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63.お見送り
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今日から魔溜まりを封印する為に、赤騎士団の第一部隊と青騎士団の三名。
そして、レリック様とエド団長が魔王領へ転移します。
朝八時半頃。
レリック様に連れられて、南棟一階、西側にある大きな部屋へ入室しました。
元々は二つだった部屋の仕切りを取り払ったようで、室内は広い筈ですが、青騎士団と赤騎士団の全員が集っているので、あまり広く感じません。
床には三十名程が入れる位の巨大な陣が一つ、描かれています。
きっと魔王領へ繋がる転移陣でしょう。
「諸君、おはよう。そろそろ整列を。」
騎士団総長のピューリッツ王太子殿下が声を掛けると、部屋に集まった騎士達が整列し始めました。
入り口から見て、手前に赤騎士団、奥に青騎士団が整列しています。
「婚約者のセシルは私の隣だ。」
レリック様に手を引かれて、赤騎士団が整列しているさらに前へと連れて行かれました。
団長と副団長は最前列と決まっているようで、隣の青騎士団を見ると、エド団長とバルト副団が最前列に立っています。
いくら婚約者とは言え、私は黒騎士団の騎士服ですし、騎士団ではお手伝い的存在なので、最後尾の方が良いと思うのですが、赤騎士団のレリック団長とクリス副団に挟まれる羽目になりました。
「レリックさ……団長、これから何かの儀式があるのですか?」
皆、整列して畏まった表情をしています。
「儀式という程ではない。任務前には父上が激励の挨拶に来るだけだ。」
挨拶に来るだけって。父上と言えども、国王陛下ですよ?
「何か特別な作法はありますか?私はドレスではありませんし、どうすれば良いのでしょうか。」
淑女教育では、基本的に陛下が声を掛けるまで、膝を折り、顔を上げてはならないとされています。
淑女は常にドレスを着ているのが前提ですから、騎士服のパターンは習っていません。
「今、クリス副団がしているように両手は後ろに、足は少し開いて立つ。これが基本だ。父上の話が終わったら、ハッ。と短く返事をして、左胸に右手の拳を当て、足は閉じる。これが敬礼だ。」
レリック様が敬礼の仕方を教えて下さいました。
「分かりました。有り難うございます。」
ハッ。と言って、右手の拳を左胸、そして足は閉じる。
陛下が来るのを待っている間に、頭の中で敬礼のおさらいをしておきます。
「レリック団長、そういう分かりきった事は事前に教えて差し上げるべきではないですか?全く、団長は何でもギリギリなんですから。そういうの、困るんですよ。」
クリス副団の不服そうな声に、とても共感しました。
レリック様のギリギリに困っているのは、私だけではなかったようです。
「何でもでは無いだろう。」
レリック様の抗議に、クリス副団は無言で、ゆるゆると首を横に振っています。
残念ながら、レリック様はそういう性格だと諦めた方が良いのかもしれません。
悟りの境地に到達しかけた時、国王陛下が入室して来ました。
陛下が上座に位置すると、私達よりも前に立っていたピューリッツ殿下が、一歩前に進み出ました。
「陛下、本日から赤騎士団と青騎士団は、魔溜まりの吸引任務の為、魔王領へ転移します。」
ゆったり頷いた陛下は、私達全員を黙って見回しています。
一瞬、陛下と目が合った気がしました。
きっと全員、そう感じているのかもしれません。
陛下は一通り全員を見回すと、威厳のある声で話し始めました。
「皆、ご苦労。魔溜まりの吸引は、我が国だけではなく、世界の危機をも救う、責任の重い任務だ。だが、我が王国騎士団とセシルならば、必ずやり遂げると信じている。必ず任務を成功させよ。」
「ハッ。」
返事をして敬礼しました。
室内は静まり返ったままです。
え!?私だけ?
陛下とバッチリ目が合いました。
周囲からも視線を感じます。
顔から火、どころではありません。全身から変な汗が吹き出し始めました。
どうしましょう!話の腰を折ってしまいました。
謝るべきでしょうか?声を出しても良いのでしょうか?
陛下から視線を逸らすのも失礼ですので、敬礼して固まったまま、若干涙目で見つめるしか出来ません。
陛下と見つめ合う沈黙の時間は、きっと一瞬だったのでしょう。
けれど、凄く長く感じます。
威厳を放っていた陛下の目元が、ふと緩んだような気がしました。
「セシル、そなたの決意、しっかりと受け取った。皆の決意も期待している。以上。」
「「「ハッ。」」」
騎士全員が返事をして、一斉に、バッと敬礼します。
腕輪の通信と同じで、返事は「以上」の後だったようです。
ううっ、早まりました。
「そろそろ九時か。」
国王陛下が胸に手を当てると、丁度祓いの鐘が鳴り始めました。
私達も陛下と同じように胸に手を当ると、目を閉じて上を向きました。
鐘が鳴り終るまで、深呼吸を繰り返して魔に囚われないように、心を落ち着け……られません。
そんなに簡単には無理です。
時間が経つ程、恥ずかしさが増してきます。
鐘が鳴り終ると、騎士達はそれぞれ自分の持ち場へと向かいます。
魔王領へ行く騎士達は巨大な陣へ、その他の騎士は部屋を退室しています。
「済まない、返事は以上の後だと言い忘れていた。だが、セシルのお陰で騎士達の緊張が解れたようだ。」
顔を覆って自己嫌悪する私の背中を、半笑いのレリック様に、ポンポンと撫でられました。
「嘘です、ただの笑い者です。」
レリック様に抗議してしまいました。
「一生懸命で可愛らしかったぞ、セシル。父上もあまりに義娘が愛らしくて、一瞬言葉を失ったようだ。」
ピューリッツ殿下がわざわざ慰めに来て下さいました。優しいお義兄様です。
「兄上もそう言っている。アレは失敗では無い。癒しだから気にするな。それより、これを。」
レリック様から魔を吸引する箱を受け取りました。
「帰還は大体、十二時と五時頃だ。連絡をするから、箱を開けてこの部屋で待っていてくれ。それまでは黒騎士団の執務室で待機だ。」
「はい、連絡を頂いたら、直ぐにここへ駆け付けますね。」
「頼む。」
手の甲で私の頬にそっと触れたレリック様は、余裕の笑みを浮かべると、颯爽と陣へ歩いて行きました。
騒がしい中で、わずかに鈴の音が聞こえました。
早速、渡した鈴を身に付けてくださったようです。
「全員揃ったな。行くぞ。」
エド団長が陣を足でノックすると、陣は光り、一瞬で全員、消えてしまいました。
「皆さん、お気をつけて。」
誰もいない陣を見つめながら、箱を胸に抱いて呟いていました。
そして、レリック様とエド団長が魔王領へ転移します。
朝八時半頃。
レリック様に連れられて、南棟一階、西側にある大きな部屋へ入室しました。
元々は二つだった部屋の仕切りを取り払ったようで、室内は広い筈ですが、青騎士団と赤騎士団の全員が集っているので、あまり広く感じません。
床には三十名程が入れる位の巨大な陣が一つ、描かれています。
きっと魔王領へ繋がる転移陣でしょう。
「諸君、おはよう。そろそろ整列を。」
騎士団総長のピューリッツ王太子殿下が声を掛けると、部屋に集まった騎士達が整列し始めました。
入り口から見て、手前に赤騎士団、奥に青騎士団が整列しています。
「婚約者のセシルは私の隣だ。」
レリック様に手を引かれて、赤騎士団が整列しているさらに前へと連れて行かれました。
団長と副団長は最前列と決まっているようで、隣の青騎士団を見ると、エド団長とバルト副団が最前列に立っています。
いくら婚約者とは言え、私は黒騎士団の騎士服ですし、騎士団ではお手伝い的存在なので、最後尾の方が良いと思うのですが、赤騎士団のレリック団長とクリス副団に挟まれる羽目になりました。
「レリックさ……団長、これから何かの儀式があるのですか?」
皆、整列して畏まった表情をしています。
「儀式という程ではない。任務前には父上が激励の挨拶に来るだけだ。」
挨拶に来るだけって。父上と言えども、国王陛下ですよ?
「何か特別な作法はありますか?私はドレスではありませんし、どうすれば良いのでしょうか。」
淑女教育では、基本的に陛下が声を掛けるまで、膝を折り、顔を上げてはならないとされています。
淑女は常にドレスを着ているのが前提ですから、騎士服のパターンは習っていません。
「今、クリス副団がしているように両手は後ろに、足は少し開いて立つ。これが基本だ。父上の話が終わったら、ハッ。と短く返事をして、左胸に右手の拳を当て、足は閉じる。これが敬礼だ。」
レリック様が敬礼の仕方を教えて下さいました。
「分かりました。有り難うございます。」
ハッ。と言って、右手の拳を左胸、そして足は閉じる。
陛下が来るのを待っている間に、頭の中で敬礼のおさらいをしておきます。
「レリック団長、そういう分かりきった事は事前に教えて差し上げるべきではないですか?全く、団長は何でもギリギリなんですから。そういうの、困るんですよ。」
クリス副団の不服そうな声に、とても共感しました。
レリック様のギリギリに困っているのは、私だけではなかったようです。
「何でもでは無いだろう。」
レリック様の抗議に、クリス副団は無言で、ゆるゆると首を横に振っています。
残念ながら、レリック様はそういう性格だと諦めた方が良いのかもしれません。
悟りの境地に到達しかけた時、国王陛下が入室して来ました。
陛下が上座に位置すると、私達よりも前に立っていたピューリッツ殿下が、一歩前に進み出ました。
「陛下、本日から赤騎士団と青騎士団は、魔溜まりの吸引任務の為、魔王領へ転移します。」
ゆったり頷いた陛下は、私達全員を黙って見回しています。
一瞬、陛下と目が合った気がしました。
きっと全員、そう感じているのかもしれません。
陛下は一通り全員を見回すと、威厳のある声で話し始めました。
「皆、ご苦労。魔溜まりの吸引は、我が国だけではなく、世界の危機をも救う、責任の重い任務だ。だが、我が王国騎士団とセシルならば、必ずやり遂げると信じている。必ず任務を成功させよ。」
「ハッ。」
返事をして敬礼しました。
室内は静まり返ったままです。
え!?私だけ?
陛下とバッチリ目が合いました。
周囲からも視線を感じます。
顔から火、どころではありません。全身から変な汗が吹き出し始めました。
どうしましょう!話の腰を折ってしまいました。
謝るべきでしょうか?声を出しても良いのでしょうか?
陛下から視線を逸らすのも失礼ですので、敬礼して固まったまま、若干涙目で見つめるしか出来ません。
陛下と見つめ合う沈黙の時間は、きっと一瞬だったのでしょう。
けれど、凄く長く感じます。
威厳を放っていた陛下の目元が、ふと緩んだような気がしました。
「セシル、そなたの決意、しっかりと受け取った。皆の決意も期待している。以上。」
「「「ハッ。」」」
騎士全員が返事をして、一斉に、バッと敬礼します。
腕輪の通信と同じで、返事は「以上」の後だったようです。
ううっ、早まりました。
「そろそろ九時か。」
国王陛下が胸に手を当てると、丁度祓いの鐘が鳴り始めました。
私達も陛下と同じように胸に手を当ると、目を閉じて上を向きました。
鐘が鳴り終るまで、深呼吸を繰り返して魔に囚われないように、心を落ち着け……られません。
そんなに簡単には無理です。
時間が経つ程、恥ずかしさが増してきます。
鐘が鳴り終ると、騎士達はそれぞれ自分の持ち場へと向かいます。
魔王領へ行く騎士達は巨大な陣へ、その他の騎士は部屋を退室しています。
「済まない、返事は以上の後だと言い忘れていた。だが、セシルのお陰で騎士達の緊張が解れたようだ。」
顔を覆って自己嫌悪する私の背中を、半笑いのレリック様に、ポンポンと撫でられました。
「嘘です、ただの笑い者です。」
レリック様に抗議してしまいました。
「一生懸命で可愛らしかったぞ、セシル。父上もあまりに義娘が愛らしくて、一瞬言葉を失ったようだ。」
ピューリッツ殿下がわざわざ慰めに来て下さいました。優しいお義兄様です。
「兄上もそう言っている。アレは失敗では無い。癒しだから気にするな。それより、これを。」
レリック様から魔を吸引する箱を受け取りました。
「帰還は大体、十二時と五時頃だ。連絡をするから、箱を開けてこの部屋で待っていてくれ。それまでは黒騎士団の執務室で待機だ。」
「はい、連絡を頂いたら、直ぐにここへ駆け付けますね。」
「頼む。」
手の甲で私の頬にそっと触れたレリック様は、余裕の笑みを浮かべると、颯爽と陣へ歩いて行きました。
騒がしい中で、わずかに鈴の音が聞こえました。
早速、渡した鈴を身に付けてくださったようです。
「全員揃ったな。行くぞ。」
エド団長が陣を足でノックすると、陣は光り、一瞬で全員、消えてしまいました。
「皆さん、お気をつけて。」
誰もいない陣を見つめながら、箱を胸に抱いて呟いていました。
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