解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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75.結婚準備

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 午前十時、ここはマンセン王妃殿下に呼ばれて来た、王宮内にある部屋の一室です。
 そこには、マンセン王妃殿下の他に、商人らしき男性と見知らぬ女性数名。
 そして……。

「お母様!?」
「じゃあ、セシルちゃん、早速始めましょうか。」

 驚く間もなく、マンセン王妃殿下が、笑顔でパンと手を打つと、見知らぬ女性達に両脇を抱えられました。

「さあ、参りましょう。」
「一体何事ですか?」

 笑顔のマンセン王妃殿下と、手を振るお母様に見送られながら、女性達に隣室へと連れて行かれました。
 隣室には、色とりどりの素敵なドレスが沢山……。

「さあ、お着替えしましょうね。」

 手慣れたように素早く脱がされて、それからは着せ替え人形状態です。

 結婚式の衣装候補が三着、結婚披露晩餐会の衣装候補が三着、舞踏会の衣装候補が三着の計九着を着て、各々一着、計三着を選ぶのです。
 しかも、装飾品も合わせて選びます。
 全て着替え終わった時には、もうヘトヘトでした。

 一着目を着替え終えた時、騎士棟にいる筈のレリック様まで、いたので驚きました。
 きっと仕事中にも関わらず、マンセン王妃殿下に呼び出されたのでしょう。

「ああ、どのドレスも素敵で選ぶのが大変だわ、そう思わない?アリッサ。」
「ええ、レリック殿下のセンスが素晴らしいお陰ですね。」
「いえ、セシルが魅力的だから、何を選んでも着こなせるのですよ。」

 レリック様が私の腰に手を回して、甘く微笑みかけてきます。

「そんな、褒めすぎです。」

 久々の外面レリック様は、魅力的なんて歯の浮くような恥ずかしい言葉を、さらっと言えるのだから、困ります。

「ここにあるドレスは、レリックが選んだデザインの候補を、私とアリッサで絞ったの。後はセシルちゃんの好みを聞きたいわ。」

 まさかレリック様がドレスを選んで下さったなんて、意外です。

 以前、マンセン王妃殿下のお茶会に呼ばれて、多くのデザイン画を見せられた時、レリック様に丸投げ、いえ、お任せしました。

 デザイン画を回収したレリック様は、その後、有耶無耶にするものだと思っていましたが、私の知らない所で、真面目に吟味してくださっていたのですね。

「有り難うございます。とても嬉しいです。本当にどのドレスも素敵なので、結婚式はレリック様、晩餐会はお母様、舞踏会はマンセンお義母様のお勧めするドレスを着たいのですが、いかがでしょう?」

「それは良いわね。選び易いわ。私のお勧めはコレかしら。大胆かつ華やかで目を惹くわ。」

 薄いブルーのドレスは、背中とデコルテ周りが大きく開いて、レリック様の瞳と同じサファイアのネックレスが映えそうです。
 レースも刺繍も沢山使われて、華やかです。

「母上、そのドレスは胸元と背中が開いて、露出が多すぎるのでは?」

 女性が選ぶドレスについて、男性は口を出さないのが一般的ですので、レリック様がマンセン王妃殿下に意見するとは思いませんでした。

「舞踏会の衣装は私が選ぶと決まったのよ。それに、今更それを言うの?このドレスのデザインだって、レリックが選んだのでしょう?」

 不満を露にするマンセン王妃殿下に、レリック様が腕組みをして、顔をしかめています。

「確かに私が選びました。ドレス自体は良いと思いましたが、よく考えれば、舞踏会は参加者が多く、男性の目が注目します。肌を見せるのは最小限にすべきかと思い直した次第です。」

「舞踏会では持っている魅力を最大限に生かして、参加者に王家として認めさせる目的があるのよ。王子妃のセシルちゃんに言い寄るなんて、誰も許されないのだから、鼻の下を伸ばされる位、我慢なさい。」

「……分かりました。」

 王族として、マンセン王妃殿下の意見が正しいと認めたのでしょう。
 レリック様はしぶしぶ諦めて、気を取り直すように、挙式用のドレスを選んで下さいました。

「セシル、挙式はこのドレスにしよう。上品で、よく似合う。」

 レリック様の選んで下さった白いドレスは胸元や袖にレースがあしらわれて、透けていますが、程よく肌が隠れています。

「素敵なドレスを選んで下さって有り難うございます。」
「ちょっと、レリック。セシルちゃんの肌を見られたくないからって、大人しすぎない?」

「神聖な場所では上品にすべきです。私も舞踏会のドレスを我慢したのですから、母上は口を出さないで下さい。」
「ウッ、そうね。」

 マンセン王妃殿下とレリック様は、ドレスの好みが合わないようですが、互いに言いたい事を言えて、認め合える良い親子関係のようです。
 私の為に真剣に話し合って下さっているのが、嬉しいです。

「晩餐会は確かレリック殿下が赤い衣装で、マンセン王妃殿下がブルー、ルルーシェ妃殿下が黄色と聞きましたから、誰にも色が被らなくて、レリック殿下にも合わせた、赤いドレスにしましょう。」

「流石アリッサ。文句無いわ。」
「待っている間、デザイナーと話していると思っていたが、我々の衣装について把握していたのか。」

 マンセン王妃殿下もレリック様も、お母様には一目置いているようです。

「それにしても勿体ないわ。結婚式のドレスは一度しか着る機会が無いから仕方がないけれど、他のドレスは夜会で着れるもの。そう思わない?レリック。」

「確かに。自分だけではなく、母上や義母上も選んだ事で思い入れもあります。それに、どれもセシルに似合っていました。」

「じゃあ、買いましょうか。」

「「え!?」」

 マンセン王妃殿下の言葉に、私とお母様は思わず声を上げてしまいました。

 夜会のドレスは既製品でも高額です。
 デザイナーに依頼すれば更に値段が暴上がりします。
 ですから、一般的な貴族の感覚からすれば、そんなにポンポンドレスは買わない、いえ、買えないのです。

 ガリア王国の社交シーズンは十月から始まり、翌年の三月から六月末までが最盛期で七月末で終了します。
 婚活目的で足しげく夜会に通う場合でも、ワンシーズンに二着作れば十分です。

 それなのに、挙式と晩餐会、舞踏会のドレスの他に、挙式用以外のドレス候補四着、計七着も購入して、更にそれに合わせた装飾品まで購入するなんて、驚きを通り越して、絶句です。

「恐れながら王妃殿下、以前、婚約披露パーティーのドレスを作る際にも、セシルにドレスを作って頂きましたので、ドレスは充分かと思われます。」

 国が倒れるのではないかと、お母様が王妃殿下の金銭感覚を心配しています。
 お母様の言う通り、婚約したその日に、ドレスを数着作って頂いたのです。

 ですが、マンセン王妃殿下に呼ばれたお茶会の時、ドレスを一回着ただけで、それ以外は任務で騎士服を着ていましたから、殆どドレスに袖を通していません。

「あれは普段着のドレスよ。これは夜会用。王族は買い物をする事で経済を回す役目があるから、これくらい当たり前なのよ。お金なら私のポケットマネーで払うから問題無いわ。」

 マンセン王妃殿下の所持するポケットマネーの底が知れません。

「母上、今回の支払いは私が。デザインを選んだのは、私ですから。」

 レリック様までポケットマネーで支払う気満々です。
 命懸けの任務で得た報償金を、私のドレスに使わないで欲しいです。

「可愛い娘に買ってあげたいのよ。」
「婚約者として着飾らせたいのです。」

 どちらが支払うか揉めている間、お母様がこっそりと私の側にやって来ました。

「セシル、思ったより幸せそうなのは何よりだけれど、甘やかされ過ぎではないかしら。」
「とても良くして下さって有難いのですが、何もかもが高品質すぎて、金銭感覚の違いが怖いと思う時はあります。」

「挙式前に帰省するのでしょう?我が家が王宮と違うのは百も承知だから、文句言わないで頂戴よ。」
「そんな事言いませんよ。」

 マンセン王妃殿下とレリック様が半分ずつ支払うと決まるまで暫くかかったので、久々に、お母様とゆっくり話せたのでした。
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