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18.対策会議
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「エドは部屋の外に出た可能性が高い。陣は移動先にも必要だから、別の場所に陣があるはずだ。青騎士団のバルト副団に応援要請した方が良いだろう。アレク、黒騎士団の執務室に集合で良いか?」
「良いよ。」
アレク団長の返事に殿下は頷くと、腕輪にある緑のボタンを押しました。
「バルト副団、レリックだ。至急黒騎士団の執務室まで来てくれ。あと、例の物も。以上。」
用件だけ伝えて南棟から北棟にある黒騎士団の執務室に戻っていると、殿下の腕輪から声が聞こえて来ました。
「レリック団長、バルト副団です。了解、五分で行きます。以上。」
私達が黒騎士団の執務室に戻って数分後。
青い騎士服を着た濃紺の髪と瞳をした品のある男性が執務室にやってきました。
男性は皆さんと共にソファーに座っている私の前に来ると、すっと跪きました。
「レリック団長から話は伺っておりました。私は青騎士団の副団長をしております、バルトと申します。バルト副団と呼ばれていますので、そのようにお呼び下さい。」
「バルト副団、セシルです。宜しくお願い致します。」
バルト副団は柔らかく微笑んで立ち上がると、アレク団長の隣に座りました。
殿下がバルト副団から私に視線を移しました。
「セシル、バルト副団は、『陣判別の加護』がある。陣の辞書と呼ばれる『陣書』の全てが頭に入っているから、陣を見れば瞬時に何の陣かが分かる。」
「あの複雑な図形を読み解けるなんて、凄いですね。」
「有り難うございます。」
バルト副団は穏やかに微笑んで下さいました。
騎士団は温厚な方が多いようです。
「では、バルト副団とセシルの顔合わせも済んだし、エドの捜索について話し合う。」
進行は殿下が務めるようです。
「問題は王都内でエドの足取りが掴めない事だ。」
殿下が王都の地図を広げました。
よく見ると、地図には赤い丸で囲まれた数字が沢山描かれています。
地図内には、同じ数字が二つずつあります。
王宮に当たる場所には、ほぼ全ての数字があって、王都内のあちらこちらに王宮と同じ数字が散らばっています。
「地図には我々騎士団が移動に使っている陣の場所が記してある。転移の場合、陣は二つ必要だ。エドは、これ以外の場所に陣を作っているのだろう。その陣を探す必要がある。バルト副団、例の魔道具は?」
「はい、こちらになります。転移の陣にだけ反応する魔道具です。陣が近くにあると、音で知らせます。今のところ、五つが予算的にも限界でした。」
指輪型で、陣が描かれたボタンが、一つだけ付いています。
バルト副団が指に嵌めて、ボタンを押すとピッピッと小さな音が鳴り始めました。
「陣から十メートル以上離れると音は鳴りません。近づくと音はゆっくりになり、すぐ側に行くと、ピ―――と長く鳴ります。ボタンを押せば音は消えます。あと、ボタンの光り方で陣のある方向を示しています。上の場合は全灯、下の場合は消灯します。」
「バルト副団、素晴らしいよ。レリック、これは我々黒騎士団で使わせて貰いたい。我々なら、五名もいれば半日で王都を回れるからね。」
黒騎士団は五名で王都を回れるようです。
陣を探すと一言で言っても、外とは限りませんし、屋内かもしれません。大変そうです。
「確かに黒騎士団が適任だろう。バルト副団、良いか?」
「勿論です。陣が見つかり次第連絡して下さい。陣が、どこに繋がっているのか確認する必要があります。それは我々が見ないと判断出来ないでしょう。」
「了解、陣を見つけ次第、青騎士団に連絡するよ。」
陣の探索は黒騎士団、陣の確認は青騎士団が担当すると決定しました。
話はまだまだ続きます。
殿下は次の議題に移りました。
「陣と同時に、エドが食いつきそうな大量殺人になり得る事件を追う必要がある。先回りされて、これ以上罪を重ねさせないのは勿論だが、直接会えなければ、憑いている悪魔を封印出来ない。」
「今、一番可能性があるのは、夜会帰りの貴族を狙った盗賊かな?エドは何かしらの方法で、騎士団に送られてくる自警団の情報を得ているようだね。個室に引きこもったまま、どうやっているのかは知らないけれどね。」
アレク団長がやれやれと肩を竦めています。
「騎士団内に協力者がいる可能性を疑う必要がある。ただ、エドのやっている事は犯罪だが、王家や国に対する反逆でもないし、暴動でもない。だから、内部の調査は取り敢えず後回しだ。」
「殺人さえなければ、単なるお手柄で済むのに、とは思うけど、エドがそんな程度の理由では動かないか。」
アレク団長の話から察するに、エド団長は名誉欲が薄い方なのでしょう。
婚約者の為だからこその行動だと考えると、本当に婚約者を愛していらしたようです。
私なんて、愛されてもいないのに婚約破棄されただけで、なかなかのダメージでした。
愛があれば、より失う苦しみは大きいでしょう。
「アレク、盗賊のアジトは掴めそうか?」
殿下が話を戻します。
「もう掴んではいる。いつでも乗り込めるが、アジトを見張りつつ、奴らが馬車を襲う度に現行犯だけ捕らえて、エドが動くまで待つか、もう全員捕縛するか、どうする?」
「我々が先に捕らえて牢に入れれば、エドは手が出せないだろう。だが、それでは他にターゲットが移るだけだ。今回はエドが現れるまで待機でどうだろう。」
「僕はレリックに賛成だね。我々が待機しているのを気付かない、なんてエドにはあり得ないし、それでも来るのか、他の犯罪者に標的を変えるのか興味があるね。」
アレク団長は相変わらず笑顔です。
どんな状況でも楽しみを見出だせる性格のようです。
「エド団長がもし、狙いを定めていたとしたら、来ると思います。団長はそういう性格ですから。」
バルト副団の話を聞いて、二人とも頷いています。
何か心当たりがあるようです。
「バルト副団の意見は尤もだ。では、エドが現れるまでアジトの見張りを続けて、馬車を襲う盗賊は捕獲する。アジトの見張りと盗賊の捕獲は、我が赤騎士団が担当しよう。黒騎士団は青騎士団と陣の探索を頼む。」
今後の方針が決まって時計を見ると、夕方五時を過ぎていました。
「セシル、今日は上がりだ。帰るぞ。」
隣に座っていた殿下が、私の手を取って立ち上がりました。
「レリック団長、ここで気配を消す必要は無いと思うのですが。」
「ああ、気配は消していない。」
「あの、では何故、手を繋ぐのですか?」
見上げて顔を窺うと、一瞬、殿下の動きが止まったような?
アレク団長がコンコンとテーブルをノックしたので、そちらに目を向けました。
「セシル嬢、男性が女性の手を繋ぐ理由なんて、一つしかないよ。分かるだろう?」
私も鈍い訳ではありませんから、そのような言い方をされれば、何となく察しはつきます。
「それは恋愛的な意味合いですか?」
アレク団長よりも先に殿下が答えました。
「いざ気配を消す必要がある時、初めから手を繋いでいた方が便利だからだ。」
「それもそうですね。」
手を放していたら、いざ気配を消す時、時間を取られてしまいます。
それに、私達は任務の為に婚約したのです。
恐らく任務が終われば、私はご褒美を受け取って、婚約破棄成立です。
だから、殿下が恋愛的な意味で私と手を繋ぐなんて無いでしょう。
アレク団長が手を繋いでいる私達の顔を交互に見詰めて、何か言いかけた時でした。
「アレク、言いたい事は分かる。だが、今は何も聞かないでくれ。」
殿下はアレク団長の返事も聞かずに、私の手を引いて、素早く黒騎士団の執務室を後にしました。
任務が終われば婚約破棄するから、手を繋ぐ事に恋愛的な意味は無い。なんて、今話して噂が流れてしまうのは、王家にとってイメージが良くありません。
だから殿下は、アレク団長から逃げるように、退室したのでしょう。
帰りは、南棟にある殿下の個室から、再び地下道を通って私室に戻ります。
地下道は限られた人しか知らないようですから、危険人物に遭遇する可能性は低い気がします。
「レリック団長、もう、無理に手を繋がなくても良いのではないでしょうか?」
殿下はピタリと止まって、私をじっと見つめました。
どうしたのでしょう。
「駄目だ。」
殿下は、キュッと力強く手を握り直して、再び歩き始めました。
王宮にいる限り、警戒を緩めてはならないようです。
極秘情報も知ってしまいましたし、殿下に従っておいた方が良いですね。
「良いよ。」
アレク団長の返事に殿下は頷くと、腕輪にある緑のボタンを押しました。
「バルト副団、レリックだ。至急黒騎士団の執務室まで来てくれ。あと、例の物も。以上。」
用件だけ伝えて南棟から北棟にある黒騎士団の執務室に戻っていると、殿下の腕輪から声が聞こえて来ました。
「レリック団長、バルト副団です。了解、五分で行きます。以上。」
私達が黒騎士団の執務室に戻って数分後。
青い騎士服を着た濃紺の髪と瞳をした品のある男性が執務室にやってきました。
男性は皆さんと共にソファーに座っている私の前に来ると、すっと跪きました。
「レリック団長から話は伺っておりました。私は青騎士団の副団長をしております、バルトと申します。バルト副団と呼ばれていますので、そのようにお呼び下さい。」
「バルト副団、セシルです。宜しくお願い致します。」
バルト副団は柔らかく微笑んで立ち上がると、アレク団長の隣に座りました。
殿下がバルト副団から私に視線を移しました。
「セシル、バルト副団は、『陣判別の加護』がある。陣の辞書と呼ばれる『陣書』の全てが頭に入っているから、陣を見れば瞬時に何の陣かが分かる。」
「あの複雑な図形を読み解けるなんて、凄いですね。」
「有り難うございます。」
バルト副団は穏やかに微笑んで下さいました。
騎士団は温厚な方が多いようです。
「では、バルト副団とセシルの顔合わせも済んだし、エドの捜索について話し合う。」
進行は殿下が務めるようです。
「問題は王都内でエドの足取りが掴めない事だ。」
殿下が王都の地図を広げました。
よく見ると、地図には赤い丸で囲まれた数字が沢山描かれています。
地図内には、同じ数字が二つずつあります。
王宮に当たる場所には、ほぼ全ての数字があって、王都内のあちらこちらに王宮と同じ数字が散らばっています。
「地図には我々騎士団が移動に使っている陣の場所が記してある。転移の場合、陣は二つ必要だ。エドは、これ以外の場所に陣を作っているのだろう。その陣を探す必要がある。バルト副団、例の魔道具は?」
「はい、こちらになります。転移の陣にだけ反応する魔道具です。陣が近くにあると、音で知らせます。今のところ、五つが予算的にも限界でした。」
指輪型で、陣が描かれたボタンが、一つだけ付いています。
バルト副団が指に嵌めて、ボタンを押すとピッピッと小さな音が鳴り始めました。
「陣から十メートル以上離れると音は鳴りません。近づくと音はゆっくりになり、すぐ側に行くと、ピ―――と長く鳴ります。ボタンを押せば音は消えます。あと、ボタンの光り方で陣のある方向を示しています。上の場合は全灯、下の場合は消灯します。」
「バルト副団、素晴らしいよ。レリック、これは我々黒騎士団で使わせて貰いたい。我々なら、五名もいれば半日で王都を回れるからね。」
黒騎士団は五名で王都を回れるようです。
陣を探すと一言で言っても、外とは限りませんし、屋内かもしれません。大変そうです。
「確かに黒騎士団が適任だろう。バルト副団、良いか?」
「勿論です。陣が見つかり次第連絡して下さい。陣が、どこに繋がっているのか確認する必要があります。それは我々が見ないと判断出来ないでしょう。」
「了解、陣を見つけ次第、青騎士団に連絡するよ。」
陣の探索は黒騎士団、陣の確認は青騎士団が担当すると決定しました。
話はまだまだ続きます。
殿下は次の議題に移りました。
「陣と同時に、エドが食いつきそうな大量殺人になり得る事件を追う必要がある。先回りされて、これ以上罪を重ねさせないのは勿論だが、直接会えなければ、憑いている悪魔を封印出来ない。」
「今、一番可能性があるのは、夜会帰りの貴族を狙った盗賊かな?エドは何かしらの方法で、騎士団に送られてくる自警団の情報を得ているようだね。個室に引きこもったまま、どうやっているのかは知らないけれどね。」
アレク団長がやれやれと肩を竦めています。
「騎士団内に協力者がいる可能性を疑う必要がある。ただ、エドのやっている事は犯罪だが、王家や国に対する反逆でもないし、暴動でもない。だから、内部の調査は取り敢えず後回しだ。」
「殺人さえなければ、単なるお手柄で済むのに、とは思うけど、エドがそんな程度の理由では動かないか。」
アレク団長の話から察するに、エド団長は名誉欲が薄い方なのでしょう。
婚約者の為だからこその行動だと考えると、本当に婚約者を愛していらしたようです。
私なんて、愛されてもいないのに婚約破棄されただけで、なかなかのダメージでした。
愛があれば、より失う苦しみは大きいでしょう。
「アレク、盗賊のアジトは掴めそうか?」
殿下が話を戻します。
「もう掴んではいる。いつでも乗り込めるが、アジトを見張りつつ、奴らが馬車を襲う度に現行犯だけ捕らえて、エドが動くまで待つか、もう全員捕縛するか、どうする?」
「我々が先に捕らえて牢に入れれば、エドは手が出せないだろう。だが、それでは他にターゲットが移るだけだ。今回はエドが現れるまで待機でどうだろう。」
「僕はレリックに賛成だね。我々が待機しているのを気付かない、なんてエドにはあり得ないし、それでも来るのか、他の犯罪者に標的を変えるのか興味があるね。」
アレク団長は相変わらず笑顔です。
どんな状況でも楽しみを見出だせる性格のようです。
「エド団長がもし、狙いを定めていたとしたら、来ると思います。団長はそういう性格ですから。」
バルト副団の話を聞いて、二人とも頷いています。
何か心当たりがあるようです。
「バルト副団の意見は尤もだ。では、エドが現れるまでアジトの見張りを続けて、馬車を襲う盗賊は捕獲する。アジトの見張りと盗賊の捕獲は、我が赤騎士団が担当しよう。黒騎士団は青騎士団と陣の探索を頼む。」
今後の方針が決まって時計を見ると、夕方五時を過ぎていました。
「セシル、今日は上がりだ。帰るぞ。」
隣に座っていた殿下が、私の手を取って立ち上がりました。
「レリック団長、ここで気配を消す必要は無いと思うのですが。」
「ああ、気配は消していない。」
「あの、では何故、手を繋ぐのですか?」
見上げて顔を窺うと、一瞬、殿下の動きが止まったような?
アレク団長がコンコンとテーブルをノックしたので、そちらに目を向けました。
「セシル嬢、男性が女性の手を繋ぐ理由なんて、一つしかないよ。分かるだろう?」
私も鈍い訳ではありませんから、そのような言い方をされれば、何となく察しはつきます。
「それは恋愛的な意味合いですか?」
アレク団長よりも先に殿下が答えました。
「いざ気配を消す必要がある時、初めから手を繋いでいた方が便利だからだ。」
「それもそうですね。」
手を放していたら、いざ気配を消す時、時間を取られてしまいます。
それに、私達は任務の為に婚約したのです。
恐らく任務が終われば、私はご褒美を受け取って、婚約破棄成立です。
だから、殿下が恋愛的な意味で私と手を繋ぐなんて無いでしょう。
アレク団長が手を繋いでいる私達の顔を交互に見詰めて、何か言いかけた時でした。
「アレク、言いたい事は分かる。だが、今は何も聞かないでくれ。」
殿下はアレク団長の返事も聞かずに、私の手を引いて、素早く黒騎士団の執務室を後にしました。
任務が終われば婚約破棄するから、手を繋ぐ事に恋愛的な意味は無い。なんて、今話して噂が流れてしまうのは、王家にとってイメージが良くありません。
だから殿下は、アレク団長から逃げるように、退室したのでしょう。
帰りは、南棟にある殿下の個室から、再び地下道を通って私室に戻ります。
地下道は限られた人しか知らないようですから、危険人物に遭遇する可能性は低い気がします。
「レリック団長、もう、無理に手を繋がなくても良いのではないでしょうか?」
殿下はピタリと止まって、私をじっと見つめました。
どうしたのでしょう。
「駄目だ。」
殿下は、キュッと力強く手を握り直して、再び歩き始めました。
王宮にいる限り、警戒を緩めてはならないようです。
極秘情報も知ってしまいましたし、殿下に従っておいた方が良いですね。
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