解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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54.任務翌日の昼食にて

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 サイギー子爵邸、家宅捜索任務の翌朝。
 私はいつも通り、レリック様と地下道を通って騎士棟へ行きました。
 午前中は体力作りの為に散歩をして、お昼は二階の食堂で食事を取ります。

「今日から俺もここで食べる。」

 エド団長が私の向かいの席に座りました。
 確か今日から復帰と聞いていました。

「エド団長、そこは自分の席なんで、隣に移動してくださいよ。」

 座る席は特に決まっていませんが、何となく皆、同じ席に座っていました。
 私の向かいは、いつもシアーノが座っていました。

「知らん。早い者勝ちだ。あと、俺の方が団長と偉い。従え。」
「ったく、来て早々権力ちらつかせやがって。もう暫く牢にいれば良かったんですよ。」

 シアーノは文句を言いながら、アレク団長の向かいに座ると、不機嫌そうにパンを齧りました。
 シアーノの口の悪さには全く気に留めず、エド団長が話し掛けてきました。

「セシル嬢、迷惑を掛けたな。レミーナの事も感謝する。何かあれば必ず駆けつけると約束しよう。」
「エド団長、ありがとうございます。早くレミーナ嬢に会えると良いですね。」

 二人の幸せを願わずにはいられません。
 微笑むと、エド団長が目を細めて優しげな笑みを返してくださいました。

「ああ、有り難う。」
「エド団長が、レミーナ嬢以外の令嬢に笑いかけるなんて、初めて見ました。」

 パンを手に持っていたバルト副団が驚いています。

「エドの事はもう良いよ。言うタイミングが遅れたけれど、セシル嬢、昨日はお疲れ様。本当に助かったよ。もし出来る事があれば力になるから、何でも言って。」

 二つ目のパンを手に取って微笑むアレク団長を見て、思い出しました。

「あの……早速で申し訳ないのですが、実は、美丈夫ファンクラブを設立した公爵令嬢のジェーン様から、会員の為に、アレク団長の情報が欲しいとお願いされているのです。何でも構いませんので、宜しければ教えて頂けませんか?」

 何でもと言われて、早速お願いするのは、厚かましかったでしょうか。
 アレク団長の顔色を窺うと、にっこりと微笑まれました。

「そんな簡単な事でいいの?全然構わないよ。私に興味を持ってくれる令嬢の為なら、とっておきを教えよう。」

 アレク団長の水色の瞳がキラリと光った気がしました。

「あの、差し支え無い事で大丈夫ですよ。」

 アレク団長は隠密ですから、あまり自分の情報を教えたくない筈です。

「私の下着は常に赤色だよ。」
「え!?」

 まさか、男性の下着の色を聞くとは思いませんでした。
 しかも、赤なんて衝撃です。

「アレク、セシルに何を教えている。食事中にする話じゃないだろう。」

 レリック様が珍しく怒っています。
 確かに食事中にする話ではありませんが、驚きの方が勝ってしまいました。

「赤、なんてあるのですか?下着は白のシルクしかないのだと思っていました。でも、服に様々な色があるのですから、下着に色があるのも当然ですよね。」

 聞いておいて、一人で納得してしまいました。

「白の……」

 レリック様が呟いて、急に皆さん無言になりました。
 アレク団長は、考え事をするように、口を手で覆っています。
  バルト副団は、無言で明後日の方向を見ていました。
 シアーノは、両手で顔を覆って下を向いているので、顔は見えません。
 エド団長は、目を閉じて瞑想状態です。

 私の知識の無さに、皆さん呆れているのでしょうか?
 実家や王宮で侍女が用意してくれる下着は、全て白のシルクでした。
 だから、てっきりそれしかないのだと思い込んでいましたが、違うようです。

「お前のせいだぞアレク。出来るなら、今すぐ全員の記憶を消し去りたいところだ。」

 レリック様が物騒な事を言いながら、物凄くアレク団長を睨んでいます。

「ごめんて。不可抗力だよ。」

 アレク団長は苦笑いしながら、コホンと咳払いをしました。

「まあ、私からはこれくらいかな?嘘はついていないよ。ね、エド。」

 アレク団長から同意を求められたエド団長が目を開けて、顔をしかめながら頷きました。

「思い出したくもないが、確かにアレクはいつ見ても赤なのは間違いないな。」

 バルト副団とシアーノも無言で頷いています。
 皆さん、そんなにお互いの下着を見る機会があるのでしょうか?とは聞きません。

「いつも僕は黒い騎士服だから、せめて下着はお洒落しようと思ってね。」
「なるほど。意味があったのですね。」

 アレクセイ様が黒騎士団団長とは言えませんが、下着までお洒落に気を遣われているなんて、ファッションに興味津々な令嬢方は食い付きそうです。

「でも、本当に、下着の色なんて、お教えしても宜しいのですか?」
「勿論。あと、バターロールがパンの中で一番好きだね。」
「おい、アレク。バターロールの話だけで良かっただろう。」

 アレク団長の令嬢に対するサービス精神には頭が下がりますが、レリック様の指摘に、内心、ちょっと共感したのでした。

 下着の情報についてどうするかは、ジェーン様の判断にお任せするとして、教えて頂いた情報は全てお手紙でお伝えしました。

 アレク団長、いえ、アレクセイ様の情報は、一ヶ月後の会報誌に、しっかりと掲載されて、バターロールは勿論ですが、赤い下着まで爆発的人気になるなんて……。
 その時は、思いもしませんでした。
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