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21 最初から間違っていた2
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「お……おとこおおぉぉっ!?」
「本当にすまない!」
ルイーザが叫ぶなり、フレデリクは飛び起きてベッドの上で姿勢を正すと頭を下げる。
少しだけ可愛い寝ぐせの付いた艶やかな黒髪のつむじを見ながら、ルイーザは静かに身体を起こして向かい合った。
お互い一糸まとわぬ姿で向かい合うという面白い構図であったが、衝撃の事実を前にそれどころではない。
「ど、ど、どういうこと?」
「いや、その、出会った時からずっとルーとしか呼んでいなかっただろう? それに昔の君は、ずっとズボンを履いていたからてっきり……」
「え? え? ちょ、ちょっと待って?」
頭を抱えて必死に記憶を辿る。
確かに、幼いころ野山をかけ回るのにドレスは邪魔で、兄たちのおさがりである半ズボン姿でよく遊んでいた。
ルイーザには弟妹もいるが兄姉もいるのだ。家族の多い家だったので、おさがりの服はたくさんあった。
そして、フレデリクとの出会いを思い返す。
初めて会ったとき、『フレデリク・イクソンです』とはにかんだ笑みにルイーザはすっかり目を奪われていた。
横で「よろしく、ハンスでいいよ」と応えたハンスに続き慌てて「ルーって呼んで!」と愛称だけを名乗った気がする。
「あら……もしかして、私、ちゃんと名乗っていなかった?」
「聞かなかった俺も悪かったんだが……」
気遣うようにフレデリクは言うが、明らかにルイーザがやらかしている。
ルーは男女どちらの愛称でも通じる。しかも半ズボン姿でハンスと並んでいれば男の子と思っても無理はない。髪も邪魔だからと、かろうじて肩まであったかなかったか、程度だった気がする。
昔の記憶が蘇るほど、今度はルイーザの顔から血の気が引いた。
「ずっと男友達だと思っていた君が、あの日初めてドレス姿で現れて女性だったと知った。しかも、久しぶりに会ったルーはすっかり綺麗になっていて、動揺して失礼な態度を取ってしまったんだ……まさかそれがとんだ勘違いをさせてしまったなんて……」
いわく。
改めてルイーザを女の子として意識したフレデリクも、十二歳のあの日をきっかけに自分の気持ちに気が付いたらしい。
しかし、よくハンスと二人で過ごしている様子を見て、ルイーザの想い人はてっきりハンスだと思ったようだ。
二人で過ごしていたといっても、その実態は失恋したと嘆くルイーザに追い打ちをかけてくるハンスと取っ組み合いの喧嘩になりかけたり、ルイーザが一方的にフレデリクへの想いを語り鬱陶しがられていた程度で。
皮肉なことに、ルイーザが恋心に気付いたと同時に失恋したと思ったきっかけが、フレデリクにとっても恋の始まりであったとは。
ちなみに、先日ハンスとガゼボでお茶をしたとき、咳き込んだルイーザとその背をさするハンスの姿を見てしまい、角度が悪かったのかてっきり恋人同士の抱擁と勘違いしたそうだ。
それがあの妊娠発言のきっかけだとか。
おのれのしでかしから、なんという勘違いの連鎖だろう。
「私は、なんて……もうっ、なんてお馬鹿……!」
頭を抱えたまま、ルイーザはベッドに顔を埋めた。
あまりの間抜けさにやりきれない。この憤りのぶつけどころがなくて、ただただベッドに顔をめり込ませる。だって元凶は自分なのだから。
そうしたら、頭を抱えていた手をそっと取られた。
「それでも、ずっと想っていてくれてありがとう」
温かな声に顔を上げたら、すぐ近くにフレデリクの顔があった。
「今は、ルーと結婚できて本当に幸せだ」
そう言った顔は、昔と同じはにかんだ笑みを浮かべていて、ルイーザはたまらなく胸がいっぱいになる。
「わ、私もぉっ」
泣き笑いで叫んだら、苦笑するような吐息とともに唇へ温かく柔らかな口づけが降ってきた。
「本当にすまない!」
ルイーザが叫ぶなり、フレデリクは飛び起きてベッドの上で姿勢を正すと頭を下げる。
少しだけ可愛い寝ぐせの付いた艶やかな黒髪のつむじを見ながら、ルイーザは静かに身体を起こして向かい合った。
お互い一糸まとわぬ姿で向かい合うという面白い構図であったが、衝撃の事実を前にそれどころではない。
「ど、ど、どういうこと?」
「いや、その、出会った時からずっとルーとしか呼んでいなかっただろう? それに昔の君は、ずっとズボンを履いていたからてっきり……」
「え? え? ちょ、ちょっと待って?」
頭を抱えて必死に記憶を辿る。
確かに、幼いころ野山をかけ回るのにドレスは邪魔で、兄たちのおさがりである半ズボン姿でよく遊んでいた。
ルイーザには弟妹もいるが兄姉もいるのだ。家族の多い家だったので、おさがりの服はたくさんあった。
そして、フレデリクとの出会いを思い返す。
初めて会ったとき、『フレデリク・イクソンです』とはにかんだ笑みにルイーザはすっかり目を奪われていた。
横で「よろしく、ハンスでいいよ」と応えたハンスに続き慌てて「ルーって呼んで!」と愛称だけを名乗った気がする。
「あら……もしかして、私、ちゃんと名乗っていなかった?」
「聞かなかった俺も悪かったんだが……」
気遣うようにフレデリクは言うが、明らかにルイーザがやらかしている。
ルーは男女どちらの愛称でも通じる。しかも半ズボン姿でハンスと並んでいれば男の子と思っても無理はない。髪も邪魔だからと、かろうじて肩まであったかなかったか、程度だった気がする。
昔の記憶が蘇るほど、今度はルイーザの顔から血の気が引いた。
「ずっと男友達だと思っていた君が、あの日初めてドレス姿で現れて女性だったと知った。しかも、久しぶりに会ったルーはすっかり綺麗になっていて、動揺して失礼な態度を取ってしまったんだ……まさかそれがとんだ勘違いをさせてしまったなんて……」
いわく。
改めてルイーザを女の子として意識したフレデリクも、十二歳のあの日をきっかけに自分の気持ちに気が付いたらしい。
しかし、よくハンスと二人で過ごしている様子を見て、ルイーザの想い人はてっきりハンスだと思ったようだ。
二人で過ごしていたといっても、その実態は失恋したと嘆くルイーザに追い打ちをかけてくるハンスと取っ組み合いの喧嘩になりかけたり、ルイーザが一方的にフレデリクへの想いを語り鬱陶しがられていた程度で。
皮肉なことに、ルイーザが恋心に気付いたと同時に失恋したと思ったきっかけが、フレデリクにとっても恋の始まりであったとは。
ちなみに、先日ハンスとガゼボでお茶をしたとき、咳き込んだルイーザとその背をさするハンスの姿を見てしまい、角度が悪かったのかてっきり恋人同士の抱擁と勘違いしたそうだ。
それがあの妊娠発言のきっかけだとか。
おのれのしでかしから、なんという勘違いの連鎖だろう。
「私は、なんて……もうっ、なんてお馬鹿……!」
頭を抱えたまま、ルイーザはベッドに顔を埋めた。
あまりの間抜けさにやりきれない。この憤りのぶつけどころがなくて、ただただベッドに顔をめり込ませる。だって元凶は自分なのだから。
そうしたら、頭を抱えていた手をそっと取られた。
「それでも、ずっと想っていてくれてありがとう」
温かな声に顔を上げたら、すぐ近くにフレデリクの顔があった。
「今は、ルーと結婚できて本当に幸せだ」
そう言った顔は、昔と同じはにかんだ笑みを浮かべていて、ルイーザはたまらなく胸がいっぱいになる。
「わ、私もぉっ」
泣き笑いで叫んだら、苦笑するような吐息とともに唇へ温かく柔らかな口づけが降ってきた。
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