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しおりを挟むどうも、ウェンディ家の長女として生まれたウェンディ・コートナーと申します。
私には、お付き合いしている方がおります。名前はロズベル・アッシュ。彼は由緒正しいロズベル家の長男で、文武兼備な第一王子として名を馳せております。私と彼はパーティで出会い、共に一目惚れ。そして現在の関係へと至っています。
関係も良好で特に心配な事は無いのですが、一つ不安なことがあります。それは彼からちゃんとした愛情表現を受けていないという事です。彼はとっても照れ屋なので、それを言葉にしてくれません。
「でもやっぱり口に出して言ってほしい!」
と、時々思ってしまいます。本当に彼は私の事を愛してくれているの? そんな事は考えたくないけど疑ってしまうことも多々あります。彼を試すようになってしまいますが、やるしかありません。
名付けて、愛してる大作戦の決行です! 絶対に言わせてやりますわ!
◇◆◇
1日目
とりあえずはいつもやらない事とかやってみようかしら。そうだ、朝食を作ってみましょう! 私の美味しい手料理で、胃袋を掴むどころか握りしめてやりますわ! 彼が起きるまでに作らなくては! 急ぎましょう!
料理自体あまり得意ではありませんが、フレンチトーストぐらいは作れるでしょう。まずは卵を割って......
「キャッ! 冷たい!」
早速卵を床にこぼしてしまいました。自分が料理が苦手なのは知っていましたが、ここまでとは思っていませんでした......。
「淑女たるもの、料理くらい出来なくてはね! 続けましょう!」
試行錯誤して数時間、フレンチトーストらしきものが出来上がった。
「やっとよ......! これが完成するまでに何個卵を割ったことか。もう料理なんて懲り懲りよ......」
完成品の裏側では軽く数十個の卵が犠牲になった。
メイドさんには
「二度と料理しないで下さい!」
とまで言われた。
それには冗談でも心に刺さるものがあった。
ここまでして作ったんだから彼は「愛しているよ、コートナー」って言ってくれるでしょう!
「まさか朝食を食べた後に良い雰囲気になって、そのままあんなことや、こんなことしちゃって......。キャー! アッシュ様、そんなハレンチな事やめてー!」
気持ち悪い妄想がつい口に出てしまった。メイドが苦笑いでこちらを見ている。やめて、そんな目つきで私を見ないで......。
あれやこれやしてる間に、彼が部屋に現れた。
「おはよう、コートナー」
「アッシュ様、おはようございます! 実は今日の朝食、私が作ったんですよー!」
「そうなのか。コートナーは料理が出来て凄いな!」
嬉しいけど、私が求めている言葉はそれじゃないんだ......!
「うん! とっても美味しいぞ。また作ってくれるか?」
「ありがとうございます......。また作りますね!」
ここで深く追及しちゃダメだ。攻めすぎると計画がバレてしまうかもしれない! 今日は一旦引こう。戦略的撤退よ! 次こそは言わせてやるわ!
3日目
今日はどうしましょう......。あ! 少しズルいかもしれませんが、あの手を使いましょう。
「ねえー! 綺麗なドレスってあるー?」
「ドレスは基本全部綺麗でしょう。何をおっしゃっているのですかお嬢様」
今話している彼女はいつも私の服装を考えてくれるミーシャ! 彼女が決めた服装で失敗した事は無い。
「あ、そっか! じゃあ男の人を悩殺できるような大人っぽいやつはー?」
「胸を強調するようなドレスは申し訳ないですが、お嬢様には似合いませんよ......」
半笑いでミーシャは言ってきた。
「貧相な胸でごめんなさいね!!!」
私は悩殺大作戦を諦め、部屋を後にしようとすると、彼女は言った。
「何にせよ、今日の夜パーティーがありますからねー! ドレス置いときますよ」
それだ! 私は良いことを考えてしまった。
「彼をエスコートするの! 今からダンスの猛特訓よ!」
そう決めた私はダンスの講師を用意した。そしてパーティーの時間までマンツーマンで猛特訓を続けた。
「はぁはぁ......。ここまで練習すれば完璧でしょう!」
「先生......ありがとうございましたぁ! これで彼は私への愛が止まらなくなるのよ! ......ぐへへ」
この前に続き、また醜態を晒してしまった。
案の定ダンスの講師にさえも苦笑いされた。みんなして私を笑わないで......! 私はただ彼に「愛してる」って言わせたいだけなのにっ!
そしてとうとうパーティーの時間がやってきた。今日は気合を入れる為、いつもより底が高いヒールを履いている。
「少し歩きにくい......。でも彼が美しいって思ってくれるなら、こんなのどうってことないわ!」
「コートナーは今日も美しいな」
「ありがとうございますアッシュ様! そう言っていただけると嬉しいです!」
私は脳内でもうすぐ訪れるダンスのイメージトレーニングを進める。右足をこうしてああして、ここでターン! そして彼はあまりのダンスの美しさに驚愕して「愛してる」と口に出すのよ!
イメトレは完璧。これならイケるわ!
私の準備が終わったと同時に、ダンスの時間が始まった。舞台で音楽隊が綺麗なメロディーを奏でる。
「アッシュ様、踊りませんか?」
「ああ、そうしよう」
彼と私は顔を合わせる。そして気合を入れるために私は強く右足で床を叩いた。
「バキッ!」
何か嫌な予感を感じたのと同時に私のヒールが音を立てて砕けた。
私の体が宙を舞う。彼はそんな私を必死に抱きかかえようとしてくれている。でも、もう遅いのだ。私の体が地面に叩きつけられる。
「あべし! ぶびゃぁ!」
「コートナー、大丈夫か!!!」
「だ、大丈夫です......」
「それは良かった。でも一応医者は呼ぶぞ。だから家に帰ろう」
彼はそう言うと、私の事を抱きかかえ、馬車に乗せた。
こんなことで初めてのお姫様だっこを奪われたくなかった......。と私は揺れる車の中で絶望して、ショックで気を失った。
5日目
医師には特に何も問題が無いけど少しの間は安静にするように言われた。
なので、何も無いベッドの上でゴロゴロしながら考える。
すると扉が開く音がした。
「コートナー、入るぞ」
アッシュ様だ......!
「おはようございます、アッシュ様。この前はご迷惑を掛けてしまって......申し訳ないです」
「コートナーが無事だったら、俺はなんでもいい。ほら、王都の有名なお菓子買ってきたぞ。それ食べて早く体調戻すんだな」
彼の素直な優しさに泣きそうになる。こんなにも良い人を私は疑ってしまっているのかと、罪悪感に苛まれた。
「ありがとうございます......」
7日目
体調が回復したので、私は3日ぶりに自由に動き回った。これが健康! 健康って素晴らしいわね。私は健康のありがたみを再確認した。
「朝食のお時間ですよー!」
メイドに呼ばれたので、私は駆け足で向かった。
彼と軽く挨拶を交わし、食事を開始する。
「ごちそうさまでした!」
食事を終え、自室に向かおうとすると、彼に話しかけられた。
「少し時間いいか? 聞きたいことがあるんだ」
「ええ、大丈夫ですよ......」
「じゃあ聞こう。コートナー、最近何かあったのか? いつもとは人が違うように君は色々な事をしているから、不思議に思ったんだ」
ば、バレたぁー!!! これはもう言うしかないわね。
「実は......アッシュ様が『愛してる』とかちゃんと言ってくれないから本当に私の事を愛してるか心配になっちゃって......。それでどうにか言わせようとして試行錯誤してたら空回りしちゃったのよ......」
「そんなこと思ってたのか」
「私、気持ち悪いですよね......」
「そんなことない。俺のことをそんなに想ってくれる子はいなかった。だから素直に嬉しい。今までしっかり言えてなくて悪かった。ウェンディ・コートナー、俺と結婚してくれ」
え? 予想外の発言に言葉が詰まる。
だけど、返事に迷いはない。
「はい......! 私で良ければ!」
私は彼と、とっても幸せな結婚生活を送っている。
でも未だに彼は私に愛してると言ってくれない。
私はただ、「愛してる」って言って欲しいだけなのに!
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