黄昏時の神社の前は、いつも君の匂いがする

背伸び

「背伸びをする、という言葉は2つの意味があります。1つは、高い位置などにあるものを取るときなどに、かかとを上げるときのこと。もう1つは、自分を実際よりも大きく見せようとしたり、実力以上のことをする時にも使われます。」
国語の先生が熱心に授業をしている。この話を真面目に聞いている人は、いったい何人いるのだろう。

私は、小さい頃からずっと「背伸び」をしていたように思う。
私より1つ年上の葵は、私よりも全然背が高くてしっかりしていた。
私もそれに追いつきたくて、葵の隣を歩く時はいつも背伸びをして歩き、ちゃんと歩けとよく言われた。
自分にはまだまだ大きい服や下着を欲しがって親を困らせたり、お母さんのリップを勝手に使ってひどく怒られたこともあった。葵の前になると、私はどこまでもおませさんだった。きっとどちらの意味でも「背伸び」をしていたんだと思う。
あの頃から私の気持ちは何一つ変わっていない。
今ここに葵がいるなら私はもっとちゃんとしていたと思うし、もっと笑っていただろう。
窓から入った爽やかな風は、私の短い髪の間をさっと通り抜けた。

「じゃあね！」「またねー」
放課後、そんな声が飛び交う教室からそそくさと出て、靴を履く。学校からは1秒でも早く出たい。
外に出ると、かろうじてまだ夕日が見えた。
ああ、やっぱりいくつになっても夕日は綺麗だな、なんておばあちゃんみたいなことを思う。きっとおばあちゃんになっても夕日は綺麗だと思うのだろう。
そういえば、あそこ。私と葵が初めて一緒に夕日を見たあの場所。
「久しぶりに、行ってみようかな。」
私は、少しだけ遠回りをした。