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変化する世界
第396話 本気のもりもりさん
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「勝負を始める前に確認しておきますが、私は本気で戦ってよろしいのですね?」
私はミランダ戦の前の前哨戦と考えていたが、もりもりさんは模擬戦ではなく『勝負』と口にした。私のために本気で挑んでくれるのだ。
「もちろんです。私も本気で勝ちにいきますので、手加減は無用です」
「では、あとはシステムに任せればいいですね」
「はい。始めましょう」
耳にイヤホンを装着し、音声で勝負の経過が告げられるようになっている。音声の内容は勝負の開始の合図から始まり、ダメージ状況や勝敗判定が声で届くことになっている。模擬戦開始前60秒のアナウンスが流れる。
もりもりさんと私は互いに距離を取った。開始前から準備は始まっている。両者ともにエンチャントを発動させた。もりもりさんのブーツが光り、私は全身が白く発光する。
もりもりさんが魔法を唱えていた。開始と同時に作動させるつもりだ。
私も同じように魔法を唱える。魔法陣がもりもりさんとの中間地点に出現していた。
模擬戦開始の合図。先に動いたのはもりもりさんだった。使ったのはアース属性の魔法――
「ロックバースト!」
巨大な岩がこちらに撃ち出され、中間地点で炸裂してばらばらになる。この攻撃はそれぞれが弾道となって複数方向に飛んでいくため、避けることが難しい。本来は広範囲攻撃に使う手段だ。それをもりもりさんは初手で使ってきた。
「戦車召喚!」
私はもりもりさんの初手を予想していた。戦車の車体を壁にしてロックバーストを防ぎつつ、同時に攻撃の手段とする。……つもりだった。
周囲には煙が充満し、一気に視界が悪くなった。
「煙幕!?」
戦車越しに煙玉が何個も飛んでくる。
「よくわかりましたね、ロックバーストを初手に使うと」
煙の中からもりもりさんが現れた。剣を横薙ぎに一閃。私の腹が斬られたとの判定。鎧の損傷80%。被ダメージHP30%減少。いきなりかなりの損傷だ。それに伴い、仮想の激痛が走る。こちらの激痛のほうが問題だった。早くヒーリングポーションで回復しなければならない。
「もりもりさんが……一番使わないと思う魔法を予測しました」
ポーションを使う余裕を与えてくれない。声を出す間にも、もりもりさんの剣戟が止まる気配がない。素早く何度も往復で剣が飛んでくる。私はミスリルの大剣の大きさを利用してなんとか防ごうと試みるが、それで止められるような剣さばきではない。
「春菜さんは甘すぎます。私が意表を突いてくると予想したのでしょう。ですが、それだけでは意味がありません」
もりもりさんの目的は得意とする剣戟に持ち込むことだ。実力勝負に持ち込むことで、確実に勝ちを引き寄せるつもりだった。
「ロックバーストをただ相手の意表を突くために使ったのではありません。ちゃんとその先の展開を見据えています」
私だって、そんな当たり前のことを見落とすわけもない。私は次の手を繰り出す。
「甘いのはもりもりさんです。私はもう1体を召喚することができるんです」
「もう1体?」
もりもりさんが怪訝な顔をしながらバックステップを踏んだ。明らかに警戒していた。
「いでよ、死者の王。これが私の切り札です」
死者の王は長瀞ダンジョンの地上40階を守る階層主だ。骸骨の顔をして腐った肉体を持つ。黒のローブを纏い、全身からは漆黒のオーラが漂っている。剣と盾で襲ってくるこのモンスターは人間の反応速度は超えていて、達人と言えるほどの技能があった。
――グギャアアアアアア!!!!
声なき声で死者の王は叫ぶ。
私たちはまだ40階には到達していなかった。このモンスターは私が1人で40階まで行って召喚のためだけに倒してきた。
「春菜さんが勝てると思った理由がこれですか。隠し玉を持っていたわけですね」
もりもりさんは死者の王に対して何回か剣をふるったあとで煙幕の中へと消えていった。距離を取って戦うつもりのようだ。煙の向こうから声だけが聞こえてくる。
「数回剣を合わせただけで恐ろしさがわかります。とんでもない化け物を召喚したのですね」
あたりは煙が充満しており、もりもりさんの姿が見えない。正面から声だけが聞こえてくる。この煙がやっかいだった。
私はウインド系の魔法を使うことができない。ドローンかあるいは戦闘ヘリを召喚して煙を吹き飛ばしてもいいのだが、召喚の枠が残っていない。長瀞ダンジョンは呼び出したままになっており、ラビちゃんも枠を使っている。私が使えるのは3枠だが、そのうちの1つはこのダンジョン部屋で消費していた。
戦車の召喚を解除しないとドローンやヘリを召喚できないが、この行動は不自然だった。なぜなら、ダンジョン部屋で1枠使っていることをもりもりさんは知らないからだ。不自然な行動を取ってしまうと、勘の良いもりもりさんには悟られてしまう可能性があった。
「申し訳ないのですが、春菜さん。この勝負は私が勝たせていただきますね」
余裕のある落ち着いた声が聞こえてくる。
「何を言っているのですか、もりもりさん。単身では死者の王に勝つことは不可能です」
「確かに真っ向勝負なら私は勝てないでしょう。ですが、この視界不良の中ならどうでしょう?」
もりもりさんが言う通り、部屋の中はまったく見通しが効かない。この煙をなんとかしたかったが、死者の王は剣の達人の領域にいる。気配だけでもりもりさんを捉えることも可能なはずだ。
「いけ! 死者の王!」
私の命令により、煙の中に死者の王が突っ込んでいった。短期決戦で一気に勝負を決めるつもりだった。時間をかけるつもりはなかったが、それはもりもりさんも同じだった。煙の向こうで声だけが聞こえてくる。
「勝負が長引くと私が不利になります。一気に決めさせてもらいますね」
死者の王が煙の中に消えた直後、気配を感じたのは真後ろだった。
剣が振り下ろされ、肩にヒット。私の鎧の損傷が99%。水平にまっすぐ繰り出された剣が私の首筋に迫る。かろうじて首をひねって奇跡的に回避。
この時点でダメージはHPの80%を超えていたが、もりもりさんの蹴りが背中に思いっきり入る。
――ぐ……
声も出せないまま床にうつ伏せに倒れてしまった。私は本能的に横に転がる。そこに垂直に剣が突きつけられ床と接触、激しい音とともに砕けた石の破片が飛び散る。もりもりさんは手を緩めない。転がる私に対し、次々に剣を突き刺してきて、私の腕や足が刺された。
私は動くことができなくなってしまった。
ダメージ判定99%。腕も足も損傷した判定となっており、激しい痛みとともにぴくりとも動かない。
「終わりですね」
視界にもりもりさんの姿が見えた。私は床に寝た状態で見上げている。
もりもりさんは煙の向こう側にいたと思っていたのだが、背後から急に襲われた。
「声の出どころに私がいるとは限りません。それに死者の王と真っ向勝負するつもりもありません。司令塔である春菜さんを倒せばそれでいいのですから」
もりもりさんが剣を振りあげた。私にとどめを刺すべく、剣先が迫ってくる。私は動くことができない。
私はミランダ戦の前の前哨戦と考えていたが、もりもりさんは模擬戦ではなく『勝負』と口にした。私のために本気で挑んでくれるのだ。
「もちろんです。私も本気で勝ちにいきますので、手加減は無用です」
「では、あとはシステムに任せればいいですね」
「はい。始めましょう」
耳にイヤホンを装着し、音声で勝負の経過が告げられるようになっている。音声の内容は勝負の開始の合図から始まり、ダメージ状況や勝敗判定が声で届くことになっている。模擬戦開始前60秒のアナウンスが流れる。
もりもりさんと私は互いに距離を取った。開始前から準備は始まっている。両者ともにエンチャントを発動させた。もりもりさんのブーツが光り、私は全身が白く発光する。
もりもりさんが魔法を唱えていた。開始と同時に作動させるつもりだ。
私も同じように魔法を唱える。魔法陣がもりもりさんとの中間地点に出現していた。
模擬戦開始の合図。先に動いたのはもりもりさんだった。使ったのはアース属性の魔法――
「ロックバースト!」
巨大な岩がこちらに撃ち出され、中間地点で炸裂してばらばらになる。この攻撃はそれぞれが弾道となって複数方向に飛んでいくため、避けることが難しい。本来は広範囲攻撃に使う手段だ。それをもりもりさんは初手で使ってきた。
「戦車召喚!」
私はもりもりさんの初手を予想していた。戦車の車体を壁にしてロックバーストを防ぎつつ、同時に攻撃の手段とする。……つもりだった。
周囲には煙が充満し、一気に視界が悪くなった。
「煙幕!?」
戦車越しに煙玉が何個も飛んでくる。
「よくわかりましたね、ロックバーストを初手に使うと」
煙の中からもりもりさんが現れた。剣を横薙ぎに一閃。私の腹が斬られたとの判定。鎧の損傷80%。被ダメージHP30%減少。いきなりかなりの損傷だ。それに伴い、仮想の激痛が走る。こちらの激痛のほうが問題だった。早くヒーリングポーションで回復しなければならない。
「もりもりさんが……一番使わないと思う魔法を予測しました」
ポーションを使う余裕を与えてくれない。声を出す間にも、もりもりさんの剣戟が止まる気配がない。素早く何度も往復で剣が飛んでくる。私はミスリルの大剣の大きさを利用してなんとか防ごうと試みるが、それで止められるような剣さばきではない。
「春菜さんは甘すぎます。私が意表を突いてくると予想したのでしょう。ですが、それだけでは意味がありません」
もりもりさんの目的は得意とする剣戟に持ち込むことだ。実力勝負に持ち込むことで、確実に勝ちを引き寄せるつもりだった。
「ロックバーストをただ相手の意表を突くために使ったのではありません。ちゃんとその先の展開を見据えています」
私だって、そんな当たり前のことを見落とすわけもない。私は次の手を繰り出す。
「甘いのはもりもりさんです。私はもう1体を召喚することができるんです」
「もう1体?」
もりもりさんが怪訝な顔をしながらバックステップを踏んだ。明らかに警戒していた。
「いでよ、死者の王。これが私の切り札です」
死者の王は長瀞ダンジョンの地上40階を守る階層主だ。骸骨の顔をして腐った肉体を持つ。黒のローブを纏い、全身からは漆黒のオーラが漂っている。剣と盾で襲ってくるこのモンスターは人間の反応速度は超えていて、達人と言えるほどの技能があった。
――グギャアアアアアア!!!!
声なき声で死者の王は叫ぶ。
私たちはまだ40階には到達していなかった。このモンスターは私が1人で40階まで行って召喚のためだけに倒してきた。
「春菜さんが勝てると思った理由がこれですか。隠し玉を持っていたわけですね」
もりもりさんは死者の王に対して何回か剣をふるったあとで煙幕の中へと消えていった。距離を取って戦うつもりのようだ。煙の向こうから声だけが聞こえてくる。
「数回剣を合わせただけで恐ろしさがわかります。とんでもない化け物を召喚したのですね」
あたりは煙が充満しており、もりもりさんの姿が見えない。正面から声だけが聞こえてくる。この煙がやっかいだった。
私はウインド系の魔法を使うことができない。ドローンかあるいは戦闘ヘリを召喚して煙を吹き飛ばしてもいいのだが、召喚の枠が残っていない。長瀞ダンジョンは呼び出したままになっており、ラビちゃんも枠を使っている。私が使えるのは3枠だが、そのうちの1つはこのダンジョン部屋で消費していた。
戦車の召喚を解除しないとドローンやヘリを召喚できないが、この行動は不自然だった。なぜなら、ダンジョン部屋で1枠使っていることをもりもりさんは知らないからだ。不自然な行動を取ってしまうと、勘の良いもりもりさんには悟られてしまう可能性があった。
「申し訳ないのですが、春菜さん。この勝負は私が勝たせていただきますね」
余裕のある落ち着いた声が聞こえてくる。
「何を言っているのですか、もりもりさん。単身では死者の王に勝つことは不可能です」
「確かに真っ向勝負なら私は勝てないでしょう。ですが、この視界不良の中ならどうでしょう?」
もりもりさんが言う通り、部屋の中はまったく見通しが効かない。この煙をなんとかしたかったが、死者の王は剣の達人の領域にいる。気配だけでもりもりさんを捉えることも可能なはずだ。
「いけ! 死者の王!」
私の命令により、煙の中に死者の王が突っ込んでいった。短期決戦で一気に勝負を決めるつもりだった。時間をかけるつもりはなかったが、それはもりもりさんも同じだった。煙の向こうで声だけが聞こえてくる。
「勝負が長引くと私が不利になります。一気に決めさせてもらいますね」
死者の王が煙の中に消えた直後、気配を感じたのは真後ろだった。
剣が振り下ろされ、肩にヒット。私の鎧の損傷が99%。水平にまっすぐ繰り出された剣が私の首筋に迫る。かろうじて首をひねって奇跡的に回避。
この時点でダメージはHPの80%を超えていたが、もりもりさんの蹴りが背中に思いっきり入る。
――ぐ……
声も出せないまま床にうつ伏せに倒れてしまった。私は本能的に横に転がる。そこに垂直に剣が突きつけられ床と接触、激しい音とともに砕けた石の破片が飛び散る。もりもりさんは手を緩めない。転がる私に対し、次々に剣を突き刺してきて、私の腕や足が刺された。
私は動くことができなくなってしまった。
ダメージ判定99%。腕も足も損傷した判定となっており、激しい痛みとともにぴくりとも動かない。
「終わりですね」
視界にもりもりさんの姿が見えた。私は床に寝た状態で見上げている。
もりもりさんは煙の向こう側にいたと思っていたのだが、背後から急に襲われた。
「声の出どころに私がいるとは限りません。それに死者の王と真っ向勝負するつもりもありません。司令塔である春菜さんを倒せばそれでいいのですから」
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