最下位の最上者

竹中雅

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第一章

抗議

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外に飛び出してすぐに、長椅子で寝仰ぐ先生を見つけた。
「先生少し良いですか?」
「あ?あー良いぞ~。今から寝ようと思ってたんだが」
欠伸をしながら伸びているのを横に疑問を飛ばした。
「この服見てもらえばわかると思うんですけど、どうしてEランクなんですか! 成績トップで、技術面でも好成績でしたよね! 普通はAになるでしょう?何かの間違いでは?」
「随分と自信過剰じゃないか、茜澤君。Eランクの分際で凄いね」
「何が面白いんですか?」
「いいや、確かに僕もおかしいとは思ってる。君の姿は試験中に見させてもらったからね」
「じゃあ、どうして!」
「君はあの試験に不正を働いたそうじゃないか?」
「は?」
意味がわからない。カンニングもせず、只管に問題を解いていた。疑われる理由がない。
「実技試験、巻藁を8本切っただろ?あれ最後の一本は中に鉄板入っているんだ。もしも勢い余って刀が隣まで行かないように。だからどう頑張っても切れるはずが無いんだよ」
確かに俺が切った藁に鉄板など一つも入ってはいなかった。
あの時横で金属音が鳴り響いたのは、7本目まできった生徒が居たということだ。
「それは事実です。でも俺が不正を働く時間なんて無かったでしょうが」
実技教室に入ってから、すぐに刀を渡され、藁を切っただけだ。用意する時間も利益も何一つない。
「僕もそう思ってるけどね。何しろ上が言っているもんで、僕が口を出せることじゃないんだ」
口を出す以前に、さほど興味がないというような笑いを向けてくる。
その様子が余計に逆撫でする。
「実技でそんなことがあったから、学力試験でも疑われてるよ。あのテストは時間一杯使って、やっと解ける問題なんだが、君は60分を残して解き終わっていた。これも何かカンニングしたんじゃないかってね」
「そんなことあるわけないでしょ!完全にこじつけじゃないですか!」
あのテストはそこまで時間を使う問題量でも難易度でも無かった。
「一度疑われてしまったら、全体を通して信用してもらえなくなるってものだよ。一つでも疑われてしまえば、それは偽でしかない。茜澤君がもっと試験中の態度が良ければ、まだわからなかったけどね。覚えてる?」
検討はついてはいる。
「あれは教室が暑すぎて!」
ネクタイを緩めて椅子に胡座をかいていたことだろう。試験監督に睨みつけられるほど態度は確かに悪かった。
「それは理由にならないさ。自分しかわからないことだろう?」
「...」
部が悪い。何を言ったところで信じてはもらえないのは分かっている。
「まあ、だからと言って君が不正を働いた証拠もない。妥協として不合格でなく、一番下のEとして合格したということらしいよ」
「...そうですか。では先生は俺の潔白を示そうとはしてくれましたか?」
「いや、してないよ。だって面倒くさいもん。僕だけ言ったって上の考えが変わるわけでもないし。下っ端一人では何も動かせない」
予想はしていた。この会話しているだけで漂ってくる事なかれ主義的な雰囲気。
何を言い放っても対応してくれることはのないのは明白だ。
「話はそれだけかい?そろそろ寝かけてくれ」
「...わかりました」
俺のランク違いは何かの間違いであると確信していた。
だが結果は不正の疑いによる妥協。救いがあった結果だ。
自信があったからこそ反動のダメージは大きくなる。鉛が結ばれたように足は微動だにしなかった。
数分前に飛び出してきた道程は変わることもないのに、何倍も歩いている感覚に陥る。
教室に戻るのが怖い。ランクが上がるとばかり思っていたのだから。
「悪い。待たせた」
戻ると三人で話していたが、俺の声に反応し樫谷がじっと睨みつけてくる。
「で、どうだったんだ? ランクは上がったのか?」
「いや、無理だった」
「ほら見ろ! どう考えてもEのやつが、Aに一気に上がれるわけがないだろうが」
「それは本当だ。本来なら」
「あーもういいって。しつこい」
「拓真君、幾ら言っても変わらないものは変わらないよ? 頑張るしかないよ」
藍水が胸の前で大袈裟にガッツポーズを作り出す。優しさなのかはわからないが、どうにもいい気分にはなれない。
想定していたよりは険悪な状況にはなっていなかったのは救いだろう。
「茜澤君、頑張ろ?」
席に座ると同時に、囁くように藤桜が藍水と同じポーズを取る。
「ああ」
ポーズは同じだが、恥を含んだように慣れないながらもしてくれるのは伝わり方が全く異なる。
...可愛い。
素直に受け止められた。
もう一度みると、益々朱に染まっていくのが分かる。相当恥ずかしかったのだろう。
「で、拓真。三人で話していたんだが、リーダーはオレでいいか?」
「...ああ。別にいいぞ。何かやりたい理由でも?」
いきなりの呼び捨て名前に些か動転してしまった。
「特にないな。ただオレが一番似合ってると思っただけだ」
「ふっ。そうか、いいんじゃねーの?」
「何で笑ったんだ?」
「いや、随分と自信があるんだなと思って」
「あ? それはお前も同じだろ。拓真は結局自惚れてるだけだったけどな」
「うるせーよ」
つい語調を荒げてしまう。
正確でないことを真正面から言われてしまうと余計に怒りが込み上げてくる。
「まあ、その点オレは、チームを統べりあげるけどな」
「勝手にしろ」
「ああ、呉々も足引っ張るなよ」
「お前もな」
そんな俺ら二人の様子に、藍水は呆れ、藤桜はおどおどとしていた。
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