攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
69 / 187
07 休息

068

しおりを挟む

 ウーメラの町を後にした勇者は、キャサリの町に向けてひた走る。だが、テレージアがブーブーうるさいので、途中でお昼休憩。腹を膨らませて満足したテレージアは、ショルダーバッグの中で眠りに就き、勇者は猛スピードで走る。
 そのしばらく後、キャサリの町が見え始め、湖側から大きく回り込んで北側の外壁から町に近付く。

 外壁に到着すると、テレージアを起こして人の有無を確認させる。報告を聞いた勇者は、目を擦りながらだったから若干の不安はあったようだが、壁に飛び乗り、安全を確認すると屋根伝いに移動して、次兄が居た屋敷を視界に収める。

「う~ん……」
「どうしたの?」
「兵士が全然居ないんだ」
「ラッキーじゃない」
「長兄を探しているんだから、兵士が居ないと不自然だろ?」
「あ、そっか。じゃあ、どうするの?」
「一軒、当てがあるから、そこを覗いてみるか」


 勇者はそれだけ言うと、人目がない路地から地上に降りて町を歩き、魔王と来た酒場の扉を潜る。

「食べ物ならないぞ~」

 勇者が酒場に入ると、カウンターで座っているスキンヘッドの男が、見もしないで面倒くさそうな声を出す。

「オヤジ。酒を樽でおごってもらいに来たよ」
「あんたは……」

 勇者の発言に、オヤジは「なんだこいつ」と振り返るが、勇者の顔を見ると立ち上がって近付く。

「戻って来たのか!」
「ああ」
「それで、姫騎士様は……」
「大丈夫だ。安全な場所でかくまっているよ」
「おお! 死んだと聞いたが、生きてなさったのか!!」
「死んだ? 誰がそんな事を言ったんだ?」
「大きな爆発があっただろ? 魔族の非道な兵器に巻き込まれたと、長兄様が言っていたんだ」
「爆発か……」
「そんな所で立ってないで座れ」

 オヤジは勇者をカウンターに誘導して自分も中に入る。それから棚の奥をゴソゴソして酒瓶を取り出すと、コップに注いで勇者の前に置く。

「奢りだ。と言っても、樽で出せるほど余裕がなくてな。いまは一杯で我慢してくれ」
「別に酒を飲みに来たわけじゃないんだ」
「そうなのか?」
「長兄の居場所に心当たりないか?」
「長兄様か……。そんな事を聞いてどうするんだ?」
「姫騎士と仲が悪いみたいだから、話し合いをしてもらおうとな」
「確かに……一緒にいる姿を見たとか、あまり聞かないな。だが、遅かったな。兵士を集めると言って爆発があった日に、帝都に帰ったぞ」
「帝都にか~」
「次兄様なら隣町に居るから、そっちに行ったらどうだ?」
「まぁ気が向いたら会いに行くよ。それより、兵士も居ないみたいだけど、みんな何処に行ったんだ?」
「ああ。あいつらか……」

 オヤジいわく、次兄は魔族討伐の兵士を連れて、ウーメラの町に旅立ったとのこと。その時、町の食糧をほとんど徴収され、町の者達は人族の領域に帰ろうかと考えているらしい。
 だが、それも難しい。森には魔獣が出るので、護衛の居ない今、戻る事も出来ずに途方に暮れているとのこと。

「それじゃあ、食べ物はどうしているんだ?」
「俺たち飲食店が隠し持っていた物を皆に配っているが、それもすぐに切れるだろうな……」
「そっか……」

 勇者は苦しそうに話すオヤジを見て考え込む。しばらくの沈黙の後、勇者は口を開く。

「さっき言ってた爆発……長兄が姫騎士を殺そうとしたと言ったら、信じられるか?」
「長兄様がか!?」
「それに、魔族の侵攻は王族の自作自演だったと言ったら?」
「まさかそんなこと……」
「まぁ信じられないだろうな」

 勇者の言葉に、オヤジは頭を撫でながら考え込む。

「いや……自作自演の噂はあった。突如、魔族に襲撃されたのに、あの場に大規模な軍隊が集まり、誰も魔族を見ていなかったんだ」
「その噂は事実だ。その町で暮らしていた者の話も聞いた。姫騎士も嘘で踊らされていた事に後悔して、死のうとしたんだ」
「姫騎士様が……どうしてお前は、そこまで詳しく知っているんだ?」

 オヤジの質問に、勇者は酒を一気に飲み干し、声を出す。

「俺は、魔族に協力している人族だ」
「魔族に!?」
「テレージア。出て来てくれ」
「は~い」
「よ、妖精??」

 勇者がショルダーバッグを開けると、テレージアはパタパタと姿を現す。

「見ての通り妖精だ。それに魔界には、エルフもドアーフも魔族に助けられて暮らしている」
「魔族って、野蛮なんじゃないのか?」
「人族より野蛮じゃないわよ。千年間、戦争もしないで平和に暮らしていたみたいよ」
「喋った!」
「喋れるわよ!」

 どうやらオヤジは、妖精に免疫がないようだ。そのせいでテレージアがご機嫌斜めになり、宥めるのに時間を取られる勇者であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...