解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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13.黒騎士団前編

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 殿下に騎士団の仕組みについて教わりながら、地下通路の先まで行くと、再び階段が現れました。
 暫く階段を上って踊場に着くと、踊場の壁には扉があります。
 階段はまだ上階まで続いていますが、殿下はその扉を開けるようです。

「ああ、そうだ、私は赤騎士団の団長で、レリック団長と呼ばれている。だから、騎士棟では、殿下ではなく、レリック団長と呼んでくれ。」
「分かりました、レリック団長ですね。」

 レリック団長、と心の中で連呼しました。
 殿下は扉を開けると、目の前にある取っ手を掴んで押しました。
 通り抜けて振り返ると、こちらは姿見でした。

「ここは騎士棟の中にある私の個室だ。寝泊まりする時に使っている。」

 室内はベッド、一人用の机と椅子、備え付けのクローゼット、壁には姿見が付いているシンプルな部屋で、別室にお風呂とトイレが付いています。

 騎士棟は、三階建ての東西に長い、長方形をした建物が二棟並んで建っています。
 二つの棟は各階にある渡り廊下で繋がっています。

 棟は各々北棟、南棟と名付けられ、内部は東側、西側と呼ばれているそうです。
 殿下の個室は南棟の二階東側、二○五号室です。

「有事の際、セシルは隣の二○六号室を使えるようにしておく。だが、基本的に寝泊まりは王宮だ。」
「分かりました。」

 有事なんてありませんように。
 心の中で切に願いました。

「先ずは、黒騎士団の執務室に案内する。」

 北棟の二階西側に黒騎士団の執務室はあります。
 殿下が、執務室の扉をノックして、開けました。

 室内は正面に応接セットがあり、その奥にある執務机には男性が座っています。
 男性は、プラチナブロンドの長髪と、爽やかな空色の瞳をしていました。

 この方、イース公爵家の次男、アレクセイ様です。
 間違える筈はありません。

 社交界では、殿下に並ぶ美丈夫として有名で、カインお兄様に負けない位、令嬢に人気があります。
 
 アレクセイ様は、遊び人で、夜会の度に多くの令嬢と夜を共にしていると噂が絶えません。
 本来なら、女性に嫌われそうですが、不思議と大人気で、口説かれ待ちをする令嬢が後を絶たないそうです。

 王宮勤めだと聞いていましたが、こんな派手な方が隠密担当の黒騎士団団長とは予想外です。
 黒い騎士服を着ていても、美しさが溢れ出ています。

「おや、そちらが今日から我が部隊に所属する例のご令嬢かい?随分と美しいお嬢さんだね。」

 優しい口調に穏やかな微笑み。さらりと褒め言葉を入れるあたり、確かに令嬢から人気があるのも納得です。

「セシル、彼はアレクセイ。黒騎士団の団長でアレク団長と呼ばれているから、そう呼ぶように。」

 殿下にアレク団長を紹介されて、頷きました。

「お初にお目にかかります、アレク団長、セシルでございます。どうぞ宜しくお願い致します。」

 ズボンの布を摘まんで、ハッと気付いて、直ぐに、先ほど教えて頂いたお辞儀をしましたら、レリック団長に指摘されてしまいました。

「セシル、自己紹介の時は、わざわざお辞儀は必要ない。」
「あ、はい、失礼致しました。」

 今度は、お辞儀をするべきでしょう。

「セシル嬢、気にしなくても良いよ。君は王子の婚約者で、騎士になるわけでは無い。任務さえしてくれれば、ズボンをドレスと間違えても構わないよ。むしろ美女のうっかりは癒しだ。」

 アレク団長は執務机に座ったまま、クスクス笑いながらフォローしてくださいました。
 直接お話するのは初めてですが、心の広い方のようで良かったです。

「さて、早速セシル嬢の能力を私にも見せて貰おうか。レリックはもう任務に戻っても良いよ。」
「アレクの用事はついでだ。本題は今後の話だろう。」

 本題。それは私が婚約する原因になった任務の話でしょう。

「分かっているよ。折角女性と二人の時間が楽しめると思ったのに。まぁ、いいさ。では、早速部屋中の鍵を開けて貰おうかな。先ずは執務机の引き出しから行こうか。」

 アレク団長に手招きされて、机の引き出しまで行きました。

「今、引き出しには鍵を掛けている。開けられるかな?」

 普通の鍵です。全く問題ありません。

「はい。」

 指で鍵穴付近に触れると、カチッと音がしましたので、引き出しを開けました。

「おお、早い。凄いね。では、あそこの書類棚はどうかな?」
「大丈夫です。」

「では、あの金庫は?」
「問題ありません。」

「では、内側に鍵を掛けた窓を外から開けられる?」
「鍵の位置さえ分かれば大丈夫かと。」

 部屋の外へ出て、解錠しました。

「凄いね。この部屋にはもう無いから、次へ行こうか。」

 執務室の鍵は全て簡単に解錠出来ると見ただけで分かります。
 そして、解錠出来る物も全て分かります。
 アレク団長はもう無いと言いましたが、部屋にはまだ解錠していない物がありました。

「あの、アレク団長、部屋中の鍵を開けると仰っていましたが、まだ二つ程残っておりますが、宜しいですか?」

 首を傾げて見つめると、アレク団長に苦笑いされてしまいました。

「セシル嬢は、そんな事まで分かってしまうのかい?参ったね。これ程とは。」
「セシル、確認だが、その二つは、何処にあるか場所が分かって、そして、解錠出来ると言うのか?」

 殿下が私の両肩に手を置いて、じっと見詰めて来ました。

「?はい。」
「そうか。」

 殿下の空気が重い気がします。
 執務室にある全部の鍵を解錠するって言われたので、質問しましたのに、触れてはならない事だったのでしょうか。

「セシル、それは、団長しか開けてはならない物で、部下も存在を知らせていない物だ。」

 何と言う事でしょう!騎士団の中でも極秘中の極秘な物でした。

「申し訳ありません。」

 今度こそ、しっかりとお辞儀をしました。

「いや、仕方ない。我々もここまでとは思っていなかった。その二つに関しては黙っていてくれ。」
「分かりました、レリック団長。一生言いません。」

 きっと首が飛ぶ案件ですら、しっかりと頷きました。

「では、気を取り直して地下牢へ行こうか。」

 アレク団長は、切り替えが早いようで、既に楽しそうです。
 ただ、地下牢は気を取り直して行く楽しい場所ではないと思うのです。

 アレク団長の感覚は、理解出来ない気がしました。
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