解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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39.エド団長の転移陣

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 私達四人は、南棟一階の陣が四つ描かれている部屋へと戻って来ました。

「公園に近いのは、二の陣だ。」

 部屋の陣には番号が振られています。
 レリック様が私の背中に手を添えて、シアーノとセルリアンの全員で一の陣を出て、二の陣へと入りました。
 再びレリック様が陣を足で二回ノックすると、王都北にある教会の裏手に転移しました。
 転移先には、黒騎士団のグレン副団がランプを持って待機していました。

「皆さん、お待ちしておりました。公園の陣までご案内します。」
「セシル、足元に気を付けて。」

 レリック様がサッと手を繋いで下さいました。
 グレン副団の案内で、夜の教会を歩きます。
 途中、墓地を通りました。

「エド団長が転移した陣は、こちらにありました。」

 グレン副団が、陣のあった場所を指差しました。
 そこは墓石の直ぐ近くで、墓石には「レミーナ」と彫られていました。

「エドの婚約者の墓か。」

 レリック様が呟きました。

 私はてっきり、エド団長の婚約者は生きていると思っていました。
 何故なら、エド団長が悪魔と契約した内容が「元に戻す」だったからです。

 まさか、亡くなっていたなんて……。
 何とも言えない気持ちのまま、墓地を通り過ぎて、湖の見える公園へと案内されました。

「先ほどこの陣で、エド団長はどこかへ転移しました。」

 座って湖を眺めるには良さそうな、ベンチの裏手には、大木が生えています。
 その大木の根本付近に、陣はありました。
 レリック様の私室にある陣と同じ、直径一メートル程の大きさで、錠前が見えます。

「セシル、解錠出来るか?」
「はい。」

 解錠を意識して錠前に触れると、錠前は消えました。

「解錠出来ました。」

 レリック様は頷くと、指示を出しました。

「先ず私と箱を持ったセシルが行く。連絡するまで三人はここで待機を頼む。」
「レリック団長、念のためランプをお持ち下さい。転移先が暗いかもしれません。予備はありますのでご安心を。」

 グレン副団が差し出したランプを、レリック様が受け取りました。

「グレン副団、助かる。ではセシル、行くぞ。」
「はい。」

 レリック様に腰を引き寄せられて、一緒に陣へ入りました。
 レリック様が陣を足で二回ノックすると、陣が光って、知らない部屋の景色に変わりました。
 大きな部屋のようですが、真っ暗で、何も見えず、物音一つ聞こえません。

 ランプを持っていて良かったです。
 レリック様は周囲を見回しながら、辺りをランプで照らしました。

「ひゃっ!」

 怖くて、思わずレリック様の胸元に顔を向けて、部屋から視線を逸らしました。

「どうした、セシル。」

 恐る恐る少し先を指差しました。

「アレ、死体、ではないですか?」

 ランプを向けた少し先の床に、横たわっている女性が見えた気がしました。

「あれは……死体ではない。大丈夫だから、そこにいてくれ。直ぐに灯りを点ける。」

 レリック様はランプの灯りを頼りに、部屋の灯りを点けました。
 私が指を差した場所には、大きな陣があり、陣の中心には、水色のドレスと、エメラルドのように美しい、緑色の長髪が印象的な女性が、ぐったりと仰向けに横たわっていました。

 女性のお腹には紙が乗せられていて、紙には陣が描かれています。
 よく見ると、女性の顔半分は、黒いモヤが覆っていて、生気を感じられません。
 かと言って、死んでいるようにも見えません。

「彼女はエドの婚約者、レミーナ嬢だ。」
「え?お墓にお名前があった、あの?」

 先ほどお墓の前を通った時、レリック様は、墓石に彫られている名前は「レミーナ」で、エド団長の婚約者だと言っていました。

「レミーナ嬢は父親の魔に当てられて、取り返しのつかない状態になってしまった。自分から生まれた魔は、祓い屋の力を借りて、自分で祓えるが、他人の魔に当てられた場合、今のところ、祓う方法が無い。そのままだと、彼女の父親のように、他者に魔を撒き散らし、更に多くの人々が魔の犠牲になる。そうならない為に、青騎士団が祓い屋に扮して町を巡回している。」

 私達は、魔に囚われると疑心暗鬼になり、身の破滅に繋がる。と幼い頃より教えられて、普段から皆、魔には気を付けていますが、魔に囚われると魔を撒き散らすなんて、初めて聞きました。
 しかも、怪しい宗教団体と噂されている祓い屋の正体が、実は青騎士団だったなんて、驚きです。

「祓いの陣は、受けた魔を祓えないが、悪化は止められる。だから、エドがレミーナ嬢を自分の邸に引き取り、祓いの陣に入れて、治す方法を探していた。しかし、親族は諦め、レミーナ嬢を亡くなった事にした。結局、魔を祓う方法が見つからずに、エドは悪魔に手を出した訳だ。」

「そう、だったのですね。では、ここはエド団長の邸なのですか?」

「ああ。エドが行方不明になって、手がかりを捜すため、邸には何度か調査で入ったが、レミーナ嬢がいる部屋がどこかは捜せなかった。窓が無いところを見ると、ここは地下の部屋だろう。」

 辺りを見回すと、確かに窓がありません。
 ふと、床に目が向きました。
 今立っている転移陣の近くに、さらに二つの陣が床に描かれています。

「レリック団長、他にも陣があります。」

 足元を指さしました。

「本当だ。専門家を呼ぶか。」

 レリック様は腕輪にある緑色のボタンを押しました。
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