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連載
ウェブ版・ラウルのダンジョンへの旅1(四巻相当)
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四巻に掲載出来なかった、『無限の荒野』から『ラウルのダンジョン』への旅路です。
友人の土の妖精・ラウルから、妹・ミュールのダンジョンが邪妖精に狙われているから守って欲しいと頼まれたノア達(ノア、テリテおばさん、マリル兄ちゃん、リリィ、ミミィ、ユーリ、カウラ、ご隠居、満月先生)は、『転移の魔法陣』を通ってダンジョンを目指します。
ウェブで連載していたものなので、なるべく直しますが多少書籍と矛盾する点があります。ごめんなさい。
◇◇◇
「『無限の荒野』には、あちこちに通じる『転移の魔法陣』があるんだよ」
オイラの言葉に、カウラとブルさん、ご隠居に満月先生が目を大きく見開いた。
「『転移の魔法陣』って、大賢者ルル様ですら未だ実現させていない、あの幻の!?」
「ノアちゃんや、もう年かのぅ、『転移の魔法陣』と聞こえた気がしたんじゃが?」
「うん、『転移の魔法陣』ってなんでかアダマンタイトのニオイがするんだよね。ほら、金属って例えば鍋で沸かした水は鉄臭いとか、独特のニオイがするでしょ?」
「アダマンタイト!? そのニオイさえ分かれば、僕でも『転移の魔法陣』を見つけられるってことだよね!?」
「こりゃあなんともまぁ、大ごとじゃのぉ」
「でも守りの魔獣がいるし、カウラとかご隠居はあんまり積極的に見つけに行かない方がいいかも」
「は!? 守り!? 魔獣!?」
取り乱しかけた皆の前で、テリテおばさんが大きくパンッパンッと手を叩いた。
「アタシも最初に聞いたときにゃ驚きましたけどね、話すと長くなるでしょうから詳しい話は今夜にでもしてくださいな。
間に合わなかったら大ごとだ。
ほらノアちゃん、道案内、道案内!」
確かに今一番重要なのは一刻も早くダンジョンへ行くこと。オイラは慌ててと、テリテおばさんの前へと走って行った。
ぐわっしゃぁあああああんっっっっ
「……。
うわー、すごーい」
何だか棒読みのセリフしか出てきません。
オイラが案内した転移の魔方陣。
その前で。
テリテおばさんが殴り飛ばしたヘカトンケイル(百腕巨人)が、洞窟の壁へと激突し、泡を吹いて気絶していた。
確かに思った。
ご隠居に満月先生、ミミィもいるし、転移の魔方陣の守りの魔獣を速さにまかせて避けて通るのは厳しいかなー、と。
でも。
まさかヘカトンケイルを殴り飛ばすとは……。オイラにはとてもじゃないけど真似できない。
「さすがSクラス魔獣だね。
威嚇じゃ気絶してくれなかったから、直接殴るしかなかったよ。
ここを守ってるだけなのに、悪いことしたかねぇ」
うん。
なんだか基準がおかしいです。
オイラでさえ呆気に取られたんだから……
「あは、あははは」
「凄い、凄いよテリテさん!」
カウラは乾いた声で笑ってるし、ユーリとミミィは目を輝かせて黄表紙のヒーローを見るような目でテリテおばさんを見つめている。
パニックになっていないだけマシだろうか?
「いやあ、冬のテリテの戦いがこの目で見られるとはのぉ。
聞きしに勝る女傑じゃわい。
なんまんだぶなんまんだぶ」
「マーシャルが惚れるわけですな。
私だとて今少し若かったら」
なぜかご隠居と満月先生はテリテおばさんを拝んでいるし。
「俺、俺……生きてんのか?
夢か?
ヘカトンケイルが……。
出会っちまったら、確実に死ぬSクラス魔獣が……
拳の一撃で……」
ブルさんは灰になっている。
横から風が吹けば、さらさらと崩れていきそうだ。
「母ちゃん、これって食えんの?」
「マリル、さすがに食べる気しない」
「自分の仕事を頑張ってただけなんだ、畑荒らしと一緒にするんじゃあないよ。
申し訳ないけど、眠ってる間に、ちょこっと通らせてもらおう」
慣れというかなんというか。
マリル兄ちゃんとリリィ、テリテおばさんは通常営業だ。
ついでに言うと黒モフも、オイラの首元でうつらうつらしている。
「じゃあ、みんな、魔方陣の上に乗って」
せぇーの、で魔方陣を踏むと、魔方陣が淡い赤色に輝く。
「あ、言い忘れてたけど、転移した先にも、守りの魔獣がいるから」
「えぇっ!?」
「そーいうことは早く言えよっ」
マリル兄ちゃんにつっこまれている間にも、転移は終了し、石造りの乾いた空間に出る。
「ここは……」
『ノっアーーー!
久しぶりじゃなーい!』
背後から突進してくるニオイを感じて、オイラは慌てて近くにいたユーリとカウラをつかんでマリル兄ちゃんの方へと放り投げた。
多分、巻き込まれたら大怪我じゃすまない。
「っ! セルケト、毎回イキナリ抱き着かなくても」
『だって最近ヒマだったからー』
転移の瞬間を待ち構えて背後から抱きついてきたのは、サソリの下半身を持つ美しい女性。
緑の髪をおさげにして、茨で編んだ胸当てを付けているだけの、半裸に近い格好だ。
『風の大砂漠』の転移の魔方陣の守り、蠍の女神だった。
「せっ、セルケトって、まさか……」
「知ってるのか、ブルさんとやら?」
ご隠居の問いに、ブルさんはギシギシっとうなずく。
「さっきのヘカトンケイルと同じ、Sランクの魔獣です……
見たら、まず生きては帰れないはずの……」
『ノアってば相変わらずプリティねー。
前回よりだいぶレベルもあがったんじゃない?
何か月もご無沙汰なんてイケズなんだからー』
「なんかずいぶんフレンドリーな魔獣だね?」
ユーリは立ち上がって服のホコリを払いながら首を傾げた。
対して、カウラは素早く身を起こしたものの、青ざめている。
「ユーリ……フレンドリーとかじゃなくて、その魔獣はしゃべってるんだよ……? 分かってる?」
「ああ、そういえば。
しゃべる魔獣なんて珍しいよね。リムダさんくらい?」
「竜は混ぜないで。
人の言葉をしゃべれるってことは、それだけ知能が高い、さらにレベルもランクも高い、僕らを簡単に殺せるだけの実力を持っている……!」
微かに震えながらも身構えるカウラに、無遠慮にセルケトがずいっと詰め寄る。
『ちょっと、さっきから聞いてれば、人のこと、魔獣、魔獣って。
失礼しちゃうわ』
ぷんぷん、とあえて口で言うセルケトは、かわいさ満点だ。
ちょっとあざといけど。
「殿下がた。
さっきのヘカトンケイルもそうですが、Sランクに分類される魔獣は、魔獣と土地神の中間に区分されるんですよ。
人に仇なせば魔獣扱い、人にとって益となれば神さま扱い。
まあ、人間なんてのは勝手な生き物で」
一周周って突き抜けたのか、ブルさんが半ば機械的に解説してくれる。
『あら、人間の区分てそうなの?
私たちにはれっきとした区別があるんだけど。
ぶっちゃけ、親と同じ格好の子どもしか産まれないが魔獣。
親とぜんぜん似てない子どもも産まれるのが神よ?
さらに言うなら、親がいない場合も多いわね』
「親がいなくても産まれるんだ」
『そうよ。
ぶっちゃけ、万人単位の人間が神だって信じれば、そこらのわらしべ一本だって神になれるのよ。
神ってのはエネルギーの集合体だからね』
その場合は、人間が親ってことになるのかな?
「ってことは、セルケト……さん?は、神サマ?」
ユーリの問いに、セルケトは腕を組んで大きく頷いた。
『そうよ。まあ、創造の神とかと比べると、位は低いけどねー。
これでも砂漠の民には信仰されてるんだから。
ま、私の身の上話はさて置いて。
今日はいったいどうしたのよ?
こんな大人数で。
あっちのヘカトンケイルはどうしたの?
ノアだけならともかく、そっちのボーヤたちがアイツをすり抜けて通る、なんてできっこないと思うんだけど?』
「あれ、セルケト、ヘカトンケイルと会ったことがあるの?」
転移の魔方陣の守りも、転移の魔方陣を使うことがあるんだろうか?
『んーっとね。
そのへんは、禁則に触れるかなー』
「禁則?」
カウラが不思議そうに首をかしげる。
その横で、ユーリが必死に転移の魔方陣を解読しようとしている。
魔法が得意みたいだから、自分で再現してみようとしてるのかな?
出来たとしても、結局、ヘカトンケイルの魔方陣につながるだけな気がするけど……
『魔方陣の守りは、幾つかの恩恵を受けられるのよ。
その一、倒されても復活出来る。
その二、やってる間は寿命が減らない。
その三、だんだんパワーアップ出来る。
でもその分、幾つか禁則があるの。
その一、魔方陣について語る。
その二、無許可の人間を無条件に通す。
その三、魔方陣の知識を持ち出す。
まあ、他にもなんだかんだあるわけだけど……
だからね、それはアウト!』
セルケトが、ミミィがこっそりと書き写していた紙を取り上げると、手の中でぶわっと燃え上がった。
キラキラと散っていく燃えカスに、ミミィが情けなさそうな顔をする。
「そりゃないよ、こんな見事な魔道具を目の前にして指ぃくわえて見逃せってのかい?」
『だったら自分でたどり着くことね。
それだったら、いくら……でも、とがめないと思うわ。
他人が苦労して作った魔術の結晶を、ただでかすめ取ろうなんて、いい根性してるじゃない。
で、禁則その二、なんだけど?
いっくらノアでも、これだけの人数、タダで通してあげちゃうわけには、いかないわぁ』
セルケトが、ニンマリと黒い笑顔を向ける。
「どうして?
ノアは通してたんでしょ?
ノアと僕らの何が違うっていうわけ?」
カウラの袖を、慌ててブルさんが引っ張る。
「でっ、殿下!
まずいって、セルケト嬢にそんなこと言っちゃあ。
こちらがその気になっちまったら、俺が全力で戦ったとして、殿下とユーリ様の逃げる間を、果たして何秒稼げるか……」
『勘違いしてもらっちゃ困るわね。
私はノアとも毎回戦ってるのよ。
ただ、毎回、ノアが私の上を行ってるだけ。
そんな警戒しなくても、もちろん、そっちのお嬢ちゃんもボーヤも、逃がしてあげるつもりは、ないから』
紫色の薄い唇を、セルケトのとがった舌がゆっくりとなめる。
それだけで、ブルさんは顔色を失い、満月先生は刀のつかに手をかけた。
ゆっくりと、周囲に緊迫した雰囲気が満ちる。
「あ、そうだ。
セルケトにお土産あったんだ」
のほほんと、忘れてた、と言いながら、オイラはセルケトの手のひらに、六角形の金属を乗せた。
『へぇ、きれいね。
銀白色の……なんの結晶?』
「毒」
「「「!?」」」
みんながギョッとしたようにオイラを見つめる。
「テルルっていう金属。
キレイでしょ?」
『金属抽出』のスキルを使うと、鉱石にごくわずかに含まれる金属も抽出できる。
珍しい金属は、同じ金属同士まとめてとっておいたんだけど、これには毒性があった。
「き、キレイって。
確かにキレイだけど」
カウラがおずおずとセルケトを見やる。
機嫌を損ねちゃまずい相手に、なんてことをするんだとその目が語っている。
『ありがとう、ノア。
確かに見たことのない毒だわ』
うっとりと。
セルケトはテルルに口づけると、甘美な表情で、ごくりと飲み込んだ。
後書き
昨日産まれたF1の子牛は、珍しく全身真っ黒でした。たいてい微妙に白が出るのに。親も黒がちだったからかな?
牛雑学・牛だってお産の前後はむくむ。特にお腹の下あたり。産後一ヶ月ほどで解消。奥さん、アナタだけではありませんよ。
友人の土の妖精・ラウルから、妹・ミュールのダンジョンが邪妖精に狙われているから守って欲しいと頼まれたノア達(ノア、テリテおばさん、マリル兄ちゃん、リリィ、ミミィ、ユーリ、カウラ、ご隠居、満月先生)は、『転移の魔法陣』を通ってダンジョンを目指します。
ウェブで連載していたものなので、なるべく直しますが多少書籍と矛盾する点があります。ごめんなさい。
◇◇◇
「『無限の荒野』には、あちこちに通じる『転移の魔法陣』があるんだよ」
オイラの言葉に、カウラとブルさん、ご隠居に満月先生が目を大きく見開いた。
「『転移の魔法陣』って、大賢者ルル様ですら未だ実現させていない、あの幻の!?」
「ノアちゃんや、もう年かのぅ、『転移の魔法陣』と聞こえた気がしたんじゃが?」
「うん、『転移の魔法陣』ってなんでかアダマンタイトのニオイがするんだよね。ほら、金属って例えば鍋で沸かした水は鉄臭いとか、独特のニオイがするでしょ?」
「アダマンタイト!? そのニオイさえ分かれば、僕でも『転移の魔法陣』を見つけられるってことだよね!?」
「こりゃあなんともまぁ、大ごとじゃのぉ」
「でも守りの魔獣がいるし、カウラとかご隠居はあんまり積極的に見つけに行かない方がいいかも」
「は!? 守り!? 魔獣!?」
取り乱しかけた皆の前で、テリテおばさんが大きくパンッパンッと手を叩いた。
「アタシも最初に聞いたときにゃ驚きましたけどね、話すと長くなるでしょうから詳しい話は今夜にでもしてくださいな。
間に合わなかったら大ごとだ。
ほらノアちゃん、道案内、道案内!」
確かに今一番重要なのは一刻も早くダンジョンへ行くこと。オイラは慌ててと、テリテおばさんの前へと走って行った。
ぐわっしゃぁあああああんっっっっ
「……。
うわー、すごーい」
何だか棒読みのセリフしか出てきません。
オイラが案内した転移の魔方陣。
その前で。
テリテおばさんが殴り飛ばしたヘカトンケイル(百腕巨人)が、洞窟の壁へと激突し、泡を吹いて気絶していた。
確かに思った。
ご隠居に満月先生、ミミィもいるし、転移の魔方陣の守りの魔獣を速さにまかせて避けて通るのは厳しいかなー、と。
でも。
まさかヘカトンケイルを殴り飛ばすとは……。オイラにはとてもじゃないけど真似できない。
「さすがSクラス魔獣だね。
威嚇じゃ気絶してくれなかったから、直接殴るしかなかったよ。
ここを守ってるだけなのに、悪いことしたかねぇ」
うん。
なんだか基準がおかしいです。
オイラでさえ呆気に取られたんだから……
「あは、あははは」
「凄い、凄いよテリテさん!」
カウラは乾いた声で笑ってるし、ユーリとミミィは目を輝かせて黄表紙のヒーローを見るような目でテリテおばさんを見つめている。
パニックになっていないだけマシだろうか?
「いやあ、冬のテリテの戦いがこの目で見られるとはのぉ。
聞きしに勝る女傑じゃわい。
なんまんだぶなんまんだぶ」
「マーシャルが惚れるわけですな。
私だとて今少し若かったら」
なぜかご隠居と満月先生はテリテおばさんを拝んでいるし。
「俺、俺……生きてんのか?
夢か?
ヘカトンケイルが……。
出会っちまったら、確実に死ぬSクラス魔獣が……
拳の一撃で……」
ブルさんは灰になっている。
横から風が吹けば、さらさらと崩れていきそうだ。
「母ちゃん、これって食えんの?」
「マリル、さすがに食べる気しない」
「自分の仕事を頑張ってただけなんだ、畑荒らしと一緒にするんじゃあないよ。
申し訳ないけど、眠ってる間に、ちょこっと通らせてもらおう」
慣れというかなんというか。
マリル兄ちゃんとリリィ、テリテおばさんは通常営業だ。
ついでに言うと黒モフも、オイラの首元でうつらうつらしている。
「じゃあ、みんな、魔方陣の上に乗って」
せぇーの、で魔方陣を踏むと、魔方陣が淡い赤色に輝く。
「あ、言い忘れてたけど、転移した先にも、守りの魔獣がいるから」
「えぇっ!?」
「そーいうことは早く言えよっ」
マリル兄ちゃんにつっこまれている間にも、転移は終了し、石造りの乾いた空間に出る。
「ここは……」
『ノっアーーー!
久しぶりじゃなーい!』
背後から突進してくるニオイを感じて、オイラは慌てて近くにいたユーリとカウラをつかんでマリル兄ちゃんの方へと放り投げた。
多分、巻き込まれたら大怪我じゃすまない。
「っ! セルケト、毎回イキナリ抱き着かなくても」
『だって最近ヒマだったからー』
転移の瞬間を待ち構えて背後から抱きついてきたのは、サソリの下半身を持つ美しい女性。
緑の髪をおさげにして、茨で編んだ胸当てを付けているだけの、半裸に近い格好だ。
『風の大砂漠』の転移の魔方陣の守り、蠍の女神だった。
「せっ、セルケトって、まさか……」
「知ってるのか、ブルさんとやら?」
ご隠居の問いに、ブルさんはギシギシっとうなずく。
「さっきのヘカトンケイルと同じ、Sランクの魔獣です……
見たら、まず生きては帰れないはずの……」
『ノアってば相変わらずプリティねー。
前回よりだいぶレベルもあがったんじゃない?
何か月もご無沙汰なんてイケズなんだからー』
「なんかずいぶんフレンドリーな魔獣だね?」
ユーリは立ち上がって服のホコリを払いながら首を傾げた。
対して、カウラは素早く身を起こしたものの、青ざめている。
「ユーリ……フレンドリーとかじゃなくて、その魔獣はしゃべってるんだよ……? 分かってる?」
「ああ、そういえば。
しゃべる魔獣なんて珍しいよね。リムダさんくらい?」
「竜は混ぜないで。
人の言葉をしゃべれるってことは、それだけ知能が高い、さらにレベルもランクも高い、僕らを簡単に殺せるだけの実力を持っている……!」
微かに震えながらも身構えるカウラに、無遠慮にセルケトがずいっと詰め寄る。
『ちょっと、さっきから聞いてれば、人のこと、魔獣、魔獣って。
失礼しちゃうわ』
ぷんぷん、とあえて口で言うセルケトは、かわいさ満点だ。
ちょっとあざといけど。
「殿下がた。
さっきのヘカトンケイルもそうですが、Sランクに分類される魔獣は、魔獣と土地神の中間に区分されるんですよ。
人に仇なせば魔獣扱い、人にとって益となれば神さま扱い。
まあ、人間なんてのは勝手な生き物で」
一周周って突き抜けたのか、ブルさんが半ば機械的に解説してくれる。
『あら、人間の区分てそうなの?
私たちにはれっきとした区別があるんだけど。
ぶっちゃけ、親と同じ格好の子どもしか産まれないが魔獣。
親とぜんぜん似てない子どもも産まれるのが神よ?
さらに言うなら、親がいない場合も多いわね』
「親がいなくても産まれるんだ」
『そうよ。
ぶっちゃけ、万人単位の人間が神だって信じれば、そこらのわらしべ一本だって神になれるのよ。
神ってのはエネルギーの集合体だからね』
その場合は、人間が親ってことになるのかな?
「ってことは、セルケト……さん?は、神サマ?」
ユーリの問いに、セルケトは腕を組んで大きく頷いた。
『そうよ。まあ、創造の神とかと比べると、位は低いけどねー。
これでも砂漠の民には信仰されてるんだから。
ま、私の身の上話はさて置いて。
今日はいったいどうしたのよ?
こんな大人数で。
あっちのヘカトンケイルはどうしたの?
ノアだけならともかく、そっちのボーヤたちがアイツをすり抜けて通る、なんてできっこないと思うんだけど?』
「あれ、セルケト、ヘカトンケイルと会ったことがあるの?」
転移の魔方陣の守りも、転移の魔方陣を使うことがあるんだろうか?
『んーっとね。
そのへんは、禁則に触れるかなー』
「禁則?」
カウラが不思議そうに首をかしげる。
その横で、ユーリが必死に転移の魔方陣を解読しようとしている。
魔法が得意みたいだから、自分で再現してみようとしてるのかな?
出来たとしても、結局、ヘカトンケイルの魔方陣につながるだけな気がするけど……
『魔方陣の守りは、幾つかの恩恵を受けられるのよ。
その一、倒されても復活出来る。
その二、やってる間は寿命が減らない。
その三、だんだんパワーアップ出来る。
でもその分、幾つか禁則があるの。
その一、魔方陣について語る。
その二、無許可の人間を無条件に通す。
その三、魔方陣の知識を持ち出す。
まあ、他にもなんだかんだあるわけだけど……
だからね、それはアウト!』
セルケトが、ミミィがこっそりと書き写していた紙を取り上げると、手の中でぶわっと燃え上がった。
キラキラと散っていく燃えカスに、ミミィが情けなさそうな顔をする。
「そりゃないよ、こんな見事な魔道具を目の前にして指ぃくわえて見逃せってのかい?」
『だったら自分でたどり着くことね。
それだったら、いくら……でも、とがめないと思うわ。
他人が苦労して作った魔術の結晶を、ただでかすめ取ろうなんて、いい根性してるじゃない。
で、禁則その二、なんだけど?
いっくらノアでも、これだけの人数、タダで通してあげちゃうわけには、いかないわぁ』
セルケトが、ニンマリと黒い笑顔を向ける。
「どうして?
ノアは通してたんでしょ?
ノアと僕らの何が違うっていうわけ?」
カウラの袖を、慌ててブルさんが引っ張る。
「でっ、殿下!
まずいって、セルケト嬢にそんなこと言っちゃあ。
こちらがその気になっちまったら、俺が全力で戦ったとして、殿下とユーリ様の逃げる間を、果たして何秒稼げるか……」
『勘違いしてもらっちゃ困るわね。
私はノアとも毎回戦ってるのよ。
ただ、毎回、ノアが私の上を行ってるだけ。
そんな警戒しなくても、もちろん、そっちのお嬢ちゃんもボーヤも、逃がしてあげるつもりは、ないから』
紫色の薄い唇を、セルケトのとがった舌がゆっくりとなめる。
それだけで、ブルさんは顔色を失い、満月先生は刀のつかに手をかけた。
ゆっくりと、周囲に緊迫した雰囲気が満ちる。
「あ、そうだ。
セルケトにお土産あったんだ」
のほほんと、忘れてた、と言いながら、オイラはセルケトの手のひらに、六角形の金属を乗せた。
『へぇ、きれいね。
銀白色の……なんの結晶?』
「毒」
「「「!?」」」
みんながギョッとしたようにオイラを見つめる。
「テルルっていう金属。
キレイでしょ?」
『金属抽出』のスキルを使うと、鉱石にごくわずかに含まれる金属も抽出できる。
珍しい金属は、同じ金属同士まとめてとっておいたんだけど、これには毒性があった。
「き、キレイって。
確かにキレイだけど」
カウラがおずおずとセルケトを見やる。
機嫌を損ねちゃまずい相手に、なんてことをするんだとその目が語っている。
『ありがとう、ノア。
確かに見たことのない毒だわ』
うっとりと。
セルケトはテルルに口づけると、甘美な表情で、ごくりと飲み込んだ。
後書き
昨日産まれたF1の子牛は、珍しく全身真っ黒でした。たいてい微妙に白が出るのに。親も黒がちだったからかな?
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