20 / 187
02 奪われた町へ
019
しおりを挟む
絶壁の崖に作られた休憩場所で、寝袋にくるまった魔王はうとうとしていたが、夜の見張りはなんとか寝ないで朝を迎える。そして昨日と同じく、勇者の作ったスープとパンを平らげた一行は壁を進む。
ちなみに休憩場所は、アイテムボックスに吸い込んで撤去していた。いちいち解体しなくて済むから楽なんだとか。
絶壁を寝ている魔王を背負って進んでいた勇者だが、難所に差し掛かると動きが止まる。
「どうしたの?」
「足場も掴む場所も無いんだ」
「どうする? 引き返す?」
「プロのロッククライマーは、小さな出っ張りがあったら進めるんだ。どこにあるか、見て来てくれないか?」
「オッケー」
珍しくテレージアは安請け合いして、パタパタと先行して進む。しばらくして戻って来たテレージアは首を横に振る。
「ダメ。そこから壁はツルツルよ」
「そっか~」
「戻るしかないわね」
「いや、このまま進む」
「どうやってよ?」
「こうやってさ!」
勇者はそう言って左手を伸ばすと、鉤の手にし、岩壁に指を押し込む。それが終われば左足を伸ばし、爪先も壁に押し込む。驚く事に、勇者は壁に穴を開けて進み出した。
「ねえ……」
「なんだ?」
「プロがどうとか言ってたけど、あんたはなんなの?」
「旅の勇者?」
「うが~! 掴める所を探しに行く必要なんてなかったじゃない!!」
「いや、この方法は壁が脆いと使えないんだ。だから必要だったんだ」
「どこがよ! そんなにずっぽし指が入っているなら、そっちの方が安全でしょ!!」
テレージア、オコである。勇者の頭をポコポコするが、まったく効かなくて、疲れてやめるのであった。
そうこうしていると難所を越え、スピードアップした魔王一行は山越えならぬ、壁越えをクリアーした。
勇者が平地に登った時には昼を大きく過ぎていたので、ピクニックシートを広げ、魔王を揺すって起こす。
「ん、んん~……あれ? 壁はどうなったのですか?」
「もう終わったよ」
「あ! あの町は、キャサリの町!!」
「やっぱりそうなのか。あの町は魔都と違って高い壁があるんだな」
「昔の戦争での最前線ですからね。森に隣接するみっつの町は、念の為、外壁を維持しているのです」
「ふ~ん。今から向かうと到着は夜になりそうだけど、どうする?」
「もう少し近付いたら夜営にしましょうか」
「わかった。ほい。遅くなったけど昼食だ」
「ありがとうございます。お腹ペコペコだったんです~」
昼食を平らげた一行は山を下り、夕暮れ時になると夜営の準備に取り掛かる。魔王はよく眠れそうな柔らかい草の場所に移動するが、勇者の奇妙な行動にテレージアと一緒にツッコム。
「「家!?」」
そう。勇者はアイテムボックスから、こじんまりした家を取り出したからだ。
「家と言うより、狭いからベッドルームだな」
二人は勇者の暢気な返しにツッコむ気力を無くし、中の説明を受ける。と言っても、狭い空間にベッドと、壁から突き出たテーブルと椅子が置いてあるだけで、すぐに説明は終わった。
「はぁ……あんたのその収納魔法はどんだけ入るのよ」
「収納魔法ではなく、アイテムボックスだ。どれだけ入るかは、いまだにわからないんだよな~」
「そういえば、おにぎりやスープも温かいままでしたけど、どうなっているのですか?」
「妹が時間停止とか言っていたかな」
「じゃあ、どれだけ農作物を入れても、腐らないのですか!?」
「まぁそうなるな」
「ちょっと待って魔王。倉庫なんかに使わないで、戦闘に使ったらどうよ? 人族を入れてしまえば、攻撃になるわよ!」
「あ~。生き物は入れられないんだ。妹が言うには……難しい話だったから忘れた。あはは」
「では、足の早い果物なんかを保管させてください!」
「いや、その前に戦争でしょ! 終わらない事には平和が来ないのよ」
「あ……そうでした~」
どうやら魔王は、戦争より果物の保管方法に興味津々だったようだ。
その後、夕食や体を拭く事、寝る事の無駄なやり取りをテレージアが潰す。無難に勇者が料理を作り、魔法で作ったお湯で、魔王達は建物の中、勇者は外で体を拭く。
見張りの話も出たが、建物は頑丈だから必要ないので一緒に寝る流れになったが、勇者は床で寝袋にくるまれて寝ていた。
そして翌朝、人族が占拠したキャサリの町へと向かう。
「あ……」
森から街道に出て、しばらく歩くと、魔王が悲しそうな声を漏らす。
「どうしたんだ?」
「畑が……」
勇者は魔王の言葉に周りを見渡すが、踏み荒らされた荒れ地があるだけだった。
「町を中心に畑が広がっていたのですが、見る影もありません」
「ふ~ん。人族は管理すらしていないのか」
「残念です。ここのトマトは、すごく美味しかったのに……」
心底残念がる魔王だが、トマトの心配なのか、畑の心配なのかよくわからない勇者とテレージアであった。
その後、畑を抜けるとキャサリの町の門が近付く。するとテレージアが勇者に声を掛ける。
「勇者。カバンって、持ってない?」
「カバン? 持ってるぞ。どうするんだ?」
「こんなにキュートな妖精が飛んでいたら、人族が驚くじゃない? しばらく隠れているわ」
「ああ。蝿だと思って叩き落とされる心配か」
「キュートって言ったでしょ!」
「これでいいか?」
「聞きなさいよ!」
「町に手ぶらで入るのも、おかしいか……」
「うが~!」
勇者はショルダーバッグを魔王に渡すと、自分にはリュックを出して背負う。テレージアは勇者をポコポコしていたが、無視を続ける勇者に飽きて、魔王のショルダーバッグに入ってふて寝する。
こうして準備の整った魔王一行は、人族に奪われた町、キャサリの町に到着するのであった。
ちなみに休憩場所は、アイテムボックスに吸い込んで撤去していた。いちいち解体しなくて済むから楽なんだとか。
絶壁を寝ている魔王を背負って進んでいた勇者だが、難所に差し掛かると動きが止まる。
「どうしたの?」
「足場も掴む場所も無いんだ」
「どうする? 引き返す?」
「プロのロッククライマーは、小さな出っ張りがあったら進めるんだ。どこにあるか、見て来てくれないか?」
「オッケー」
珍しくテレージアは安請け合いして、パタパタと先行して進む。しばらくして戻って来たテレージアは首を横に振る。
「ダメ。そこから壁はツルツルよ」
「そっか~」
「戻るしかないわね」
「いや、このまま進む」
「どうやってよ?」
「こうやってさ!」
勇者はそう言って左手を伸ばすと、鉤の手にし、岩壁に指を押し込む。それが終われば左足を伸ばし、爪先も壁に押し込む。驚く事に、勇者は壁に穴を開けて進み出した。
「ねえ……」
「なんだ?」
「プロがどうとか言ってたけど、あんたはなんなの?」
「旅の勇者?」
「うが~! 掴める所を探しに行く必要なんてなかったじゃない!!」
「いや、この方法は壁が脆いと使えないんだ。だから必要だったんだ」
「どこがよ! そんなにずっぽし指が入っているなら、そっちの方が安全でしょ!!」
テレージア、オコである。勇者の頭をポコポコするが、まったく効かなくて、疲れてやめるのであった。
そうこうしていると難所を越え、スピードアップした魔王一行は山越えならぬ、壁越えをクリアーした。
勇者が平地に登った時には昼を大きく過ぎていたので、ピクニックシートを広げ、魔王を揺すって起こす。
「ん、んん~……あれ? 壁はどうなったのですか?」
「もう終わったよ」
「あ! あの町は、キャサリの町!!」
「やっぱりそうなのか。あの町は魔都と違って高い壁があるんだな」
「昔の戦争での最前線ですからね。森に隣接するみっつの町は、念の為、外壁を維持しているのです」
「ふ~ん。今から向かうと到着は夜になりそうだけど、どうする?」
「もう少し近付いたら夜営にしましょうか」
「わかった。ほい。遅くなったけど昼食だ」
「ありがとうございます。お腹ペコペコだったんです~」
昼食を平らげた一行は山を下り、夕暮れ時になると夜営の準備に取り掛かる。魔王はよく眠れそうな柔らかい草の場所に移動するが、勇者の奇妙な行動にテレージアと一緒にツッコム。
「「家!?」」
そう。勇者はアイテムボックスから、こじんまりした家を取り出したからだ。
「家と言うより、狭いからベッドルームだな」
二人は勇者の暢気な返しにツッコむ気力を無くし、中の説明を受ける。と言っても、狭い空間にベッドと、壁から突き出たテーブルと椅子が置いてあるだけで、すぐに説明は終わった。
「はぁ……あんたのその収納魔法はどんだけ入るのよ」
「収納魔法ではなく、アイテムボックスだ。どれだけ入るかは、いまだにわからないんだよな~」
「そういえば、おにぎりやスープも温かいままでしたけど、どうなっているのですか?」
「妹が時間停止とか言っていたかな」
「じゃあ、どれだけ農作物を入れても、腐らないのですか!?」
「まぁそうなるな」
「ちょっと待って魔王。倉庫なんかに使わないで、戦闘に使ったらどうよ? 人族を入れてしまえば、攻撃になるわよ!」
「あ~。生き物は入れられないんだ。妹が言うには……難しい話だったから忘れた。あはは」
「では、足の早い果物なんかを保管させてください!」
「いや、その前に戦争でしょ! 終わらない事には平和が来ないのよ」
「あ……そうでした~」
どうやら魔王は、戦争より果物の保管方法に興味津々だったようだ。
その後、夕食や体を拭く事、寝る事の無駄なやり取りをテレージアが潰す。無難に勇者が料理を作り、魔法で作ったお湯で、魔王達は建物の中、勇者は外で体を拭く。
見張りの話も出たが、建物は頑丈だから必要ないので一緒に寝る流れになったが、勇者は床で寝袋にくるまれて寝ていた。
そして翌朝、人族が占拠したキャサリの町へと向かう。
「あ……」
森から街道に出て、しばらく歩くと、魔王が悲しそうな声を漏らす。
「どうしたんだ?」
「畑が……」
勇者は魔王の言葉に周りを見渡すが、踏み荒らされた荒れ地があるだけだった。
「町を中心に畑が広がっていたのですが、見る影もありません」
「ふ~ん。人族は管理すらしていないのか」
「残念です。ここのトマトは、すごく美味しかったのに……」
心底残念がる魔王だが、トマトの心配なのか、畑の心配なのかよくわからない勇者とテレージアであった。
その後、畑を抜けるとキャサリの町の門が近付く。するとテレージアが勇者に声を掛ける。
「勇者。カバンって、持ってない?」
「カバン? 持ってるぞ。どうするんだ?」
「こんなにキュートな妖精が飛んでいたら、人族が驚くじゃない? しばらく隠れているわ」
「ああ。蝿だと思って叩き落とされる心配か」
「キュートって言ったでしょ!」
「これでいいか?」
「聞きなさいよ!」
「町に手ぶらで入るのも、おかしいか……」
「うが~!」
勇者はショルダーバッグを魔王に渡すと、自分にはリュックを出して背負う。テレージアは勇者をポコポコしていたが、無視を続ける勇者に飽きて、魔王のショルダーバッグに入ってふて寝する。
こうして準備の整った魔王一行は、人族に奪われた町、キャサリの町に到着するのであった。
1
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる