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「お互いに心が読めるというのも、あれよね」
「……ああ、なんというか、あれだな」
結局明け方まで騒々しく求め合ってしまい、目覚めた朝。
早々に抱いた感想はお互いに同じだったらしい。
ぐったりしたまま揃って天井を見つめ口を開く。
「訳がわからないわね」
「訳がわからないな」
気持ちが通じ合い、ようやく初夜を達成できたことは嬉しいし、心から満足している。
しかし、一晩中お互いの声が聞こえる状態というのは、正直、もう勘弁してほしいというのが本音だった。
愛の言葉以外にもルイーザの状態やあられもない部分の感想などが、遠慮も容赦もなく直球で飛んでくる。
まさに、延々とフレデリクから言葉攻めを受けているようなものである。
そしてこれはフレデリクも同じだったようで。
最後には常に飛び交うお互いの思考と実際の声の区別などつかなくなり、なにがなんだかわからないまま煽られ快楽の狂宴によがり続け、意識が吹っ飛び気を失った。
目覚めた直後、いまだ繋がったままの状態であることに気が付いた瞬間はさすがに叫んでしまったが、フレデリクも同じく叫んだのでお互い様だろう。
なんともとんでもない初夜を迎えてしまった。
裸のまま身を寄せ合いぼんやりしていたルイーザだが、ふと気が付く。
「あら、もう聞こえない……?」
フレデリクと肌が触れ合っているのに、頭の中が静かだ。
頭が爆ぜてしまいそうなほど、洪水のように流れてきた甘い言葉の数々がなにも聞こえない。
横を見れば、フレデリクも同じように唖然としていた。
「ルーもなのか?」
「フレッドも?」
「神の気まぐれはようやく終わったのだろうか……」
なんだか疑心暗鬼になっているフレデリクの隣で、ルイーザは終わったのだろうな、となんとなく納得した。
誤解が解け本当の意味で夫婦になれた今、もう心の声が聞こえる必要はないのだから。
ルイーザの夫は女神の祝福を受けるほど神にも愛されている。さすがだと思っておくことにしようとひとり頷いた。
「ところで、ひとつ聞きたいことがある」
不意に、フレデリクが向きを変え真剣な眼差しで見つめてきた。
「ルーは、なぜ俺にとってこの結婚が不本意だなんて思ったんだ?」
「え、だって……」
「そんな訳がない、というのは、もう散々伝わっただろう?」
「うっ」
確かに。
フレデリクの本心は昨晩散々、それはもう、嫌というほど、疑いようがないほど伝わってきた。
そもそも、なぜルイーザがそのような考えに至ったのかというと、最後に別荘で会ったときのフレデリクの態度だ。
今まで胸に秘めてきたその出来事を、思い切って口にすることにした。
「十二歳のときの、休暇で……」
久々にフレデリクと会えたことが嬉しくて、ルイーザは駆け寄ろうとした。
なのに、喜ぶどころかフレデリクはルイーザを見るなり足を一歩引いたのだ。
その時の眉根を寄せた顔と態度、それ以降話しかけようにもずっと避けられていたことを思えば、どうして好かれているなどと思えるだろうか。
あの日に失恋したのだと思って、手に職を得て一人で生計を立てられるようにと調薬師を目指したのだと。ずっと胸に秘めていた気持ちをポツポツと告げれば、フレデリクの顔はみるみる青くなっていった。
「あのときか……?」
何年も前の出来事だが、どうやらフレデリクも覚えていたらしい。
ルイーザにとっては初めての失恋を経験した忘れがたい日ではあるが、フレデリクにとっては記憶の欠片にも残っていないと思っていたから意外だった。
「覚えているの?」
「もちろんだ! だって……、いや、違う。違うんだ」
目を丸くするルイーザにも気付かない様子で、アンバーの瞳がせわしなく揺れている。
言葉にするのをためらうように、しばらく葛藤した様子で何度か口を閉じたり開いたりしていたが、意を決した視線がルイーザを捉えた。
「あの日、ルーは初めてドレスを着て現れただろう?」
「…………え? ドレス?」
予想外の言葉に、ポカンと口が開いたのが自分でもわかった。
話が読めなくて黙って先を促したら、フレデリクはとんでもなく気まずそうに口元を押さえる。
「それが、その……あの日ドレスを着て出迎えた姿を見るまで、俺は……ルーのことを男だと思っていた……」
最後は聞こえるか聞こえないかの呟きだったが、ルイーザの耳はしっかりとその言葉を拾った。
「……ああ、なんというか、あれだな」
結局明け方まで騒々しく求め合ってしまい、目覚めた朝。
早々に抱いた感想はお互いに同じだったらしい。
ぐったりしたまま揃って天井を見つめ口を開く。
「訳がわからないわね」
「訳がわからないな」
気持ちが通じ合い、ようやく初夜を達成できたことは嬉しいし、心から満足している。
しかし、一晩中お互いの声が聞こえる状態というのは、正直、もう勘弁してほしいというのが本音だった。
愛の言葉以外にもルイーザの状態やあられもない部分の感想などが、遠慮も容赦もなく直球で飛んでくる。
まさに、延々とフレデリクから言葉攻めを受けているようなものである。
そしてこれはフレデリクも同じだったようで。
最後には常に飛び交うお互いの思考と実際の声の区別などつかなくなり、なにがなんだかわからないまま煽られ快楽の狂宴によがり続け、意識が吹っ飛び気を失った。
目覚めた直後、いまだ繋がったままの状態であることに気が付いた瞬間はさすがに叫んでしまったが、フレデリクも同じく叫んだのでお互い様だろう。
なんともとんでもない初夜を迎えてしまった。
裸のまま身を寄せ合いぼんやりしていたルイーザだが、ふと気が付く。
「あら、もう聞こえない……?」
フレデリクと肌が触れ合っているのに、頭の中が静かだ。
頭が爆ぜてしまいそうなほど、洪水のように流れてきた甘い言葉の数々がなにも聞こえない。
横を見れば、フレデリクも同じように唖然としていた。
「ルーもなのか?」
「フレッドも?」
「神の気まぐれはようやく終わったのだろうか……」
なんだか疑心暗鬼になっているフレデリクの隣で、ルイーザは終わったのだろうな、となんとなく納得した。
誤解が解け本当の意味で夫婦になれた今、もう心の声が聞こえる必要はないのだから。
ルイーザの夫は女神の祝福を受けるほど神にも愛されている。さすがだと思っておくことにしようとひとり頷いた。
「ところで、ひとつ聞きたいことがある」
不意に、フレデリクが向きを変え真剣な眼差しで見つめてきた。
「ルーは、なぜ俺にとってこの結婚が不本意だなんて思ったんだ?」
「え、だって……」
「そんな訳がない、というのは、もう散々伝わっただろう?」
「うっ」
確かに。
フレデリクの本心は昨晩散々、それはもう、嫌というほど、疑いようがないほど伝わってきた。
そもそも、なぜルイーザがそのような考えに至ったのかというと、最後に別荘で会ったときのフレデリクの態度だ。
今まで胸に秘めてきたその出来事を、思い切って口にすることにした。
「十二歳のときの、休暇で……」
久々にフレデリクと会えたことが嬉しくて、ルイーザは駆け寄ろうとした。
なのに、喜ぶどころかフレデリクはルイーザを見るなり足を一歩引いたのだ。
その時の眉根を寄せた顔と態度、それ以降話しかけようにもずっと避けられていたことを思えば、どうして好かれているなどと思えるだろうか。
あの日に失恋したのだと思って、手に職を得て一人で生計を立てられるようにと調薬師を目指したのだと。ずっと胸に秘めていた気持ちをポツポツと告げれば、フレデリクの顔はみるみる青くなっていった。
「あのときか……?」
何年も前の出来事だが、どうやらフレデリクも覚えていたらしい。
ルイーザにとっては初めての失恋を経験した忘れがたい日ではあるが、フレデリクにとっては記憶の欠片にも残っていないと思っていたから意外だった。
「覚えているの?」
「もちろんだ! だって……、いや、違う。違うんだ」
目を丸くするルイーザにも気付かない様子で、アンバーの瞳がせわしなく揺れている。
言葉にするのをためらうように、しばらく葛藤した様子で何度か口を閉じたり開いたりしていたが、意を決した視線がルイーザを捉えた。
「あの日、ルーは初めてドレスを着て現れただろう?」
「…………え? ドレス?」
予想外の言葉に、ポカンと口が開いたのが自分でもわかった。
話が読めなくて黙って先を促したら、フレデリクはとんでもなく気まずそうに口元を押さえる。
「それが、その……あの日ドレスを着て出迎えた姿を見るまで、俺は……ルーのことを男だと思っていた……」
最後は聞こえるか聞こえないかの呟きだったが、ルイーザの耳はしっかりとその言葉を拾った。
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