【R18】なんと夫には妻の心の声が筒抜けだったらしい

天野 チサ

文字の大きさ
20 / 22

20 最初から間違っていた1

しおりを挟む
「お互いに心が読めるというのも、あれよね」
「……ああ、なんというか、あれだな」

 結局明け方まで騒々しく求め合ってしまい、目覚めた朝。
 早々に抱いた感想はお互いに同じだったらしい。
 ぐったりしたまま揃って天井を見つめ口を開く。

「訳がわからないわね」
「訳がわからないな」

 気持ちが通じ合い、ようやく初夜を達成できたことは嬉しいし、心から満足している。

 しかし、一晩中お互いの声が聞こえる状態というのは、正直、もう勘弁してほしいというのが本音だった。

 愛の言葉以外にもルイーザの状態やあられもない部分の感想などが、遠慮も容赦もなく直球で飛んでくる。
 まさに、延々とフレデリクから言葉攻めを受けているようなものである。

 そしてこれはフレデリクも同じだったようで。

 最後には常に飛び交うお互いの思考と実際の声の区別などつかなくなり、なにがなんだかわからないまま煽られ快楽の狂宴によがり続け、意識が吹っ飛び気を失った。

 目覚めた直後、いまだ繋がったままの状態であることに気が付いた瞬間はさすがに叫んでしまったが、フレデリクも同じく叫んだのでお互い様だろう。

 なんともとんでもない初夜を迎えてしまった。

 裸のまま身を寄せ合いぼんやりしていたルイーザだが、ふと気が付く。

「あら、もう聞こえない……?」

 フレデリクと肌が触れ合っているのに、頭の中が静かだ。
 頭が爆ぜてしまいそうなほど、洪水のように流れてきた甘い言葉の数々がなにも聞こえない。

 横を見れば、フレデリクも同じように唖然としていた。

「ルーもなのか?」
「フレッドも?」
「神の気まぐれはようやく終わったのだろうか……」

 なんだか疑心暗鬼になっているフレデリクの隣で、ルイーザは終わったのだろうな、となんとなく納得した。
 誤解が解け本当の意味で夫婦になれた今、もう心の声が聞こえる必要はないのだから。
 ルイーザの夫は女神の祝福を受けるほど神にも愛されている。さすがだと思っておくことにしようとひとり頷いた。

「ところで、ひとつ聞きたいことがある」

 不意に、フレデリクが向きを変え真剣な眼差しで見つめてきた。

「ルーは、なぜ俺にとってこの結婚が不本意だなんて思ったんだ?」
「え、だって……」
「そんな訳がない、というのは、もう散々伝わっただろう?」
「うっ」

 確かに。
 フレデリクの本心は昨晩散々、それはもう、嫌というほど、疑いようがないほど伝わってきた。

 そもそも、なぜルイーザがそのような考えに至ったのかというと、最後に別荘で会ったときのフレデリクの態度だ。
 今まで胸に秘めてきたその出来事を、思い切って口にすることにした。

「十二歳のときの、休暇で……」

 久々にフレデリクと会えたことが嬉しくて、ルイーザは駆け寄ろうとした。
 なのに、喜ぶどころかフレデリクはルイーザを見るなり足を一歩引いたのだ。

 その時の眉根を寄せた顔と態度、それ以降話しかけようにもずっと避けられていたことを思えば、どうして好かれているなどと思えるだろうか。

 あの日に失恋したのだと思って、手に職を得て一人で生計を立てられるようにと調薬師を目指したのだと。ずっと胸に秘めていた気持ちをポツポツと告げれば、フレデリクの顔はみるみる青くなっていった。

「あのときか……?」

 何年も前の出来事だが、どうやらフレデリクも覚えていたらしい。
 ルイーザにとっては初めての失恋を経験した忘れがたい日ではあるが、フレデリクにとっては記憶の欠片にも残っていないと思っていたから意外だった。

「覚えているの?」
「もちろんだ! だって……、いや、違う。違うんだ」

 目を丸くするルイーザにも気付かない様子で、アンバーの瞳がせわしなく揺れている。
 言葉にするのをためらうように、しばらく葛藤した様子で何度か口を閉じたり開いたりしていたが、意を決した視線がルイーザを捉えた。

「あの日、ルーは初めてドレスを着て現れただろう?」
「…………え? ドレス?」

 予想外の言葉に、ポカンと口が開いたのが自分でもわかった。
 話が読めなくて黙って先を促したら、フレデリクはとんでもなく気まずそうに口元を押さえる。

「それが、その……あの日ドレスを着て出迎えた姿を見るまで、俺は……ルーのことを男だと思っていた……」

 最後は聞こえるか聞こえないかの呟きだったが、ルイーザの耳はしっかりとその言葉を拾った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】少年の懺悔、少女の願い

干野ワニ
恋愛
伯爵家の嫡男に生まれたフェルナンには、ロズリーヌという幼い頃からの『親友』がいた。「気取ったご令嬢なんかと結婚するくらいならロズがいい」というフェルナンの希望で、二人は一年後に婚約することになったのだが……伯爵夫人となるべく王都での行儀見習いを終えた『親友』は、すっかり別人の『ご令嬢』となっていた。 そんな彼女に置いて行かれたと感じたフェルナンは、思わず「奔放な義妹の方が良い」などと言ってしまい―― なぜあの時、本当の気持ちを伝えておかなかったのか。 後悔しても、もう遅いのだ。 ※本編が全7話で悲恋、後日談が全2話でハッピーエンド予定です。 ※長編のスピンオフですが、単体で読めます。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。 でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。 周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。 ――あれっ? 私って恋人でいる意味あるかしら…。 *設定はゆるいです。

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

処理中です...