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プリミティブ・デバイスをめぐる攻防
第551話 エレベーターの少女
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エレベーターに乗ってきたのは、御堂の知らない女性だった。
しかし、見るからに若い。どう考えても未成年で、少女と呼ぶべき年頃だった。
「何階ですか?」
九条院が彼女に尋ねた。
「1階をお願いします」
彼女は答えながら、ふわりと微笑みを返してきた。
黒髪のボブカット。真っ白なローブに身を包んでいることから、ダンジョンハンターで間違いないだろう。十代前半だろうか。中学生か、あるいは高校生くらいに見えた。
御堂は隣の九条院に、小声で囁いた。
「見覚えはあるか?」
九条院は小さく首を横に振り、御堂に目配せをした。自分が声を掛けるという意味だ。同性の彼女が話すほうが、相手の警戒も解けやすい。
「こんにちは。ここはダンジョン管理協会の中枢なのだけれど、見ないお顔ね。どちらの方かしら?」
少女は無言で、じっと九条院の顔を見つめ返した。丁寧に優しく声をかけたが、まだ警戒を解くには至らないようだ。
「私は九条院薫。ここの理事を務めているわ。このエリアは一般のハンターは立ち入り禁止だから。もし迷い込んでしまったのなら、事情を聴かないわけにはいかなくて……」
ようやく少女の表情が和らぎ、九条院に向かって口を開いた。
「ああ、そうですね。ごめんなさい。私みたいな中学生がここにいるのは変ですよね?」
少女は改めて九条院の方を向き、丁寧にお辞儀をした。
「え? 中学生? あなた、中学生なの?」
「はい。千の宮中学校の2年です」
顔を上げながら、少女は答える。
「千の宮中学って確か……」
九条院は、隣にいる御堂に視線を投げた。
「ああ、あいつと同じ中学か」
御堂は小さく舌打ちをした。
「あいつ?」
少女が不思議そうに聞き返す。
「あ、ごめんごめん。君の友だちかもしれないものね。最近ネットで話題になっている筑紫春菜という子なんだ。確か、千の宮中学だったと思って」
「春菜は私の友人です。同じクラスなんです」
「そうなんだ。ところで、君とはどこかで会ったことあるかな? 見覚えがあるような、ないような……」
御堂の問いに、彼女は即座に答えた。
「あると思います。北海道のブラッドベア騒動で、私もその場にいましたから」
「ああ、あのときは大勢のハンターが派遣されたものな。君は、その一人か」
「派遣された……というわけではないんですが……」
彼女は言葉を濁すように、曖昧な笑みを浮かべた。
御堂との会話に区切りがつくと、九条院が今度はどこか鋭い口調で尋ねた。
「ところで、管理協会へは許可を取って入っているのかしら? 申し訳ないけれど、部外者は入れないことになっているの。セキュリティも厳しいはずだけれど、あなた、どうやって入ったの?」
九条院の毅然とした問いにも、少女は動じることなく静かに答えた。
「ちゃんと許可はいただいています。デバイスリンク・テクノロジーズ社の藤井社長経由で、通してもらいました」
「あなたのような中学生が? 本当に?」
「はい」
「いったい何の用事で? 中学生が管理協会に招かれる理由なんて、ちょっと思いつかないけれど……」
「それは守秘義務があるため、お答えできません」
理由は語られなかったが、正当な手続きは踏んでいるらしい。九条院は納得したように表情を和らげた。
「まあ……ここにいられるということは、許可があるのでしょうね。わかったわ。でも、お顔は覚えておくわね」
九条院が微笑むと、少女も穏やかに微笑み返した。
「私もです。あなたのような綺麗な方は初めてみました。九条院薫さんですね。お名前、覚えました。お名前の通り、気品漂う女性で憧れます」
「あら、お上手。そういえば、こちらは名前を伺っていなかったわね」
「私は……」
エレベーターが1階に到着し、扉が開いた。
「南波湊です。それではまた、どこかでお会いしたら、よろしくお願いします。失礼いたします」
南波は軽く頭を下げると、先にエレベーターを降りていった。
御堂と九条院も後に続き、エントランスホールを歩き始める。
2人はある種の違和感を抱いていたが、その正体を掴めずにいた。
ふと、九条院が足を止めた。
「ねえ、あのエレベーター。いつもより遅く感じなかった?」
「そうか? 気のせいだろ?」
「本当に気のせいかしら? ずいぶん長く会話をしたように思えたし……」
「エレベーターがゆっくり下降していた? そんなことがあるのかね?」
「わからないわ。でも、あの南波って子。なにか引っかかるのよね……」
九条院は先を見たが、すでに南波の姿はなかった。
「それは九条院家の能力となにか関係があるのか? 薫の直感が働いた?」
「わからない。けれど、私たちの計画を邪魔されたら困るわ」
「あんな中学生に何もできないだろう。警戒すべきは、筑紫春菜のほうだ。俺はあいつに踏み潰されているからな」
「それは、あなたがブラッドベアに踏み潰されて、地面に寝ていたからでしょう。完全な逆恨みよ」
「踏まれて当然ってか? あいつにはいつか一発ぎゃふんと言わせてやらないと気がすまない」
「子供ねえ。あなた、天界の治療薬を使ってもらったんでしょう? その代金だって踏み倒したままだし」
「あれはあいつが勝手に使ったんだ。俺が頼んだわけじゃない」
「そういうところが子供なのよね。だからミランダさんの気も引けないのよ」
「関係ないだろう、それは……」
2人は管理協会が入るビルを出た。やるべきことは多い。宇宙にあるプリミティブ・デバイスを回収する計画を、早急に詰める必要があった。
しかし、見るからに若い。どう考えても未成年で、少女と呼ぶべき年頃だった。
「何階ですか?」
九条院が彼女に尋ねた。
「1階をお願いします」
彼女は答えながら、ふわりと微笑みを返してきた。
黒髪のボブカット。真っ白なローブに身を包んでいることから、ダンジョンハンターで間違いないだろう。十代前半だろうか。中学生か、あるいは高校生くらいに見えた。
御堂は隣の九条院に、小声で囁いた。
「見覚えはあるか?」
九条院は小さく首を横に振り、御堂に目配せをした。自分が声を掛けるという意味だ。同性の彼女が話すほうが、相手の警戒も解けやすい。
「こんにちは。ここはダンジョン管理協会の中枢なのだけれど、見ないお顔ね。どちらの方かしら?」
少女は無言で、じっと九条院の顔を見つめ返した。丁寧に優しく声をかけたが、まだ警戒を解くには至らないようだ。
「私は九条院薫。ここの理事を務めているわ。このエリアは一般のハンターは立ち入り禁止だから。もし迷い込んでしまったのなら、事情を聴かないわけにはいかなくて……」
ようやく少女の表情が和らぎ、九条院に向かって口を開いた。
「ああ、そうですね。ごめんなさい。私みたいな中学生がここにいるのは変ですよね?」
少女は改めて九条院の方を向き、丁寧にお辞儀をした。
「え? 中学生? あなた、中学生なの?」
「はい。千の宮中学校の2年です」
顔を上げながら、少女は答える。
「千の宮中学って確か……」
九条院は、隣にいる御堂に視線を投げた。
「ああ、あいつと同じ中学か」
御堂は小さく舌打ちをした。
「あいつ?」
少女が不思議そうに聞き返す。
「あ、ごめんごめん。君の友だちかもしれないものね。最近ネットで話題になっている筑紫春菜という子なんだ。確か、千の宮中学だったと思って」
「春菜は私の友人です。同じクラスなんです」
「そうなんだ。ところで、君とはどこかで会ったことあるかな? 見覚えがあるような、ないような……」
御堂の問いに、彼女は即座に答えた。
「あると思います。北海道のブラッドベア騒動で、私もその場にいましたから」
「ああ、あのときは大勢のハンターが派遣されたものな。君は、その一人か」
「派遣された……というわけではないんですが……」
彼女は言葉を濁すように、曖昧な笑みを浮かべた。
御堂との会話に区切りがつくと、九条院が今度はどこか鋭い口調で尋ねた。
「ところで、管理協会へは許可を取って入っているのかしら? 申し訳ないけれど、部外者は入れないことになっているの。セキュリティも厳しいはずだけれど、あなた、どうやって入ったの?」
九条院の毅然とした問いにも、少女は動じることなく静かに答えた。
「ちゃんと許可はいただいています。デバイスリンク・テクノロジーズ社の藤井社長経由で、通してもらいました」
「あなたのような中学生が? 本当に?」
「はい」
「いったい何の用事で? 中学生が管理協会に招かれる理由なんて、ちょっと思いつかないけれど……」
「それは守秘義務があるため、お答えできません」
理由は語られなかったが、正当な手続きは踏んでいるらしい。九条院は納得したように表情を和らげた。
「まあ……ここにいられるということは、許可があるのでしょうね。わかったわ。でも、お顔は覚えておくわね」
九条院が微笑むと、少女も穏やかに微笑み返した。
「私もです。あなたのような綺麗な方は初めてみました。九条院薫さんですね。お名前、覚えました。お名前の通り、気品漂う女性で憧れます」
「あら、お上手。そういえば、こちらは名前を伺っていなかったわね」
「私は……」
エレベーターが1階に到着し、扉が開いた。
「南波湊です。それではまた、どこかでお会いしたら、よろしくお願いします。失礼いたします」
南波は軽く頭を下げると、先にエレベーターを降りていった。
御堂と九条院も後に続き、エントランスホールを歩き始める。
2人はある種の違和感を抱いていたが、その正体を掴めずにいた。
ふと、九条院が足を止めた。
「ねえ、あのエレベーター。いつもより遅く感じなかった?」
「そうか? 気のせいだろ?」
「本当に気のせいかしら? ずいぶん長く会話をしたように思えたし……」
「エレベーターがゆっくり下降していた? そんなことがあるのかね?」
「わからないわ。でも、あの南波って子。なにか引っかかるのよね……」
九条院は先を見たが、すでに南波の姿はなかった。
「それは九条院家の能力となにか関係があるのか? 薫の直感が働いた?」
「わからない。けれど、私たちの計画を邪魔されたら困るわ」
「あんな中学生に何もできないだろう。警戒すべきは、筑紫春菜のほうだ。俺はあいつに踏み潰されているからな」
「それは、あなたがブラッドベアに踏み潰されて、地面に寝ていたからでしょう。完全な逆恨みよ」
「踏まれて当然ってか? あいつにはいつか一発ぎゃふんと言わせてやらないと気がすまない」
「子供ねえ。あなた、天界の治療薬を使ってもらったんでしょう? その代金だって踏み倒したままだし」
「あれはあいつが勝手に使ったんだ。俺が頼んだわけじゃない」
「そういうところが子供なのよね。だからミランダさんの気も引けないのよ」
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