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第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~
379 思惑……
しおりを挟む時間は少し戻り、シラタマ達が京の観光をしようと質屋を出てしばらくあとに、キツネ店主も大きな風呂敷を担いで店を出た。
キツネ店主は「コンコン」と鼻歌まじりに京の街を歩き、いつも質を流している、この京、一番の大店に足を踏み入れる。
「邪魔するで~」
いつものように、挨拶して入るキツネ店主。その声に気付いたキツネ耳の青年が出迎える。
「ん? 質屋か。こんな時間に珍しいな」
「そこは邪魔するなら帰って~やろ? ノリが悪いでんな~」
「堺のノリなんて知るか。それで、何か用か?」
「あ、そうでしたわ。旦那さん……いや、大旦那さんはいらっしゃいますか?」
「今日は大旦那様に用なのか。……何か面白い物でも流れて来たのか?」
「そうでんねんけど……内密な話になるから、三平君にはまだ話せませんわ~。呼んで来てもらえますか?」
「……わかった。少し待て」
三平が店の奥に消えると、しばらくして大旦那から指示を受けた三平に、キツネ店主は中へ通され、こじんまりした部屋に案内される。
そこには、立派な着物を来た細身のキツネ、大旦那の厳昭がキセルを吹かして座っていた。三平はキツネ店主を中に通すと、お辞儀をして外へと出て行った。
そうしてキツネ店主は厳昭の前に座り、挨拶を交わす。
「お久しゅう御座います」
「おう。久し振りだな。たまには息子だけでなく、わしにも顔を見せろと言ったのを覚えていたようだな」
「あ~。旦那さんが、そんな事おっしゃっていましたな~」
「忘れていたのか……」
「まぁまぁ。まずは商売の話をしましょう」
そう言ってキツネ店主は風呂敷を広げて、シラタマから買い取った毛皮の数々を並べる。それを見た厳昭は、不機嫌な顔から商売人の鋭い眼光へと変わり、一枚一枚、品を確かめる。
「いい毛皮だな……どこで盗んで来た?」
「言い方が酷いでっせ! 盗むわけありゃしまへんやろ~」
「では、盗品を質に入れたのか?」
「ちゃいますがな~! ……と、言いたいところですが、実際はわかりまへん。ただ、変わった御人であったのは確かでんな」
「お前から見ても、人となりがわからなかったのか……どんな奴だ?」
「悪い人では無いのは確実なんですが……」
キツネ店主は厳昭に、シラタマの容姿やリータ達の容姿を伝える。
「白いタヌキで尻尾が三本……それに白い髪の女が二人か……」
「珍しい組み合わせでっしゃろ?」
「どうせ変化の術で、尻尾や色をいじっているのだろう。田舎者が神職の者をマネて吹っ掛けて来ただけだ」
「それも違うと思うんですな~。モノを知らないから田舎者で間違い無いのですが、持ち物が半端ないッス!」
「まぁ毛皮はいい物だが、そこまで褒める事か?」
「それがでんな~……ちょっとお耳を拝借。ゴニョゴニョゴニョ」
キツネ店主は厳昭の耳のそばで小さく呟く。その説明では、ホワイトタイガーの毛皮をいきなり出され、次に黒フェレットの毛皮を出されて驚いたとのこと。
国宝を持ち歩くシラタマに、厳昭も驚いて、少し固まってしまったようだ。
「それはまことか……」
「大旦那さんに嘘はつきませんがな~。それでいかがいたしましょ?」
「か……買うぞ!!」
「どちらを?」
「両方だ! 何がなんでも金を掻き集めさせる!!」
「コンコンコン。さすが大旦那! 決断が早いでっせ~。うちにも取り分期待してまっせ~」
「ああ! 任せておけ! コンコンコン」
二人は悪い顔で笑いながら今後の話に移り、話が終わるとキツネ店主は店をあとにし、厳昭はせかせかと店員に指示を出す。
当然、三平も金を集めて来いと指示され、ツケのある店や侍の家を回って金を回収するのだが、とある店にも顔を出した。
その店とは、京で二番目の地位にある大店。厳昭の店とは、ライバル関係の大店だ。
三平は裏手に回るとキツネ少年を捕まえて、中へと通してもらう。
「なに!? 厳昭のヤツが大金を集めているだと!!」
三平の話を聞いた立派な着物を着る恰幅のいいキツネ、この店の大旦那、利兵は荒らげた声を出す。
「なんのためにだ!」
「へ、へえ。どうやら、近々大きな取り引きをするみたいでして……」
「何を買うつもりなのだ!」
「そ、そこは聞き取れなかったのです……」
「使えないヤツだな……」
「も、申し訳ありません! ですが、取り引きをする者の姿は聞いております。特徴がわかりやすいので、すぐに見付かるはずです」
三平は、キツネ店主と厳昭の会話を盗み聞きしていた。その内容、シラタマ達の容姿や人数、持ち込んだ毛皮までもを、漏らす事なく利兵に伝える。
「ほう……それほどの毛皮を持って来たのか」
「おそらくは、もっと素晴らしい物を取り引きするのでしょう。あの大旦那が焦るほどです。国宝級もあるかもしれません」
「なるほどな……もう下がっていいぞ」
邪険にするように手をヒラヒラと振る利兵に、三平は帰らずに前へ出る。
「こ、これだけの情報を持って来たのですから、番頭にしてもらえるのですよね?」
「厳昭の店を潰せたらな。ただし潰れなかった場合は、お前は一生、番頭にはなれん。引き続き、厳昭の情報を持ってくれば、それだけ早く番頭になれると言うわけだ。頼んだぞ」
「へ、へへ~」
利兵の言葉を信用した三平は、深く頭を下げて大店をあとにするのであった。
「バカなヤツだ……」
三平の後ろ姿を見送った利兵は小さく呟く。どうやら利兵は、厳昭の情報を全て手に入れて店を潰したあとは、三平を厄介払いするつもりのようだ。
番頭になりたい夢を持つ若者を口説き落とす事は簡単で、嘘だと知らずに情報を引き出して使い捨てる。
利兵が何度も使って来た手口。この手口でライバル店を潰してのし上がって来たのだが、そんなこすい手だけでは、この地位は手に入らない。
「この手紙を、いつもの飲み屋に持って行け」
キツネ姿の男に託した手紙。その内容とは、シラタマ達に関する情報と指示だ。手紙を渡したキツネ男が店から出てしばらく経つと、利兵は羽織を着て、番頭のキツネ男に声を掛ける。
「少し出掛けて来る」
利兵は行き先を告げず、人力車に乗り込み、とある屋敷に向かうのであった。
* * * * * * * * *
手紙を預かったキツネ男は小走りに街を進み、飲み屋に入る。そこには、昼間から酒を呷る荒くれ者の集団。いわゆる、ヤクザが集まっていた。
キツネ男は緊張した顔で店内を進み、奥に座る、顔に刀傷がある大きなキツネ、ヤクザの親分に手紙を渡す。
「仕事か……」
キツネ親分は手紙に目を通して小さく呟くが、キツネ男は手紙の内容を知らないので愛想笑いで返す。
「もう行っていいぞ」
キツネ親分がドスの利いた低い声を出すと、キツネ男は逃げるように飲み屋から出て行く。そうしてキツネ親分は酒をくいっと飲み干すと、大声を出す。
「野郎ども、仕事だ! 小さな白いタヌキと、白い髪の女を二人、探して来い! 他に女が二人いるが、その三人ですぐにわかるだろう。行け~!」
「「「「「おお!!」」」」」
キツネ親分が簡単な特徴を述べた指示を出すと、子分キツネ、人間の男達が店を出て、散り散りに街を走り回るのであった。
* * * * * * * * *
シラタマの知らぬところで京が慌ただしくなる中、その裏の騒ぎは御所にも聞こえて来た。
公家装束の男が御簾(すだれのような物)の前にて姿勢を正し、ふたつの人影に向かってシラタマの情報を説明すると、御簾の中から幼い女の子の声が返って来た。
「なるほどのう。白いタヌキに、白い髪の女か……それぐらいなら、よく歩いておるじゃろう。何が問題なのじゃ?」
「どうも、その者達を、ヤクザが探し回っているようなのです」
「何か追われるような事をやらかしたのか?」
「それは現在調査中なのですが、もうひとつ茶屋からも情報が上がっていまして、意味がまったくわからない言葉を使っていたとの事です」
「ほう……そちは、この日ノ本以外の者と考えているのか」
「はっ! さすがは名代様。私の考えなど、すぐにわかってしまわれる」
「そこまで言われてわからんでか」
名代と呼ばれた御簾に映る人影は、センスをパチリと閉じて、次の指示を出す。
「忍びを張り付けよ。少し泳がせて、何が目的か……ヤクザがどう絡んでいるか調査させよ」
「はっ! ただいま!!」
名代の命令を聞いた公家装束の男は足早に部屋を出て、各所に指示を出す。名代は男を見送ると、御簾に映るもうひとつの人影に声を掛ける。
「天皇陛下。妾をよく見て、学ぶのじゃぞ」
「うん。でも、異国の者なんて本当に居るの?」
「千年前には確実に居たのじゃ。可能性は低いが、調べてみるのも一興。時の賢者のように、日ノ本の発展に繋がるかも知れないからのう」
「ふ~ん。居たら居たで、面白いね~」
「そうだのう」
それからシラタマの滞在している池田屋に忍者が派遣され、逐一、名代の元へ情報が流れて行くのであった。
* * * * * * * * *
その日の夕方……
ヤクザの屯する飲み屋に、続々と情報が集まる。キツネ親分はシラタマ達の簡単な特徴を説明しただけなのだが、ヤクザの情報網は伊達ではない。あっと言う間に、シラタマ達の居場所までもが特定される事となった。
「ほう……池田屋か。野郎ども、白いタヌキを攫うぞ! 行くぞ!!」
「「「「「おおおお!!」」」」」
こうしてキツネ親分を先頭に、シラタマの滞在する池田屋へ、ヤクザの集団が向かうのであった。
* * * * * * * * *
一方その頃、利兵は料亭にて、とある屋敷で合流した紋付き袴を着たタヌキと密談していた。
「して、重要な話とは何用だ?」
「御奉行様には、耳寄りな情報かと存じあげます」
利兵は酒を注ぎながら、次の言葉を続ける。
「ついに私が、この京で一番の大店となれる日が来ました!」
タヌキ奉行は酒を口に付けるが、興奮する利兵の言葉で手が止まった。
「一番だと?」
「はい! 厳昭は近々大きな取り引きをするようでして、それが潰れれば、間違いなく私が一番でしょう!」
タヌキ奉行は止まっていた手を動かし、酒を飲み干す。
「なるほどのう」
「私が一番となれば、毎月お送りしている饅頭が、よりいっそう美味しく感じるでしょう!」
普通は、饅頭のうまさだけでは喜ばない。だが、タヌキ奉行は口の端を上げた。
それは当然だ。饅頭の下には、小判があるのだから……。その小判が増えれば、美味しくも感じるのであろう。
「で……何が目的だ?」
「どうやら、白いタヌキの泊まる池田屋に、ヤクザが押し入ろうとしているようでして、念の為、報告に参りました」
「それは大変だな。ヤクザが狙っているのは、一人だけか?」
「いえ。連れがおりまして……」
その後、利兵の回りくどい言い方をタヌキ奉行は全て理解し、夜が更けて行く……
斯くして、シラタマの知らぬところで、各々の思惑が交差するのであった。
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