たけど、魔法が得意にゃの?」
「魔法ってなんさね?」
「呼び方が違うのかにゃ? こう……体内に水のようなモノがあるにゃろ?」
「ああ。気功さね。わたす達はそう呼んでいるけど、外の者は違う呼び名なんさね」
あ、わしを殴ったオッサンも、内気功とか言っていたか。なるほどな。中国では内なる力を気功と呼んでおったし、間違いではなさそうじゃ。
その力で、車イスの車輪を回していたんじゃな。
「ふ~ん。婆さんも気功が得意なんにゃ」
「これでも、この里一番の使い手さね。他の者も全員得意だから、威張れる事でもないがな」
「そうにゃんだ」
これだけ魔力の満たされた土地ならば、そりゃ得意じゃろうな。だが、わしとの戦闘で気功を飛ばして来なかったところを見ると、使い方が違うのかな? 詳しく知りたいが、秘伝とか言われるかもしれんし、違う話にしとくか。
「そうそう。子供の姿を一人も見なかったんにゃけど、やっぱり外から来た者を近付けたくないのかにゃ?」
「子供さね……」
ん? 顔が曇った……これも聞いてはいけない事だったのか?
「皆、成人しているから、いまは居ないだけさね」
「にゃ~? 子供が居にゃいと、里が潰れてしまうにゃ~」
「それは大丈夫さね。元々わたす達は長寿だから、出産する年齢は高いんさね。だから、あと百年は安泰さね」
百年じゃと……。ま、まさか……
わしはなんとなくイサベレの顔を見て、すぐに目を逸らす。「カモーン」って、ポーズをしたから当然だ。
「ちなみに、この里の一年は何日にゃ?」
「354日さね。なんだい、猫の所は違うのさね?」
「365日にゃ」
「11日違うのか……うちは閏月ってのがあって、三年に一度、月が増えるから、同じくらいになりそうさね」
「にゃるほど……」
どっかで聞いた事のある暦じゃな。たしか、太陰暦じゃったか? 太陽暦のほうが正確じゃけど、千年使い続けたとしても、そこまで大きな誤差はないのか。
となると、年齢はそのままの歳で間違いなさそうじゃ。てっきり、一年の日数が少ないと思っておったわい。古代の天皇も、春秋二倍暦を使って百歳以上の年齢になってたからな。それでも、ババアの三百歳は生き過ぎじゃ。
「ところで、リンリーって、いくつなんにゃ?」
「112歳。一番の子供さね」
「じゃあ、じゃあ、子供を産む時には、にゃにか制約があったりするにゃ!?」
「どうしたんさね。急に熱くなったりして……」
「実は、白い髪のイサベレも百年生きているにゃ」
「なんだい。普通じゃないか」
「違うにゃ。わし達の土地では、そんにゃ長命の人間はいないにゃ。百年生きただけで珍しい事にゃ。見た目も婆さんぐらいなんにゃ」
「なんだって!?」
驚いているのはこっちなんですけど~? ババアが目を見開くと怖いのう。いや、そんな事より!
「イサベレの一族は、子を産むと、十年後には死んでしまうらしいにゃ。もしかしたら、ここでもそうじゃないのかにゃ?」
わしの質問に、ヂーアイは何やら考えてから口を開く。
「その答えの前に、イサベレって娘の強さを聞かせてくれるかい?」
イサベレの強さ? 変な事を聞いて来よる……。子を産むには強さが関係しているのか? イサベレの生死に関わる事じゃから、少しくらい言ってもいいか。
「詳しくは言えないから、ここの平均値ぐらいはあると言っておくにゃ」
「なるほど……」
「にゃ?」
「いや、この話はまた明日にするさね」
「いま聞かせてくれにゃ~」
「………」
わしの話は無言で却下され、ヂーアイは屋敷に帰って行った。わしもすかさず追い掛けようとしたが、四人のスキンヘッドの男に止められて、屋敷の中にも入れてもらえなかった。
なので、ぷりぷりしながらお風呂に入り、リータ達にゴロゴロ言わされて、バスの中でぷりぷりする。
すると、リータとメイバイが不思議そうな顔をして、質問して来た。
「ずっと怒ってますけど、どうしたのですか?」
「辛いの食べさせた事を怒っているニャー?」
「その事は関係にゃいけど……いま思い出したにゃ!」
「「あ……」」
「まぁいいじゃないですか」
「そうニャー。これで許してニャー」
「ゴロゴロ~」
これで詫びてるつもりか? いつも通り撫でられているだけじゃから、リータ達にしかメリットがないのでは?
「イサベレの事を話していたら、途中でどっか行ったから怒ってたんにゃ。ゴロゴロ~」
「「イサベレさん?」」
「リータ達に、どこまで話していいかわからにゃいんだよにゃ~」
「ん。姉妹ならもう知っている」
「そうにゃの!?」
イサベレは、どうやら帝国との戦争の時に体の事を打ち明けていたみたいだが、リータとメイバイは姉妹で固定されたの? だからわしは、誰ともそんな事をしとらんよ?
「そ、それにゃら話が早いにゃ。ここの住人は、みんにゃ百歳オーバーみたいにゃから、イサベレが子供を産んでも生き残れる方法があるかもと聞いていたんにゃ」
「「え……」」
ヂーアイとの話の内容を伝えると、リータとメイバイは驚きで言葉が詰まり、イサベレはキョトンとした顔で、わしに質問する。
「ダーリン……私は、子供が大きくなる姿を見れるの??」
「可能性があるかもと聞いてみただけにゃ。でも、その方法を聞いたところで婆さんが口を閉ざしたから、可能性は大かも知れないにゃ!」
「本当に……?」
いまにも泣き出しそうなイサベレを見て、わしは「ハッ」としてしまう。
「にゃ……期待させる事を言ってしまったにゃ。まだ確定じゃにゃいから、落胆させる事になるかもしれないにゃ。変にゃ事を言ってごめんにゃ~」
「それでも……初めての、可能性……」
「イサベレ……」
それからイサベレは塞ぎ込み、バスの中はコリスの寝息しか聞こえなくなる。リータとメイバイも心配して見る事しか出来ないからか、わしをイサベレに抱かせて眠りに就いた。
わしはと言うと、抱かれる瞬間に猫又に戻ったのだが、イサベレに股間をまさぐられる事もなく、安心して眠りに就くのであった。
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