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114.十年後
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結婚して十年の月日が流れました。
ピューリッツ殿下は戴冠式を終えて国王に即位すると、レリック様は王国騎士団の総長に就任しました。
時々、私は任務に呼ばれて騎士棟へ通ったり、ルルーシェ王妃殿下が王太子妃の時に行っていた公務を一部引き継いだり、手伝ったりしています。
毎年行われる王国騎士団剣術大会の優勝者にご褒美を手渡す公務は、今も変わらず一緒に行っています。
成人を迎えた王太子のルレイオ殿下が結婚したら、王太子妃に公務を引き継ぐ予定になっていますが、ルレイオ殿下には、まだ婚約者が決まっていません。
「あの子、まだ結婚する気が無いのよね。だから、当分は毎年筋肉を楽しめそうね。あと、ピューが知らない間に鍛え始めていたのよ。」
ルルーシェ王妃殿下の筋肉愛はピューリッツ陛下にも影響を与えていたようです。
王国騎士団剣術大会と言えば、今も変わらず美丈夫ファンクラブに招待席が確保され続けています。
「美丈夫ファンクラブに確保された招待席をめぐって、毎年抽選会が本当にもう、大変な騒ぎになるの。でも、キャッキャウフフの為だから仕方がないわよね。」
美丈夫ファンクラブの会長であるジェーン様が、いつかのお茶会の時に話して下さいました。
ジェーン様とは手紙のやり取りをするだけの関係でしたが、ルルーシェ王妃殿下のお茶会に招待された時に改めて紹介されて、それから定期的にお茶をするようになりました。
今では大切な友人です。
よく考えたら、心から友人と呼べる人が出来たのは初めてかもしれません。
王宮に来てから、私には全てが初めて尽くしです。
レリック様と婚約中の同居生活も、秘匿任務も、そして、結婚生活も、二人の男の子に恵まれたのも。
八月。
久々にレリック様がお休みを取れたので、私達家族はアセンブル伯爵領にある観光牧場に来ています。
「やだやだ僕はいいっ!」
長男で七歳のマルセルが、私の後ろに隠れて怯えています。
怖がりのマルセルは『危険察知の加護』が発現しました。
ここに来て厩舎に入る前から牛が危険だと感じたようで、ずっと私の後ろに隠れています。
「あ、出た!父上、母上、見てた?僕、全然怖くないよ。ほら。」
次男のアレルが楽しそうに乳搾りをしながら、得意気にしています。
負けず嫌いのアレルは『観察の加護』が発現しました。
観察眼に長けているので、物事のコツを掴み易く、乳搾りも一回見たら出来るようになりました。
「アレル、凄いぞ。マルセルもやってみろ。怖くない。牛はじっとしているだけだ。」
レリック様がマルセルの手を取ると、マルセルはへっぴり腰になりながら、怖々と牛の乳を握っています。
「わっ!ふにゃふにゃして、あったかい。」
目を丸くしているマルセルの反応が、初めて乳搾りをした時の私やレリック様みたいで、クスリと笑ってしまいました。
あんなに嫌がっていたのに、上手に搾れると、楽しくなったのか、止めようとしません。
「まるで昔の自分を見ているようだ。」
乳搾りに夢中になっている二人を眺めながら、レリック様が私の隣に来ると、どちらからともなく手を繋ぎました。
「あの時のレリック様は、とても可愛らしかったですよ。」
「セシルの可愛さには永遠に敵わない。例えあの愛しい子供達でもだ。」
十年経っても、レリック様は変わらず私に甘く微笑みかけてくれます。
それが未だに恥ずかし嬉しいです。
「あ!父上、母上と手を繋いでる!僕も繋ぐ!」
「僕も!」
「おい、どっちかは父上とだ。セシルの手はもう、一つしか空いていない。」
「「え~~~。」」
「え~。じゃない。」
息子達が抗議の目を向けても、レリック様は譲ろうとしません。
渋々息子達はジャンケンをして、どちらが私と手を繋ぐかを決めるようです。
少し前までは思い通りにならないと、お互いに手が出て喧嘩になっていたのに、我慢を覚えて、平和的に折り合いをつけようとしています。
出来なかった事が出来るようになる度に息子達の成長を感じて嬉しいのに、少しだけ寂しくもあります。
「二人はいつまで私と手を繋いでくれるかしら。きっと直ぐに繋いでくれなくなるのでしょうね。」
「だとしても、私だけはセシルを一生離さない。私だけでは物足りないか?」
レリック様に顔を覗き込まれて、首をゆるゆると横に振ってから、レリック様と目を合わせました。
「お互いに年老いても、ずっとこうして手を繋いでくださいますか?」
「勿論。何があっても――――」
「僕が勝ったし!」
「マルセルは後だしだったもん!」
兄のマルセルが私の手を握って、弟のアレルがレリック様の袖を引っ張りながら訴えています。
「仕方がない、次は牛乳を飲んでバターを作るから、隣の小屋まで早く行った方の勝ちだ。ヨーイ、スタート!」
レリック様の声に、いち早く兄のマルセルが反応して、負けず嫌いなアレルがハッとして慌てて厩舎から駆け出して行きました。
「さて、愛しい邪魔者はいなくなった。僅かだがセシルを独占しつつ向かうとしようか。」
レリック様が楽しそうに微笑んで、私の手をしっかり握ると、私の歩幅に合わせてゆっくり歩き始めました。
「年老いても何があっても離さない。」
「はい。」
これから先、何年も何十年もこの愛しい人と手を繋いで、人生を共に歩き続けて行くのでしょう。
何気ない日常に幸せを感じながら。
ピューリッツ殿下は戴冠式を終えて国王に即位すると、レリック様は王国騎士団の総長に就任しました。
時々、私は任務に呼ばれて騎士棟へ通ったり、ルルーシェ王妃殿下が王太子妃の時に行っていた公務を一部引き継いだり、手伝ったりしています。
毎年行われる王国騎士団剣術大会の優勝者にご褒美を手渡す公務は、今も変わらず一緒に行っています。
成人を迎えた王太子のルレイオ殿下が結婚したら、王太子妃に公務を引き継ぐ予定になっていますが、ルレイオ殿下には、まだ婚約者が決まっていません。
「あの子、まだ結婚する気が無いのよね。だから、当分は毎年筋肉を楽しめそうね。あと、ピューが知らない間に鍛え始めていたのよ。」
ルルーシェ王妃殿下の筋肉愛はピューリッツ陛下にも影響を与えていたようです。
王国騎士団剣術大会と言えば、今も変わらず美丈夫ファンクラブに招待席が確保され続けています。
「美丈夫ファンクラブに確保された招待席をめぐって、毎年抽選会が本当にもう、大変な騒ぎになるの。でも、キャッキャウフフの為だから仕方がないわよね。」
美丈夫ファンクラブの会長であるジェーン様が、いつかのお茶会の時に話して下さいました。
ジェーン様とは手紙のやり取りをするだけの関係でしたが、ルルーシェ王妃殿下のお茶会に招待された時に改めて紹介されて、それから定期的にお茶をするようになりました。
今では大切な友人です。
よく考えたら、心から友人と呼べる人が出来たのは初めてかもしれません。
王宮に来てから、私には全てが初めて尽くしです。
レリック様と婚約中の同居生活も、秘匿任務も、そして、結婚生活も、二人の男の子に恵まれたのも。
八月。
久々にレリック様がお休みを取れたので、私達家族はアセンブル伯爵領にある観光牧場に来ています。
「やだやだ僕はいいっ!」
長男で七歳のマルセルが、私の後ろに隠れて怯えています。
怖がりのマルセルは『危険察知の加護』が発現しました。
ここに来て厩舎に入る前から牛が危険だと感じたようで、ずっと私の後ろに隠れています。
「あ、出た!父上、母上、見てた?僕、全然怖くないよ。ほら。」
次男のアレルが楽しそうに乳搾りをしながら、得意気にしています。
負けず嫌いのアレルは『観察の加護』が発現しました。
観察眼に長けているので、物事のコツを掴み易く、乳搾りも一回見たら出来るようになりました。
「アレル、凄いぞ。マルセルもやってみろ。怖くない。牛はじっとしているだけだ。」
レリック様がマルセルの手を取ると、マルセルはへっぴり腰になりながら、怖々と牛の乳を握っています。
「わっ!ふにゃふにゃして、あったかい。」
目を丸くしているマルセルの反応が、初めて乳搾りをした時の私やレリック様みたいで、クスリと笑ってしまいました。
あんなに嫌がっていたのに、上手に搾れると、楽しくなったのか、止めようとしません。
「まるで昔の自分を見ているようだ。」
乳搾りに夢中になっている二人を眺めながら、レリック様が私の隣に来ると、どちらからともなく手を繋ぎました。
「あの時のレリック様は、とても可愛らしかったですよ。」
「セシルの可愛さには永遠に敵わない。例えあの愛しい子供達でもだ。」
十年経っても、レリック様は変わらず私に甘く微笑みかけてくれます。
それが未だに恥ずかし嬉しいです。
「あ!父上、母上と手を繋いでる!僕も繋ぐ!」
「僕も!」
「おい、どっちかは父上とだ。セシルの手はもう、一つしか空いていない。」
「「え~~~。」」
「え~。じゃない。」
息子達が抗議の目を向けても、レリック様は譲ろうとしません。
渋々息子達はジャンケンをして、どちらが私と手を繋ぐかを決めるようです。
少し前までは思い通りにならないと、お互いに手が出て喧嘩になっていたのに、我慢を覚えて、平和的に折り合いをつけようとしています。
出来なかった事が出来るようになる度に息子達の成長を感じて嬉しいのに、少しだけ寂しくもあります。
「二人はいつまで私と手を繋いでくれるかしら。きっと直ぐに繋いでくれなくなるのでしょうね。」
「だとしても、私だけはセシルを一生離さない。私だけでは物足りないか?」
レリック様に顔を覗き込まれて、首をゆるゆると横に振ってから、レリック様と目を合わせました。
「お互いに年老いても、ずっとこうして手を繋いでくださいますか?」
「勿論。何があっても――――」
「僕が勝ったし!」
「マルセルは後だしだったもん!」
兄のマルセルが私の手を握って、弟のアレルがレリック様の袖を引っ張りながら訴えています。
「仕方がない、次は牛乳を飲んでバターを作るから、隣の小屋まで早く行った方の勝ちだ。ヨーイ、スタート!」
レリック様の声に、いち早く兄のマルセルが反応して、負けず嫌いなアレルがハッとして慌てて厩舎から駆け出して行きました。
「さて、愛しい邪魔者はいなくなった。僅かだがセシルを独占しつつ向かうとしようか。」
レリック様が楽しそうに微笑んで、私の手をしっかり握ると、私の歩幅に合わせてゆっくり歩き始めました。
「年老いても何があっても離さない。」
「はい。」
これから先、何年も何十年もこの愛しい人と手を繋いで、人生を共に歩き続けて行くのでしょう。
何気ない日常に幸せを感じながら。
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