レベル596の鍛冶見習い

寺尾友希(田崎幻望)

文字の大きさ
19 / 133
番外編1

電子版特別SS・エスティの芋掘り?

しおりを挟む
電子版用ssとして書きましたが、発売時期がずれてしまったのでこちらで公開します。


 今日は見事な五月晴れだ。
 五月といえば、鯉のぼり? 五月人形? ちまき? 柏餅?
 いやいや農家にとっての五月は、新じゃがの季節。
 え?もちろん、他の作物だってあるよ?
 タケノコが生えてくるのだって五月だしね。
 でも、イヌ科は基本的にイモ系大好きなんだよね。
 じゃが芋の本格的な収穫は梅雨の前か後で、もうちょっと先になるんだけれど。農家は自分たちが食べる分だけ少しずつフライングして掘り始める。三月に植えたじゃが芋の葉っぱの下には、もうちゃんと小さな芋が出来ているし、この時期のみずみずしい皮の薄い小さな芋も、旬の味って感じがしてオイラは好きだ。
 特に掘りたては甘くてとても美味しい。
 ちなみにこの時期に掘った芋は傷みやすいから、ほとんど流通することはない。
 農家の醍醐味ってやつだ。
 オイラは農家じゃないけれど、芋植えにも芋掘りにも駆り出されるんだもの、農家の贅沢を味わったって罰は当たらないと思う。

「ほぉ、一面の緑じゃな。『ぽてと』はどこにあるのじゃ?」

 例のごとく付いて来たエスティが、腰に手を当てて畑を見回した。

「ここにあるのは、フライドポテトじゃなくて、その原料のじゃが芋だよ。女王さんが好きな、フライドポテトにポテトチップス、肉じゃがにシチュー、じゃが芋を使った料理は多いよ。はりきって収穫してくださいな」

 テリテおばさんに言われて、腕まくりをして張り切るエスティとは対照的に、背後でラムダさんがゴンゴンと柵に頭をぶつけている。

「女王竜が……芋掘り? 私の陛下が畑仕事……」

 そんなラムダさんを歯牙にもかけず、何故か農業にも詳しいセバスチャンさんがエスティに注意している。

「お嬢様、じゃが芋というのはどんな小さな芋でも、畑に残せば芽が出て面倒です。もれなく回収してください。
 この場所には、後でさつま芋を植えるそうですから」

「芽が出る?
 芋というのは種じゃったのか?」

「いえ、種とは別物で……種というのは、両親二人の血を継いでおりますが、芋というのは芽を出して増えるものの、片親の血だけしか引いておらぬのです」

「単性生殖か。
 我と同じじゃの」

「さすがお嬢さま、理解がお早い。
 ただし女王竜とは異なり、単性生殖で増える植物というのは伝染病に弱いのです。全てが同じ個体なわけですから、同じ弱点を持つわけですな。
 ここより遥か北西にある人の国では、その昔、主食にしていたじゃが芋に伝染病が流行り、ほぼ全滅して、人口の半数が餓死したほどだと聞き及んでおります」

「なんと。
 芋で増えられるなら花や種などいらぬではないかと思うたが、意味があるものなのじゃな」

 顎に手を当てて、淡い紫色のじゃが芋の花を見つめるエスティの後ろで、ラムダさんが『女王竜と芋が同じ……芋と……』とか言いながら撃沈している。

「ほらほら、話してないで手を動かしておくんなさいよ」

「任せておけ」

 テリテおばさんの言葉に、勢い込んで畑を掘り返そうとしたエスティが、ふと土の上に転がった、てらてらと緑色に変色したじゃが芋へ目をとめた。
 一週間ほど前に、どれくらい大きくなったかと試し掘りしたときの拾い忘れだ。

「おお、なるほどの。確かに見たことがある気がするのぉ。
 これが『ポテト』になるのか」

 そのまま拾って、ひょいパクッ、と口に放り込んだエスティに、その場にいた全員が目を丸くして慌てる。

「吐いてっ、エスティ、吐き出して!」 

「緑色になったじゃが芋は毒なんだよ、女王さんっ」

「陛下ともあろう方が、地面に落ちているものを食べるなんてっ」

 一人だけなんだか毛色が違う気がするけれど、必死に取りすがるオイラたちを尻目に、エスティは小首をかしげる。

「ジャリジャリしておるぞ。ほんにこれが、あの『ぽてと』になるのかや?」

「生で食べたら米だってジャリジャリだよ!
 それよりペッして!」

「そう慌てるでない、ノア。
 我に人間にとっての毒なぞ効くわけがなかろう」

 その言葉に、ほっと息を吐いたオイラたちは顔を見合わせる。 

「良かった。
 そうか、エスティ、竜だもんね」

「それじゃあ女王さんなら、フグの踊り食いだって出来ちまうかもしれないね」

 ふともらしたテリテおばさんの言葉に、エスティが耳聡く反応した。

「なんじゃ、フグというのは?」

「毒のある魚だよ。毒に当たっても食べたいって言われるくらい美味しいらしいけど」

 高いからオイラは食べたことはないんだよね、と続ける前に、エスティが叫んだ。

「食べたい! 食べたいぞ、我は!」

「いや、フグを捌くには特別な調理免許が必要で、さすがのマリル兄ちゃんも無理だから」

 断ろうとしたオイラに、エスティが満面の笑みを向ける。

「我は、食べたいと申したのじゃ」

 毒のあるフグが普通に流通しているわけはなく、オイラは結局、マツ翁を拝み倒してツテをたどってもらい、何とかフグを入手するはめになった。
 専門の料理人さんまで用意してもらったのに、ぱくりと踊り食いしてみせたエスティの感想は、ピリリとして旨いのぉ、今度は風呂桶一杯食べたい、頼むぞ、というものだった。
 ごめん、マツ翁。
 見た目のごつさに似合わず、ただでさえ苦労性で胃が弱いのに、また胃が痛くなるお願いを聞いてもらう羽目になっちゃった……
 とか思ったけれど、さすがのマツ翁でも風呂桶一杯分の毒魚を用意するのは不可能で、ジェルおじさんのところまで話がいく大事になってしまった。
 もうこの際、竜に毒物が効くのかどうかの臨床実験だと思えば安いもんだ、とのやけくそっぽいジェルおじさんの言葉で、国家予算に臨時補正まで組み込んで、フグ漁の船団が組まれることになった。
 風呂桶いっぱいどころか船でおかわりできるほどのフグを供えられたエスティはご機嫌で、『今の国王は名君じゃな』とかリップサービスをかましていた。

「ふむ、毒がある魚というのは旨いのぉ」

 と、すっかり毒魚にハマったエスティ。
 酒とはまた違った酩酊感が癖になる――って、それ、多少なりとも毒が効いてるんじゃないの?
 竜を毒で倒そう、とかいう人が出ないとも限らないから、言わないけど。

「オニオコゼにイソギンチャク、ヒョウモンダコにアンボイナ、海の生き物には毒があるものが多いの。
 美味美味」

 ご機嫌で各種毒魚をつまんでいるエスティに、ふと、前にルル婆に聞いたことを思い出した。

「そういえばさ、生物最強の毒をもってるのって、クラゲなんだってよ。
 キロネックスっていう。
 人を死に至らせるまで、確かアンボイナは最短二時間、ヒョウモンダコは最短一時間で」

「ふむ、その毒クラゲは?」

「一分」

「……。
 食べたい! 食べてみたいぞ、我は!」

 あちゃー。
 この流れなら、そう言うよね、そうだよね。
 やらかした、という顔をしながら振り返ると、今まで呆れた顔でエスティの食いっぷりを眺めていたジェルおじさんが全力で首を横にブンブン振っていた。

「フグやオニオコゼは捕獲する人間に毒で攻撃することはないと聞いているが、クラゲは違う。
 絶対に漁師に人死にが出る。
 無理だ」

「ふむ、根性がないのぉ」

「ジェルおじさんは王様なんだから、非力な国民に理不尽な災難を負わせるわけにはいかないんだよ。
 エスティだって、何か食べたいものがあるからって部下に命懸けで獲って来い、とは言わないでしょ?」

 オイラの言葉に、エスティはコテンと可愛らしく小首を傾げた。
 うん、これ、言っちゃうタイプなんだろうな、きっと。
 普段のラムダさんたちの苦労がしのばれる。

「ははは、そうじゃ、人が当てにならぬのなら仕方がない。
 水竜女王に頼んでみるとするかのぉ」

 話題を逸らすように、ぽん、と膝を叩きながらエスティがそう言うと、ごぉっと突風が巻き起こった。
 人型のまま空へと飛び立ったエスティは、『無限の荒野』の上空まで行くとくるりと宙返り、竜形態に変わると北の方角へ向かって物凄い速さで飛んで行った。

「よいしょ、と」

 エスティが吹き飛ばし、倒していったなんだかんだを元に戻していると、呆然と北の空を見ていたジェルおじさんに声をかけられた。

「なんだ、その。
 火竜女王ってのは、いつもああなのか?」

「うん、まあ、通常運転だよね」

「あんなのと友だち付き合いしてんのか。
 すげぇな、ノア」

 うーん、エスティが吹き飛ばしていった納屋の屋根は、オイラ一人で直すのは、ちょーっと厳しいかな?
 セバスチャンさんとか手伝ってくれないかなー。


 後日、毒クラゲ・キロネックスの感想をエスティに聞いた。

「生物最強という割に、さほど毒を感じなかったぞ。
 水竜は普通に食すと言うておったしな」

 とのことだった。
 あー、キロネックスの天敵って、確かウミガメだもんね。最強の毒も、ウミガメ系には効かないわけだ。
 口に出すと絶対怒られるので、オイラは心の中だけでそうつぶやいた。



                   参考・ゆるゆる危険生物図鑑(学研)

後書き
一巻五月発売用に書いた電子版特典SSですが、緊急事態宣言を受けて発売延期になったために没になりました。その原稿に加筆したものです。
結局、一巻電子版SSは季節関係ない「ノアの名前の由来」になりました。
一巻の発売は六月三日だそうです。
しおりを挟む
感想 658

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

最安もふもふ三匹に名前をつける変な冒険者ですが、この子たちの力を引き出せるのは私だけです ~精霊偏愛録~

Lihito
ファンタジー
精霊に名前をつける冒険者は、たぶん私だけだ。 うさぎのノル、狐のルゥ、モモンガのピノ。三匹とも最安の契約で、手のひらに乗るサイズ。周りからは「手乗り精霊で何ができる」と笑われている。 でも、この子たちへの聞き方を変えるだけで、返ってくる答えはまるで違う。三匹の情報を重ねれば、上位の精霊一体では見えないものが見える。 上位パーティが三度失敗した大型討伐。私は戦わない。ノルに地中を、ピノに上空を、ルゥに地上を調べさせて、答えを組み上げる。 ——この世界の精霊の使い方、みんな間違ってませんか?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。