376 / 454
373
しおりを挟む
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
-ベルガーナ王城・軍務卿の執務室にて-
「失礼します。ただいま戻りました」
若い補佐官が入室してきた。
優秀なので若手の中では割と重用している人材だ。
「厩舎拡充の件、候補地の確保に成功しました」
「確かあの土地を所有していたのは、旧姫派で現中立派の貴族だったな」
「ゾルネン子爵です」
「ああ、そうだった。
交渉が難航しそうであれば、陛下にお口添え頂くことをお願い申し上げるつもりだったが」
「子爵のほうも土地を持て余していたみたいで、割と素直に売却に応じてましたよ」
「それは良かった。
今日初めて朗報を聞くことができたな」
「すると例の魔術士はこちらの誘いには応じなかったのですか?」
「うむ。きっぱりと断ってきおったわ」
「まだ少年ですからね。
大人になって世の理を知れば、心変わりをするかもしれません」
「いや。アレはそのような類の者ではないな。
上手くは言えぬが、年少者と侮ることのできぬ得体の知れなさを感じた」
「閣下にそこまで…………
なにがあったのです?」
「ワシを相手に脅しを掛けてきおった。
殿下の敵は自分にとっても敵だ、とな」
「私には若者特有の後先考えぬ発言にしか思えませんが」
「卿だってまだ若者だろうに」
「私も来年で30になります。もう若いとは言えません」
「まだ十分若いわ!
人生老いを感じてからが本番だと思え」
「それはともかく、魔術士のほうも陛下との謁見を控えて緊張からそのような戯れ言を申したのかもしれませんね」
「…………だといいのだがな」
「それとも早急に排除しますか?
足のつかぬ者を何名か用意できますが…………」
「刺客から直にこちらに辿り着けなかったとしても、真っ先に我らが疑われるに決まっておる。あの者を暗殺する動機など我ら国王派にしかないのだからな」
「強盗などの一般犯罪に偽装することも可能ではありますが?」
「それでもリスクが高過ぎるわ!
ワシはな、よくわからん者共に自らの命運を託すようなことはせぬ」
「確かに信頼できる、とはとても申せぬ者達ではありますが」
「それにだ。
そんな数名の刺客で討てる程度であれば、我らが警戒する必要もないことになる。成功・失敗のどちらに転んだとしても、我らにとっては危険な要素しかないのだ」
「でしたらいかが致しましょう?」
「うむ…………」
この補佐官に言うことはできないが、あの魔術士は陛下に殿下への求婚というとんでもない願いを言い出した。
20も年上の女性への求婚など常識的にあり得ない。逆ならともかく。
おそらくあの魔術士は、殿下を王家から切り離せば国王派との対立も解消して殿下の安全も図れる、とでも考えたのだろう。
甘いわっ!!
臣籍に退こうが、王位継承権を返上しようが、王家の血筋を引く点に何ら変わりはないのだ。
将来に禍根を残すような事態を避けるためにも、殿下討伐が選択肢から消えることはない。
それに殿下があのような子供の求婚を承諾するとも思えない。
結婚が不成立であれば、現状に変化は訪れないのだ。
だが…………
この部屋であの魔術士と話してからそれほど時は経ってない。
『殿下の敵は自分にとっても敵でありますので』
魔術士の最後の言葉だったからか、妙に耳に残っていた。
万が一、あの魔術士が大言壮語をしたのではなかったとしたら…………
「バルーカで姫派を監視・調査させている者に、魔術士の具体的な戦闘力も詳しく調べるよう追加で命令を出そう」
「具体的な…………ですか?」
「ワシも卿も、あの魔術士がどの程度の脅威なのか未だに把握できておらん。
軍との共闘で特殊個体を倒せるのであれば、オークキング相手なら単独での討伐も可能なのかもしれん」
「御冗談を。
こう申してはなんですが、たかだか魔術士ですよ?」
「そこだ。
魔術士は後方から魔法を撃ってるだけ。
その先入観からワシらはあの魔術士を過小評価してはしないか?」
「まさか…………」
「元々軍部を抑えている我々は、配下のいない無防備な殿下をいつでも討つことができる。
我らの優位性はこの大前提があってこそのことだ。
だが、あの魔術士が具体的な脅威として立ち塞がってくるとなると…………」
「お、お待ちを。
我らの下には3つ騎士団とその他多くの兵がおります。
1人の魔術士相手に後れなど取りますまい」
「たわけっ!
コートダールに援軍を送れなかった先日の出来事をもう忘れたのか!!」
「申し訳ありません!」
「この手の討伐には、内乱に発展せぬように小規模な兵力を動かすのが基本だ。
まして陛下が姉君の討伐などお許しになるはずもなく、我らは独断で事をなさねばならない。
我らが独自に動かせる兵力などたかが知れてるではないか」
殿下討伐を強硬主張する貴族の私兵と、王都に駐屯するこちらの息のかかった部隊が幾つか。
合わせても2000前後といったところか。
いや、あの魔術士が相手なら数よりも質のほうを重視すべきか。
「とにかく早急にバルーカに派遣した者に指示を出すように」
「すぐに手配します!」
慌てて執務室から出て行く補佐官の姿を、軍務卿であるコーディ・ルーディック侯爵は鋭い視線で見送った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
-ベルガーナ王城・軍務卿の執務室にて-
「失礼します。ただいま戻りました」
若い補佐官が入室してきた。
優秀なので若手の中では割と重用している人材だ。
「厩舎拡充の件、候補地の確保に成功しました」
「確かあの土地を所有していたのは、旧姫派で現中立派の貴族だったな」
「ゾルネン子爵です」
「ああ、そうだった。
交渉が難航しそうであれば、陛下にお口添え頂くことをお願い申し上げるつもりだったが」
「子爵のほうも土地を持て余していたみたいで、割と素直に売却に応じてましたよ」
「それは良かった。
今日初めて朗報を聞くことができたな」
「すると例の魔術士はこちらの誘いには応じなかったのですか?」
「うむ。きっぱりと断ってきおったわ」
「まだ少年ですからね。
大人になって世の理を知れば、心変わりをするかもしれません」
「いや。アレはそのような類の者ではないな。
上手くは言えぬが、年少者と侮ることのできぬ得体の知れなさを感じた」
「閣下にそこまで…………
なにがあったのです?」
「ワシを相手に脅しを掛けてきおった。
殿下の敵は自分にとっても敵だ、とな」
「私には若者特有の後先考えぬ発言にしか思えませんが」
「卿だってまだ若者だろうに」
「私も来年で30になります。もう若いとは言えません」
「まだ十分若いわ!
人生老いを感じてからが本番だと思え」
「それはともかく、魔術士のほうも陛下との謁見を控えて緊張からそのような戯れ言を申したのかもしれませんね」
「…………だといいのだがな」
「それとも早急に排除しますか?
足のつかぬ者を何名か用意できますが…………」
「刺客から直にこちらに辿り着けなかったとしても、真っ先に我らが疑われるに決まっておる。あの者を暗殺する動機など我ら国王派にしかないのだからな」
「強盗などの一般犯罪に偽装することも可能ではありますが?」
「それでもリスクが高過ぎるわ!
ワシはな、よくわからん者共に自らの命運を託すようなことはせぬ」
「確かに信頼できる、とはとても申せぬ者達ではありますが」
「それにだ。
そんな数名の刺客で討てる程度であれば、我らが警戒する必要もないことになる。成功・失敗のどちらに転んだとしても、我らにとっては危険な要素しかないのだ」
「でしたらいかが致しましょう?」
「うむ…………」
この補佐官に言うことはできないが、あの魔術士は陛下に殿下への求婚というとんでもない願いを言い出した。
20も年上の女性への求婚など常識的にあり得ない。逆ならともかく。
おそらくあの魔術士は、殿下を王家から切り離せば国王派との対立も解消して殿下の安全も図れる、とでも考えたのだろう。
甘いわっ!!
臣籍に退こうが、王位継承権を返上しようが、王家の血筋を引く点に何ら変わりはないのだ。
将来に禍根を残すような事態を避けるためにも、殿下討伐が選択肢から消えることはない。
それに殿下があのような子供の求婚を承諾するとも思えない。
結婚が不成立であれば、現状に変化は訪れないのだ。
だが…………
この部屋であの魔術士と話してからそれほど時は経ってない。
『殿下の敵は自分にとっても敵でありますので』
魔術士の最後の言葉だったからか、妙に耳に残っていた。
万が一、あの魔術士が大言壮語をしたのではなかったとしたら…………
「バルーカで姫派を監視・調査させている者に、魔術士の具体的な戦闘力も詳しく調べるよう追加で命令を出そう」
「具体的な…………ですか?」
「ワシも卿も、あの魔術士がどの程度の脅威なのか未だに把握できておらん。
軍との共闘で特殊個体を倒せるのであれば、オークキング相手なら単独での討伐も可能なのかもしれん」
「御冗談を。
こう申してはなんですが、たかだか魔術士ですよ?」
「そこだ。
魔術士は後方から魔法を撃ってるだけ。
その先入観からワシらはあの魔術士を過小評価してはしないか?」
「まさか…………」
「元々軍部を抑えている我々は、配下のいない無防備な殿下をいつでも討つことができる。
我らの優位性はこの大前提があってこそのことだ。
だが、あの魔術士が具体的な脅威として立ち塞がってくるとなると…………」
「お、お待ちを。
我らの下には3つ騎士団とその他多くの兵がおります。
1人の魔術士相手に後れなど取りますまい」
「たわけっ!
コートダールに援軍を送れなかった先日の出来事をもう忘れたのか!!」
「申し訳ありません!」
「この手の討伐には、内乱に発展せぬように小規模な兵力を動かすのが基本だ。
まして陛下が姉君の討伐などお許しになるはずもなく、我らは独断で事をなさねばならない。
我らが独自に動かせる兵力などたかが知れてるではないか」
殿下討伐を強硬主張する貴族の私兵と、王都に駐屯するこちらの息のかかった部隊が幾つか。
合わせても2000前後といったところか。
いや、あの魔術士が相手なら数よりも質のほうを重視すべきか。
「とにかく早急にバルーカに派遣した者に指示を出すように」
「すぐに手配します!」
慌てて執務室から出て行く補佐官の姿を、軍務卿であるコーディ・ルーディック侯爵は鋭い視線で見送った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
95
あなたにおすすめの小説
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
一人、辺境の地に置いていかれたので、迎えが来るまで生き延びたいと思います
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
大きなスタンビートが来るため、領民全てを引き連れ避難する事になった。
しかし、着替えを手伝っていたメイドが別のメイドに駆り出された後、光を避けるためにクローゼットの奥に行き、朝早く起こされ、まだまだ眠かった僕はそのまま寝てしまった。用事を済ませたメイドが部屋に戻ってきた時、目に付く場所に僕が居なかったので先に行ったと思い、開けっ放しだったクローゼットを閉めて、メイドも急いで外へ向かった。
全員が揃ったと思った一行はそのまま領地を後にした。
クローゼットの中に幼い子供が一人、取り残されている事を知らないまま
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
竹桜
ファンタジー
誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。
その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。
男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。
自らの憧れを叶える為に。
転生貴族のスローライフ
マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた
しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった
これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である
*基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆1/19〜1/27まで、予約投稿を1話ずつ行います。
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる