最下位の最上者

竹中雅

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第一章

寂寥

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だが気のせいだろうか、微笑を浮かべたように見えた。
玄関付近まで歩いていると、影に隠れた三人が顔を覗かせている。
「...勝ったのか?」
「ああ。特に強くなかった」
返答に不信を持っているのか、俺が戻ってきた方向をじつと見つめている。
誰の姿も発見できないことを確認すると、一度頷きおもむろに口を開いた。
「どうやって?」
「真っ向勝負だ。相手が降参したから戻ってきた」
「え?拓真君それ本当!?」
刃を向けられた際は、あれほど正気を失っていたにも関わらず、今では疑いの目を向けるほど元気になっている。
「信じられないな」
「逃げたお前が言うな。居たとしても邪魔になっていただけだが」
「調子に乗るな!証拠も無いんだから信用できるわけないだろ」
「そうか。信用できないならいいさ。その代わり俺はもう助けない」
「それは結構。お前に助けられなくても一人でなんとかなる」
これ以上関わる理由もない。何を言おうと状況は悪化することは目に見えている。
地団駄を踏むように機嫌を悪くして帰っていく樫谷を眺めながら俺もそのまま寮へ入ろうとすると、藤桜が制服の袖を引っ張ってきた。
「私は本当だと思ってる...茜澤君が言ってること」
思わず目を見開いてしまった。対面で初めて会話をしたように感じる。
「...ありがとう。藤桜も頑張れよ。あとお前は刀への怖さを克服しないとダメだ。今度付き合うから練習するぞ」
「...わかった。頑張る」
自信が無いながらもゆっくり首肯し、意思を見せる。
「あの...さっきはありがとう...」
「あー別に良いよ。怪我はないか?」
「うん」
声はまだ震えていて、目元も潤んでいた。奇想な出来事が起これば無理もない。切られかけたのだから。
「それなら良い。じゃあな」
一言添えてこの場を後にする。
「バイバイ」
遅れたように後ろから届く、その声だけは明るかった。どんな表情をしていたかは分からないが、俺が寮の角を曲がるまでじっと見つめているのがわかった。
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