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03 ヤンキーだって弱い物がある
しおりを挟むカケルが声がした方向に振り返ると、そこには美人JKが立っていたので、カケルは自分に掛けられた言葉なのか確認しようとキョロキョロしている。
「君だよ君。君に言ったんだ」
それを見兼ねたJKは綺麗な長い黒髪を揺らしながら寄って来たので、カケルはさっと目を逸らした。これは、あまりにも美人だから照れているのと、自分に話し掛けて来る女性が母親以外いなかったから戸惑っているのだ。
「女が俺になんの用だよ」
「ちょっと気になることがあってね。お話しない??」
「俺と?? 俺と一緒にいたら、何かと面倒に巻き込まれるかもしれないぞ」
「あはは。怖い人かと思っていたけど、意外と優しいんだ」
JKに褒められてカケルは満更でもない顔をしたが、いまだにJKの顔を見れないでいる。
「私は玉城ツムギ。三高の二年よ。その制服だと同じ三高の一年生よね?」
「ああ。俺は長瀬カケル。一年っす」
自己紹介しても視線を合わせてくれないカケルの顔をツムギは覗き込むが、カケルはその都度顔を背ける。
「てか、話ってなんすか?」
「おっ。上の人を敬えるんだ。エライエライ」
「茶化してないでさっさと用件言ってくんないっすか? ……へ??」
頭を撫でられて少し嬉しいカケルであったが、ヤンキー設定も崩せないのでイラついた振りをしてツムギの顔を見たら固まった。
「やっとこっち見てくれた」
ニッコリ微笑むツムギを直視したからには、ボッチヤンキーには笑顔が眩しすぎたのであろう。
「な、なんすかそれ?」
「君、やっぱり見えてたのね」
いや、ツムギの背後には3メートル近くあるドス黒い球体。カケルはその謎のボールが気になって固まったのだ。
「たまたまこれの仲間を蹴ってる君を見たから気になってつけて来たら、なんか変な体勢で蹴りまくっていたから声を掛けづらくて……そしたら警察にも捕まりそうになってたじゃない?」
「まぁ……そっすね」
カケルも、似たような事をしている人がいたら絶対に避けると思うので頷くしかなかったが、まだ質問に答えてもらえていない。
「それってなんなんすか? 俺も毎日のように寄って来られて困ってるんすよ」
「何って……見ての通りよ」
「いや、見てもわからないから聞いてるんすよ」
「え? 見えてるならなんとなくでもわかるでしょ??」
「まったく……ただのボールにしか……」
「これがボール??」
ツムギは後ろとカケルの顔を二、三度見比べてから答えを出す。
「そっかそっか。カケル君は中途半端に見えてるんだ」
「中途半端っすか??」
「そう。霊能者でも完全に見える人が少ないもの。私にはハッキリ見えるんだけどな~」
「霊能者って、幽霊が見えるとか言って金を巻き上げる奴っすか??」
「そうそう。それ。私も何度も騙されたな~」
「つまりは……」
ツムギの説明で、カケルはこのボール達の正体にうっすらと気付いた。そこに、ツムギはノートを広げて追い討ちする。
「うん。君が蹴っていたのは幽霊、もしくは悪霊と呼ばれているヤツだね。ちなみに私に取り憑いてるのはこんなヤツ。写真に映らないから書いたの」
そのノートには、この世の物とは思えないほど歪んだ顔をしたモノ。人の形に近い体は全身真っ黒で、手は六本も生えていた。
「こ、こんなのが、まさか~……」
顔を上げた瞬間、カケルの視界がクリアに。ノートに書かれたモノ瓜二つの物体がツムギを後ろから包み込み、ヨダレを垂らしている姿がハッキリとカケルの目に映し出されたのだ。
「それでね。君に頼みがあるんだけど……」
カケルの表情の変化に気付かずツムギは喋り出したが……
「おおおお、おばけ! おばけ~! うっきゃああぁぁああ~!!」
カケルはとんでもなく取り乱して逃げて行った。
どうやらこのヤンキーは、人間相手には滅法強いのだが、おばけには弱かったみたいだ……
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