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六章 前世の秘密
34話 今度はオレが迎えに行く番だから side大神 雅(???)
しおりを挟む病室に着くと、ドクターや看護師に囲まれ、懸命な処置を受けているアイツがいた。
心臓を止めるまいと勢いよく何度も胸を圧迫されている。
それは家族が揃うまでの延命措置。あれだけ押されていれば、肋骨も折れているだろう……。助かる見込みのない……ただただ心臓を動かす為だけの行為。
部屋の外にまでけたたましくアラームが鳴り響いている。
先に到着していたのだろう、師範の奥様が部屋の隅で泣き崩れていた。
アイツは一人っ子で、祖父母は既に他界している。これで家族は揃ってしまった。
「先生、もう……結構です。息子を、楽にしてあげてください」
師範は奥様の肩を抱きしめ、苦悶に満ちた表情でドクターに告げた。
続けたところでアイツは返って来ない。それはよくわかっている。……はずだった。
「先生!やめちゃダメだ!コイツ本当に助からないんですか!?さっきまで元気にしてたんです、こんなのおかしい……まだ意識が戻るかもしれ……」
「雅、ありがとう。私が決めた事だ、私を恨んでもかまわない。だから……やめるんだ」
ドクターに縋り付く僕に、師範の優しい声がのしかかる。
息子を救う為にした選択を……恨んでもいいだなんて……。僕が言わせてしまった。
ヨロリとドクターから離れて立ち尽くす。僕にできる事は何一つない……。
ピーーーーーー
さっきまで騒がしく鳴っていたアラームが甲高い音をたてる。
ドクターが何か話しているが、それはきっと僕が一番聞きたくない言葉だ。
そう思った瞬間、身体が勝手に動いていた。病室を飛び出して階段を駆け上る。逃げる様に、その言葉を聞かない為に。
上り切った先の扉を勢いよく開き、出た先は病院の屋上だった。
縁に転落防止の柵が設けられた場所だが、僕は抜け道を知っている。
病院関係者しか通れないフェンスゲートを抜け、換気ダクトが張り巡らされたエリアに入った。ここのダクトの一部が、配置上少し外にはみ出す必要があり、柵に穴を開けて通している。僕ならその隙間を抜ける事が可能だった。
何なく屋上の縁に辿り着き、夜風を浴びながら腰掛ける。
もう僕を遮る物は何もない。五階建ての建物は、容易く僕の希望を叶えるだろう。
冷たい風が沸騰した頭の熱を冷ましてくれるかと期待したが、すぐに治ってはくれない様だった。
「また明日って、約束したじゃねーか……」
「ごめん、君を悲しませたくなかったんだよ。まさかオレの後を追ってくれるなんて思ってなかったんだ」
聞こえるはずのない声と、見えるはずのない姿が見える。お前、そんな所にいたのか……。
「僕はにはお前しかいなかったんだ。当たり前な事言うな」
「あは。流石だね、雅くんは……。かっこ良くて行動力があって……オレは君みたいになりたかった」
それは僕のセリフだ。僕はお前みたいになりたかった。
「お互い、ない物ねだりだったんだな」
「うん。お互い求め合って、なくてはならない相手になってたんだ。それは今も変わらない。今度はオレが迎えに行く番だよね」
「迎えに……?何を……っ」
クラっと目眩がして、座っていた縁から滑り落ちる。伸ばした手は虚しく空を切った。
「雅くん、オレの名前を思い出して。絶対迎えに行くから、君からの合図が欲しい」
「お前の……名前」
そうだ、ずっと感じていた違和感。どうして忘れていたんだ、こんな大事な事をっ……!
「廻瑠!!」
「アーシェ!!」
バリンッと景色が割れて吹き飛び、落下するはずだった身体は、ここ最近の演習で一回り程がっしりとした腕に抱きかかえられている。夜だったはずなのに、急に明るくなって目に優しくない。しぱしぱと瞬き、視界が馴染んでくると、近くに金色と水色が見えた。
「お前……」
「間に合って良かった……迎えに来たよ。まさか自分から深層意識に潜って行っちゃうなんて、もうすぐで戻って来れなくなるところだったんだからね」
おデコを指でツンと弾かれる。痛っ……。
「オレは……どうなって……。お前、廻瑠…… か?」
「そうだよ。正確には違うらしいけど、同じ魂なのは間違いないかな。今はまだ前世の記憶を覚えているけど、女神様曰くすぐに忘れちゃうみたい。今の僕と前のオレは違うから。だから、忘れる前に言っておくね。雅くん、オレを追いかけて来てくれてありがとう。廻瑠の時から君が好きだった。もちろん今も負けないくらいね」
そう……だったのか。嬉しさが込み上げて涙が溢れてくる。あの時素直になっていれば、僕達はまた違った関係だったのかもしれないな。今からでも遅くないだろうか……。
「あ……あぁ……。僕も、お前がずっと好きだった……。今も……好きになっていいのか……?」
「当たり前でしょ。むしろ好きでいてもらわないと困るよね」
「そう……か。お前はずっと言ってくれてたな……待たせてごめん……オレ、お前が好きだ、カイル」
持ち前のイケメンスマイルになったカイルの顔が迫ってきた。
オレからも近付いて、カイルの唇に自分のを押し付ける。
長い間の想いを埋め合う様に、長い長いキスをした。
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