最下位の最上者

竹中雅

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第一章

練習

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「で、どうするんだ?」
今日から授業は始まり、6時間目が終わると共に樫谷が剣術の練習をしたいと言い出したので、専用の場所に来ている。
「とりあえず刀の切れ味を確かめたい」
それぞれが腰に木刀と鞘に入った刀を持ち歩く。
1学期の中間テスト後から週に二回、剣術の練習もあり、それまでに最低限の能力を高めるため練習も欠かせないわけだ。併せて女子は、盾のようなものを提げている。男子と比べて不利にならない配慮らしいが、さらに重く大変そうだ。
藤桜に至っては、後ろをついてくるのに精一杯のように息を切らしている。
「樫谷、手本を見せてくれよ」
「ああ、いいぜ。腰抜かすなよ」
自信満々に首肯する。
鞘を構えるまでの流れは良いが、刀を抜く手に意識を取られ覚束ない。ゆっくりと慎重に抜くため、時間の無駄、相手によってはこの時間で攻撃されてしまう。
「おあああああ」
威勢の良い掛け声と共に五本並んだ的へと刀を振り下ろした。
だが、三本目の藁で勢いは死んでしまい、抜き切ることが出来ない。
徒に力一杯叩けば切れるという考えは庸劣でしかないのだ。
「おお!晃君凄い!簡単に二本切っちゃった!」
二人が驚いた顔を向け、拍手を送っている。
樫谷も自慢するようにこちらへ視線を送ってきた。
「じゃあ、次は玲奈さん。切ってみようぜ」
てっきり、俺を指してくるかと思ったが...どうやら順番は最後か。
「緊張するなあ...」
「自分の思うようにやれば良いぞ」
「よし、やああああ」
こちらも声を響かせながら的へと力一杯振り下ろしていた。
しかし切れたのは一本のみ。二本目のすぐ先で突き刺さっていた。
「やっぱ晃君すごいね。アタシまだまだだよ~練習しなきゃ」
「玲奈ちゃんならすぐ切れるようになるでしょ。努力あるのみだ」
俺が見る限り、五十歩百歩の結果だ。二本を斬り下ろしただけで、努力しているとは言い難い。
まず樫谷が努力をしていたのか実際のところわからないが、結果がでなければ何をしようと意味がない。
「次は翡翠ちゃんだな」
「え、わ、私!? 私はいいよう...どうせ斬れないのわかってるから...」
手を振り動かしながら、後ろへ下がっていく。
「大丈夫、大丈夫。斬ってみるだけだから」
拒否を続けていたが樫谷の様子に気圧されたのか、おどおどと刀を持ち上げる。
その手は震えていて頼りない。
自信のない者に無理やり持たせるのは危険でしかないのだが、二人とも勇気の声援を送っていた。
見ているところによると、練習という言葉を借りて楽しんでいる、実力を自慢している。
藤桜の手先は震え鞘から抜くだけでも、かなりの時間が掛かり息は弾んでいる。
もう辞めさせたいが、ここで横槍を入れれば不穏な雰囲気に飲みこまれるだろうと止められない。
数分の逡巡の後、藤桜が覚悟を決める。
「やああ」
軽めの発声と共に振り下ろした際の衝撃に負け身体の重心がずれ、転びそうになった。
幸いにも刀は藁の最下に刺さり、怪我をすることはなかったが危機一髪だった。
二人はお構いなしに催促を促し始める。
「惜しかったね、翡翠さん。もう一回挑戦してみようよ!」
「もういいよう...」
息の弾みが早くなっている。藤桜本人にも身に迫った危険を認識した結果だ。
あの時刀を振り下ろす際、完全に目を瞑っていた。未熟者が目標物もわからず無闇に振れば、感覚も惑い鋒は何処へ向かうかわからない。その点で言えば樫谷も藍水は筋が良いことがわかる。
俺は藤桜の前に立っていたため過程を見ることが出来たが、後ろに立つ二人は良くわからなかったのかもしれない。
「もう辞めておこう」
藤桜のもとへ向かってくる樫谷から守るように片手を上げる。
「どけよ。今の惜しかったじゃんか!拓真は翡翠さんの邪魔をしたいのか?」
「藤桜が無理と言ってるんだから、無理なんだよ。個人の意見を尊重しろ! じゃないと今度こそ怪我するぞ! わからない奴が口出しするな!」
大声を出してしまった。藤桜は今にも泣きそうに俺をみつめていた。
「いや、すまん...声を荒げすぎた」
「...わかったよ! それならオレも何も言わねえ。だが拓真も口出しできるほど優秀じゃねーだろ」
「そのくらい俺は...いや、そうだな」
これ以上抗弁しても、事態は酷くなるだけだ。大人しく引き下がった。
「じゃあ最後に拓真が見せてみろよ」
眼を眇めて挑発的な姿勢を取りだした。
「わかったよ」
挑発に乗るわけではないが、藤桜の手本になるかもしれない。
樫谷にも格の違いを認めさせることができる。
鞘を構えようとする瞬間、背後から声をかけられた。
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