37 / 187
04 逃亡
036
しおりを挟む「私に雇われてください!!」
突然、深々と頭を下げる魔王に、姫騎士とコリンナはポカンとする。それから一分ほど経つと、一向に返事が来ないので、魔王は顔を上げた。
「えっと……嫌ですか?」
その質問に先に答えたのはコリンナ。
「嫌も何も、何をして、何をくれるか聞いてないわよ」
「あ、そうでした。コリンナさんには、作戦を立てて、それを指揮して欲しいのです」
「つまり指揮官ってこと?」
「それです!」
指揮官と聞いたコリンナは、ため息まじりで指摘する。
「無理よ。こんな小娘の指揮を、誰が聞くのよ」
「そうですか……じゃあ、作戦を立てるだけでも!」
「それぐらいなら……報酬にもよるけどね」
「お金ですよね? コリンナさん達が使われているお金と価値が違うかもしれないので、いくらとまでは言い切れません……ですが、食べきれないほどの食事は用意させていただきます!」
「食べ切れない? じゃあ、この子達も養えるの?」
「もちろんです! 個別で支払ってもかまいません!!」
「本当!? それならやってもいいかも!」
「では、決定ですね!」
コリンナは喜びながら三少女に抱きつく。魔王はその嬉しそうな姿を見て、次の標的に移る。
「姫騎士さんは、どうですか?」
「私は帝国の皇女だ。他国の者に雇われるわけにはいかない」
「でしたら、剣客でしたか? それになって、しばらく我が国に隠れてしまうのはどうですか? 行くあては無いのでしょう?」
「それでも私は……」
姫騎士は折れる素振りが無い。だが、魔王もどんな汚い手を使っても、魔界の為、口説き落とすつもりだ。
「姫騎士さんは、コリンナさんに借金がありましたよね?」
「ああ。いまのところ、払うあてはないんだがな……」
「それを私が肩代わりします。と言う事で、私に借金を返してください!」
「なっ……」
「必ず払うと約束していたじゃないですか? あれは嘘だったのですか?」
「嘘ではない。何年かかっても……」
「いつ払えるのですか? コリンナさんだって、そんなに待てませんよね?」
魔王がコリンナに質問すると、雇用主を立てる為か、コリンナは頷いてくれる。
「ほら。待てないとおっしゃっています」
「うっ……」
「給料は高く払わせてもらいますので、一ヶ月だけ……一ヶ月だけ雇われてください! お願いします!!」
「うぅぅ……一ヶ月だけだぞ!」
「やった! ありがとうございます!!」
弱味につけ込んだ魔王の勝利。ついに姫騎士を口説き落とす事に成功するのであった。
二人のスカウトが上手く行くと、魔王は喜びのあまり、走って勇者に抱きついた。
「お兄ちゃん! やりましたよ! スカウトが成功しました!!」
「プシューーー!」
しかしヘタレ勇者は魔王に抱きつかれ、思考停止してしまった。そんな二人にテレージアが注意する。
「魔王……離れてあげなさい。勇者が死ぬわよ」
「わ! お兄ちゃん。誰がこんな事を……」
「あんたよ! ……それより、みんなの気が変わる前に、魔界に連れて行きましょう。勇者は私が起こしておくわ」
「あ……この人数を、どうやって移動しましょうか?」
「アレ、使ったら? 帰りだけなら大丈夫でしょ?」
「そうですね! お兄ちゃんをお願いします!!」
テンションの上がっている魔王は、今度は湖の砂浜まで走り、収納魔法から角笛を取り出す。そして、大きく息を吸って、高らかに笛を吹き鳴らす。
すると音が気になったのか、姫騎士が歩み寄る。
「いまの笛の音は、なんだったのだ?」
「迎えの者を呼びました!」
「迎え? 馬で移動するのではないのか?」
「あ! お馬さん達を放してあげなきゃです。姫騎士さん。お手伝い、お願いしていいですか?」
「あ、ああ」
姫騎士は魔王のテンションに押され、馬車に繋がれた馬をほどく。すると、テレージアに蹴られたからか、思考停止から戻って来た勇者が片付けに参加する。
「もう馬車はいいのか?」
「はい! 迎えを呼んだので大丈夫です!!」
「じゃあ、仕舞うな。しかし、嬉しそうだな」
「はい! これで未来に希望が持てました~」
勇者はアイテムボックスに馬車を入れながら話していると、姫騎士が会話に入って来る。
「未来に? お前達の国は、それほど切迫しているのか? 父上が、何か無理を言ったのか?」
「えっと……かなり切迫していると言いますか……帝国さんから、何かされていると言いますか……」
「まぁ姫騎士の親父さんのせいではあるよな」
「……そうか。それはすまない。なにぶん我が国は軍事大国だからな。力で物事を押し通そうとする癖が、あ…る……」
姫騎士が魔王達に謝罪をしていると、言葉が出なくなり、目線を上げる。不思議に思った魔王達も振り返ると、そこには巨大な水竜が顔を出していた。
「ヤッホー! 魔王ちゃん。呼んだ~?」
「あ! ヒルデちゃん。お久し振りです!」
水竜の姿を見た姫騎士とコリンナ達は、指を差して口をあわあわしている。そんな中、のほほんと挨拶を交わす魔王と水竜であった。
「スベンさんから連絡が行っていると思いますが、緊急事態なので乗せてください」
「いいよ~。ボクは目立つから、早く乗って~」
「はい! みなさん。乗ってください……あれ?」
ようやく魔王は、皆が口をパクパクしている姿が目に入る。すると、テレージアが早口で指示を出す。
「勇者! さっさと全員乗せて! ズラかるわよ!!」
「おう!」
「あ! 私も手伝います!!」
勇者は素早く動き、姫騎士、コリンナと抱き上げて水竜に乗せ、魔王は三少女の一人を手を引いて乗せ、残りの二人も勇者が乗せてしまう。
全員が乗ると、魔王が水竜にすぐに出てくれと頼み、砂浜から離れるのであった。
1
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる