解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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97.帰国

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 聞き取り調査をしながらの昼食会として用意された昼食は、いつもより豪華なコース料理でした。

 メリーク殿下と二人きりならば、緊張して料理を味わえなかったかもしれませんが、レリック様も同席すると事前に知っていましたし、調査も無くなったので、安心して料理を美味しく頂いています。

「ところでセシル嬢。私と会う時は、プレゼントした花を着けるよう、お願いしたと思いますが、花は気に入りませんでしたか?」

 急にメリーク殿下に振られて、食事が喉につまるかと思いました。

「いえそんな、頂いたお花はとても素敵で――――」
「私が回収した。魔法の花なんて怪しすぎる。当然調べるだろう。」

 意外です。
 レリック様が正直に答えるとは思いませんでした。

「怪しいとは失礼ですね。あの花は、我が国にとって特別ですから、プレゼントしたセシル嬢以外の者に渡すつもりはありません。」

 メリーク殿下は、右手を結んで開きました。
 贈られた花と同じ花が、メリーク殿下の右手に現れました。

「それは魔法か。」

 レリック様が、メリーク殿下の右手を凝視しています。

「回収された場所から呼び寄せました。調べていた者は、今頃、花が無くなったと慌てているでしょう。おや、おまけ付きです。」

 メリーク殿下が小さな鈴を、指でつまみました。

「花に触れていたのでしょう。一緒に付いてきたようです。確か、会談の時、エドワード殿が、魔王は鈴の音を嫌うと言っていました。」

「実際は、祓いの陣を描いた鈴だ。それはまだ陣が描かれていないから、ただの鈴だ。何の効力もない。」

「それは残念です。他国には無いアイテムなので、持ち帰って量産出来れば、世界に売りつけられたのに。」

 メリーク殿下は興味を無くしたように、鈴をテーブルに置きました。

「なるほど。我が国の物は何一つとして、貴国に渡してはならないと分かった。」
「あははは、これは失言してしまいました。」

 メリーク殿下が、わざとらしくおどけています。
 レリック様は笑顔ですが、不穏な空気を感じます。

 国は違っても同じ王族だからか、国益の為に暗躍する腹黒具合や、外面の良さ、行動力等、根本的な性質は、とてもよく似ている気がします。

 二人が静かに火花を散らしている間、私は料理に舌鼓をうっていたのでした。

 夕方五時。
 謁見の間の隣室、控えの間に向かいました。
 国王陛下と別れの挨拶を済ませた、メリーク殿下を見送る為です。

 メリーク殿下の見送りは、ピューリッツ殿下、エド団長、アレク団長、レリック様と私の五名で、メリーク殿下と会談したメンバーです。

 メリーク殿下は、ピューリッツ殿下から順番に、一人ずつ別れの挨拶を交わして、最後に私の前にやって来ると、右手にあの赤い花を出現させました。

「セシル嬢、良い返事を貰えなくて残念です。最後くらい、私の色を身に着けて見送ってください。」

 メリーク殿下が私の髪に花を飾ろうとした時、花はレリック様に奪われ、思いっきり遠くへと放り投げられてしまいました。
 そして、レリック様に素早く肩を引き寄せられると、メリーク殿下から遠ざけられてしまいました。

「皆様、どうされたのです?」

 エド団長やアレク団長、ピューリッツ殿下まで険しい表情をして、私の周りを囲むようにメリーク殿下を警戒しています。

 メリーク殿下が肩を竦めて、レリック様に目を向けました。

「酷いですね。別れの挨拶位、許して下さいよ。心の狭い男は嫌われますよ。」

 レリック様の表情に変化はありませんが、私の肩を抱くレリック様の手に、力が入るのを感じました。

「その花、触れた物と一緒に、自分の元に呼び寄せられるのだろう。転移後に陣が消されたら、花を呼び寄せ、セシルをホワーズ魔法王国に拐うつもりだったのだろうが、そうはさせない。」
「え?」

 そんな事を王子がするなんて、信じられません。
 メリーク殿下を見ると、メリーク殿下は、首をゆっくり横に振りました。

「拐うだなんて、人聞きが悪いですね。招待して差し上げようと思っただけなのに、残念です。」

 悪びれる様子もなく、メリーク殿下はにっこりと微笑みました。
 いつの間にか、メリーク殿下の手には、レリック様が投げた筈の花が戻っています。

 凄いですが、もう、怖いとしか思えません。

「では、皆さん、さようなら。」

 メリーク殿下が護衛と共に転移陣で帰国すると、直ぐにエド団長によって、陣が消されました。

「やっと帰った。あんな奴、もう二度と来て欲しくない。」

 レリック様のうんざりした様子に、全員が共感して、頷いていました。

 メリーク殿下に良い印象は無いものの、レリック様とお互いに結婚を強く望んでいると確認し合えて、絆が深まったのは、メリーク殿下の発言が切っ掛です。

 メリーク殿下にそのつもりはなかったと思いますが、その一点についてのみ、感謝したいと思ったのでした。
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