アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

ma-no

文字の大きさ
384 / 755
第十四章 新婚旅行編其の二 観光するにゃ~

379 思惑……

しおりを挟む

 時間は少し戻り、シラタマ達が京の観光をしようと質屋を出てしばらくあとに、キツネ店主も大きな風呂敷を担いで店を出た。
 キツネ店主は「コンコン」と鼻歌まじりに京の街を歩き、いつも質を流している、この京、一番の大店おおだなに足を踏み入れる。

「邪魔するで~」

 いつものように、挨拶して入るキツネ店主。その声に気付いたキツネ耳の青年が出迎える。

「ん? 質屋か。こんな時間に珍しいな」
「そこは邪魔するなら帰って~やろ? ノリが悪いでんな~」
「堺のノリなんて知るか。それで、何か用か?」
「あ、そうでしたわ。旦那さん……いや、大旦那さんはいらっしゃいますか?」
「今日は大旦那様に用なのか。……何か面白い物でも流れて来たのか?」
「そうでんねんけど……内密な話になるから、三平君にはまだ話せませんわ~。呼んで来てもらえますか?」
「……わかった。少し待て」

 三平が店の奥に消えると、しばらくして大旦那から指示を受けた三平に、キツネ店主は中へ通され、こじんまりした部屋に案内される。
 そこには、立派な着物を来た細身のキツネ、大旦那の厳昭みねあきがキセルを吹かして座っていた。三平はキツネ店主を中に通すと、お辞儀をして外へと出て行った。
 そうしてキツネ店主は厳昭の前に座り、挨拶を交わす。

「お久しゅう御座います」
「おう。久し振りだな。たまには息子だけでなく、わしにも顔を見せろと言ったのを覚えていたようだな」
「あ~。旦那さんが、そんな事おっしゃっていましたな~」
「忘れていたのか……」
「まぁまぁ。まずは商売の話をしましょう」

 そう言ってキツネ店主は風呂敷を広げて、シラタマから買い取った毛皮の数々を並べる。それを見た厳昭は、不機嫌な顔から商売人の鋭い眼光へと変わり、一枚一枚、品を確かめる。

「いい毛皮だな……どこで盗んで来た?」
「言い方が酷いでっせ! 盗むわけありゃしまへんやろ~」
「では、盗品を質に入れたのか?」
「ちゃいますがな~! ……と、言いたいところですが、実際はわかりまへん。ただ、変わった御人であったのは確かでんな」
「お前から見ても、人となりがわからなかったのか……どんな奴だ?」
「悪い人では無いのは確実なんですが……」

 キツネ店主は厳昭に、シラタマの容姿やリータ達の容姿を伝える。

「白いタヌキで尻尾が三本……それに白い髪の女が二人か……」
「珍しい組み合わせでっしゃろ?」
「どうせ変化の術で、尻尾や色をいじっているのだろう。田舎者が神職の者をマネて吹っ掛けて来ただけだ」
「それも違うと思うんですな~。モノを知らないから田舎者で間違い無いのですが、持ち物が半端ないッス!」
「まぁ毛皮はいい物だが、そこまで褒める事か?」
「それがでんな~……ちょっとお耳を拝借。ゴニョゴニョゴニョ」

 キツネ店主は厳昭の耳のそばで小さく呟く。その説明では、ホワイトタイガーの毛皮をいきなり出され、次に黒フェレットの毛皮を出されて驚いたとのこと。
 国宝を持ち歩くシラタマに、厳昭も驚いて、少し固まってしまったようだ。

「それはまことか……」
「大旦那さんに嘘はつきませんがな~。それでいかがいたしましょ?」
「か……買うぞ!!」
「どちらを?」
「両方だ! 何がなんでも金を掻き集めさせる!!」
「コンコンコン。さすが大旦那! 決断が早いでっせ~。うちにも取り分期待してまっせ~」
「ああ! 任せておけ! コンコンコン」

 二人は悪い顔で笑いながら今後の話に移り、話が終わるとキツネ店主は店をあとにし、厳昭はせかせかと店員に指示を出す。
 当然、三平も金を集めて来いと指示され、ツケのある店や侍の家を回って金を回収するのだが、とある店にも顔を出した。
 その店とは、京で二番目の地位にある大店。厳昭の店とは、ライバル関係の大店だ。


 三平は裏手に回るとキツネ少年を捕まえて、中へと通してもらう。

「なに!? 厳昭のヤツが大金を集めているだと!!」

 三平の話を聞いた立派な着物を着る恰幅かっぷくのいいキツネ、この店の大旦那、利兵りへいは荒らげた声を出す。

「なんのためにだ!」
「へ、へえ。どうやら、近々大きな取り引きをするみたいでして……」
「何を買うつもりなのだ!」
「そ、そこは聞き取れなかったのです……」
「使えないヤツだな……」
「も、申し訳ありません! ですが、取り引きをする者の姿は聞いております。特徴がわかりやすいので、すぐに見付かるはずです」

 三平は、キツネ店主と厳昭の会話を盗み聞きしていた。その内容、シラタマ達の容姿や人数、持ち込んだ毛皮までもを、漏らす事なく利兵に伝える。

「ほう……それほどの毛皮を持って来たのか」
「おそらくは、もっと素晴らしい物を取り引きするのでしょう。あの大旦那が焦るほどです。国宝級もあるかもしれません」
「なるほどな……もう下がっていいぞ」

 邪険にするように手をヒラヒラと振る利兵に、三平は帰らずに前へ出る。

「こ、これだけの情報を持って来たのですから、番頭にしてもらえるのですよね?」
「厳昭の店を潰せたらな。ただし潰れなかった場合は、お前は一生、番頭にはなれん。引き続き、厳昭の情報を持ってくれば、それだけ早く番頭になれると言うわけだ。頼んだぞ」
「へ、へへ~」

 利兵の言葉を信用した三平は、深く頭を下げて大店をあとにするのであった。

「バカなヤツだ……」

 三平の後ろ姿を見送った利兵は小さく呟く。どうやら利兵は、厳昭の情報を全て手に入れて店を潰したあとは、三平を厄介払いするつもりのようだ。
 番頭になりたい夢を持つ若者を口説き落とす事は簡単で、嘘だと知らずに情報を引き出して使い捨てる。
 利兵が何度も使って来た手口。この手口でライバル店を潰してのし上がって来たのだが、そんなこすい手だけでは、この地位は手に入らない。

「この手紙を、いつもの飲み屋に持って行け」

 キツネ姿の男に託した手紙。その内容とは、シラタマ達に関する情報と指示だ。手紙を渡したキツネ男が店から出てしばらく経つと、利兵は羽織を着て、番頭のキツネ男に声を掛ける。

「少し出掛けて来る」

 利兵は行き先を告げず、人力車に乗り込み、とある屋敷に向かうのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 手紙を預かったキツネ男は小走りに街を進み、飲み屋に入る。そこには、昼間から酒をあおる荒くれ者の集団。いわゆる、ヤクザが集まっていた。
 キツネ男は緊張した顔で店内を進み、奥に座る、顔に刀傷がある大きなキツネ、ヤクザの親分に手紙を渡す。

「仕事か……」

 キツネ親分は手紙に目を通して小さく呟くが、キツネ男は手紙の内容を知らないので愛想笑いで返す。

「もう行っていいぞ」

 キツネ親分がドスの利いた低い声を出すと、キツネ男は逃げるように飲み屋から出て行く。そうしてキツネ親分は酒をくいっと飲み干すと、大声を出す。

「野郎ども、仕事だ! 小さな白いタヌキと、白い髪の女を二人、探して来い! 他に女が二人いるが、その三人ですぐにわかるだろう。行け~!」
「「「「「おお!!」」」」」

 キツネ親分が簡単な特徴を述べた指示を出すと、子分キツネ、人間の男達が店を出て、散り散りに街を走り回るのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 シラタマの知らぬところで京が慌ただしくなる中、その裏の騒ぎは御所にも聞こえて来た。
 公家装束の男が御簾ぎょれん(すだれのような物)の前にて姿勢を正し、ふたつの人影に向かってシラタマの情報を説明すると、御簾の中から幼い女の子の声が返って来た。

「なるほどのう。白いタヌキに、白い髪の女か……それぐらいなら、よく歩いておるじゃろう。何が問題なのじゃ?」
「どうも、その者達を、ヤクザが探し回っているようなのです」
「何か追われるような事をやらかしたのか?」
「それは現在調査中なのですが、もうひとつ茶屋からも情報が上がっていまして、意味がまったくわからない言葉を使っていたとの事です」
「ほう……そちは、この日ノ本以外の者と考えているのか」
「はっ! さすがは名代様。私の考えなど、すぐにわかってしまわれる」
「そこまで言われてわからんでか」

 名代と呼ばれた御簾に映る人影は、センスをパチリと閉じて、次の指示を出す。

「忍びを張り付けよ。少し泳がせて、何が目的か……ヤクザがどう絡んでいるか調査させよ」
「はっ! ただいま!!」

 名代の命令を聞いた公家装束の男は足早に部屋を出て、各所に指示を出す。名代は男を見送ると、御簾に映るもうひとつの人影に声を掛ける。

「天皇陛下。わらわをよく見て、学ぶのじゃぞ」
「うん。でも、異国の者なんて本当に居るの?」
「千年前には確実に居たのじゃ。可能性は低いが、調べてみるのも一興。時の賢者のように、日ノ本の発展に繋がるかも知れないからのう」
「ふ~ん。居たら居たで、面白いね~」
「そうだのう」

 それからシラタマの滞在している池田屋に忍者が派遣され、逐一、名代の元へ情報が流れて行くのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 その日の夕方……

 ヤクザのたむろする飲み屋に、続々と情報が集まる。キツネ親分はシラタマ達の簡単な特徴を説明しただけなのだが、ヤクザの情報網は伊達ではない。あっと言う間に、シラタマ達の居場所までもが特定される事となった。

「ほう……池田屋か。野郎ども、白いタヌキをさらうぞ! 行くぞ!!」
「「「「「おおおお!!」」」」」

 こうしてキツネ親分を先頭に、シラタマの滞在する池田屋へ、ヤクザの集団が向かうのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 一方その頃、利兵は料亭にて、とある屋敷で合流した紋付き袴を着たタヌキと密談していた。

「して、重要な話とは何用だ?」
「御奉行様には、耳寄りな情報かと存じあげます」

 利兵は酒を注ぎながら、次の言葉を続ける。

「ついに私が、この京で一番の大店となれる日が来ました!」

 タヌキ奉行は酒を口に付けるが、興奮する利兵の言葉で手が止まった。

「一番だと?」
「はい! 厳昭は近々大きな取り引きをするようでして、それが潰れれば、間違いなく私が一番でしょう!」

 タヌキ奉行は止まっていた手を動かし、酒を飲み干す。

「なるほどのう」
「私が一番となれば、毎月お送りしている饅頭まんじゅうが、よりいっそう美味しく感じるでしょう!」

 普通は、饅頭のうまさだけでは喜ばない。だが、タヌキ奉行は口の端を上げた。
 それは当然だ。饅頭の下には、小判があるのだから……。その小判が増えれば、美味しくも感じるのであろう。

「で……何が目的だ?」
「どうやら、白いタヌキの泊まる池田屋に、ヤクザが押し入ろうとしているようでして、念の為、報告に参りました」
「それは大変だな。ヤクザが狙っているのは、一人だけか?」
「いえ。連れがおりまして……」

 その後、利兵の回りくどい言い方をタヌキ奉行は全て理解し、夜が更けて行く……


 くして、シラタマの知らぬところで、各々の思惑が交差するのであった。
しおりを挟む
感想 962

あなたにおすすめの小説

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】まもの牧場へようこそ!~転移先は魔物牧場でした ~-ドラゴンの子育てから始める異世界田舎暮らし-

いっぺいちゃん
ファンタジー
平凡なサラリーマン、相原正人が目を覚ましたのは、 見知らぬ草原に佇むひとつの牧場だった。 そこは、人に捨てられ、行き場を失った魔物の孤児たちが集う場所。 泣き虫の赤子ドラゴン「リュー」。 やんちゃなフェンリルの仔「ギン」。 臆病なユニコーンの仔「フィーネ」。 ぷるぷる働き者のスライム「モチョ」。 彼らを「処分すべき危険種」と呼ぶ声が、王都や冒険者から届く。 けれど正人は誓う。 ――この子たちは、ただの“危険”なんかじゃない。 ――ここは、家族の居場所だ。 癒やしのスキル【癒やしの手】を頼りに、 命を守り、日々を紡ぎ、 “人と魔物が共に生きる未来”を探していく。 ◇ 🐉 癒やしと涙と、もふもふと。 ――これは、小さな牧場から始まる大きな物語。 ――世界に抗いながら、共に暮らすことを選んだ者たちの、優しい日常譚。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...