最下位の最上者

竹中雅

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第一章

切羽

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鞘に手をかけ、構える姿勢を取るが、ふと考えた。
だがもし俺があいつらを怪我をさせ、報告されてしまったら俺たちの責任だ。
一方で逃げられる場面でもない。
正当な理由さえあれば、多少の傷害は許される。
俺が斬ってしまっても責任を免れるが、こんな落ちこぼれの弁論を信じてもらえるだろうか。
なら相手の戦意を果てさせるしかない。
手順を決めこちらへ走ってくる一人を迎え撃つ。
だが、いきなり方向転換した。
追視した先は藤桜の姿。
『え...?』
藤桜には何が起こったのか理解していないようだったが、涙が頬を伝っているのが見える。
ーーーそして力一杯振り下ろされた。
「...くそ」
俺と相手の刃が垂直に重なっていた。
全体重を乗せた重圧に耐え、横に振り払う。
一瞬でも瞬発が遅れていたら、行動を違えていたらと悪寒が走る。
殺さないと言った割には大胆なことを仕出かす。
素早く間合いを取ると後ろに佇むやつに声を振るった。
「樫谷聞こえてるか?」
「...あ、おう」
「藍水と藤桜と一緒に出来るだけ離れてくれ」
「お前一人じゃ無理だろ...もう金でも渡して」
「だ~から、俺を舐めるな。とにかく離れて見てろ」
「......」
何も言わずに藤桜をおんぶし藍水の手を取り後ろに下がっていく。これで少しは広く使える。
「一人とは舐められたもんだな。おい、あの逃げた奴ら追いかけろ」
「ふっ」
「あ?何笑ってんだよ!」
「いや、追いかけるとか言ってここから逃げるんだなと思って」
「何言ってんだ?じゃあわかった。お前からこの4人で叩き潰してやるよ。後悔させてやる」
睨むと同時に一斉に刀を抜く。俺は刀を滞納し、代わりに木刀を構えた。
良かった。もし一人でも後を追っていたら樫谷たちが戦えるかもわからない。
「木刀...お前調子に乗るなよ」
駆け足で上から強く振り下ろす。袈裟斬り。
遅すぎる。
刀を振る際に息も全く合っていない。簡単に避けることができた。
「嘘だろ...」
「それが本気か?」
横に薙ぎはらう。
唖然とし、反応することができないまま、柄に大きな衝撃を加える。
力も入っていなかったのか、刀は鮮やかな放物線を描きリーダーらしき生徒の後ろの地面へ叩きつけられた。
残る三人は、その光景に目を見張っていた。
「まぐれだろ!もう三人で行くぞ」
両脇から刀を持ち上げ走り出す。斬りかかる数メートル前から持ち上げていては疲労が溜まり効率が悪すぎる。
併せて次にどこに打ち込んでくるのか読めるほどの欠陥な動き。
「はあ...」
ついため息が出てしまった。
何のまよいもなく躱すと、両端の刃が交じり重なり高い金属音が響き渡る。
チームワークの欠片もない戦い方だ。
三人目は近づけないようにする為か、一心不乱に振り前に進んでくる。
振り回していることに夢中になり前が見えていないのか、背後につくとキョロキョロ視線を迷わせている。
「弱っちいの」
透かさず蹴りを入れると、前のめりになって倒れた。
「こんなもんか...もういいよな?」
座り込むリーダーの眼前に刀を突きつける。
「...降参だよ。お前...なんでEグループのくせにそんな強いんだよ」
顔を蹙めながら問い質してくる。
「知らね」
振り返っても樫谷たちの姿はなく、風によって枝葉が震えているだけだ。
「お前、名前は?」
「茜澤拓真」
それきりリーダーも口を閉じ、追いかけてもこなかった。
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