攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

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04 逃亡

029

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 勧誘を失敗してムキーっとなったテレージアを、勇者と魔王が宥めていると、姫騎士が歩く速度を落とし、勇者達と並んで歩く。

「仲間を求めて……その前にいいか?」
「ん?」
「それはなんだ?」

 姫騎士は魔王達が仲間を求めている理由を聞きに下がって来たが、魔王が乗っているモノを尋ねずにはいられなかったようだ。

「サシャが疲れないようにする乗り物だ」
「そ、そうか……お嬢様のようだな。お前達は、どこかの小国の者なのか?」
「まぁそんなところだ」
「なるほど。だからスカウトしているのか」

 どうやら姫騎士は、他国の要人か何かと勘違いして、スカウトしている理由を決め付けたみたいだ。それならチャンスかと、勘違いに乗っかって勇者は質問する。

「それでどうだ? 来てくれないか?」
「私は帝国の皇女だぞ? どこの小国の貴族かは知らないが、さすがに笑えない冗談だ」
「だよな~」
「だが、恩のある身だ。私のツテで探してやろう。どんな者が希望なのだ?」
「本当ですか!? でしたら、戦う事に慣れていて、軍隊なんかも指揮できる人が欲しいです」
「軍隊??」

 魔王の前のめりの人選に、姫騎士は目を鋭くする。

「軍隊なんか指揮して、どうしようと言うのだ?」
「えっと……それは……」
「ああ。今は魔族と戦争中だろ? 我が国からも兵を出したいが、指揮できる者が倒れてしまって困っているんだ。他の者だと、ちと都合が悪くてな」

 魔王がしどろもどろになったところを、勇者が適当な言い訳を交えて助ける。すると、怪訝な表情をしていた姫騎士は、なるほどと頷く。

「小国でも、ゴタゴタがあるのだな」
「まあな」
「さすがに軍を指揮できる者となると厳しいな」
「武器を扱える者や、作戦を立てられる者でもかまわないのだが」
「武器ぐらいなら……それならば、なんとかなるかもしれない」
「お! やったな」
「はい!」

 勇者と魔王が喜んでいるとコリンナが近付いて来て、魔王が楽をしている事にツッコミ、休憩をすると告げる。

 ほどなくして街道から外れた岩影で、一行は休む。

「はい。姫騎士。食べなさい」

 コリンナは、肩から掛けたカバンの中から堅いパンと水袋を取り出すと、自分の仲間の三少女と姫騎士に手渡す。

「おい。あの二人と妖精の分が無いぞ?」
「勝手について来たんだから知らないわよ」
「ならば私の分を……」
「それはダメ! 四日は歩くんだから、依頼主に倒れられたら困るんだからね」

 二人が言い合いを始めると、テレージアが喧嘩腰に割って入る。

「そんなまずそうな物はいらないわよ!」
「ハッ! 食べ物をうまいまずいで考える奴なんかに、頼まれたってやるか!」
「こっちだって頼まれたって、あげないんだからね!」
「あんな小さなカバンに何が入っているのよ。とても食料が入っていると思えないわ」
「それを言ったら、あんたのカバンだって小さいじゃない!」
「これは収納カバンです~。この人数なら十日分は入っています~」
「勇者だっていっぱい持ってます~。大きな肉だって入ってます~……ムゴッ!」

 何やらコリンナとテレージアがケンカを始めたので、魔王はテレージアを両手で掴まえて離れさせる。

「お兄ちゃん。食材を出してくれますか?」
「どうするんだ?」
「パンだけでは栄養が偏りますので、私が皆さんに手料理を振る舞います!」
「あ、ああ。わ、わかっ……」
「ムゴー! ムゴー!!」
「い、いや。やはり俺が作ろう」

 勇者はテレージアの必死の訴えに、命の危機に気付いたのか、自分ですると提案し、食材を出してスープを作り始める。すると皆が集まり、調理をジッと見つめる。
 姫騎士までもが不思議そうに見つめ、調理する勇者に質問をしている。

「それは、生の野菜か? そんな物を持ち歩いては腐るのでは?」
「コリンナだっけ? アイツの袋は腐るのか?」
「そうだ。収納バッグも収納魔法も、長期間保管すると腐ってしまう」
「ふ~ん。この世界でも、そんなモノなのか」
「この世界?」
「お兄ちゃん!!」
「あ、なんでもない」

 勇者は魔王が首を横に振っているので、気持ち悪い顔で見つめてから話を戻す。

「収納魔法だったな。どうも俺の収納魔法は特別で、腐ったりしないんだ」
「そんな魔法があるのか!?」
「どうなっているのかは、俺もわからないんだけどな。あははは」

 勇者は笑って誤魔化しながら、野菜を切り終える。それを鍋に入れて石組みかまどの上にセットすると、魔王を呼ぶ。

「サシャ。水と火を頼む」
「わかりましたけど、次は私が調理しますからね?」
「う、うん……」
「絶対ダメって言ってるでしょ! 野営の料理は勇者担当。それ以外はあたしが許さないんだからね!!」

 サシャの手から抜け出したテレージアは、凄い剣幕で魔王に詰め寄る。その剣幕で魔王は渋々諦めていたが、適当に言っていたから、いつかテレージアに一服盛る気だろう。
 テレージアとのやり取りを終えた魔王は呪文を唱え、二つの鍋に水を入れ、片方の鍋の下にある薪に火をつける。すると、魔王の魔法を見ていた姫騎士が驚いた声をあげる。

「おお! サシャ殿は、魔法使いであったか。これほどの量の水を難無く出せるとは、なかなかお強いのではないのか?」
「いえ。私は生活魔法ぐらいしか使えません。だから、強いと言われてもわからないですね」
「そうなのか? 魔法を覚えるだけでいいのに、もったいない」
「なるほど……私でも習えば、強い魔法が使えるのですね。魔法使いさんも、スカウトしちゃいましょう!」
「魔法使いは貴重だから、私のツテでは用意できないな」
「そうですか~」

 魔王が姫騎士の言葉にしょぼんとしていると、スープのいい匂いがして来た。お腹が減っていた魔王はスープの匂いに誘われるが、誘われたのは一人ではなく、三人の少女もスープの匂いに誘われて来た。

「もう少しで出来るから、ちょっと待ってな」

 魔王と少女達はコクコクと頷くが、テレージアが怒った声を出す。

「アイツらは、自分の分を食べるって言ってたんだから、あげないでよ!」
「多く作ったんだからいいだろ」
「そうですよ。みんなで食べた方が美味しいですよ」
「ダーメ!!」
「よし。出来た。みんな取りに来い」
「聞きなさいよ!! ムゴッ」

 またしても魔王に捕まったテレージアは、身動きを取れずにムキーっとなる。その隙に勇者は少女達にスープを振る舞う。
 皆、受け取ると叫ぶように食べるので、勇者は照れながら配膳する。姫騎士や魔王とテレージアにもスープを注ぎ、魔界産パンも皆に渡す。
 皆の食事を食べる姿を確認すると、勇者はスープとパンの乗った皿を持って、一人で堅パンをかじっていたコリンナの隣に座る。

「ほい」
「いらないわよ」
「みんな食べているんだから、遠慮するな」
「遠慮じゃないわ。女のプライドよ」
「ふ~ん。仲間には、そのプライドを押し付けないんだな」
「聞いてたでしょ? ケンカしていたのは私だけ。仲間は関係ないわ」
「じゃあ、このスープも関係無いな。俺とはケンカしていないしな」

 勇者は皿を押し付けるように手渡すと、コリンナの頭をポンポンと叩いて、離れて行く。
 勇者を見送ったコリンナは、ぽつりと呟く。

「あ、ありがとう……」

 それを見ていた三少女は、ニヤニヤした顔でコリンナに近寄る。

「あれ? おかしら~。顔赤いよ~」
「ひょっとして、お兄さんに惚れた?」
「ばっ! そんなんじゃないわよ!!」
「スープ美味しいもんね~」
「そ、そうよ!!」
「「ホントかな~?」」
「??」

 一人にぶい少女が居るが、コリンナはスープを食べながらも勇者を見つめて茶化されているので、そう言う事だろう。

 コリンナ、十五歳の春であった。

 ただし、見つめていた勇者は、気持ち悪い顔で魔王を見つめていたのだが……
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