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19 追憶(無力)
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しおりを挟むサシャとタウロスの持つ刀と金棒がぶつかり、辺りには爆音と爆風が吹き荒れる。
力は互角……とは行かず、お互いの強化魔法は互角だったのだが、タウロスの体重と地力の差があった為、サシャは力負けして吹き飛ばされる。
真後ろにいた勇者は、サシャの邪魔にならないように、同じ速度で後ろに飛んだようだ。
サシャは力負けするとわかっていたので、飛ぶ方向を調整して宙に浮いと止まると、刀を鞘に戻して両手に魔力を集める。
「どりゃりゃりゃりゃ~!!」
そして【炎弾】を数十発撃ち込む。その炎の玉は、全てタウロスに着弾。一瞬で炎に包まれる。
「効か~ん!!」
しかしタウロスは金棒を振り回し、炎を吹き飛ばした。
「チッ……町中じゃ、大きい魔法はぶっぱなせないしぃ……そうだ! いいこと思いついたしぃ。【炎刀】だしぃ!」
サシャは思い付きで魔法を唱える。普段は剣に魔力を纏わせて強度を上げていたので、その応用で刀に炎を纏わせたようだ。
「あつっ! 熱いしぃ!!」
サシャの使った魔法で原型を留めているだけでも凄い代物なのだが、マジックアイテムでもない普通の刀では、熱が柄にまで伝わってしまったようだ。
仕方なく、防御結界を手に厚く張る事で耐える事ができたが、魔法を何種類も使ったせいで空中浮遊魔法の制度が悪くなり、地上に降り立つ事になる。
タウロスは自爆しているサシャを「何してんだこいつ?」と見ていたが、戦いの場で隙を見せるほうが悪いと、サシャの着地を狙う。
「死ね! モォォォ!!」
そして大振りの一撃。金棒が着地間際のサシャを襲う。
その刹那、サシャは右に90度回った。
「ぐっ……ぎぎ……」
サシャが回ったせいで、真後ろに付きまとっていた勇者に金棒が当たる。驚く事に、サシャは勇者を盾に使ったのだ。
勇者も今回は危険を感じて腕でガード。スキル【頑丈】に付随された【不動】で爆発にも似た衝撃にも一歩も下がらない。プラス、防御力を上げるスキル【根性】を発動させ、ダメージを減らしている。
勇者がタウロスの金棒を受け止めれば、当然隙が生まれ、サシャは踊るように足を斬り付けて通り過ぎた。
斬激音はひとつであったが、五回同じ所を斬り付けたようだ。炎で攻撃力を上げた刀で深く斬られた足は、半ばまで切断されて傷口は炭となる。その攻撃でタウロスは膝を突くのであった。
「くっ……これしき……」
「へ~。まだ立てるんだ~」
「ナメるな~! モォォォ!!」
超速回復。タウロスは魔力を回復に回して傷口を治すが、炭となった細胞のせいで、本来の速さで戻らない。それでも歩くには支障が無くなると、痛みに耐えて金棒を振るう。
しかし、先ほどまでの体のキレはなく、サシャに追い詰められていく。
サシャは金棒がくれば、背を向けて勇者でガード。タウロスが一瞬止まった隙に炎の刀を踊りながら振るう。
幾度も来る金棒は、勇者にもう効かない。笑ってサシャの戦いを見ている。効かない理由は、スキル【雑草魂】。自身を傷付ける事ができる攻撃を一度でも受ければ、体がそれに慣れてダメージを無効化できるまで強くなる。
勇者を殺したければ、初見の攻撃、一発目で殺さなければ死ぬ事は無いのだ。サシャがいつも攻撃するから、その都度、強くなる勇者を一撃で殺せる者が居ればだが……
「ラスト! 【炎の舞い】だしぃ!!」
タウロスの攻撃は勇者で止め、サシャは四肢から斬り刻み、動きの鈍ったところにトドメを放つ。
その舞いは、いつもより鋭く速い。
この戦闘で、サシャはレベルアップしたのだ。
サシャの舞う軌跡は紅い線が残り、一筆書きで空間が塗りつぶされ、紅い球となる。
その中は灼熱。タウロスは傷を治す事もできず、倒れる事も許されない。そうして紅い球体が消え去った頃には、立ったまま全身が炭となったタウロスの姿があった。
まだ辛うじて息のあるタウロスは、最後の力を振り絞って声を出す。
「くははは。我の負けだ。だがな、魔王軍は強い。我を捨てゴマにできる程にな」
「四天王最強が捨てゴマ??」
「そうだ。我は四天王最強だが、新四天王最弱にすら遠く届かない」
「はあ!? あんたより強い奴が四匹もいんの!?」
「魔王様を忘れているぞ。魔王様は、新四天王を赤子のようにあしらえるほど強い」
「そんなに強いんだ……」
サシャが魔王の強さを想像していると、タウロスは血を吐きながら両膝を地に突ける。
「ぐふっ……我を倒したお前……名は?」
サシャは崩れ落ちるタウロスの質問に、ピースサインで決めポーズをしながら名乗りをあげる。
「美少女勇者、サシャだしぃ!!」
残念ながらサシャの姿は、目も見えなくなった瀕死のタウロスには見えていないが、言葉には反応する。
「勇者サシャか……なるほど。勇者ならば、この力も納得できる」
「美少女勇者だしぃ!」
サシャのツッコミは、もうタウロスに聞こえず、ゆっくりと倒れる。
「願わくば、二百年、魔王様を待ち続けた我も…一緒に戦いたかった……」
そして無念の言葉を残しながら、地面に打ち付けられた体は灰となるのであった。
「う~……っしゃ~! ウチの勝ちだしぃぃぃ!!」
「さすがサシャ……」
「「「「「わああああ」」」」」
タウロスが倒れ、サシャが刀を掲げて勝ち名乗りをあげると、勇者が褒めようとしたが、その声は城壁から戦いを見守っていた兵士に掻き消された。
その声は大きく、サシャは満更でもない顔をして何度かポーズを変える。しかし、体は正直だ。初めての強敵相手に力を使い過ぎたので、ふらついている。
「兄貴。荷車!」
「おう!」
サシャは勇者の出した荷車の上に倒れ込み、そのまま眠りに落ちてしまった。勇者は……寝顔を見たいのか、心配しているのかわからないが、ずっと見つめている。
そうしていると城壁の門が開き、兵士が雪崩のように出て来た。その先頭には、バルトルトとリュディガーの姿があり、双子勇者の元まで辿り着くと声を張りあげる。
『残りはザコだ! 一気に仕留めろ~!!』
「「「「「おおおお!!」」」」」
リュディガーの声を聞いた兵士は各隊事に散って、魔物の殲滅にあたる。バルトルトも向かおうとしたが、リュディガーに止められて双子勇者の元へ残った。
「大丈夫か? 怪我は無いか?」
「疲れて眠ったみたいだ」
「そうか……凄い戦いだったからな。それでお前はどうなんだ?」
「俺? 俺は別になんともない」
「え……嘘だろ? お前のほうが、攻撃にさらされていたじゃないか」
「頑丈だけが取り柄だからな」
バルトルトは勇者を、いつもよりさらに信じられない物を見る目で見る。
「それより、サシャをもっといいベッドで寝かせたいのだが……」
「あ、ああ。ついて来い」
勇者の願いを聞いたバルトルトは城に連れて行き、この国の王様を説得して客室を用意してもらう。そこで勇者はサシャを優しく抱き上げてベッドに寝かし、サシャの寝顔を見つめ続ける。
だが、勇者も強敵の攻撃にさらされ、サシャの動きに合わせて動き続けたので睡魔に襲われ、ベッドの脇で崩れ落ちるのであった。
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