18 / 104
第一章
17話 愛の礼参り?
しおりを挟む
偵察結果を聞きに行こうぜ、という姫川の提案により、才徳テニス部レギュラー陣は河川敷の道をとおって味楽へと向かっていた。次の道を右へゆけば柳葉高校方面への道に出るというところで、目の良い天城がなにかを発見する。
寂れた一面のクレーコート。片面にひとり、膝をついて項垂れる制服姿の男子生徒──青峰学院の犬塚顕広である。
「アイツ!」
認識した瞬間、星丸の眉がつり上がった。
「あんなとこで何やってんだヤロー」
「なんか様子おかしいで。試合しとったんちゃうか」
と、杉山がクレーコートへと走り出す。
ほっとけよ、と姫川は叫んだが、こういうときに放っておけない性分なのが杉山譲という男である。先ほどまでさんざん馬鹿にされたことも忘れ、杉山はフェンスの扉からコート内へと駆け込んだ。
「おい犬塚、どうしたんや」
「!」
犬塚の肩がびくりとふるえた。
ゆっくりと顔をあげて、それが杉山だと気が付くや「チッ」と安堵したように舌打ちをする。
「また関西訛りか──」
「制服泥だらけやないか。何があった?」
という質問には答えなかった。
犬塚が、フェンスの外で傍観する他の才徳レギュラー陣に気が付く。そのなかで何者かの影を探すように目を泳がせ、ふたたび安堵のため息をついた。
てめえ、と犬塚は小さな声で杉山を呼んだ。
「さっそく馬鹿にし返しに来たのかよ。いい趣味してんな」
「馬鹿に? なんで?」
「…………」
「テニスコートん中でひとりガクーッ項垂れとるヤツ見かけたら、どないしたんか誰でも気になるやろ!」
と言って、杉山は犬塚の手をぐっと引っ張って立ち上がらせると、いま一度コートの惨状に目を向けた。
シングルス試合をしたのであろう、コートに幾筋もボールの跡が見える。それはかなり激しいものだったようで、ベースライン、サイドラインともに荒々しい靴跡でところどころかき消されていた。不思議なのは、残る靴跡がひとつしかないことだった。シングルスの試合をしたのならチェンジコートでふたりぶんの足跡が残るはずである。
ひどく汚れた犬塚のシューズを見ればこの靴跡が彼のものであることは明白だ。では対戦相手のは──と杉山がよく見れば、わずかに残る足指の跡。
「オイオイ。裸足で試合しとるがな」
「……テーピングは巻いてたけどな」
と、犬塚が制服の泥を払う。
「裸足にテーピング?」
と。
突如、杉山の背後から声がした。
いつの間にそばに来たのか大神が眉根をひそめている。音もなくうしろに立つな、と心臓をおさえる杉山を横目に「おい犬塚」と大神がするどい視線で犬塚を射抜いた。
「テメー七浦伊織とヤったのか、シングルス試合」
「…………」
いまだレギュラー陣でさえ慣れぬ彼の凄みあるオーラに、犬塚も例に漏れずたじろいだ。その態度を見れば事実であることは明白だが、なぜか彼は微妙な表情のまま固まっている。なおも大神が問い詰める。と、彼はようやく「そうだとしても」とぼやいた。
「てめえらは知らぬふりをしてやるんだな」
「なに」
「あの女が言ったんだよ。かならず県大会で杉山が今日の借りを返すから──自分が個人的に礼参りしに来たことは言うなって」
「ええ? でもせやったら、なんでわざわざお礼参りなんかしたんや伊織のヤツ」
「たんに胸くそ悪ィから俺の負けた面を拝みたかったんだとよ。いい趣味してやがるぜあの女」
と、犬塚がわらう。
どこか憑き物が落ちたかのような清々しい顔である。どうも先ほどの彼とは様子が違う、と気がついたほかのレギュラー陣も次第にそばへ寄ってくる。これまでの会話が聞こえていなかったために、なにがあったのかと大神をふり仰ぐ倉持がぎょっとした。
端正な顔に、初めて見る表情が浮かんでいる。
「お、おい大神?」
「俺との試合を断っておきながら、あのアマ──」
「いやそこかよ!」
いいじゃんスかァ、と星丸は頭のうしろで手を組む。
「あんなにテニス部入りたくねえって叫んでた人が、部員を馬鹿にされたからってひとりでお礼参りなんて。可愛いとこもあんじゃん、なァ天城!」
「うん。馴染んでくれたんならふつうに嬉しいし──ねえ大神部長、ここはひとつ知らぬふりでいきましょうよ」
「そんなことより早く餃子食いたいッス。いい加減味楽行かねッスか?」
と、明前まで。
後輩三名から畳み掛けられた挙げ句、杉山が
「オレ今日は味噌食うつもりやってん!」
と爆音で叫ぶものだから、むっすりと押し黙っていた大神はたまらず噴き出した。
「ブハッ。──うるせーな分かったよ」
「そうと決まれば、味楽で偵察結果報告の続きだね」と蜂谷。
「あー腹減ったァ」姫川は空をあおぐ。
レギュラー陣がふたたび河川敷の道へ戻ってゆくなか、杉山はうれしそうな笑みを犬塚へ向けた。
「今日は不甲斐ないとこ見せてもうたけどな、決勝で会うたら別人になってんから楽しみにしときや!」
「フン、期待しねえで待ってらァ。だが俺もあの女にここまで虚仮にされた以上、このままじゃ終われねえ。決勝当日は──今日の俺が相手だと思うなよ。あと十日間でいまの自分を越えてやる」
と拳をにぎる犬塚を見て、杉山はお前、と眉を下げた。
「話せばフツーにええやつやんけ。なんで初めはあんな尖ってたんや」
「ハ? 別にイイヤツとかじゃねえし。さっさと行けや」
「なんやツンデレかよ~!」
「ウゼェんだよ消えろ!」
と。
凄む犬塚の眼にもすっかり慣れた杉山は「ほなまたな」と肩まで抱いて、軽快にチームメイトの元へ戻っていく。
そのやり取りを始終見守っていた大神。なにか言いたげに犬塚を一瞥し、しかしなにを言うこともなく犬塚へ背を向けてフェンスの扉に手をかけた。そのとき、
「おい大神」
犬塚がつぶやいた。
「お前はとうぜん、七浦伊織より強いんだろうな?」
一歩。外に出た大神の動きが止まる。
わずかな沈黙ののち、大神は振り向きもせずに返答した。
「まだ分からねえ」
「なっ」
「いまのところ負ける気はしねえがな。ただ──負けねえと断言できるほど、俺はまだアイツの底も知らねえってことだ」
テメーも油断しねえことだな、と。
大神は口元を吊り上げわらいながら犬塚を振り返った。
時刻はまもなく十八時半になる。
※
味楽では、ジャージ姿の伊織がビール瓶を抱えた親爺と談笑していた。
来店したレギュラー陣を見るや彼女は、
「あれェいらっしゃい!」
と立ち上がる。
「どないしたんよ、みんなで」
「どうしたじゃねえだろ。お前と明前で行った偵察の結果、報告しないまま勝手に帰りやがって。わざわざ聞きに来てやったんじゃねえか」
と、倉持が眉を下げる。
レギュラー陣はいつもの如くカウンター席に並んで座った。もはやすっかり常連客であるが、大神だけは、彼のオーラと場末のラーメン屋の雰囲気がいまだに馴染んでいない。
「あーそっか」伊織の目がレギュラー陣をたどる。
そのなかのひとり、すっかり元気になった杉山の姿にパッとわらって彼の肩を抱いた。
「オスギー! 元気になったん?」
「なんやピーコ──ってちゃうわ。だれがオスギやねん。ていうかいつの話しとんねん。世界はつねに一分一秒と先を進んどんねんで」
「やははははは! えらい元気やん、さては大神に奢ってもらう気やな」
「お前やないねんから──そんなことで簡単に元気になるかアホ」
「てかさぁ」伊織はくるりと明前を見た。
「薫クンが報告してくれたら良かったのに。わざわざうちまで来んでも」
「伊織さんがさっさと切り上げちまったんで、オレまだ水沢さんとD1の奴らくらいしか偵察できてねえッスよ。だから責任とってもらおうとおもって」
飄々とした顔で明前が言う。
が、伊織は「それで充分やんか」ととぼけた顔をした。
「S1の水沢、D1の速水と山本、ほんでS2の──犬塚とかいうヤツさえどないなもんか知っとけば、ほかの情報はいらんやろ。まさかうちのテニス部が青峰に一戦でも負けてD2まで回るわけないもん」
「ははっ。伊織ってばずいぶん俺たちのこと信用してくれてんだな」姫川がキャッとよろこんだ。
「ホント、その観察眼でそう言われると嬉しいよな」蜂谷もノートをめくってうなずく。
「や、べつに信用とかそういう──」
と。
伊織が口ごもったのをきっかけに、一同は顔を見合わせてにんまりとわらった。
「またまたぁ。オレたち知ってンスよ」星丸が言った。
「伊織先輩、さっそくうちのテニス部好きになってくれたんですね!」と、ほほ笑む天城。
「ホンマにこちらこそやで、伊織」
ありがとうなぁ、と。
杉山は包み込むように伊織の手を握った。
そのぬくもりにいよいよおののく伊織が「なんやねん!」とさけぶ。
「なんで、みんなそんな今日……」
妙にあたたかいんや──とつぶやくと、始終沈黙していた大神が片眉をつりあげてわらった。
「才徳テニス部、悪くねーだろ」
「…………」
その一言で、伊織は勘づいた。
パッと視線を杉山へ向けると、彼が「おおきに」と笑顔で首をかしげる。
伊織はりんごのように頬を染めて、
「あのトンガリヤロー──」
と毒づいてから杉山の手を振り払った。
「アホ、勘違いせんといて。うちが腹立ったからやっただけや。まあでもおかげで次の県大会が楽しみでしゃーないわ。どうせ水沢サンにも啖呵切ってもーたし、もはや実現するほかないやろ。ええか、可愛えマネージャーがこう言うてんねん」
自分ら一回でも負けたら許さへんで、と。
彼女はふっ切れた笑みを浮かべて、レギュラー陣に人差し指を突きつけた。
寂れた一面のクレーコート。片面にひとり、膝をついて項垂れる制服姿の男子生徒──青峰学院の犬塚顕広である。
「アイツ!」
認識した瞬間、星丸の眉がつり上がった。
「あんなとこで何やってんだヤロー」
「なんか様子おかしいで。試合しとったんちゃうか」
と、杉山がクレーコートへと走り出す。
ほっとけよ、と姫川は叫んだが、こういうときに放っておけない性分なのが杉山譲という男である。先ほどまでさんざん馬鹿にされたことも忘れ、杉山はフェンスの扉からコート内へと駆け込んだ。
「おい犬塚、どうしたんや」
「!」
犬塚の肩がびくりとふるえた。
ゆっくりと顔をあげて、それが杉山だと気が付くや「チッ」と安堵したように舌打ちをする。
「また関西訛りか──」
「制服泥だらけやないか。何があった?」
という質問には答えなかった。
犬塚が、フェンスの外で傍観する他の才徳レギュラー陣に気が付く。そのなかで何者かの影を探すように目を泳がせ、ふたたび安堵のため息をついた。
てめえ、と犬塚は小さな声で杉山を呼んだ。
「さっそく馬鹿にし返しに来たのかよ。いい趣味してんな」
「馬鹿に? なんで?」
「…………」
「テニスコートん中でひとりガクーッ項垂れとるヤツ見かけたら、どないしたんか誰でも気になるやろ!」
と言って、杉山は犬塚の手をぐっと引っ張って立ち上がらせると、いま一度コートの惨状に目を向けた。
シングルス試合をしたのであろう、コートに幾筋もボールの跡が見える。それはかなり激しいものだったようで、ベースライン、サイドラインともに荒々しい靴跡でところどころかき消されていた。不思議なのは、残る靴跡がひとつしかないことだった。シングルスの試合をしたのならチェンジコートでふたりぶんの足跡が残るはずである。
ひどく汚れた犬塚のシューズを見ればこの靴跡が彼のものであることは明白だ。では対戦相手のは──と杉山がよく見れば、わずかに残る足指の跡。
「オイオイ。裸足で試合しとるがな」
「……テーピングは巻いてたけどな」
と、犬塚が制服の泥を払う。
「裸足にテーピング?」
と。
突如、杉山の背後から声がした。
いつの間にそばに来たのか大神が眉根をひそめている。音もなくうしろに立つな、と心臓をおさえる杉山を横目に「おい犬塚」と大神がするどい視線で犬塚を射抜いた。
「テメー七浦伊織とヤったのか、シングルス試合」
「…………」
いまだレギュラー陣でさえ慣れぬ彼の凄みあるオーラに、犬塚も例に漏れずたじろいだ。その態度を見れば事実であることは明白だが、なぜか彼は微妙な表情のまま固まっている。なおも大神が問い詰める。と、彼はようやく「そうだとしても」とぼやいた。
「てめえらは知らぬふりをしてやるんだな」
「なに」
「あの女が言ったんだよ。かならず県大会で杉山が今日の借りを返すから──自分が個人的に礼参りしに来たことは言うなって」
「ええ? でもせやったら、なんでわざわざお礼参りなんかしたんや伊織のヤツ」
「たんに胸くそ悪ィから俺の負けた面を拝みたかったんだとよ。いい趣味してやがるぜあの女」
と、犬塚がわらう。
どこか憑き物が落ちたかのような清々しい顔である。どうも先ほどの彼とは様子が違う、と気がついたほかのレギュラー陣も次第にそばへ寄ってくる。これまでの会話が聞こえていなかったために、なにがあったのかと大神をふり仰ぐ倉持がぎょっとした。
端正な顔に、初めて見る表情が浮かんでいる。
「お、おい大神?」
「俺との試合を断っておきながら、あのアマ──」
「いやそこかよ!」
いいじゃんスかァ、と星丸は頭のうしろで手を組む。
「あんなにテニス部入りたくねえって叫んでた人が、部員を馬鹿にされたからってひとりでお礼参りなんて。可愛いとこもあんじゃん、なァ天城!」
「うん。馴染んでくれたんならふつうに嬉しいし──ねえ大神部長、ここはひとつ知らぬふりでいきましょうよ」
「そんなことより早く餃子食いたいッス。いい加減味楽行かねッスか?」
と、明前まで。
後輩三名から畳み掛けられた挙げ句、杉山が
「オレ今日は味噌食うつもりやってん!」
と爆音で叫ぶものだから、むっすりと押し黙っていた大神はたまらず噴き出した。
「ブハッ。──うるせーな分かったよ」
「そうと決まれば、味楽で偵察結果報告の続きだね」と蜂谷。
「あー腹減ったァ」姫川は空をあおぐ。
レギュラー陣がふたたび河川敷の道へ戻ってゆくなか、杉山はうれしそうな笑みを犬塚へ向けた。
「今日は不甲斐ないとこ見せてもうたけどな、決勝で会うたら別人になってんから楽しみにしときや!」
「フン、期待しねえで待ってらァ。だが俺もあの女にここまで虚仮にされた以上、このままじゃ終われねえ。決勝当日は──今日の俺が相手だと思うなよ。あと十日間でいまの自分を越えてやる」
と拳をにぎる犬塚を見て、杉山はお前、と眉を下げた。
「話せばフツーにええやつやんけ。なんで初めはあんな尖ってたんや」
「ハ? 別にイイヤツとかじゃねえし。さっさと行けや」
「なんやツンデレかよ~!」
「ウゼェんだよ消えろ!」
と。
凄む犬塚の眼にもすっかり慣れた杉山は「ほなまたな」と肩まで抱いて、軽快にチームメイトの元へ戻っていく。
そのやり取りを始終見守っていた大神。なにか言いたげに犬塚を一瞥し、しかしなにを言うこともなく犬塚へ背を向けてフェンスの扉に手をかけた。そのとき、
「おい大神」
犬塚がつぶやいた。
「お前はとうぜん、七浦伊織より強いんだろうな?」
一歩。外に出た大神の動きが止まる。
わずかな沈黙ののち、大神は振り向きもせずに返答した。
「まだ分からねえ」
「なっ」
「いまのところ負ける気はしねえがな。ただ──負けねえと断言できるほど、俺はまだアイツの底も知らねえってことだ」
テメーも油断しねえことだな、と。
大神は口元を吊り上げわらいながら犬塚を振り返った。
時刻はまもなく十八時半になる。
※
味楽では、ジャージ姿の伊織がビール瓶を抱えた親爺と談笑していた。
来店したレギュラー陣を見るや彼女は、
「あれェいらっしゃい!」
と立ち上がる。
「どないしたんよ、みんなで」
「どうしたじゃねえだろ。お前と明前で行った偵察の結果、報告しないまま勝手に帰りやがって。わざわざ聞きに来てやったんじゃねえか」
と、倉持が眉を下げる。
レギュラー陣はいつもの如くカウンター席に並んで座った。もはやすっかり常連客であるが、大神だけは、彼のオーラと場末のラーメン屋の雰囲気がいまだに馴染んでいない。
「あーそっか」伊織の目がレギュラー陣をたどる。
そのなかのひとり、すっかり元気になった杉山の姿にパッとわらって彼の肩を抱いた。
「オスギー! 元気になったん?」
「なんやピーコ──ってちゃうわ。だれがオスギやねん。ていうかいつの話しとんねん。世界はつねに一分一秒と先を進んどんねんで」
「やははははは! えらい元気やん、さては大神に奢ってもらう気やな」
「お前やないねんから──そんなことで簡単に元気になるかアホ」
「てかさぁ」伊織はくるりと明前を見た。
「薫クンが報告してくれたら良かったのに。わざわざうちまで来んでも」
「伊織さんがさっさと切り上げちまったんで、オレまだ水沢さんとD1の奴らくらいしか偵察できてねえッスよ。だから責任とってもらおうとおもって」
飄々とした顔で明前が言う。
が、伊織は「それで充分やんか」ととぼけた顔をした。
「S1の水沢、D1の速水と山本、ほんでS2の──犬塚とかいうヤツさえどないなもんか知っとけば、ほかの情報はいらんやろ。まさかうちのテニス部が青峰に一戦でも負けてD2まで回るわけないもん」
「ははっ。伊織ってばずいぶん俺たちのこと信用してくれてんだな」姫川がキャッとよろこんだ。
「ホント、その観察眼でそう言われると嬉しいよな」蜂谷もノートをめくってうなずく。
「や、べつに信用とかそういう──」
と。
伊織が口ごもったのをきっかけに、一同は顔を見合わせてにんまりとわらった。
「またまたぁ。オレたち知ってンスよ」星丸が言った。
「伊織先輩、さっそくうちのテニス部好きになってくれたんですね!」と、ほほ笑む天城。
「ホンマにこちらこそやで、伊織」
ありがとうなぁ、と。
杉山は包み込むように伊織の手を握った。
そのぬくもりにいよいよおののく伊織が「なんやねん!」とさけぶ。
「なんで、みんなそんな今日……」
妙にあたたかいんや──とつぶやくと、始終沈黙していた大神が片眉をつりあげてわらった。
「才徳テニス部、悪くねーだろ」
「…………」
その一言で、伊織は勘づいた。
パッと視線を杉山へ向けると、彼が「おおきに」と笑顔で首をかしげる。
伊織はりんごのように頬を染めて、
「あのトンガリヤロー──」
と毒づいてから杉山の手を振り払った。
「アホ、勘違いせんといて。うちが腹立ったからやっただけや。まあでもおかげで次の県大会が楽しみでしゃーないわ。どうせ水沢サンにも啖呵切ってもーたし、もはや実現するほかないやろ。ええか、可愛えマネージャーがこう言うてんねん」
自分ら一回でも負けたら許さへんで、と。
彼女はふっ切れた笑みを浮かべて、レギュラー陣に人差し指を突きつけた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる