最下位の最上者

第三章

険悪

如何程立ち竦んでいたのかはわからないが、静閑とした空間に鈍い心臓の音が四人の足音の近づく音が重なって聞こえてくる。
佇んだ俺に目配せすることもなく、各々が重圧な空気を感じているのか、入室してきてから交わす言葉もないまま、ただ先生の声に耳を傾けていた。
「そういうことだから、茜澤君の問題行動により一発退学。まあ君が解答を持ってる時点でテストは0点により退学は免れなかったと思うけど。だから2週間で学校生活は終了だ。残りを楽しんでくれ。僕からは以上、戻って良いよ」
特に感情めいた言い方もなく淡々と説明されただけの業務連絡。
三人も初め理解が追いついていない呆然とした様子であったが、次第に厭悪を含んだ表情になっていった。
「茜澤...最低だな」
「拓真君。どうしてくれるの？」
怒鳴り散らさせることを覚悟していた。
だが沈着に落胆したように一言浴びせるだけで、他に何もない。
「俺にだって...」
予想にしない二人の態度に狼狽したのか、現状況に頭がついていけてないのかはわからないが、言葉が出てこなかった。
「2週間でどうにかしろよ。出来なかったら殺すぞ」
樫谷の鋭利な捨台詞に藤桜が肩を震わす。
落ち着けるために肩に手を置くが自分の手も震えていた。
二人が出ていくのをまってから俺たちも長居するわけにもいかず、静かに職員室を退出することにした。
「...」
「すまなかった」
廊下に立ち竦んだままの中、沈黙を打ち消そうとしても、脳内の下書きのは謝罪しかない。
「謝らないで。茜澤君が盗むわけない」
「本当にすまない」
理解者が居ることに思わず顔を歪めてしまう。
どんなに実力があろうとも俺一人ではどうにもならない。
三人にどのように伝わったのかわからないが、俺が鍵を盗んだという濡れ衣、それを元に模範解答を見ながらテストを受け数学で高得点を取ったことへの不正の二つは確実だ。
こういった醜聞は噂として学校全体に簡単に伝播していく。尾鰭が付くとは言うが根幹が最悪な以上どう脚色されても変わりはないように思えるが。
あの時桑原から俺に投げられた鍵は藤桜には見せていなかった。信用してくれるのは嬉しい。
「桑原が俺に投げた奴が多分金庫の鍵だ。テストの解答はどうやって俺のロッカーに入れたかはわからないが、桑原に嵌められたのは間違いない」
「...そうなんだ。じゃあ先生とか樫谷君に話そうよ」
「信じてくれると思うか？事実、ついさっきも聞く耳なんて持たなかった。桑原のほうが尊重されるんだ。何を言ったところで無駄だ」
「そっか...」
俯きながら、ため息のような微かな声を押し出す。
「そんな悲しい顔するな。少なくともお前たちの退学は取り消しはできないか、当たってみる」
「...うん」
そうは言っても同じグループの誰かの責任は連帯に降りかかることは学則に書いてあり周知の事実だ。