アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

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第十三章 新婚旅行編其の一 東に向かうにゃ~

369 結果報告にゃ~

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 地下にある建物の中で、白い獣の毛皮に包まれて眠る女の子を前に、わしは膝を突く。そうして愕然がくぜんとしていると、わしを追って走っていたリータ達が、息を切らして建物へ入って来た。

「シラタマさん……何があったのですか?」
「さっき野人の娘って言ってたニャ……」

 リータとメイバイの言葉に、わしはゆっくりと振り返る。

今際の際いまわのきわに、野人と念話が繋がったにゃ……」
「そ、それで、なんと言っていたのですか?」
「聞こえたのは、ふた言だけにゃ。『娘』と『助けて』にゃ」
「だからシラタマ殿は、この子を野人の娘って言ってたんニャ……」

 わしが野人の最後の言葉を伝えてから女の子に視線を戻すと、皆も女の子に視線を向ける。

 野人の娘……か。白い髪に額から生える一本の角……。間違いなくアイツの娘なんじゃろう。
 わしがこの子の父親を殺したんじゃな……


「……大丈夫ですか?」
「また抱え込もうとしてるニャ……」

 わしが女の子を見て黙っていると、リータとメイバイが心配して声を掛ける。

「……わしが、この子の父親を殺してしまったんにゃ」

 二人が心配そうにわしを見るので、野人との戦闘や心内を全て吐き出して、わしは楽になろうとする。

「そうですか……仕方ない事とは言え、やってしまった事はもう戻らないですね」
「そうだニャ。だから、私達もその罪を持つニャ」
「……いつもありがとにゃ」

 わしは二人の優しさに、胸に込み上げるものがあるが、グッと我慢して女の子の状態を確認する。

 脈はある。呼吸もしておる。ただ寝ているだけみたいじゃけど……。この状態で、野人は何故、わしに助けを求めたんじゃ?

「寝てるみたいにゃけど、リータ達は起こそうとしなかったにゃ?」
「何度も声を掛けたのですが、まったく起きなかったです」
「体を揺すっても反応は無かったニャー」
「それだけやって起きないなら、もう死んでいるんじゃないの?」

 わし達の会話にリンリーが入って不穏な決め付けをするので、その質問には無言を貫く。
 まだ死んでると決めたくないわしは、女の子の目を指で開いて、小さな【光玉】を目の前に持っていく。

 瞳孔は開いているっぽい? 反射もないように見えるが、医者じゃないから断定は出来ない。じゃが、ここには小さな足跡は無いから、女の子は長い間寝たきりだったと予想できる。これらの状況から察するに、脳死なのでは?
 もしかすると、野人は何かしらの考えがあって、魔力濃度の高い場所を探したのでは? ここでなら、食事の摂取量を極端に抑えられるから、寝たままでも生命維持が出来ると思ったのではなかろうか?
 だから白い木の群生地を探し、入ったけど娘に危険が迫り、追い出されてここまで流れ着いたと想像できるが……
 そう言えば、イサベレを見ていたのは、女の子の母親にしようとしていたのかもしれん。母親が抱けば、女の子は起きると思って……

 まぁ予想ばかりで、野人が死んでいるから答えはわからんな。


「どうニャー? シラタマ殿なら治せそうニャー?」

 わしが女の子の体を触っていると、メイバイが心配そうに声を掛ける。

「この子は、おそらく脳死にゃ……」
「脳…死……ニャ?」
「なんですかそれは?」
「脳が死んでしまっているんにゃ」
「言っている意味がわからないニャー」
「にゃ? そっか……」

 どうやら皆は脳という単語は理解できるのだが、脳だけが死んで体が動いている理屈が理解できないらしく、説明してみるが、まったくわかってもらえない。なので、碎けた言い方で説明してみる。

「例えばにゃ。メイバイにごはんを食べろと指示を出しているリータが、頭の中に居るとしようにゃ。そんで胸に、リータに食事を届けるコリスが居るとするにゃ」

 皆の頭の中で、擬人化した脳と心臓が完成すると、話を続ける。

「そこでコリスが死んでしまったらどうなるにゃ?」
「私は食事が貰えないですね」
「食事が貰えないとリータが死ぬから、私もごはんが食べれなくなって死んじゃうニャー」
「その通りにゃ。じゃあ、指示を出すリータが死んでしまったらどうにゃ?」
「う~ん……メイバイさんに、ごはんを食べろと言えないですね」
「こっちも指示がないから、私はごはんが食べられないまま、コリスちゃんと一緒に死んじゃうニャー」
「そうだにゃ。でも、奇跡的にコリスだけが生き残り、わしがメイバイの口にごはんを入れ続けたらどうにゃ?」
「「「「……あ!!」」」」

 コリス以外はわしの話が伝わったらしく、脳死の意味が理解できたようだ。

「じゃあ、すでに死んでいると言う事ですか……」
「そうにゃ。わしの故郷では、この状態を死と受け止めていたにゃ」
「……生きてるようにしか見えないニャ。シラタマ殿、なんとかならないニャー?」

 なんとかと言われても、わしは医者ではない。怪我の治療なら魔法書さんで学んだんじゃけど……。いや……脳死は脳に受けたダメージで起こるのか。要は、毛細血管が切れる、細胞が壊死するかして、脳の活動が止まるんじゃろう。
 となれば、脳の奥のメスで修復不可能な怪我も、魔法なら治す事が出来るのではないだろうか?
 魔法書さんで学んだグロ映像で、毛細血管なんかも魔法で治せと言っておったし、わしも何度もやった事はある。わしの回復魔法なら、細胞も治せる!
 物は試し。やってみるか。

 わしは皆の見つめる中、女の子の頭側に腰を下ろし、頭を膝に乗せて両肉球で挟み込む。

 イメージじゃ……脳のイメージ。グロ映像でも見た事があるから出来るはずしゃ。わしなら出来る!
 細胞と毛細血管を治すイメージを足して……痛いの痛いの飛んで行け~!!


 わしの肉球で挟まれた女の子の頭は温かい光に包まれ、徐々に大きくなる輝きに、皆は目を閉じる。


 そうして数秒後、光は消え去ったと感じた皆は目を開けた。

「シ、シラタマさん!」
「目が開いたニャー!!」

 目を開けたのはリータ達だけでなく、女の子も目を開けたので、皆は驚く事となる。そんな中、女の子は大きなあくびをしたあと、口を開いた。

「が……がう?」

 しゃ、喋った! 奇跡が起きたんじゃ! い、いや、いまはそんな事よりも、会話じゃ。謝らなければ!
 じゃが、言葉は通じそうにない。念話を繋げよう。

 わしは不思議そうに辺りを見ている女の子に念話を繋げると、語り掛ける。

「よかったにゃ。生きていたんにゃ~」
「いきていたんにゃ?」
「君は死に掛けていたんにゃ」
「しにかけていたんにゃ?」
「長い間寝ていて記憶が混濁こんだくしているのかにゃ? 君をここまで運んだのはお父さんにゃろ?」
「おとうさんにゃろ?」

 あれ? オウム返しをしているだけじゃ。猫語までそのまま……。ここは猫語をやめておこう。

「お父さんは覚えておるか?」
「おぼえておるか?」

 やはり繰り返しておるだけじゃ。これでは謝罪をしても、意味が伝わらない。記憶が戻るまで、少し様子を見るしかないか。


 わしは女の子にスペアの着流しを被せて抱き上げ、撤収する旨を伝えて、皆で里に向けて駆ける。里に入ると農作業をする者がわし達の帰還に気付き、続々と追い掛けて来る。
 わし達は多くの住人を引き連れて走り、白い屋敷に着くと、さっそくヂーアイに野人退治の報告を入れる。

「本当さね!?」
「まぁ……いちおうはにゃ」
「なんだい? 浮かない顔をして」
「……みんにゃ。女の子を連れてバスに戻っていてくれにゃ」

 リータ達が出て行くと、屋敷に居たヂーアイ以外の住民も出て行ってもらい、リンリーを交えて事の顛末てんまつを詳しく説明する。

「さっきの女の子が、野人の娘だと……」
「おそらくにゃ。本人は自分の事すらわかっていないと思うにゃ」
「そうなんさね……。でも、野人の娘……」
「間違っても、恨みをあの子にぶつけるにゃよ? そんにゃ事をしたら、わしはババアの敵に回るからにゃ?」

 わしが怒りのこもったような目を向けると、ヂーアイは慌てて答える。

「あ、ああ。そんなに怒るんじゃないさね。ただ、人払いをして正解だったね。野人に恨みを持つ者は多く居る。その者の耳に入れないように、リンリーも言うんじゃないさね」
「はい……」
「まぁわしの国に送るつもりにゃから、帰るまでの辛抱にゃ」
「そうかい。そうしてもらえると助かるさね。それで、野人の死体は持ち帰ったのかい?」
「見せてもいいけど、死者にムチ打つ事をしたくにゃいから、ババアだけで確認してくれにゃ」
「わたすだけかい……もう数人見させて欲しいんだが」
「いいけど、わかっているにゃ?」
「ああ。リンリー……」

 ヂーアイの案内で裏庭に出てしばらく待つと、五人の老人がやって来た。その者の前に、次元倉庫から出した野人を寝かせたら、わしは老人の行動を睨みながら腕を組む。
 老人は前もって注意事項は聞いていたものの、野人の姿が目に入ると怒りをあらわにしていた。近付く者も居たが、ヂーアイの叱責とわしの殺気にそれ以上進めなくなる。
 そのやり取りがあったので、野人の亡骸検証は早くも終了を告げ、次元倉庫に入れる事となった。


 それからヂーアイに、夜に宴をやると言われたので、気分が優れないから辞退すると言ってみたが、「ちょっとだけ、ちょっとだけ」と、ヂーアイの猛烈アタックで折れる事となった。

 だってババアの潤んだ目が気持ち悪かったんじゃもん!

 なので昼食を食べていなかった事を思い出したわしは、リータ達の待つバスへと向かった。
 そこで待っていたのは腹をすかせたコリス。飛び掛かって来たコリスは、いきなりわしを噛みやがった。
 ビックリはしたが、コリスは本気で噛みに来たわけではないので、わしの頭をモグモグしてるところに、おにぎりを投げて離れさせる。
 コリスは、地面に着く前におにぎりを「パクッ」とキャッチ。すぐにわしに襲い掛かって来るので、その都度おにぎりを投げ、テーブルセッティングをして食べ始める。

「あ~んにゃ~」
「あ~ん。モグモグ」

 女の子には、わしみずから雑炊を食べさせる。あまり表情は変わらないが、一回目以降は口を開けて待っているから、マズくは思っていないようだ。
 そうしてゆっくり食べさせていると、リータが食べ終えたらしく、代わると言ってくれたので、わしも弁当に手を伸ばしながらリータとメイバイに質問する。

「わしが離れている間、女の子に変わりはなかったにゃ?」
「はい。特には……」
「ずうっと、ボーッとしてたニャ」
「寝惚けてるのかにゃ~?」

 わしが念話で話し掛けても、女の子は餌付けされたままこちらを見ない。

「イサベレより反応が無いにゃ~」
「ん。私の子供の頃に似てる」
「イサベレにも、子供の頃があったんにゃ」
「むっ……失礼」
「冗談だから怒らないでにゃ。それでイサベレの子供の頃は、どんにゃ子供だったにゃ?」
「先々代女王様は、ことある事に無口だったと言っていた」

 うん。いまと変わらんな。それにしても、先々代と言う事は、おばあちゃんぐらいの人かな? 年寄りは、子供の頃はああだったとか、よく言うもんな。わしは……言った事がないと思われる。ホンマホンマ。

「あ、そうにゃ。ところで、イサベレの子供の件って、解決したにゃ?」
「ん。半分は解決した」
「半分にゃ?」
「これ以上は、私の口から言えない。お婆ちゃんに聞いて」
「そう言えば、口止めされていたにゃ。わかったにゃ。あとで聞いてみるにゃ~」


 気になる事を喋りながら食事を終えると、少し早いがお風呂に入る。このあとは宴会ぐらいしか用事も無いので、いまから入っても何も問題はない。
 お風呂では女の子の体を洗うが、リータの時と同じようにあかが溜まっており、苦戦しながら洗い終えた。その時、口を滑らせてしまって、恥ずかしがるリータから背中にモミジをもらった。
 湯上がりは、皆で麦茶を一気に飲み干し、「プハーッ」となる。女の子もマネをしていたので、わし達は笑顔になった。

 それからバスの中でファッションチェック。女の子には、わしの着流しでちょうどいいのだが、額から一本の角が出ているから、野人の子供だとバレバレだ。とりあえず帽子を被せてみたが、全然隠れていない。
 なので、ここにいる間は、わしのマントのフードを深く被る事で、我慢してもらうしかないと結論付けた。かわいい顔が見れないのは残念だが、女の子に殺意のこもった目を向けられるよりは、マシだろう。

 女の子の処置が終わり、バスの中でゴロゴロしていたら、リンリーが呼びに来たので、皆で広場に向かう。
 ちなみに女の子は、一人にしているわけにもいかないので、コリスに抱いてもらっている。マントも白色だから、コリスの毛皮に埋もれてわかりにくいだろう。


 広場に着くと、わしは一番偉い人が座るであろう席に座らされ、その前にヂーアイを筆頭に、里の重鎮らしき老人と、全ての住人が胡座あぐらを組んで座っている。
 その光景に、わしの隣を埋めるように座らされたリータ達も意味がわからずにあわあわしていたら、ヂーアイがかしこまった口調で喋り出した。

「この度は、里を救っていただき、本当に有り難う御座いました」
「う、うんにゃ……」

 ヂーアイや重鎮だけでなく、周りに座る住人達までもが土下座をするので、わしは口ごもってしまった。

「つきましては、我ら里の者を、猫の国の庇護下に入れてもらいたい所存で御座います」

 は? 庇護下って事は……わしの国民になりたいって事か? むりむりむりむり! 断固拒否じゃ!!

「い、いやにゃ……」

 わしが小さな声の念話で拒否したら、リータとメイバイが多くの住人に念話を繋いで大声を出すので、わしの念話は掻き消されてしまった。

「わかりました! 皆さんを猫の国の国民として迎えましょう!!」
「皆さん。猫の国は、来る者は拒まずニャー。シラタマ王の国を、皆さんの手で盛り上げてくれニャー!」
「「「「「はっ!!」」」」」

 こうして黒い森にある里は、わしの許可なく猫の国に加盟する事となったのであっ……

「待つにゃ~~~!!」

 加盟するかどうかは、わしがゴネまくって、決定には時間が掛かるのであった。
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