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全てのはじまり
オリバーside
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同期の女騎士と酔った勢いでヤッてしまった。
酔っていたとしか言いようがない。これは言い訳のしようもない。
当然後悔はしている。お酒って怖い。
事が終わってから土下座をしたら「一旦なかったことに……」と言われて同意はしたものの……改めて考えると一旦てなんだ。お互いに酷く動揺していたのだけは確かだろう。
最後の最後にそんなことがあったものの、先日の任務は無事に終わり、王都に戻ってきて数日が過ぎた。
「あのさ、何かあったのか?」
訓練中、オリバーは見かねた様子のクリス隊長に声をかけられた。
オリバーが所属する騎士団第一部隊は東の訓練場で午後の訓練真っ最中だったのだが、一人一心不乱に剣を振っている姿はなかなか奇異に見えたらしい。気付けば周囲の騎士らに距離を置かれている。
「何がですか?」
「いやいやいや、目は据わってるし隈はすごいしさあ。大丈夫か? お前も娼館行く?」
「それ、毎回挨拶のように言うのやめてもらえませんか?」
「俺にとっては挨拶だから」
茶目っ気たっぷりにウインクをしながら、涼やかな銀髪をなびかせる姿は爽やかな美青年だ。しかし雰囲気は軽い。ひたすらに軽い。もちろん悪い男ではないのだが、とにかく軽いし言葉が薄い。
とはいえ、騎士団上位部隊の隊長を務めるだけあってその実力は間違いない。オリバーも、戦闘での人が変わったかのような戦いぶりは素直に凄いと思っているし、目指すところではある。
ただ全く尊敬していないだけだ。
「で、実際のところどうしちゃったのお前。正直、俺でも近寄るのに勇気振り絞っちゃったよ」
「ああ、気にしないでください。これはまあ……」
ムラムラしてるんです。
──なんて言えるわけがない。
言ったが最後、それこそ嬉々として娼館連行コース決定だ。
「私的な問題なので大丈夫です」
「そう? まあ、俺としては仕事に影響出なければいんだけど。あんま長引かせるなよ?」
「わかりました」
「なんかあったら相談してね」
「はい」
それだけを言うとクリス隊長は手を振りながら、ヘラッとした顔で行ってしまった。
適当な声がけではあったが、多忙の中わざわざ声をかけてくれたのだろうし、部下の相談事には言動こそあれだが、真面目に応えようとしてくれる人だ。
しかし、今回ばかりは例え娼館に連行されても解決しないことは、オリバー自身がよくわかっている。
オリバーは勃たない。
決して不能ではないのだが、理想の相手でない限り勃たない。
勃たないことがわかりきっているのに、娼館へ行ったところで解決はしない。
話せば長く語れる自信はあるが、できれば詳細は黙秘したい。つまるところオリバーは初めてがトラウマになった。以上につきる。
嫌だったわけではない。とても気持ちが良かった。いや、とんでもなく気持ちが良かった。ただ、相手との性格の不一致である。
以降オリバーの理想は『清楚で控えめ、透明感があり風に吹かれたら消えてしまいそうなほどの儚さと、おしとやかで純真無垢なド清純』、至高は畏れ多くも我が国の末姫、妖精のような容姿と評判の第三王女セシリア様という、もりもりに詰め込んだものとなったのでお察しだ。
ともかく、全てが完璧に当てはまらなくとも、掲げる理想を思わせる相手でなければどうやっても勃ってくれない。だからといって困ってはいなかった。オリバーこそ頑なに、次こそは理想の相手一択だと下半身共々十分にひねくれていたからだ。
それがなぜこんなことに。と、周りの目がなければ膝から崩れ落ちてしまいたかった。
今回の魔獣討伐には、当初その該当地域を担当している第五部隊が向かったのだが、警戒度Aという、とても一部隊だけで抑えきれるものではないレベルと判明し、救援が要請された。このレベルの魔獣が出てくることは滅多にない。そのため騎士団でも精鋭と呼ばれる上位部隊の内、第一・第二部隊が派遣された。
つまり非常事態だったのだ。
その魔獣を無事に討伐した祝勝会となれば、それはもう大盛り上がりにもなるだろう。あの夜は街中がどんちゃん騒ぎだった。
当然ながらオリバーの所属する第一部隊も例にもれず。
「俺たち最高! イエーイ!」
「イエーイ!」
ムードメーカーの同僚がジョッキを掲げて音頭を取れば、次々と歓声が沸き、ジョッキ同士がぶつかり、あっという間に酒が消えていく。
第一部隊はクリス隊長の性格もあってか、戦闘以外の空気が総じて軽い。全員気が良く、揃って良い奴らばかりなのだが……
「でな、この前の店が──」
「そこってクリス隊長おすすめの?」
「そうそう。女の子の感じも良くてさ」
「あの人のおすすめは間違いないからなぁ」
オリバーは第一部隊の同僚数人と、どんどん下世話な方向へ進む話の中にいた。
「お前もいい加減行ってみないか?」
酒が入り開放的になっていくにつれ、我関せずと聞き役に徹していたオリバーにも矛先が向いてくる。内に掲げている理想の問題で、これまで夜の店関係は全て固辞していたオリバーだが、周囲は懲りずに毎回声をかけてくれていた。
とはいえ、返事はいつも決まっている。
「興味ないんで」
「相変わらずー!」
どっと爆笑が起きる。なぜだ。
盛り上がる周囲についていけず、ついにオリバーは席を立ち酒場を後にする。それでも周りは気付いてすらいない様子なので、だいぶ酒は回っているようだ。
隣接する宿屋の部屋に戻ろうと階段を上る途中で、よく知った女性の声に引き留められる。
「やあオリバー。まだ寝るには早くないか?」
これが全ての始まりだった。
メリッサとは同期入隊で、新人訓練ではペアを組んだ。決して愛想が良くないうえに口数も少ないオリバーだが、メリッサとは不思議と気が合い、訓練が終わる頃にはお互いに遠慮なく話せる仲になっていた。配属先は違えたものの今でも付き合いは続いている。
オリバーにとって、メリッサは女性というよりも男の友人に近い感覚だった。同じ騎士ということもあるが、なにより特定の人物に対する極端な傾倒っぷりが、彼女を異性として意識する前に立ちはだかる。
配属された第二部隊のダレル隊長にメリッサはすっかり心酔……どころか崇拝の域に達している。本人も自ら隊長をこっそり『神』やら『聖域』なんて言ってしまっているあたり若干引く。
とはいえ、
「はあ……どこかにセシリア王女いねーかな」
「お前こそいい加減不敬罪で処されろ」
オリバーこそ他の誰かに聞かれたら問題になるような、際どすぎる発言をしてしまえるくらいには気を許す仲だ。当然ながら、前記の面倒くさすぎるもりもりに詰め込んだオリバーの理想もメリッサは知っている。
男女の垣根を超えた、もとい男女を意識する必要のない間柄だった。
だが、この日は今までにないくらい、お互いに酒が回っていた。
酒の勢いとはなんと恐ろしいことか。
素面では交わしたことのない下世話な話に移っていくが、普段ならばそういった話題を不快に思うはずのオリバーも、酒の力と相手が遠慮のいらないメリッサであることも相まって、自分でも信じられないが腹を抱えて笑った。
ともかく、その話の延長でどうやらメリッサは男女の営みへの興味が薄いらしい。ということが判明する。「あまり良いと思えたことがないからなあ」と呟かれた時には、相手の男に怒りが湧いた。
「それは相手が悪い」
「そうか?」
「お前の男を悪く言うのは申し訳ないが、それは絶対に相手が悪い」
聞いてもいないのにクリス隊長が常々語っている。「女性は敬うものだ」と。男女の営みは常に女性優先であり、男だけが満たされて終わるなんて言語道断そんな男はクソ野郎である! と。そこから、やはり聞いていないのに女性を悦ばせるには……と毎度猥談もとい夜の講義が始まるのだ。
性に奔放でとんでもなく軽いのにとんでもなく誠実。それがクリス隊長であり、日々その指導を受けている第一部隊だ。
そして第一部隊に所属するオリバーも例にもれない。尚且つ、そのクソ野郎に対して友人としての怒りも上乗せされる。
「今はなんの未練もない相手だ。気にするな」
憤るオリバーとは対照的にメリッサは笑い飛ばすが、それはつまり未練があった時期もあったのではないかと、その男をぶん殴りたくなった。
「オリバーは良かったのか?」
なのにメリッサは、それよりもとばかりに身を乗り出して聞いてくる。どうやら本当に今は未練などないらしい。そして同時に「良かったのか?」と問われて思い出したのはトラウマともなった初体験。
相手とは激しい性格の不一致があったが、行為自体に嫌悪を抱いたわけではない。それどころかとんでもなく気持ち良かったのだ。気持ち良すぎて困ったからこそのトラウマである。
「……良かった」
溢れる苦痛と圧倒的快楽の記憶に、オリバーは屈辱ながらも言葉を絞り出した。
そこからは「とはいえ挿れるだけ」などとのたまうメリッサに、前戯から至るクリス隊長の教えを語り尽くした。酔ったメリッサはとてもリアクションの良い聞き役だったものだから、同じく酔ったオリバーは普段の無口はどこへやらとばかりに語った。
そしてノリにノッた二人は当然のように一つの結論へ達する。
──試してみよう!
「だが、オリバーは妥協したくないんじゃなかったのか?」
「さすがに挿れるつもりはねーよ」
「うん。なら大丈夫だな」
酔った末のとんでもない暴論だが、おそらく引き返せる分岐点はここだった。
冷静になれば馬鹿としか言いようのないこの状況に気付けたはずだ。挿れるつもりがないから大丈夫とはなんだ。大丈夫な訳があるか! 揃ってその頭は腐っているのか! と。
しかし、このあと冷静になる機会を失ってしまうオリバーは引き返すことが出来なかった。
「ならこの際だ。私の身体が男から見ていかがなものか意見も聞きたい」
さらに馬鹿なことを言い出したメリッサが、意外にもサラシを巻いていたことに気を取られている間に、躊躇なく二つの膨らみがさらけ出されたのだ。
その瞬間オリバーの視線は現れた膨らみに釘付けとなる。同時に冷静さなど、遠く彼方へ消え去った。
そこには己の理想が形となり存在していた。
オリバーは理想の女性の身体つきも、掲げた理想に倣っている。
つまり、清楚で控えめ透明感があり風に吹かれたら消えてしまいそうなほどの儚さ云々を、見事に体現したような身体がいい。誰にも言ったことはなかったが、特に胸には並々ならぬこだわりがあった。
「宝の持ち腐れかよ……」
思わず失礼極まりないことを呟いてしまったが、ここは許してほしい。この胸をサラシで巻いてあろうことか潰していたなど信じられない。
「ん? つまり良いということだよな!?」
オリバーの痛恨の思いを込めた言葉を、誉め言葉と受け取ったらしいメリッサは拳を握って胸を張る。その振動で理想そのものである膨らみが、内包する柔らかさを体現するようにふるんと上下に揺れた。オリバーの双眸はその動きを一瞬も見逃すまいと追う。おそらく今ばかりは目が血走っているかもしれない。
「頼む、触ってもいいか?」
我慢できず、恥も外聞もなく懇願してしまった。
「遠慮なく」
あっさりと下りた許可に、なけなしの理性など容易くはじけ飛んだ。オリバーは迷わず理想に手を伸ばしてわし掴む。
「ひえっ」
メリッサが面白い悲鳴を上げたが、それどころではない。雷に打たれたかのような感動に全身が震え、ゴクリと喉が鳴る。
むにゅっと指が沈んでいく乳房は、信じられないほどの柔らかさだった。
「柔らかいな……それに、元々は色白だったのか」
「いや、ちょっと」
シャツを脱いだメリッサの日焼けしていない肌は透き通るように白かった。
「ああ、乳首の色も薄くて綺麗だ」
「だから、おい」
先端も主張しすぎない薄い桃色で、何もかもがオリバーの思い描いていた理想そのものだった。
「どこもかしこも最こ──」
「ちょっと落ち着け!」
「ぐふ……っ」
我を見失うほど夢中になっていたら顎に掌底打ちをくらった。さすが騎士だ、衝撃で脳がぐわんぐわん揺れる。酔いが更に回りそうな中、揺れる視界に若干引いているメリッサの顔が映る。
いくら何でも我を見失いすぎていたらしい。
「いやな、俺の至高はセシリア様なんだが……」
「知ってるけど、この状況で名前を出すのはまずくないか?!」
「理想の身体つきもそれに倣っててな」
「はあ」
そこからこんこんと、己の思う最高の身体について語ってみせた。そして、このメリッサの胸がいかにオリバーの理想を体現しているかの下りは、特に力を入れた。
語っている間も、両手は胸の膨らみから離れることなくふにふにと揉み続けていたので、どれほど真剣かは伝わったらしい。胸をべた褒めするオリバーに対して「ちょうどいいじゃないか」と言ってから、メリッサは、ふふっと笑った。
酔いのせいか、普段よりポワッとしたその表情がなんだか少し幼く見えて目が離せないでいると、
「好きにしてくれ。気持ち良くしてくれるんだろう?」
下ろした波打つ金髪に、透き通るような白い胸元が良く映える。まるで無垢な少女のように笑ったメリッサは、自分が何を言っているのか理解しているのだろうか? と、今まさに、彼女の乳房を揉みしだいているオリバーが言えた義理ではない危惧を抱いてしまう。
胸の奥がわずかにザワッと疼いたような気がして、その顔から目が離せなかった。
『気持ち良くしてくれるんだろう?』
改めて見ればぽってりとしている唇からこぼれた言葉を、もう一度反芻して、オリバーの口元に笑みが浮かぶ。気付けばメリッサをベッドに押し倒していた。
「ああ、そうだったな」
言うなり、オリバーは目の前の理想たる乳房の先に吸い付いた。その瞬間、頭の中は目の前の膨らみをどう攻めてやろうかという欲に埋め尽くされる。言葉通りオリバーは貪った。メリッサが戸惑っている様子も伝わってきたが、歯止めがきかない。
「あっ! ふ、んあっ!」
それどころか、次第に漏れ聞こえてくる裏返ったような高い声はオリバーを煽るに十分だった。先端を強く吸い舌先で刺激すると、ビクリと白い肌が跳ねるのがたまらない。自分でも信じられないほど無我夢中で没頭した。
そして、やりすぎた。
「オリバー!」
「ぐお……っ!」
脇腹に容赦ない蹴りがめり込んだ。なかなかいいところに決まった衝撃に呻いている間にも、プンプンと憤るメリッサが「さっさと進むなよ!」と、オリバーの背にドスドスと重い拳を叩き込んでくる。女性とはいえさすがは騎士。オリバーと地獄の新人訓練をやり抜いた末に、精鋭とも呼ばれる上位部隊に配属されただけの実力者だ。
「やめろっ、悪い。俺が夢中になってしまった」
「理想の胸だからか?」
「ああ」
なんとか持ち直して謝る。確かに今のは熱中しすぎた。自分の理想が現実として目の前に現れた衝撃に止まらなかった。それに──
「オリバーだけなんてずるい」
ぽってりした唇を尖らせて見上げてくるメリッサは、やはり幼く見えた。普段の騎士然とした強気な物言いからは想像つかないその姿は、純粋無垢の少女のような可愛らしさをまとっている──ように、少なくともオリバーには見えた。
「……っ。わかってる、忘れてない」
思わず見入ってしまっただなんてとても言えない。
ごまかすようにメリッサの下半身に手をのばして服をずらすと、隙間から秘部の割れ目へ手を滑り込ませる。とたんに「ふおっ?!」と変な声を上げて腰を引かれそうになったので、とりあえず両手をひとまとめに上で押さえつけてやった。
当然だが下はまだたいして濡れていなかった。メリッサも痛がったので、ならばと下の小さな突起を指の腹で弱く擦ってみる。
「ふわっ! これっ、いい……っ!」
とたんにメリッサの背が跳ねるように反った。
「あ、あ、んっ、はぁっ、あっ!」
苦悶するように眉根は寄っているが、潤んだ目元は赤く色づいている。腰を浮かせてよがりながらも、戸惑いを隠せない姿に目が離せなかった。その反面、薄く開いた唇から抑えきれずに零れ落ちてくる甘い声と、両手を押さえつけられて乱れる様に背徳感さえ抱かせる。
「ああっ、ん、そこ、そこもっと」
「ここか?」
「う、ん……あっ!」
ねだられるまま責めたら、ビクビクとより大きな反応が返ってきた。どうやら一点を指の先で強く刺激するのが良いらしく、執拗に擦ったら泣くような高い声が上がる。押さえつけていた手を解放し、なおも追い立てたら、本人は気付いていないようだが首元にしがみつかれた。同時にメリッサの身体が震える。
「──あああっ!」
耳元からダイレクトに響いてくる絶頂の声は、ひどく甘くて脳を溶かされるようだった。
「……いい。オリバー、これ気持ちがいいよ……」
手足を投げ出して顔を火照らせるメリッサは、一度達したせいか、どこかとろんとした目に笑みを浮かべて見上げてくる。シーツにブロンドの髪を散らして、無防備に白い肌と美しい乳房をさらけ出す姿がオリバーにはとても愛らしく見え、ついまじまじと見つめてしまった。
メリッサの身体つきは騎士だけあって筋肉質だし、うっすら腹も割れている。正直オリバーの至高とする女性の外見とは対局に位置するほどかけ離れている。
それなのに、普段からは想像つかないような声と仕草にどうしようもないほど惹かれて、惹かれる自分自身にも戸惑う。
そんな内の焦燥を隠して「良かったのか」と聞けば、
「ああっ! とても良かった! オリバーが言っていた通りだな。もう一回してほしい!」
先ほどまでのしおらしさはどこへやら。の勢いで目を輝かせるメリッサがあまりにいつも通りで、今までのは幻だったのだろうかと錯覚する。
すんっ。と真顔になったのが自分でもわかったが、目の前のメリッサは今の何がいけなかったのがわかっていないらしい。怪訝な顔で首を傾げる様が余計に腹立たしい。
むっとしたまま再度下へ手を伸ばしたら、トロトロに濡れそぼったそこは難なくオリバーの指を呑み込んだ。
「やっ、あっ、ん、あぁっ、ひぁっ!」
中を掻き回すたびに、また鼻腔から抜けるような甘い声が聞こえて来る。次第に腰を揺らしだした姿を目にして、オリバーはどこか溜飲が下がるような思いだった。
「あ、あ、オリバー……っ、んあっ!」
「……っ、ここ、良いのか?」
「うん……っ、いい、すごく、いいの……! はあぁっ!」
快楽の波にのまれたメリッサが、瞳を潤ませて頭を振る。可愛い。先程から無自覚なのだろうが、乱れると口調までも幼くなる。それが可愛い。またこの可愛らしい声が聞けてオリバーの口元に自然と笑みが浮かぶ。
チラチラと舌を覗かせて必死に喘ぐメリッサに、オリバーは思い違いではなく自分の手で乱れる姿に満足しているのを感じた。
いい加減認めるしかなかった。
メリッサが可愛い。現にオリバーは今興奮している。
すぐにメリッサは二度目の絶頂を迎えた。
「オリバーの言っていた通りだったなあ」
一糸纏わぬ姿となったメリッサの衣服をベッド下に投げると、そんな呟きが聞こえた。
「こんなに良いものだとは思わなかった。ふふっ、気持ちよかった」
振り返ったら、はにかむような笑みを浮かべて見つめてくるメリッサがいた。
やはり可愛い。
これまでメリッサを友として楽しい奴だと思ったことはあっても、可愛らしいなどと思ったことはなかった。それなのにこと艶事の場ではことごとくオリバーの琴線に触れてくる。
頬に熱が集まるのを感じて、思わず顔を反らしてしまった。
そんなことを考えている間に第一部隊の世間話は大半が猥談。という話になり、とんだ残念部隊という扱いになってしまったようだが、ほぼ事実なので否定はできなかった。
「揃いも揃って見た目は良いのになあ」
「俺以外はな」
確かに第一部隊は一見爽やかな美丈夫であるクリス隊長を筆頭に、やたら見目が綺麗といわれる部類の男が多い。その中で目つきの鋭いオリバーは女性に恐れられることも多く、決して褒められたものではないだろう。
──悪かったな、こんな見目で。
自分でも不思議なほど不機嫌な顔をしているのがわかる。苛立ちのまま覆いかぶさったら、当のメリッサはきょとんとしていた。
「ん? 私は男らしくて整った顔だと思っているぞ」
飛び出した言葉が予想外で、オリバーは固まってしまった。
普段であれば「ああ、そうか」なんて適当に流せただろうが、なぜかこの時ばかりはそれができなかった。
「それより、これは大丈夫なのか?」
固まるオリバーをよそに、メリッサがオリバーの下半身に手を伸ばす。そこはとっくに熱を持ち猛っていた。
乱れるメリッサを前にしてにオリバーは興奮していた。
そして、あろうことか勃っていたのだ。勃たないはずのオリバーのオリバーが、布を突き破らんばかりにギチギチに勃ち上がっていた。
「……っ、触るなって、結構キツいんだから」
「挿れるつもりはないんじゃなかったか?」
「それはお前が──っ」
可愛いから悪い。とは、さすがに言いたくとも言えなかった。
「なあオリバー、もっと欲しい」
それなのに尚も煽るようなことを言う。
「お前……っ、変わりすぎだろ?」
「オリバーにしてもらうの気持ち良い」
どこまで煽れば気が済むのか。
「俺もだいぶ酔ってるな」
でなければ、メリッサが可愛く見えてしまうのも、己自身がギチギチに勃ち上がっているのも説明がつかない。仕方ない、酔っているのだ。酔っているから仕方ない。
もはやまともな思考とは言い難いオリバーは、全てを酒のせいにして自身を蜜の溢れる秘部にあてがい──早くとねだるメリッサの要望通り、一気に貫いた。
そして貫いた瞬間、お互いに顔を見合わせる。
「…………オリバー」
「…………これは」
考えたことは間違いなく一緒だ。
──おいおい、とんでもなく良いぞ。と。
見つめ合う瞳は言葉にしなくとも同じことを語っていた。
メリッサの中に押し入った瞬間に分かった。一寸の隙間なくぴったりとおさまる感覚。元からひとつだったのでは、と錯覚を起こしそうになるほどしっくりくる違和感のなさ。
身体の相性というものをこれほど身をもって体感したことはなかった。
そこからはもう抑えなどきかなかった。ひたすらメリッサを求めて獣のように腰を打ち付けてしまったし、メリッサも快楽を求める甘い声でひたすら鳴き続けた。
「すごいっ、すごいの! オリ、オリバーっ、あっ、あんっ、もっとして!」
「わかってる……っ、これは、やば──っ」
結局何度イッたかなんてわからないほど、お互いに溺れに溺れて──
今に至るのだ。
ゴォンッ!
周囲の騎士がザワッとどよめく声が聞こえたが、それどころではなかった。
オリバーは訓練場の壁に頭を打ち付けてみたものの、滅してくれない性欲に絶望していた。
酔った勢いでメリッサとヤッてしまった以降、気を抜けばあの夜が頭の中を埋め尽くす。酒のせいでメリッサが可愛く見えていただけならば、仕方がない。と自分に言い聞かせることもできたのだが、違った。
乱れるメリッサを思い出すだけで勃つ。
トラウマの初体験以降、頑として現実の女性では勃とうとしなかった、あのオリバーのオリバーが所かまわず勃とうとする。
普段はさっぱりとした物言いで、口調も所作も男のようだというのに、まさか夜の床ではあんなに変わるなんてことが、予想できたであろうか。純白のシーツに眩いブロンドを散らして、透き通るような肌を次第に赤く火照らせていく姿は、無垢なものを侵していくような背徳感があった。幼くなる口調が余計に純真な少女のようで……なんだあれは無自覚なのか!? いや無自覚なんだろう! だからこそまるでお前は乙女かと……ああ、クソ、やっぱり可愛──はっ!
気を抜いた瞬間、また頭の中が己の手でよがり狂うメリッサで埋め尽くされた。比例して反応し始める下半身。
──いい加減落ち着け!
パァンッ!
今度は突然自分の頬をビンタしたオリバーを見て周囲が一層距離を取るが、やはりそれどころではなかった。
ムラムラする。
予想外のメリッサの乱れた姿もさることながら、いかんせん相性が良すぎた。
ああ、あのときなぜ「一旦なかったことに」と言われて同意してしまったのか。そもそも一旦ってなんだ。「なかったことに」だけでいいだろ。いや、待てよ……? 一旦てことは取り消すことも有りだよな? その一旦をなかったことに──
「オリバー」
とんだ欲望にまみれた思考を、延々繰り広げていたオリバーの名を呼ぶ声が響いた。振り向けば、険しく鬼気迫った顔で立つメリッサの姿。その表情はまるで命の危機に瀕しているかのようだが、おそらくオリバーも今同じ表情をしている。
そしておそらく全く同じことを考えている。
「このあと時間あるよな?」
「そっちこそ」
「ならちょっと付き合ってほしい」
「ああ」
交わす言葉はこれだけで十分だった。
──その日、酒に酔っていなくてもメリッサは可愛かった。
酔っていたとしか言いようがない。これは言い訳のしようもない。
当然後悔はしている。お酒って怖い。
事が終わってから土下座をしたら「一旦なかったことに……」と言われて同意はしたものの……改めて考えると一旦てなんだ。お互いに酷く動揺していたのだけは確かだろう。
最後の最後にそんなことがあったものの、先日の任務は無事に終わり、王都に戻ってきて数日が過ぎた。
「あのさ、何かあったのか?」
訓練中、オリバーは見かねた様子のクリス隊長に声をかけられた。
オリバーが所属する騎士団第一部隊は東の訓練場で午後の訓練真っ最中だったのだが、一人一心不乱に剣を振っている姿はなかなか奇異に見えたらしい。気付けば周囲の騎士らに距離を置かれている。
「何がですか?」
「いやいやいや、目は据わってるし隈はすごいしさあ。大丈夫か? お前も娼館行く?」
「それ、毎回挨拶のように言うのやめてもらえませんか?」
「俺にとっては挨拶だから」
茶目っ気たっぷりにウインクをしながら、涼やかな銀髪をなびかせる姿は爽やかな美青年だ。しかし雰囲気は軽い。ひたすらに軽い。もちろん悪い男ではないのだが、とにかく軽いし言葉が薄い。
とはいえ、騎士団上位部隊の隊長を務めるだけあってその実力は間違いない。オリバーも、戦闘での人が変わったかのような戦いぶりは素直に凄いと思っているし、目指すところではある。
ただ全く尊敬していないだけだ。
「で、実際のところどうしちゃったのお前。正直、俺でも近寄るのに勇気振り絞っちゃったよ」
「ああ、気にしないでください。これはまあ……」
ムラムラしてるんです。
──なんて言えるわけがない。
言ったが最後、それこそ嬉々として娼館連行コース決定だ。
「私的な問題なので大丈夫です」
「そう? まあ、俺としては仕事に影響出なければいんだけど。あんま長引かせるなよ?」
「わかりました」
「なんかあったら相談してね」
「はい」
それだけを言うとクリス隊長は手を振りながら、ヘラッとした顔で行ってしまった。
適当な声がけではあったが、多忙の中わざわざ声をかけてくれたのだろうし、部下の相談事には言動こそあれだが、真面目に応えようとしてくれる人だ。
しかし、今回ばかりは例え娼館に連行されても解決しないことは、オリバー自身がよくわかっている。
オリバーは勃たない。
決して不能ではないのだが、理想の相手でない限り勃たない。
勃たないことがわかりきっているのに、娼館へ行ったところで解決はしない。
話せば長く語れる自信はあるが、できれば詳細は黙秘したい。つまるところオリバーは初めてがトラウマになった。以上につきる。
嫌だったわけではない。とても気持ちが良かった。いや、とんでもなく気持ちが良かった。ただ、相手との性格の不一致である。
以降オリバーの理想は『清楚で控えめ、透明感があり風に吹かれたら消えてしまいそうなほどの儚さと、おしとやかで純真無垢なド清純』、至高は畏れ多くも我が国の末姫、妖精のような容姿と評判の第三王女セシリア様という、もりもりに詰め込んだものとなったのでお察しだ。
ともかく、全てが完璧に当てはまらなくとも、掲げる理想を思わせる相手でなければどうやっても勃ってくれない。だからといって困ってはいなかった。オリバーこそ頑なに、次こそは理想の相手一択だと下半身共々十分にひねくれていたからだ。
それがなぜこんなことに。と、周りの目がなければ膝から崩れ落ちてしまいたかった。
今回の魔獣討伐には、当初その該当地域を担当している第五部隊が向かったのだが、警戒度Aという、とても一部隊だけで抑えきれるものではないレベルと判明し、救援が要請された。このレベルの魔獣が出てくることは滅多にない。そのため騎士団でも精鋭と呼ばれる上位部隊の内、第一・第二部隊が派遣された。
つまり非常事態だったのだ。
その魔獣を無事に討伐した祝勝会となれば、それはもう大盛り上がりにもなるだろう。あの夜は街中がどんちゃん騒ぎだった。
当然ながらオリバーの所属する第一部隊も例にもれず。
「俺たち最高! イエーイ!」
「イエーイ!」
ムードメーカーの同僚がジョッキを掲げて音頭を取れば、次々と歓声が沸き、ジョッキ同士がぶつかり、あっという間に酒が消えていく。
第一部隊はクリス隊長の性格もあってか、戦闘以外の空気が総じて軽い。全員気が良く、揃って良い奴らばかりなのだが……
「でな、この前の店が──」
「そこってクリス隊長おすすめの?」
「そうそう。女の子の感じも良くてさ」
「あの人のおすすめは間違いないからなぁ」
オリバーは第一部隊の同僚数人と、どんどん下世話な方向へ進む話の中にいた。
「お前もいい加減行ってみないか?」
酒が入り開放的になっていくにつれ、我関せずと聞き役に徹していたオリバーにも矛先が向いてくる。内に掲げている理想の問題で、これまで夜の店関係は全て固辞していたオリバーだが、周囲は懲りずに毎回声をかけてくれていた。
とはいえ、返事はいつも決まっている。
「興味ないんで」
「相変わらずー!」
どっと爆笑が起きる。なぜだ。
盛り上がる周囲についていけず、ついにオリバーは席を立ち酒場を後にする。それでも周りは気付いてすらいない様子なので、だいぶ酒は回っているようだ。
隣接する宿屋の部屋に戻ろうと階段を上る途中で、よく知った女性の声に引き留められる。
「やあオリバー。まだ寝るには早くないか?」
これが全ての始まりだった。
メリッサとは同期入隊で、新人訓練ではペアを組んだ。決して愛想が良くないうえに口数も少ないオリバーだが、メリッサとは不思議と気が合い、訓練が終わる頃にはお互いに遠慮なく話せる仲になっていた。配属先は違えたものの今でも付き合いは続いている。
オリバーにとって、メリッサは女性というよりも男の友人に近い感覚だった。同じ騎士ということもあるが、なにより特定の人物に対する極端な傾倒っぷりが、彼女を異性として意識する前に立ちはだかる。
配属された第二部隊のダレル隊長にメリッサはすっかり心酔……どころか崇拝の域に達している。本人も自ら隊長をこっそり『神』やら『聖域』なんて言ってしまっているあたり若干引く。
とはいえ、
「はあ……どこかにセシリア王女いねーかな」
「お前こそいい加減不敬罪で処されろ」
オリバーこそ他の誰かに聞かれたら問題になるような、際どすぎる発言をしてしまえるくらいには気を許す仲だ。当然ながら、前記の面倒くさすぎるもりもりに詰め込んだオリバーの理想もメリッサは知っている。
男女の垣根を超えた、もとい男女を意識する必要のない間柄だった。
だが、この日は今までにないくらい、お互いに酒が回っていた。
酒の勢いとはなんと恐ろしいことか。
素面では交わしたことのない下世話な話に移っていくが、普段ならばそういった話題を不快に思うはずのオリバーも、酒の力と相手が遠慮のいらないメリッサであることも相まって、自分でも信じられないが腹を抱えて笑った。
ともかく、その話の延長でどうやらメリッサは男女の営みへの興味が薄いらしい。ということが判明する。「あまり良いと思えたことがないからなあ」と呟かれた時には、相手の男に怒りが湧いた。
「それは相手が悪い」
「そうか?」
「お前の男を悪く言うのは申し訳ないが、それは絶対に相手が悪い」
聞いてもいないのにクリス隊長が常々語っている。「女性は敬うものだ」と。男女の営みは常に女性優先であり、男だけが満たされて終わるなんて言語道断そんな男はクソ野郎である! と。そこから、やはり聞いていないのに女性を悦ばせるには……と毎度猥談もとい夜の講義が始まるのだ。
性に奔放でとんでもなく軽いのにとんでもなく誠実。それがクリス隊長であり、日々その指導を受けている第一部隊だ。
そして第一部隊に所属するオリバーも例にもれない。尚且つ、そのクソ野郎に対して友人としての怒りも上乗せされる。
「今はなんの未練もない相手だ。気にするな」
憤るオリバーとは対照的にメリッサは笑い飛ばすが、それはつまり未練があった時期もあったのではないかと、その男をぶん殴りたくなった。
「オリバーは良かったのか?」
なのにメリッサは、それよりもとばかりに身を乗り出して聞いてくる。どうやら本当に今は未練などないらしい。そして同時に「良かったのか?」と問われて思い出したのはトラウマともなった初体験。
相手とは激しい性格の不一致があったが、行為自体に嫌悪を抱いたわけではない。それどころかとんでもなく気持ち良かったのだ。気持ち良すぎて困ったからこそのトラウマである。
「……良かった」
溢れる苦痛と圧倒的快楽の記憶に、オリバーは屈辱ながらも言葉を絞り出した。
そこからは「とはいえ挿れるだけ」などとのたまうメリッサに、前戯から至るクリス隊長の教えを語り尽くした。酔ったメリッサはとてもリアクションの良い聞き役だったものだから、同じく酔ったオリバーは普段の無口はどこへやらとばかりに語った。
そしてノリにノッた二人は当然のように一つの結論へ達する。
──試してみよう!
「だが、オリバーは妥協したくないんじゃなかったのか?」
「さすがに挿れるつもりはねーよ」
「うん。なら大丈夫だな」
酔った末のとんでもない暴論だが、おそらく引き返せる分岐点はここだった。
冷静になれば馬鹿としか言いようのないこの状況に気付けたはずだ。挿れるつもりがないから大丈夫とはなんだ。大丈夫な訳があるか! 揃ってその頭は腐っているのか! と。
しかし、このあと冷静になる機会を失ってしまうオリバーは引き返すことが出来なかった。
「ならこの際だ。私の身体が男から見ていかがなものか意見も聞きたい」
さらに馬鹿なことを言い出したメリッサが、意外にもサラシを巻いていたことに気を取られている間に、躊躇なく二つの膨らみがさらけ出されたのだ。
その瞬間オリバーの視線は現れた膨らみに釘付けとなる。同時に冷静さなど、遠く彼方へ消え去った。
そこには己の理想が形となり存在していた。
オリバーは理想の女性の身体つきも、掲げた理想に倣っている。
つまり、清楚で控えめ透明感があり風に吹かれたら消えてしまいそうなほどの儚さ云々を、見事に体現したような身体がいい。誰にも言ったことはなかったが、特に胸には並々ならぬこだわりがあった。
「宝の持ち腐れかよ……」
思わず失礼極まりないことを呟いてしまったが、ここは許してほしい。この胸をサラシで巻いてあろうことか潰していたなど信じられない。
「ん? つまり良いということだよな!?」
オリバーの痛恨の思いを込めた言葉を、誉め言葉と受け取ったらしいメリッサは拳を握って胸を張る。その振動で理想そのものである膨らみが、内包する柔らかさを体現するようにふるんと上下に揺れた。オリバーの双眸はその動きを一瞬も見逃すまいと追う。おそらく今ばかりは目が血走っているかもしれない。
「頼む、触ってもいいか?」
我慢できず、恥も外聞もなく懇願してしまった。
「遠慮なく」
あっさりと下りた許可に、なけなしの理性など容易くはじけ飛んだ。オリバーは迷わず理想に手を伸ばしてわし掴む。
「ひえっ」
メリッサが面白い悲鳴を上げたが、それどころではない。雷に打たれたかのような感動に全身が震え、ゴクリと喉が鳴る。
むにゅっと指が沈んでいく乳房は、信じられないほどの柔らかさだった。
「柔らかいな……それに、元々は色白だったのか」
「いや、ちょっと」
シャツを脱いだメリッサの日焼けしていない肌は透き通るように白かった。
「ああ、乳首の色も薄くて綺麗だ」
「だから、おい」
先端も主張しすぎない薄い桃色で、何もかもがオリバーの思い描いていた理想そのものだった。
「どこもかしこも最こ──」
「ちょっと落ち着け!」
「ぐふ……っ」
我を見失うほど夢中になっていたら顎に掌底打ちをくらった。さすが騎士だ、衝撃で脳がぐわんぐわん揺れる。酔いが更に回りそうな中、揺れる視界に若干引いているメリッサの顔が映る。
いくら何でも我を見失いすぎていたらしい。
「いやな、俺の至高はセシリア様なんだが……」
「知ってるけど、この状況で名前を出すのはまずくないか?!」
「理想の身体つきもそれに倣っててな」
「はあ」
そこからこんこんと、己の思う最高の身体について語ってみせた。そして、このメリッサの胸がいかにオリバーの理想を体現しているかの下りは、特に力を入れた。
語っている間も、両手は胸の膨らみから離れることなくふにふにと揉み続けていたので、どれほど真剣かは伝わったらしい。胸をべた褒めするオリバーに対して「ちょうどいいじゃないか」と言ってから、メリッサは、ふふっと笑った。
酔いのせいか、普段よりポワッとしたその表情がなんだか少し幼く見えて目が離せないでいると、
「好きにしてくれ。気持ち良くしてくれるんだろう?」
下ろした波打つ金髪に、透き通るような白い胸元が良く映える。まるで無垢な少女のように笑ったメリッサは、自分が何を言っているのか理解しているのだろうか? と、今まさに、彼女の乳房を揉みしだいているオリバーが言えた義理ではない危惧を抱いてしまう。
胸の奥がわずかにザワッと疼いたような気がして、その顔から目が離せなかった。
『気持ち良くしてくれるんだろう?』
改めて見ればぽってりとしている唇からこぼれた言葉を、もう一度反芻して、オリバーの口元に笑みが浮かぶ。気付けばメリッサをベッドに押し倒していた。
「ああ、そうだったな」
言うなり、オリバーは目の前の理想たる乳房の先に吸い付いた。その瞬間、頭の中は目の前の膨らみをどう攻めてやろうかという欲に埋め尽くされる。言葉通りオリバーは貪った。メリッサが戸惑っている様子も伝わってきたが、歯止めがきかない。
「あっ! ふ、んあっ!」
それどころか、次第に漏れ聞こえてくる裏返ったような高い声はオリバーを煽るに十分だった。先端を強く吸い舌先で刺激すると、ビクリと白い肌が跳ねるのがたまらない。自分でも信じられないほど無我夢中で没頭した。
そして、やりすぎた。
「オリバー!」
「ぐお……っ!」
脇腹に容赦ない蹴りがめり込んだ。なかなかいいところに決まった衝撃に呻いている間にも、プンプンと憤るメリッサが「さっさと進むなよ!」と、オリバーの背にドスドスと重い拳を叩き込んでくる。女性とはいえさすがは騎士。オリバーと地獄の新人訓練をやり抜いた末に、精鋭とも呼ばれる上位部隊に配属されただけの実力者だ。
「やめろっ、悪い。俺が夢中になってしまった」
「理想の胸だからか?」
「ああ」
なんとか持ち直して謝る。確かに今のは熱中しすぎた。自分の理想が現実として目の前に現れた衝撃に止まらなかった。それに──
「オリバーだけなんてずるい」
ぽってりした唇を尖らせて見上げてくるメリッサは、やはり幼く見えた。普段の騎士然とした強気な物言いからは想像つかないその姿は、純粋無垢の少女のような可愛らしさをまとっている──ように、少なくともオリバーには見えた。
「……っ。わかってる、忘れてない」
思わず見入ってしまっただなんてとても言えない。
ごまかすようにメリッサの下半身に手をのばして服をずらすと、隙間から秘部の割れ目へ手を滑り込ませる。とたんに「ふおっ?!」と変な声を上げて腰を引かれそうになったので、とりあえず両手をひとまとめに上で押さえつけてやった。
当然だが下はまだたいして濡れていなかった。メリッサも痛がったので、ならばと下の小さな突起を指の腹で弱く擦ってみる。
「ふわっ! これっ、いい……っ!」
とたんにメリッサの背が跳ねるように反った。
「あ、あ、んっ、はぁっ、あっ!」
苦悶するように眉根は寄っているが、潤んだ目元は赤く色づいている。腰を浮かせてよがりながらも、戸惑いを隠せない姿に目が離せなかった。その反面、薄く開いた唇から抑えきれずに零れ落ちてくる甘い声と、両手を押さえつけられて乱れる様に背徳感さえ抱かせる。
「ああっ、ん、そこ、そこもっと」
「ここか?」
「う、ん……あっ!」
ねだられるまま責めたら、ビクビクとより大きな反応が返ってきた。どうやら一点を指の先で強く刺激するのが良いらしく、執拗に擦ったら泣くような高い声が上がる。押さえつけていた手を解放し、なおも追い立てたら、本人は気付いていないようだが首元にしがみつかれた。同時にメリッサの身体が震える。
「──あああっ!」
耳元からダイレクトに響いてくる絶頂の声は、ひどく甘くて脳を溶かされるようだった。
「……いい。オリバー、これ気持ちがいいよ……」
手足を投げ出して顔を火照らせるメリッサは、一度達したせいか、どこかとろんとした目に笑みを浮かべて見上げてくる。シーツにブロンドの髪を散らして、無防備に白い肌と美しい乳房をさらけ出す姿がオリバーにはとても愛らしく見え、ついまじまじと見つめてしまった。
メリッサの身体つきは騎士だけあって筋肉質だし、うっすら腹も割れている。正直オリバーの至高とする女性の外見とは対局に位置するほどかけ離れている。
それなのに、普段からは想像つかないような声と仕草にどうしようもないほど惹かれて、惹かれる自分自身にも戸惑う。
そんな内の焦燥を隠して「良かったのか」と聞けば、
「ああっ! とても良かった! オリバーが言っていた通りだな。もう一回してほしい!」
先ほどまでのしおらしさはどこへやら。の勢いで目を輝かせるメリッサがあまりにいつも通りで、今までのは幻だったのだろうかと錯覚する。
すんっ。と真顔になったのが自分でもわかったが、目の前のメリッサは今の何がいけなかったのがわかっていないらしい。怪訝な顔で首を傾げる様が余計に腹立たしい。
むっとしたまま再度下へ手を伸ばしたら、トロトロに濡れそぼったそこは難なくオリバーの指を呑み込んだ。
「やっ、あっ、ん、あぁっ、ひぁっ!」
中を掻き回すたびに、また鼻腔から抜けるような甘い声が聞こえて来る。次第に腰を揺らしだした姿を目にして、オリバーはどこか溜飲が下がるような思いだった。
「あ、あ、オリバー……っ、んあっ!」
「……っ、ここ、良いのか?」
「うん……っ、いい、すごく、いいの……! はあぁっ!」
快楽の波にのまれたメリッサが、瞳を潤ませて頭を振る。可愛い。先程から無自覚なのだろうが、乱れると口調までも幼くなる。それが可愛い。またこの可愛らしい声が聞けてオリバーの口元に自然と笑みが浮かぶ。
チラチラと舌を覗かせて必死に喘ぐメリッサに、オリバーは思い違いではなく自分の手で乱れる姿に満足しているのを感じた。
いい加減認めるしかなかった。
メリッサが可愛い。現にオリバーは今興奮している。
すぐにメリッサは二度目の絶頂を迎えた。
「オリバーの言っていた通りだったなあ」
一糸纏わぬ姿となったメリッサの衣服をベッド下に投げると、そんな呟きが聞こえた。
「こんなに良いものだとは思わなかった。ふふっ、気持ちよかった」
振り返ったら、はにかむような笑みを浮かべて見つめてくるメリッサがいた。
やはり可愛い。
これまでメリッサを友として楽しい奴だと思ったことはあっても、可愛らしいなどと思ったことはなかった。それなのにこと艶事の場ではことごとくオリバーの琴線に触れてくる。
頬に熱が集まるのを感じて、思わず顔を反らしてしまった。
そんなことを考えている間に第一部隊の世間話は大半が猥談。という話になり、とんだ残念部隊という扱いになってしまったようだが、ほぼ事実なので否定はできなかった。
「揃いも揃って見た目は良いのになあ」
「俺以外はな」
確かに第一部隊は一見爽やかな美丈夫であるクリス隊長を筆頭に、やたら見目が綺麗といわれる部類の男が多い。その中で目つきの鋭いオリバーは女性に恐れられることも多く、決して褒められたものではないだろう。
──悪かったな、こんな見目で。
自分でも不思議なほど不機嫌な顔をしているのがわかる。苛立ちのまま覆いかぶさったら、当のメリッサはきょとんとしていた。
「ん? 私は男らしくて整った顔だと思っているぞ」
飛び出した言葉が予想外で、オリバーは固まってしまった。
普段であれば「ああ、そうか」なんて適当に流せただろうが、なぜかこの時ばかりはそれができなかった。
「それより、これは大丈夫なのか?」
固まるオリバーをよそに、メリッサがオリバーの下半身に手を伸ばす。そこはとっくに熱を持ち猛っていた。
乱れるメリッサを前にしてにオリバーは興奮していた。
そして、あろうことか勃っていたのだ。勃たないはずのオリバーのオリバーが、布を突き破らんばかりにギチギチに勃ち上がっていた。
「……っ、触るなって、結構キツいんだから」
「挿れるつもりはないんじゃなかったか?」
「それはお前が──っ」
可愛いから悪い。とは、さすがに言いたくとも言えなかった。
「なあオリバー、もっと欲しい」
それなのに尚も煽るようなことを言う。
「お前……っ、変わりすぎだろ?」
「オリバーにしてもらうの気持ち良い」
どこまで煽れば気が済むのか。
「俺もだいぶ酔ってるな」
でなければ、メリッサが可愛く見えてしまうのも、己自身がギチギチに勃ち上がっているのも説明がつかない。仕方ない、酔っているのだ。酔っているから仕方ない。
もはやまともな思考とは言い難いオリバーは、全てを酒のせいにして自身を蜜の溢れる秘部にあてがい──早くとねだるメリッサの要望通り、一気に貫いた。
そして貫いた瞬間、お互いに顔を見合わせる。
「…………オリバー」
「…………これは」
考えたことは間違いなく一緒だ。
──おいおい、とんでもなく良いぞ。と。
見つめ合う瞳は言葉にしなくとも同じことを語っていた。
メリッサの中に押し入った瞬間に分かった。一寸の隙間なくぴったりとおさまる感覚。元からひとつだったのでは、と錯覚を起こしそうになるほどしっくりくる違和感のなさ。
身体の相性というものをこれほど身をもって体感したことはなかった。
そこからはもう抑えなどきかなかった。ひたすらメリッサを求めて獣のように腰を打ち付けてしまったし、メリッサも快楽を求める甘い声でひたすら鳴き続けた。
「すごいっ、すごいの! オリ、オリバーっ、あっ、あんっ、もっとして!」
「わかってる……っ、これは、やば──っ」
結局何度イッたかなんてわからないほど、お互いに溺れに溺れて──
今に至るのだ。
ゴォンッ!
周囲の騎士がザワッとどよめく声が聞こえたが、それどころではなかった。
オリバーは訓練場の壁に頭を打ち付けてみたものの、滅してくれない性欲に絶望していた。
酔った勢いでメリッサとヤッてしまった以降、気を抜けばあの夜が頭の中を埋め尽くす。酒のせいでメリッサが可愛く見えていただけならば、仕方がない。と自分に言い聞かせることもできたのだが、違った。
乱れるメリッサを思い出すだけで勃つ。
トラウマの初体験以降、頑として現実の女性では勃とうとしなかった、あのオリバーのオリバーが所かまわず勃とうとする。
普段はさっぱりとした物言いで、口調も所作も男のようだというのに、まさか夜の床ではあんなに変わるなんてことが、予想できたであろうか。純白のシーツに眩いブロンドを散らして、透き通るような肌を次第に赤く火照らせていく姿は、無垢なものを侵していくような背徳感があった。幼くなる口調が余計に純真な少女のようで……なんだあれは無自覚なのか!? いや無自覚なんだろう! だからこそまるでお前は乙女かと……ああ、クソ、やっぱり可愛──はっ!
気を抜いた瞬間、また頭の中が己の手でよがり狂うメリッサで埋め尽くされた。比例して反応し始める下半身。
──いい加減落ち着け!
パァンッ!
今度は突然自分の頬をビンタしたオリバーを見て周囲が一層距離を取るが、やはりそれどころではなかった。
ムラムラする。
予想外のメリッサの乱れた姿もさることながら、いかんせん相性が良すぎた。
ああ、あのときなぜ「一旦なかったことに」と言われて同意してしまったのか。そもそも一旦ってなんだ。「なかったことに」だけでいいだろ。いや、待てよ……? 一旦てことは取り消すことも有りだよな? その一旦をなかったことに──
「オリバー」
とんだ欲望にまみれた思考を、延々繰り広げていたオリバーの名を呼ぶ声が響いた。振り向けば、険しく鬼気迫った顔で立つメリッサの姿。その表情はまるで命の危機に瀕しているかのようだが、おそらくオリバーも今同じ表情をしている。
そしておそらく全く同じことを考えている。
「このあと時間あるよな?」
「そっちこそ」
「ならちょっと付き合ってほしい」
「ああ」
交わす言葉はこれだけで十分だった。
──その日、酒に酔っていなくてもメリッサは可愛かった。
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