32 / 187
04 逃亡
031
しおりを挟むぐふぐふと嫌な笑い方をするテレージア達に見送られ、コリンナは勇者に近付いてお兄ちゃん作戦を決行する。
「お、お、お、おに……」
「ん? どうした?」
「おに、おに……」
「鬼? オーガが出たのか?」
「ちがっ……アニキー! 何か手伝うよ」
「兄貴か……久し振りに聞いたな」
コリンナは顔を赤くし、お兄ちゃんと呼ぼうとしたが、なかなか言えずにアニキと呼ぶ。すると、勇者は最愛の妹に呼ばれていた事を思い出し、懐かしい顔をする。
「アニキ? あ……この呼び方は嫌だった??」
「いや、なんでもない。好きに呼んでくれ」
「じゃあ、アニキ! その野菜を切ったらいいの?」
「おう。手伝ってくれ」
「わかった!」
コリンナは勇者の隣に並んで嬉しそうに野菜を切り分ける。その姿を見たテレージアと三少女はぐふぐふと笑っていた。
コリンナが加わった事で調理のスピードが上がり、十分に野菜が切り分けられると勇者の取り出したアミで焼かれる。
そこで肉を出すのを忘れていたと気付いた勇者は、道中で手に入れたビッグボアの丸焼も取り出す。
「姫騎士。切り分けてくれるか?」
「ああ。いいのだが、そんな物まで入っているのか……」
「包丁で切れるサイズまで切ってくれ」
「私の質問には答えてくれないのだな。はぁ……」
姫騎士は聞きたい事が多いようだが、諦めて剣を走らせる。するとビッグボアは瞬く間に切り分けられる事となった。
「おお~。なかなかいい腕をしているのだな」
「う~ん……切り口がいまいちだ。やはりなまくらでは、こんなものだな」
「十分だと思うんだがな~。まぁありがとう。これで焼肉も出来るよ」
ビッグボアの肉は使わない物はアイテムボックスに入れて、さらに小さく切った肉はアミで焼かれて夕食が始まる。
皆、肉を食べるのが久し振りなのか、肉が飛ぶように売れる中、魔王は焼き野菜ばかりを食べている。
なので、肉をぜんぜん食べない魔王を不思議に思った姫騎士とコリンナは、どうしたのかと声を掛ける。
「サシャ殿も遠慮せず、肉を食べたらどうだ?」
「あ、私は野菜が好きなので、おかまいなく」
「そうなのか? 確かにこの野菜は美味しいな」
「でしょ! これさえあれば、幸せです~」
「じゃあ、野菜ばかり食べたら、そんな体になるの?」
コリンナは質問すると同時に、魔王の大きな胸を見る。すると姫騎士も、鋭い目で見つめる。
「体ですか?」
「その大きな物は、野菜を食べたら出来るのか?」
「姫騎士さんまでなんですか? え……胸??」
「「そうだ!(よ!)」」
「何か怒ってます??」
「質問してるだけよ!」
「答えてくれ!」
「……どうかはわかりませんが、野菜を多く食べているので、なるかもしれません……」
「そうなのね!」
「よし!」
二人の圧に耐え兼ねた魔王は適当に答えると、二人は野菜中心に食べ始めた。どうやら、ペッタンコを気にしているらしい。
食事の済んだ一行は、ベッドルームの中で魔王の出したお湯で体を拭く。勇者が中を覗こうとしていたが、ヘタレのせいで、結局できなかったみたいだ。
しかし、姫騎士がその姿を見ていたので、少女の体を覗こうとはどう言う事だとこっぴどく怒られていたが、魔王の体にしか興味がないと言い訳すると、すごく、ものすごく落ち込んでいた。
それほど胸に、コンプレックスがあるようだ。
その後就寝となるわけだが、ベッドルームは女性陣に独占され、勇者は外での見張りとなった。
そうしてパチパチと鳴る焚火を眺めていると、魔王が外に出て来た。
「お兄ちゃん、代わります。寝てください」
「サシャこそ寝ないとお肌に悪いぞ」
「私は運んでもらっている間に寝ますから、大丈夫ですよ」
「う~ん……じゃあ、何かあったら起こしてくれ」
「はい!」
勇者が眠りに就くと、魔王は焚き火を眺めながら眠気に耐える。そうして数時間が過ぎた頃、今度はコリンナが外に出て来た。
「アニキ。見張り代わるよ……あれ?」
「あ、コリンナさん。私が見てるから大丈夫ですよ」
「サシャ……あんたも疲れてるでしょ? 私が見るわ」
「うふふ。やっぱり優しいのですね」
「そ、そんなんじゃないわよ」
魔王の褒め言葉に、コリンナはプイッと目を逸らす。本当にそんな理由で出て来たわけではないからだ。勇者と二人きりになろうとしていただけだ。
目論みが外れたコリンナであったが、気になる事があるようなので、魔王の隣に腰掛ける。
「あ、あんたはアニキの事を、どう思っているのよ?」
「どうと言われましても……変わった人でしょうか」
「好きとかじゃないの?」
「好き? まっさか~。ありませんね」
「そうなのか!?」
「でも、私の目的には必要な人です。その為には、なんでもするつもりです」
魔王は決意の目で遠くを見据える。その横顔を見たコリンナは少しの沈黙の後、口を開く。
「……なんでもするんだ」
「まぁそうですね。と言っても、お兄ちゃんは私に強要しても、何もして来ないんですけどね」
「なによそれ?」
「テレージアさんに、よくヘタレって言われていますよ」
「ヘタレなんだ……じゃあ、押し倒してしまえば、なんとかなるってのも本当なんだ……」
「何か言いました?」
「なんでもないわ。それじゃあ、寝させてもらうわ~」
コリンナの呟きを聞き取れなかった魔王は質問するが、コリンナは誤魔化してベッドルームに入って行く。
その後、野営では何も起きずに日が昇り、準備をした一行は隣町へ向けて歩き出す。例の如く魔王は勇者に担がれて眠り、お昼休憩で昼食でお腹を膨らませると、また眠る。
だがしかし、その安眠を邪魔する者が現れる。
「後ろから馬が何頭も来てるわ!」
ただならぬ気配を感じたコリンナは、地面に耳を当てて叫ぶ。
「兄様の追っ手だろうな」
「テレージア。何人来てるか見て来てくれ!」
「オッケー!」
姫騎士、勇者、テレージアと慌ただしく声を出す。
「来るとは思っていたけど、嫌な所で追い付かれたわ。隠れる場所が無い……」
「なら、戦うしかないだろう」
「敵は二十人ってところね」
ボヤくコリンナを他所に、姫騎士は剣を抜き、テレージアは報告を告げる。そんな中、魔王はと言うと……
「ん、んん~……もう夕食の時間ですか~」
寝惚けた声を出すのであった……
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる