攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
110 / 187
11 人族軍 撤退

109

しおりを挟む

 人族兵を虐殺する魔獣から逃げ切り、死の山の近く、崖の間際で気の緩んだ長兄は笑みをこぼす。それに釣られてウッツも笑うが、気持ち悪い笑い方なので、長兄は不思議に思う。

「くふっ……くふふふ」
「変わった笑い方だな」
「くふふ……失礼しました。くふふふふ」
「いや、いい。気にするな」
「いえ……もっとあなたは気にしたほうがいいと思いますよ」
「……どういう事だ?」

 笑い声と共にウッツの口調が変わった事で、長兄はいぶかしむ。

「ほら。聞こえて来ませんか?」
「……何をだ?」

 長兄の質問に、ウッツは答えないが、耳を済ませば答えは聞こえて来る。

 地響きと悲鳴だ。

 死の山手前で止まっていた魔獣が動き出し、兵士を殺しながら死の山に向かって来ている。

「安全地帯ではなかったのか!?」
「ここは死の山と呼ばれる場所ですよ? 安全なんてあるわけがありません」
「に、逃げるぞ!!」
「逃げ場なんてありません。ここは命を吸い取る死の山なのですからね。まぁ実際には、命を奪うのは魔獣で、血と魂を補完するのが死の山の機能なんですがね」
「なんだと……」

 饒舌じょうぜつなウッツの語りに、ここでようやく長兄は、ウッツを疑いの目で見る。

「お前は……何者だ?」
「そうですね。私は案内人……もしくは、使いってところですか」
「案内人? 誰の……」
「あなたが思っている通りですよ」

 ウッツの言い分に、長兄は死の山を見る。

「正解です。くふふふ」
「何の為に……」

 そして、長兄を連れて来た理由を聞こうと振り返ると、兵士をくわえて血をしたたらせる魔獣達に取り囲まれて絶句する。

「何の為にでしたね……あなたには、依代よりしろになっていただきたく、連れて来た所存です」
「依代……」
「この死の山の機能……いえ、森の機能はですね……」


 ウッツはとうとうと理由を語り、長兄に言い聞かせ終わると、背中から真っ黒な羽を生やす。
 そうして、長兄を抱き抱えて死の山に向けて飛び立つのであった。


  *   *   *   *   *   *   *   *   *


 場所は変わり、帝都……

 魔界侵略に出兵した者が逃げ帰って来たと、城にまで噂が聞こえて来た。

「ラインホルトが失敗したのか……」

 執務室で宰相を前に、皇帝は静かな怒りを持って呟く。すると宰相は、やや大きな声で返事をする。

「勇者サシャが裏切ったようですね。ですから私は反対したのです!」
「宰相……貴様の思い通りに失敗した余を、嘲笑あざわらうがよい」
「め、滅相もありません! 私は皇帝陛下に忠誠を永遠に誓っておりますゆえ、その様な事は致しません」
「フンッ……」

 皇帝の発言に、宰相は冷や汗を垂らす。当然だ。皇帝は言葉とは裏腹に、表情は冷たく、一言でも間違えば宰相の首は、この場で飛んでいただろう。

「まずは情報だ。勇者、ラインホルト、クリスティアーネの同行を探れ」
「は、はい! ……ゲーアハルト殿下は宜しいのでしょうか?」
「よい。生きていても役に立たん」
「しかし、帝国の血が……」
「そんなもの、余が生きているのだからいくらでも増やせる! さっさと行け!!」
「はっ!」

 こうして宰相は、逃げ帰って来た兵士を捕らえては尋問し、一時幽閉する。だが、たいした情報も出ずに日々が過ぎて行く……


 一週間ほど経ち、一通りの聞き取りを終えた宰相は、情報をまとめて皇帝と執務室で話し合う。

「ラインホルト殿下は、死の山に向かったようですね」
「ああ……魔獣を連れ帰る、か……」
「ご心配かと存じますが、殿下ならば必ずや、やり遂げるでしょう」
「どうだかな……。それより、クリスティアーネが進軍するまで待っているわけにもいかん。兵の準備を急げ」
「勇者サシャに怖れて逃げ出した兵をですか……従属魔法を掛けたほうが良さそうですね」
「任せる」
「それと、古代兵器を復活させてはいかがでしょうか?」
「古代兵器か……」


 皇帝は髭を触り、長考する。

 その古代兵器とは、帝都城の地下に眠る兵器。千年より古い伝承で失伝していたようだが、王族にはお伽噺とぎばなしとして伝わっていた。

 万の敵を討ち滅ぼし、帝国に、万の希望をもたらした神。

 さすがに皇帝もそんなお伽噺を信じていなかったが、勇者召喚後、宰相が石板を発見したと耳打ちした。
 その石板は古く、読める箇所が少ない。だが、「兵器、万の死者、万の?望、神」と書かれており、それと城にある地下空間の入口が明確に記されていた。

 長兄が魔界に旅立った後、発掘調査を開始し、宰相の操る騎士によって扉の発見に至った。
 その扉にも文字が書かれていたようだが、罠の魔法陣があったので、その衝撃で文字が消えたと宰相から報告を受ける。

 宰相から諸々の報告を受けた王は、近衛兵と共に扉を潜り、土から出た顔のような大きな物と、それを囲むように設置された魔法陣を発見した。
 もちろん不思議な物の発見なので調査を開始したが、魔法陣に入った者は倒れ、息絶える事となった。
 二人の死者を出した皇帝は、危険な代物だと判断したが、宰相はある事に気付いたと言って引き止める。

 兵器の起動には、人間の命が必要だと……

 事実、魔法陣の一部が丸く光を灯し、百個ほどある丸い模様を光らせれば発動するかのように思われた。


 皇帝は長く考え、その危険な物に一縷いちるの期待を抱く。

「数万の兵だけでは勇者を止められないだろう……。ただちに犯罪奴隷の命の注入を開始しろ。ただし、最後のひとつを残し、待機させるのだ!」
「はっ! 仰せのままに……」

 宰相は仰々しく返事をし、執務室から出ると扉を静かに閉める。そして……

「くふっ……くふふふ」


 怪しく笑みをこぼし、地下空間に向かうのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...