黄昏時の神社の前は、いつも君の匂いがする

yumeca

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「葵ー!待ってー。」
白いワンピースを着て、まだ幼い私はずっと前を走る葵を追いかける。
「夏瀬ー、早く来いよー。」
葵が時々振り返って、私の様子を伺う。
葵は確かに私を見ているはずなのに、顔がぼやけていてよく見えない。
もう少し、もう少しで葵に追いつく。私は必死に走って、葵にタッチしようと、思い切り腕をのばす。

そこで目が覚めた。
部屋の中では目覚ましのサイレンが鳴り響いていた。
「また同じ夢…」
この夢を見たのは何度目だろう。いつも同じ所で目が覚める。どれだけ腕を伸ばしても、私の手が葵に届くことはない。
まだ眠たい目を擦りながら、顔を洗って着替えを済ませて朝食の席に着く。
「おはよう。」「おはよう、夏瀬。」
お母さんが作った朝食を食べながらテレビを付ける。途端に朝の憂鬱さを吹き飛ばすようなお姉さんの明るい声が、部屋中に響いた。
「おはようございます!今日から6月ですね~。まだ6月とは思えないくらい暑い日が続いていますが…」
6月。私はこの月が1年で1番大嫌いだ。どうも食欲がなくて、今日は朝食をちょっと残して家を出た。

6月8日。それは突然の出来事だった。
自転車をこいで家に帰る所だった葵は、飲酒運転していた車に突っ込まれ、亡くなった。高校1年生だった。
当時中学3年生だった私は本当にショックで、それから内気な性格になった。
もともとシャイな性格だった私は、小さい頃から幼なじみの葵に本当に助けてもらっていた。でももう、そんな人はどこにもいない。高校生になってからは友達を作ろうとせず、結局友達がいないまま、私は高校生活最後の夏を迎えようとしている。

「ああ、今日も暑い。」
まだ6月なのに元気いっぱいの太陽の下、これまた元気いっぱいの高校生たちの姿が見えてきた。
逆に少し落ち込み気味の私の1日が、今日も始まろうとしていた。
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