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後編
しおりを挟む少し緊張しながらも迎えた休みの日、お見合い当日だ。
現れた男性はなんていうか……こう……年上すぎるだろ。
私は誕生日が遅いのでまだ15にもなってないのだが……相手は40手前らしい。おっさんじゃん。ロリコンじゃん。
流石に年上すぎてお流れ。
というか父としても自分と同じ、というか自分よりも少し上の年齢の娘婿は遠慮したいらしい。
伯爵位だから会いもしないで断ることはできなかったとは父談。
なんで求婚されたんだと思ったけど、私の容姿を気に入ってもらえたらしい。マジでロリコンか。
乙女ゲームのヒロインって基本的には顔のスチルないからさ、生まれ変わるまで自分の顔……というかサラ・ランジットの顔を見たことはなかったんだけど……とりあえず一言で言えばめっちゃ可愛い顔をしている。
髪は兄と同じで金にちかい茶色、そして瞳はゲームのタイトルと同じでルビー色という感じの赤。
綺麗にコテで巻きましたと言わんばかりの緩いウェーブが元からついている腰まである髪と、少し猫目かな? というくらいのぱっちり二重。
そして口元にはセクシー泣きぼくろだ。
美少女である。
これならモテるわ。
見た目は。
いくら父のためと思っても流石に私の容姿にブヒブヒ言ってる豚はお断りだ。
見目や中身が良ければ40手前でも結婚しちゃうかもだけどその伯爵はただの豚だったから無理だ。触られると思うだけで鳥肌立つ。
そのあとも伯爵子息や男爵子息など様々な人たちがきたが、父のお眼鏡に叶う人はいなかったようだ。
ていうか何故か地位の高い人間ほど豚だった。豚は拒否反応が……。
父も可愛い娘婿が豚は嫌らしい。
あまり身分が高くないと何故か俺様が多かったからそれも困ったものだ。せめて逆にしてくれよぅ……。
リシュール侯爵様は侯爵なのにとてもイケメンで驕った所のない素敵な男性だったのになぁ。(噂でしか知らない)
二つ下にいる長男長女も侯爵様に似ているらしく麗しいお顔をしていた。というか長女であるアイラ様は特待生の10歳入学の制度を使っての入学だったので同じクラスにいた。
ちょっとツンデレ入ってたけど基本的には良い人で性格も申し分ない。
しかしラルフ様はうちの兄と同じ妹溺愛タイプらしいという噂なのでご遠慮願いたい。
兄ですらウザいのに、これ以上デレデレ増やしたくない。とかいって男爵家と侯爵家だからありえないけど。
もう正直父のためになる気がしないのでこのまま売れ残るならば教会で修道女にでもなろうかなぁと思っていたので、前に住んでいたところの教会を下見に行ってみようと思い立ったは吉日とばかりに理由は伏せたま父に前に住んでいたところに行ってくると告げ家を出る。
王都からは片道2日の距離だけど数日前から長期休みに入ったし、少しの間お見合いなしで休んでて良いよって言ってくれたから丁度良い。
ちなみに「前住んでたところってリシュール領じゃ……ちょ、サラちゃん!? 遠くない!? パパとの交流は……!? まっ……!」って後ろの方で後半涙声で言ってたけどシカトした。
最近は婚約者にベタベタだから兄が鬱陶しくなくて出かけるのも気分が良い。父は帰ってきたら構ってあげようと思った。
リシュール領メインの街である『リシュール』についてすぐ馬車を降り、街を歩くことにする。
乗ってきた馬車は街の入り口で待っていてくれるそうなので夕方くらいに戻ってくる旨を伝える。
泊まる場所? 行きも帰りも馬車ですがなにか?
馬車って車に比べちゃうと揺れがあるので、慣れはしても疲れる。
歩きは風も直接あたって気持ちが良いし、元庶民としては歩くことも嫌いじゃないし馬車の窮屈感も好きじゃないのでとても楽だ。そよそよと吹く気持ち良い。
数年ぶりに帰ってきたこの街は昔住んでいたからこそ友達もいる。馴染みの店や道で会う友達に挨拶をしていくと学園の友達と話すのとはやっぱり違った雑さが本当に楽しい。
久しぶりにゆったりと庶民の時のように楽に過ごせた気がする。
けれど流石に少し疲れた。
ダンスや社交とは違う疲れ。
そこそこ自由にさせてもらっているからそんなに貴族の暮らしが窮屈だとは思わないけれど、心なしか普段より笑顔が20%増しになっていた気がする。笑いすぎて疲れたとか。
屋台で飲み物を買いベンチで休む。
ゆったりと流れる風が心地よい。王都にはない少し田舎っぽい空気に癒されていく。
しかし忘れていたな。
どんだけ善政を敷こうが、正しさあれば悪はある、光があれば闇があるってね。
分かりやすすぎるくらい分かりやすい、チンピラのような男たちに絡まれてしまった。
見目も身なりも良い明らかに貴族という女の子が護衛もつれずベンチで一人。
まぁそうだよね、絡むよね。
むしろ絡んでくださいと言わんばかりの状況だよね。
相手は四人。全員ゴロツキのような服装をしているが動きに統率がある感じがするから多分騎士とかそういうやつ。
ていうか真ん中にいるリーダーっぽい人は見覚えがある。お見合い初日の豚を護衛してた男だ。
つまりがこれは私を拉致ろうとか、袖に振られた仕返しをしようとか、そういう豚の陰謀による茶番なわけか。
もちろんそんなものに乗るつもりはない。
私をただの貴族令嬢だと思わないでほしい。
前世では空手カッコいいと思って習っていたのである。黒帯だった私はもちろん今世でも同じように身体を鍛えていたので護身くらいならお手の物だ。
思っていたよりも弱く呆気なく地面に伏せるゴロツキ風護衛たち。あれ? 空手ツエェ?
仮にも護衛が令嬢に負けていいのだろうか。
最終的に蹴飛ばしたら半泣きで逃げていったんだが、どゆこと。
すると笑いながら近づいてくる少し身なりの良い男の子……。
私よりいくつか下に見えるけれど……10歳くらいかな?
訝しんで見つめていると笑ったことに対する謝罪と、絡まれていたのを助けなかったことに対する謝罪をされた。
話を聞いてみるとたまたま近くを通りかかった時に友達と楽しそうに笑う私を見つけたらしい。
なんとなくそのまま見ていたらすぐに別れて1人になったらベンチで休憩し始めたので、キリも良いしいつまでも見ているのも不躾だろうと立ち去ろうとしたところ、丁度絡まれてしまったので助けようとしたら全部自力でどうにかしてしまいポカンとしてしまったらしい。
そのあとは若い女性が男4人をアッサリと伸したことに笑いがこみ上げてきた、という話だった。
少年はとても綺麗なガーネット色の髪の毛と、ルビーをはめ込んだようなとても綺麗な瞳をしていた。
身なりが良いから貴族様なのだろうことは分かる。人のことを言えないけれど、護衛がいないのは如何なものか。
ていうかどこかで見たことがあるような気がするんだけれど、どこかわからない……こんな整った顔の年下の知り合いいないし……どっかですれ違ったとかかな?
そのあとも興味を持たれたのか、ベンチに隣り合って座り話をする。
どうやら少年はキズリという名前らしい。年齢は11歳でなったばかりだというから私より4つ下。話しているととても賢い子だというのがよく分かる。
なんでも兄がとっても天才らしく色々教えを請うているらしい。
素晴らしい向上心。私にはないものだなぁと感心してしまった。
気づくと随分と時間が経っていて、夕方に戻ると宣言してしまった私はもう街の入り口に向かわなければいけない時間なため教会に行けなくなったと項垂れる。
何故教会? と問うたキズリ様に軽く経緯説明すると驚くことを言ってきた。
「じゃあ僕と結婚してください、サラ・ランジット嬢。
僕は貴女を一目見て心を奪われてしまいました。僕はまだ成人には遠いですが、どうか僕と共に歩んでいただけないでしょうか?
僕はキズリ……キズリエラ・リシュール、ここリシュール領主の次男です。
家督を継ぐわけではないので当主より苦労をするかもしれませんが、それでも貴女が今のように笑って過ごせるように頑張ります、僕の隣でいつまでも笑っていてもらえませんか……?」
まさかのここの領主様の御子息様でした。見覚えあるはずだよ。
住んでた街の領主様だし、私と同じ学校に姉が通っているじゃないか……そう言われればなんとなく似てるわ。
いやはや、驚きを隠せません。
そしてそんなキズリ様と繋がった縁はいつまでも切れることはなく……なんと本当に結婚してしまいました。
その後は不幸が重なり……侯爵夫人であるリリエラ様とお腹にいた御子様、そして跡継ぎであったラルフ様が亡くなった。
なので繰り上げて侯爵家を継ぐことになったキズリ様、そしてその夫人になった私は侯爵夫人である。
とんだシンデレラストーリーだ。
そして義理の妹ユイちゃんは、なんと私と同じ転生者らしい。
転生者同盟を組んでとても仲良くなれました。
私が光魔法のみなのに対してユイちゃんはなんでも出来ちゃう創作魔法というものを転生時に貰ったそうなのでとても羨ましいです。
私の思い出し型とは違う、神様と会ってから来る記憶引き継ぎ型らしい。
しかもチートを使って色々お金儲けやらやりたいことやらをやっているのでとっても楽しそう、そして私も少しお手伝いさせてもらっててとっても楽しい。
前世の自分の名前は思い出せないけれど、今世の名前は自信を持って名乗れる。
私は赤の奇跡ヒロイン『サラ・ランジット』改め……リシュール侯爵夫人『サラ・リシュール』!
乙女ゲームのヒロインは回避したけれど、私はそれ以上の幸せを得ることができた。いや、ヒロインとしてだったら得ることのできなかった幸せを得ることができた、かな?
ずっと赤い糸って意味だと思ってたんだけれど、実は赤い髪と瞳の『赤い奇跡』だったのかな?
そんな奇跡て結ばれた貴方に出逢えたのだから、私は世界一幸せものだね。
愛してるよ、赤い赤い、素敵な私の旦那様。
応援ありがとうございます!
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