悪役令嬢に転生したようですが、自由に生きようと思います。

櫻霞 燐紅

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本編

生徒会

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件の決闘騒ぎから数日。
あれ以来ハイドライドたちがレティーナたちに突っかかってくることもなくなり、今までに無いほどの穏やかな日常が戻ってきた。

「君がラナンキュラス嬢?」

昼休み、いつもの様にテラスで食後のお茶を楽しんでいると二人の男子生徒がレティーナに声を掛けてきた。
ちなみに今日はいつものメンバーにルドベキスや彼の友人も加わっている為少々大所帯だったりする。
そんな中で声を掛けられたレティーナはその二人を見やり、怪訝な顔をした。

見ず知らずの、とまでは言わないが接点の無い二人であることには違いない。
とはいえ、声を掛けてきた二人の名前を知らない生徒はこの学園にはいないだろう。
何せ声を掛けてきた二人は学園の生徒会長様と副会長様だ。自分が大事だと思う人以外に基本的に興味のないレティーナでもさすがに二人の顔と名前は知っていた。

怪訝な表情を向けてきたレティーナに声を掛けた方は小さく笑うと自己紹介を始めた。

「僕はマクルス・スターチス。彼はルピナス・コルチカム」

「レティーナ・ラナンキュラスです。それで、学園のツートップが私に何の御用でしょうか?」

自己紹介をしてきた生徒会長のマクルスにレティーナは慇懃に問う。その様子に彼の後ろに控えるように立っているルピナスが不快そうに微かに眉を寄せた。
きっとレティーナの態度が気に入らなかったのだろう。

二人ともまだ婚約者が決まっていないこともあって、高位の貴族令嬢たちの憧れの存在となっている。
そんな彼らに秋波を送る令嬢は多いが、声を掛けられあからさまに迷惑そうな反応を返す者などまずいないだろう。
レティーナと共にいたアイリスやクレア、リリアーナは見目麗しい青年の登場にうっすらと頬を染めて二人を見ている。
ちなみに、プリシアはレティーナ至上主義なところがあるので、論外。どんな異性にも特別興味を示さないプリシアを心配に思う時もあるが、とりあえずは今目の前にいる二人の対応をする方が優先である。

マクルスはそんなレティーナの反応に、どこか面白そうに青い瞳を輝かせた。

「ルピナス、『冬月(とうげつ)の姫君(ひめぎみ)』は僕らに興味がないみたいだよ」

どこか楽しそうにそう言ってマクルスは半歩後ろにいたままのルピナスの肩に腕を回した。

「マクルス、学園の全ての令嬢がお前に好意を持ってるわけないだろう」

そんな彼にルピナスは呆れたように言う。肩に回された腕に迷惑そうな顔をしながらもその腕を振り払おうとしなうことからも二人が仲がいいことが窺(うかが)えた。

まぁ、仲がよくなきゃファーストネームで呼び合ったりしないしね。
てか、『冬月の姫君』って何?
そんなの初めて聞いたんだけど…

「あれ?知らない?君の二つ名だよ」

レティーナの戸惑いに気付いたのだろう。マクルスが先程の言葉の意味を教えてくれる。

ふ、二つ名!?
いったい、いつの間にそんなものが付いたのだろう。
お兄様につくのはまだわかるけど、何で私に…。

「ちなみに他にもあったよね?」

「『月華(げっか)の君(きみ)』と『雪花(せっか)』というのもあったな」

マクルスの言葉にルピナスが答える。

「・・・」

「あれ?本当に知らなかったの?」

完全に言葉を失ってしまった私にマクルスは驚いたように言う。

「ええ・・・。初めて聞きましたわ」

私は顔面の筋肉を総動員して引きつってしまいそうな表情をどうにか抑えながら答えた。

『冬月の姫君』も『月華の君』も『雪花』も、そんな言葉で呼ばれたことは一度もない。
と、言うか、全て月か冬を連想させる言葉なのね。

『冬月(とうげつ)』は冬の月、寒月を表す言葉だし、『月華(げっか)』は月と花、月光を、『雪花(せっか)』は雪を花に例えた言葉だ。

「君、そちらの令嬢を助けたことがあっただろう?元々ご令嬢たちの間で人気はあったみたいだけど、その一件で更に増えたみたいだよ。それにこの間の第二王子殿下との決闘。あれで君に本気で惚れてしまった子もいるんじゃないかなぁ?」

「一時期、ラナンキュラス嬢が通るだけで廊下で倒れる令嬢が続出したしな」

ルピナスの困ったものだと言いたげなその言葉に、そういえば、と思い当たる節があった。
レティーナが教室移動などで廊下を歩いているとすれ違ったうちの誰か一人は具合が悪くなって倒れる、というのがあったのだ。
しかも、その令嬢たちはなぜか皆レティーナの方へ倒れる来る為、その為にレティーナは保健室に連れていったり、近くにいた教員にその令嬢をお願いしたりということを繰り返していた。
最近はそういうことは減ったが、その代わりというのか、以前よりも人の視線を感じると思うようにもなっていた。

「マクルス、だらだら話していると要件を伝える前に休憩時間が終わってしまうぞ?」

「あ、それはマズいな」

ルピナスの言葉にマクルスは居住まいを正し、先程までの軽率そうな笑みを消してこう切り出した。

「レティーナ・ラナンキュラス嬢。君を次期生徒会長に指名させてもらえるかな?」

・・・・はい?

「次期生徒会長、ですか?」

私は彼の言葉が聞き間違いであって欲しいと願いながら聞き返した。

「そう。僕の跡を継いで欲しいんだよね」

そうサラリと返してくるマクルスは断られる可能性なんて全く考えていないのだろう。

「・・・申し訳ありませんが、お断りさせて頂きますわ」

「え・・・?」

私の返答にマクルスはきょとん、とこちらを見たまま固まってしまったようだ。そんな彼の隣では、だから他の人間にしろと言っただろう、などとルピナスがぶつぶつとマクルスに文句を言っている。

「それよりも、先輩方はそろそろ教室に戻られなくてよろしいのですか?」

小首を傾げて問えば、私の返答に固まっていたマルクスがほとんどの生徒がすでに教室に戻っていることに気づいて慌てたように出口に向かう。
もしかしたらこの後は実習の授業なのかもしれない。

「ラナンキュラス嬢、僕は諦めないからね!」

戸口で、そう叫ぶとマクルスはルピナスと共にカフェテリアを後にした。

「・・・はぁ」

そんな二人がいなくなり、私も待っていてくれたプリシアと共に教室に向いながら、ため息をつく。

「さっきの最後の一言、変な誤解を招いてしまいそうですわね」

「本当ね・・・」

あそこだけ聞いたら、とても生徒会への勧誘の話とは思えないだろう。マクルスやルピナスに好意を寄せているご令嬢は本当に多いのだ。こちらとしては出来ることなら彼女たちとは関わることなく穏やかに過ごしたい。
彼らに心酔している者の中にはカルミアの様な盲目的な者がいないとも限らないわけだし・・・。
とはいえ、リリアーナの場合と違いレティーナは公爵令嬢。
彼女より高位貴族の令嬢は学園にはおらず、その為、露骨な嫌がらせを受けるということはないのだが、それでも揉め事の種は無いに越したことは無いのである。

大体、生徒会に入ったら攻略者の二人と嫌でも接点が増えてしまうし。いくらヒロインであるリリアーナがレティーナに懐いているとはいえ、どんなゲーム補正が起こるか分からない。

それに、ゲーム補正が無かったとしても、生徒会長なんてやりたくないのよね。自由にできる時間が減ってしまうし・・・。表だって色々やるよりも裏で指示を出したりする方が性に合うし・・・。

だから、私以外の誰かを指名してくれないかしら・・・。
生徒会に関わって、余計なフラグ立てたくないのよね。

しかし、そんなレティーナの願いは虚しく、マクルスとルピナスは彼女の元に日参するようになったのだった。
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