異世界ライフは山あり谷あり

常盤今

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-ベルガーナ王城・軍務卿の執務室にて-

「失礼します。ただいま戻りました」

 若い補佐官が入室してきた。
 優秀なので若手の中では割と重用している人材だ。

厩舎きゅうしゃ拡充の件、候補地の確保に成功しました」

「確かあの土地を所有していたのは、旧姫派で現中立派の貴族だったな」

「ゾルネン子爵です」

「ああ、そうだった。
 交渉が難航しそうであれば、陛下にお口添え頂くことをお願い申し上げるつもりだったが」

「子爵のほうも土地を持て余していたみたいで、割と素直に売却に応じてましたよ」

「それは良かった。
 今日初めて朗報を聞くことができたな」

「すると例の魔術士はこちらの誘いには応じなかったのですか?」

「うむ。きっぱりと断ってきおったわ」

「まだ少年ですからね。
 大人になって世のことわりを知れば、心変わりをするかもしれません」

「いや。アレはそのようなたぐいの者ではないな。
 上手くは言えぬが、年少者と侮ることのできぬ得体の知れなさを感じた」

「閣下にそこまで…………
 なにがあったのです?」

「ワシを相手に脅しを掛けてきおった。
 殿下の敵は自分にとっても敵だ、とな」

「私には若者特有の後先考えぬ発言にしか思えませんが」

けいだってまだ若者だろうに」

「私も来年で30になります。もう若いとは言えません」

「まだ十分若いわ!
 人生老いを感じてからが本番だと思え」

「それはともかく、魔術士のほうも陛下との謁見を控えて緊張からそのような戯れ言を申したのかもしれませんね」

「…………だといいのだがな」

「それとも早急に排除しますか?
 足のつかぬ者を何名か用意できますが…………」

「刺客から直にこちらに辿り着けなかったとしても、真っ先に我らが疑われるに決まっておる。あの者を暗殺する動機など我ら国王派にしかないのだからな」

「強盗などの一般犯罪に偽装することも可能ではありますが?」

「それでもリスクが高過ぎるわ!
 ワシはな、よくわからん者共に自らの命運を託すようなことはせぬ」

「確かに信頼できる、とはとても申せぬ者達ではありますが」

「それにだ。
 そんな数名の刺客で討てる程度であれば、我らが警戒する必要もないことになる。成功・失敗のどちらに転んだとしても、我らにとっては危険な要素しかないのだ」

「でしたらいかが致しましょう?」

「うむ…………」

 この補佐官に言うことはできないが、あの魔術士は陛下に殿下への求婚というとんでもない願いを言い出した。
 20も年上の女性への求婚など常識的にあり得ない。逆ならともかく。
 おそらくあの魔術士は、殿下を王家から切り離せば国王派との対立も解消して殿下の安全も図れる、とでも考えたのだろう。

 甘いわっ!!

 臣籍に退こうが、王位継承権を返上しようが、王家の血筋を引く点に何ら変わりはないのだ。
 将来に禍根を残すような事態を避けるためにも、殿下討伐が選択肢から消えることはない。

 それに殿下があのような子供の求婚を承諾するとも思えない。
 結婚が不成立であれば、現状に変化は訪れないのだ。
 だが…………

 この部屋であの魔術士と話してからそれほど時は経ってない。

 『殿下の敵は自分にとっても敵でありますので』

 魔術士の最後の言葉だったからか、妙に耳に残っていた。
 万が一、あの魔術士が大言壮語をしたのではなかったとしたら…………

「バルーカで姫派を監視・調査させている者に、魔術士の具体的な戦闘力も詳しく調べるよう追加で命令を出そう」

「具体的な…………ですか?」

「ワシも卿も、あの魔術士がどの程度の脅威なのか未だに把握できておらん。
 軍との共闘で特殊個体を倒せるのであれば、オークキング相手なら単独での討伐も可能なのかもしれん」

「御冗談を。
 こう申してはなんですが、たかだか魔術士ですよ?」

「そこだ。
 魔術士は後方から魔法を撃ってるだけ。
 その先入観からワシらはあの魔術士を過小評価してはしないか?」

「まさか…………」

「元々軍部を抑えている我々は、配下のいない無防備な殿下をいつでも討つことができる。
 我らの優位性はこの大前提があってこそのことだ。
 だが、あの魔術士が具体的な脅威として立ち塞がってくるとなると…………」

「お、お待ちを。
 我らの下には3つ騎士団とその他多くの兵がおります。
 1人の魔術士相手に後れなど取りますまい」

「たわけっ!
 コートダールに援軍を送れなかった先日の出来事をもう忘れたのか!!」

「申し訳ありません!」

「この手の討伐には、内乱に発展せぬように小規模な兵力を動かすのが基本だ。
 まして陛下が姉君の討伐などお許しになるはずもなく、我らは独断で事をなさねばならない。
 我らが独自に動かせる兵力などたかが知れてるではないか」

 殿下討伐を強硬主張する貴族の私兵と、王都に駐屯するこちらの息のかかった部隊が幾つか。
 合わせても2000前後といったところか。
 いや、あの魔術士が相手なら数よりも質のほうを重視すべきか。

「とにかく早急にバルーカに派遣した者に指示を出すように」

「すぐに手配します!」

 慌てて執務室から出て行く補佐官の姿を、軍務卿であるコーディ・ルーディック侯爵は鋭い視線で見送った。

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